深い愛
赤い衣装のホステスは、自分の肩に手を回している海斗に対して言った。
『にしてもぉー、私より年下なのに、何でそんな羽振りがいいわけ?』
海斗は高揚気味に答えた。
『最強のパトロンがいてよ。金持ちでしかも親が相当な資産家でな。財界や警察にまでコネ持ってて、ちょっとぐらい悪さしても、そいつに口添えしてもらえりゃ全部チャラになる。こんだけいい金ヅル他にねぇよ。俺ってどんだけ恵まれてるんだろうな?』
画面を通して聞いている美華の両目は、静止画像のごとくずっと見開いたままだ。
『え~。海斗君、超~悪!』
『でも、そういうヤンチャな部分もいい! むしろ好き!』
赤と白のドレスの二人がまた海斗の胴に巻きつく。
いまだ放心状態の美華の心中を察するように、彼女の両隣りにいた友人が恐々としながら固唾を呑む。
白衣の男は漸く口を開いた。
「一番の女とはよく言ったものですね。財力、コネ、政治的影響力。これらを兼ね備えた女性というのは、極めて稀有な存在です。一生に一度巡り合えるかどうかぐらいの。彼は相当なラッキーボーイだったようです。ただ若さゆえか、それを傘に着て悪さし放題。強姦、強盗、窃盗、恐喝、傷害上等。何でも彼女がすぐに揉み消してくれるからってノリでしょうかね。こりゃ否が応でも一番にしなければ、確かにバチが当たりますよ」
白衣の男はさらにリモコンのスイッチを立て続けに押した。
「ってことは二番目、三番目、はたまたそれ以降も突っつけば、どんどん出てきそうな雰囲気ですが」
様々な店で、いろんな女性と肩を組んだり、頬にキスしたり、ふざけて抱き合っているような画像が次々と切り換わる。
美華の口はポカンと開いたままで、海斗の表情はさらに青ざめる。
白衣の男はそんな彼の顔を呆れるような態で眺めながらそっと言い添えた。
「あなたが彼女を手放したくないのは、所詮、権力のためだけなんでしょう?」
教室の美華がそれ以上見たくないように両手で思わず顔を覆った。
親友の金髪生徒とピアスを嵌めた生徒も、事情を知ってるだけに下手に触れられず何も言えない。
「……違う……」
マイクを通したその声に、美華は思わず顏を上げた。
画面の向こうの彼は後ろめたさを滲ませながらも、言葉を絞り出した。
「……確かに、女遊びしてたことは認める。酒の勢いで調子こいた事言ってたが、これだけは言える。確かにあいつの親父は権力者だ。でも……そんな事知る前から、俺達はずっと幼馴染だった。幼稚園の頃からな。告白したのも、小学生の頃だ。あいつの親父が金持ちとか本当にどうでもよかった」
美華はその内容に再び画面に釘づけになる。
「五回もフラれて、六回目でようやく付き合うことができた。その時は、天にも昇る気持ちだったよ。あいつに心底惚れてたからな。でも……いつしか、それが当たり前になると気が大きくなり、権力を前にして欲が出ちまった……。本当に俺が馬鹿だったよ」
「……で?」
自己陶酔するような海斗の語り口調に、白衣の男があっさりと水を差す。
その威迫に対し、海斗は焦りを噛み殺しながらも答えた。
「……一番というのは本当だ。マジで惚れてるからだ。だから、俺はあいつを絶対に売らない」
美華はその言葉に感化されたように顏を震わせる。
海斗は勇気を振り絞るように尻を突き出すと、白衣の男を煽るようにして言った。
「そいつをぶっ込むんなら、好きにしろ。さぁ、こいよ」
白衣の男はその答えを聞き、そっと目を閉じた。
スクリーンを隔てての向こうとこちら側、皆が固唾を呑みながら彼の言葉を待つ。
緊迫した静寂が流れた後、白衣の男は何かの思いを噛みしめるように開口した。
「あなたの彼女に対する愛が、本物だということはよくわかりました」
しかしその言葉に反し、何故か深く吐息をついた。
「とても切ないですね。胸が引き裂かれるほど。果たして、その思いは彼女に届いているのでしょうか?」
言っている意味がわからず、海斗は思わず眉を顰める。
「……何?」
男はまたリモコンのスイッチを押した。
スクリーンの映像が切り替わる。
その光景を見て、海斗の表情が凝固する。
画面の向こうでは、桃色のドレスを着た紛れもない自分の彼女が、黒や紫のスーツを着た男達に囲まれている。彼女の表情は赤く紅潮していて、明らかに舞い上がっている様子だ。
男達の髪の色は金やら黒やら多種多様で、髪型は皆似たように横に靡いていてメイクもばっちり整っている。
透き通るような白い肌をした美少年風の男は言った。
「美華様、シャンパンタワー10段、入りました!」




