再検査
驚きの双眸で他メンバー達は怒号を上げた。
「俺達には、全部で10万って言ってたじゃねぇか!」
「1万ずつしかもらってねェぞ!」
するとモニターの映像が停止され、海斗の手元がより拡大された。進行役の男は解説するように言った。
「ええ、仰る通り、他の六名には一万円ずつ、残り294万円は全て彼がマージンとして受け取っていた。とてもクレバーな商才をお持ちのようで。まぁ、私でもそうしますがね」
そう言い添えると動画を巻き戻し、ある箇所で再生し直した。
『いつもちゃんと報酬は払ってるでしょ? はいこれ,、今回の分』
再び停止すると、男は補足した。
「まぁ、推測するに仕事を受けたのは今回だけじゃなさそうですから、概算すると軽く二千万くらいはもらってるんじゃないでしょうか?」
「……二千万……?」
「てめぇ! 自分だけいい思いしやがって!」
「舐めてんじゃねぇぞ! 俺達にもよこしやがれ!」
仲間達から罵声を浴びせられた海斗は動揺するかと思いきや、意外にも澄ました顔を上げて言った。
「は? 何言ってやがる。金をもらえるだけでもありがたく思え」
その場が凍りついたように静まり返る。
「……何だと?」
金髪男が耳を疑う様に驚きの目を向ける。しかし、当の本人はまるで開き直ったかのごとく鼻で笑いを交えながら口を開いた。
「俺があいつと懇意だからお前達も好き放題できんだろうが? あ? でなきゃ、今頃お前らみたいな馬鹿どもは一人残らずとっくにムショの中でカマ掘られてんぞ」
他のメンバー達も信じられないような目つきで唖然としている。
「……何て野郎だ……俺達の事をハナから見下してやがったのか……」
「パン、パン、パン」
背後から聞こえてきた手拍に、男達が思わず顏だけを後方に向ける。
白衣を着た進行役の男は呆れたように首を軽く振りながら言った。
「海よりも深い絆とは、自らよくもぬけぬけと言ったものですねぇ」
そう言って、先ほど菊門を串刺しにされ気絶したままの男の方に目を遣り、しみじみと口を開いた。
「彼は自身の肛門を犠牲にしてまでリーダーを庇ったと言うのに、得られたものは痛みと苦しみ、そして辱めだけとは……」
進行役の男は前方のモニターに目を遣った。
その静止されたままの画面には、革ジャンを着た海斗と向き合った暈しの入った人物が映っている。それを指しながら彼は金髪男を何気に煽るように言った。
「もはやリーダーを庇う理由は完全に消滅しましたよ。ただ、あなたがこの苦しみから解放されるばかりか、名誉挽回できるチャンスが一つだけあります」
その言葉に金髪男が敏感に反応するように顏を上げる。進行役の男は目を合わすと、モニターの方を促した。
「この画面の向こうには多くの視聴者がおられます。その方々が望むものはズバリ、このモザイクの裏側です」
その言葉に、教室にいた美華が思わず喉を鳴らす。
「自らは手を汚さず、男を翻弄し操り、高見の見物を決め込むこの人物こそが、まさに諸悪の根源。どうです? 視聴者の皆さん。捲りたいでしょ?」
すると、美華の隣にいた大人しそうな男子生徒が貧乏ゆすりをしながら言葉を漏らした。
「もったいぶってないで、早く晒せよ……」
その言葉に彼女がビクつくと、前の席からも、
「……捲れ」
その背中を丸めた小柄な男子の囁くような小声が聞こえ、心臓が飛び出そうになる。
すると、あたかもその燻り始めている教室の光景を把握しているかのごとく、白衣の男は金髪男の背後から軽く背中を押すように言及した。
「救いようのないゴミから一転、英雄になれるチャンスですよ」
そして、さらに言い添えた。
「この人物は誰ですか?」
その答えを全員が固唾を呑んで待つかのごとく、教室が静まり返る。
美華は自身の心臓の高鳴りがはっきりと聞こえるのがわかった。
暫くの沈黙の後、金髪男は悲痛な声を絞り出した。
「……本当に知らないんだ……。俺達は会ったこともねぇ……」
次の瞬間、教室のあちらこちらから溜息とともにがっかりしたような声が漏れた。
その様子を察知したかのごとく、白衣の男は首を振りながら大きく吐息をつくと言った。
「とても残念です。リスナーの意に沿えず、研究者としての私のキャリアに大きな傷がつきました」
そう言い捨てると、再び金髪男の背後に回り込み、顔を上げて画面の向こうに呼び掛けた。
「かくなる上は、彼らの中に蔓延る寄生虫をことごとく根絶やしにすることでしか、もはやこの失態の埋め合わせをすることは不可能なようです」
再びそのミサイルに両手を添えると、男は思い切り腰を入れてそれを脇に抱えた。
金髪男は目まぐるしく顔を泳がせながら、焦燥の声を上げた。
「待て待て! 本当に知らないんだって! だったらあの野郎に直接聞けばいいだろ! 俺達は関係ねぇ!」
ステージの一番左端に座らされている海斗の方に必死に視線を促す。
「……なっ!」
それに反論しようとすると白衣の男と視線が交差し、海斗は思わず黙り込んだ。
男は彼の目をじっと見据えながらまるで宥めるように口元に笑みを浮かべながら告げた。
「ご心配なく、順番に治療しますので焦らずにお待ちください」
そして、再び進行を再開するように、
「さぁ、それでは行きましょう。『七つの』をあらため、『六つの注意事項』」
さらに会場内に響き渡るように大声を上げた。
「六連ごぼう差し! 特大版!」
重そうなそれを全身で支えながら、
「注意その1、勢いをつけて――」
まるで除夜の鐘を突くように思い切り後方へと振る。
「ぶっ刺す」
その言葉と共に、目一杯反動をつけた鋭い三角錐が、その狭い菊門に寸分違わず見事に入り込んだ。
「ふんががががああああ―――」
勢いよくそれを引き抜くと、眼球が飛び出そうなくらい両目を開けていた金髪男の頭が力を失ったように即座に垂れ下がる。
間髪入れず白衣の男は素早く隣に移動した。
「注意その2、思いを込めて」
「やめろ! マジで知らねェものはしらな―――」
「ぶっ刺す」
「ぎょおおおおおおおおお」
果てたようにまた首が下がり、特大検査棒のスライドはさらに進行する。
「注意その3、迷いを捨てて」
「ひぃぃっ! だっ誰か! 助けてくれ……!」
「ぶっ刺す」
「ぼぉおごごごごごご―――」
また引き抜くと、消毒もせずに素早く隣へ移る。
「注意その4、とにかく」
「海斗! 早く喋っちま……!」
そのスキンヘッド男の視線が海斗と合った瞬間、
「ぶっ刺す」
「びぎぃやあああああああ」
「注意その5、そして」
男達が心の準備をする間もなく、検査は次々と執行されていく。
「ぶっ刺す」
「う”う”ぅぅぅう”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”」
「ふん!」
豪快に引き抜くと、白衣の男は迷わず残りの一人である海斗の背後に回り込んだ。
最後なのか、あえて張り切るように更に踏ん張る仕草を見せる。
「さぁ! フィニッシュです! 思い切り腰を入れて―――」
「待て待て待て待て! わかった、わかった! わかったから!」
海斗が声を裏返しながら悲痛に叫ぶと、白衣の男の動きがピタリと止まった。
教室でその様子を見ていた美華の両目が大きく剥かれた。




