チームの絆
金髪男はただ見ているだけだった。
すぐ真横で、仲間が縦に口を大きく開け断末魔の叫び声を上げている姿を。
後ろに目を遣るが、椅子が邪魔をしてはっきりとその惨状を見ることができない。
ちらっと血のようなものが見えた途端、両肩が竦み息遣いが荒くなる。
再び横に目を遣ると、激しい痙攣と共に彼の目が白く剥かれ、その口から泡が吹き出してきた。
「……ひぃぃっ……!」
恐怖で頭が泳ぎ、再度後方に目を遣ろうとすると、椅子と椅子の間から男の両腿が見え、無情にも彼は止めを刺すような最後の踏ん張りを込めたのがわかった。
「ぐぅっ! がががががががが……」
仲間の小刻みな震えが次第に弱まり、止まりそうになったと同時だった。
「ふん!」
後方にいた男は気合とともに、そのミサイルのような柱を思い切り引き抜いた。
ツーブロックのその頭は勢いよく跳ね上がりを見せたかと思うと、次の瞬間、電池が切れたかの如くガクンと下に垂れ下がった。
金髪だけでなく、横に連なっている男達も驚愕で固まっている。
進行役の男は、その血まみれの検査棒の先端をマジマジと見つめながらまた首を傾げた。
「……おかしいですね。これだけの広さがあれば検体が確実に採れると思ったのですが。想像以上に、この寄生虫は逃げ足が早いようです」
そう言って動かなくなった男の臀部に目を遣った。その視線を追う様に、カメラがその入り口を鮮明に映し出した。
画面を通してその光景を目にした生徒達が思わず口を押さえる。
さきほど菊門だったそれが、完全な空洞になっているのがはっきりとわかった。
静寂を打ち破るように、教室中のあちらこちらから悲鳴が沸き起こる。
その映像は並んだ七人の眼前の大きなモニターにもしっかり映し出されている。
「イカれてやがる! こんなの犯罪じゃねぇか!」
縛り付けられた金髪男が、やっと声を出せたように叫喚した。
ふと、彼は何かに気づいたように顔を上げる。その惑う視線が映像を見ている生徒達と交差した。
「おい! 誰か見てるんだろ? 早く警察を呼んでくれ―――!」
その呼び掛けに漸く我に返ったのか。映像を見ていた美華が携帯を取り出してすぐさま110番に掛けた。
「ツー……ツー……」
スピーカーから聞こえてきた話中音に、焦りがより一層湧き上がる。
「ああ。言い忘れてました。今は検便中ということもあり、個人のプライバシー保護のため、外部との通信は一切遮断されていますので、ご理解のほどを」
男は言い添えると、
「あくまでこのビデオは生徒の皆様に向けての研修用ですので。それ以外の方にこんな恥ずかしい姿を晒すと完全にコンプライアンスに抵触しますから」
すると傍に控えていた助手が、男にスプレーとペーパータオルを渡した。白いラテラックス手袋を嵌めた両手でそれを受け取ると、男はそのミサイル棒の先端にスプレーを吹きかけ、ペーパーで徐に拭き始めた。
「検査棒を使いまわす時は、二次感染を防ぐため必ずアルコール消毒をしましょう」
乱雑に拭き終えると、彼はまたその柱を踏ん張って脇に抱え、体勢を整えた。
「待て待て! わかった! 全部喋るから! 頼むから刺さないでくれ!」
悲痛な泣き叫び声とともに金髪があっけなく折れると、隣に連なっていた男達の鋭い視線が向けられた。
「てめぇ! 仲間を売るつもりか!」
「裏切りやがって! ただじゃおかねぇぞ!」
「誓約を交わし合っただろ! このクズ野郎!」
次々と罵声が飛び交う中、進行役の男は口を閉ざしたままだ。
画面向かって列の一番右端にいた海斗が駄目押しのごとく言い放った。
「俺達チームの絆は海より深い。その信頼を裏切る事がどういう意味かわかってんだろうな?」
すると、傍で静観していた進行役の男がそのミサイルを台の上に戻したかと思うと、突然、顰め面で片腕を横に振り始めた。その所作にモニターを見ていた六人の動きが止まる。
「うーん、臭い! 臭い!」
その言葉に男達は唖然としたままだ。
進行役の男は表情そのままに言った。
「これは相当臭いますね。私の想像以上に、彼らの中に巣くっている寄生虫は性悪で耐えがたい悪臭を放っているようです」
本当に臭そうに、全身を使って大げさにそれを振り払おうとする光景に六人誰もが言葉を紡げない。
「薄っぺらいペラッペラの信頼関係を振りかざし、さも美化したような友情を見せつけられるこちらの身にもなってください。こんな昭和初期にもない三文ドラマに、一体誰が泣けるんですか? 本当に反吐が出る。くっさ!」
露骨に鼻に皺を寄せると、男は白衣のポケットからリモコンを取り出し前方に向けてボタンを押した。
六人の視線が前方の大きなモニターに釘付けになる。それを見た海斗の両目が大きく見開かれた。
そこには、黒い革ジャンを着たツンツン頭の自分の姿が映っていたからだ。
自分は誰かに向かって話しかけている。相手には暈しがかけられていて、その姿はわからない。その変声された高い声が言った。
『今日は来てたわ。いい? 海斗。下校帰りにちゃんと攫うのよ』
それに対し、自分はニヒルな笑みを浮かべて返す。
『全く、怖い女だな。お前は。邪魔だと思う女は即消しで闇落ち送り。これまで何人の女が泣きべそかきながら消えていったことか。全く敵に回したくないぜ』
映像を教室で見ていた美華の顔に戦慄が走る。
『無駄口叩かないの? いつもちゃんと報酬は払ってるでしょ? はいこれ,、今回の分』
そう言って出された三本の札束を受け取り、軽く指でしごく。
その光景を目にした瞬間、横に連なっていた五人の視線が一斉に海斗に向けられた。
「お前……そんなに貰ってたのか……?」




