【4】想い出の味
屋敷から出て広がる光景はマレーアとは全く違く、発展し設備もしっかりしていてそこにいるものは幸せに満ちた顔をしている
「ここはチェシーヌ王国、中央自由の国。ルーファさんが治めてるところだね。自由をモットーに生活しているんだ」
「自由……」
そう、私たちの国には自由なんてモノが無かった。全て王が決めたもののみしか与えられず
奪うものは全て奪ってきたのだ。
そんな国から脱することこそが奇跡といえる
昔、ヒルとこんな話をしたことがあった
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「お姉ちゃんは自由になったらどんなことしたい?」
「私は、、、」
「私は差別や偏見を受けない所に言ってヒルと幸せに暮らしたいわ」
「うん!わたしも」
「それまで耐えよう。私たちの自由の為に」
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「お姉ちゃんあれは何?水が溢れてるよ」
「あれがヒル見せたかったものなの。噴水っていうらしいの」
「噴水…綺麗だね!わたしこんなに澄んでいる水初めてみた!」
「私もよ」
「2人はなにか食べたいものとかはないの?ここだったら多分何でも揃ってるとは思うけど」
華來はそう告げる
「わたし王国記念日の時にだけ出た“あれ”が食べたいな。野菜スープに似てるんだけど違うのトロトロしててあのパサパサのパンにも合ってて美味しかったやつ」
「私もまた食べたいと思ってた。でも名前なんて知らないわ」
話を聞いた華來は少し考え込んでハッと気が付いたように言う
「それ煮込みシチューじゃないかな!確かこっちにそれらしいお店があったはずなんだけど、、なんせ僕あまりここ詳しくないからな」
「困ってるようだね」
後ろから声をかけられる
「ルーファさん?どうしてここに。あの方との用事はおわったんですか?」
「用事は片付けてないよ。ただこっちに用事があってね。それで君たちはなにか探してるみたいだったけど」
事情を話す華來にルーファは頷いた
「煮込みシチューのお店だね。それならこっちだよ」
案内してくれるルーファに私たちはついて行く
(色々なお店があるのね。マレーアとは違ってとっても魅力的なお店が沢山あるわ)
「チェシーヌ王国では5つの国に別れているんだけど、どれも食べているものとか名産とか違うんだよ。例えばここ、服はカジュアルな感じだけど僕の国では和服が一般的なんだ。だから統括者になる前に色々な国を見て回って見るといいよ。国の特徴を知るのもひとつの仕事だからね」
「もし、見て回るならやっぱりその国の統括者が見て教えるべきなのかな?」
「ルーファさんの説明はふんわりしてて参考にもならないと思いますけど、、、。」
「僕はちゃんと懇切丁寧に教えているつもりなのにな。黎舞君はどう思う?」
「私ですか、?私は……」
「黎舞くんを困らせてる場合じゃないですよ。ルーファさん!」
「困らせてる訳でもないんだよ僕は。あ、ここだよ。煮込みシチューが美味しいお店。ついでに僕たちもお邪魔しようかな」
「ですが、ルーファ様。イリヤ様に揃えるもの全部丸投げしてここに来てるの忘れてませんか」
「え……イリヤに全部押し付けたの?ルーファさん」
「…………」
気まずそうにそっぽを向いてから微笑んだ
「ま、気にしない!気にしない!」
「私はどうなっても知らないですから!ルーファ様が勝手にやったことですので!」
「僕も知りませんからね。ルーファさんが仕出かしたことなので」
「2人ともそんな」
ナヨナヨとしたルーファの肩に誰かが手を置く
「オレに全部押し付けて何処かに行ってしまった人が目の前にいるなんて嬉しいなぁ〜」
ニコニコしているが肩をがっちりホールドして離さない様にルーファは冷や汗をかく
するとイリヤは私の方を見て笑顔になった
「ソフィーもいるの?なら早く言ってよ!あ!ソフィーの後ろにいるのはヒルちゃんって子で合ってる?オレはイリヤだよ。仲良くしてね!」
ヒルの手をとってブンブンと振る
勢いよく来たイリヤにヒルは呆然としていた
「どっかの誰かさんが仕事押し付けたせいで時間無くなるかと思ったけどここはソフィーとヒルの顔に免じて許してあげるけど次はないからね。ルーファさ♡ま♡?」
「ごめんなさい」
「所でみんなこんな所にあつまってどうしたの?」
実はと華來が事情を話した
「なるほどね!じゃあここはルーファ様が奢るからみんなお店入ろ〜」
項垂れるルーファを他所に皆店へと入っていった
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店に入ると豪華絢爛な様が広がっていた
「いらっしゃいませ……っ!ル、ルーファ様に華來様にイリヤ様までどうしてこちらに!?」
「え!イリヤ様!!」
「華來様もルーファ様もイリヤ様も皆様美しいですわ」
「統括者様達を生で見ることができるだなんて」
「オーラが違いますね」
と口々に周りがザワザワし始める
ルーファが手を上げると周りは静かになった
(流石ね。統括者とは名ばかりじゃないのね)
「僕達はここで食事しようと思ってるんだけどこの人数のテーブル席空いてるかな?」
「ちょうど空きがあります。是非こちらへ」
私たちは案内された席へと移動する。
(視線が痛い)
「この席になります。車椅子のお嬢さんはそれで大丈夫ですかな?」
「ええ。平気よ、ありがとう」
「ではごゆっくりどうぞ」
ウェイターが水を持ってくる
「このお水も料金に入るの?」
「ん?マレーアではそうだったの?まあこっちはだいたい水は無料だよ」
「マレーアでは綺麗な水は飲めなかったから料金が発生してたの。でもこんな澄んだ水が飲めるだなんて、、ほんとに素敵な国ね」
「ねぇ!お姉ちゃんみて!これ!美味しそう」
「これはなんて食べ物なのかしら?」
「それは鶏肉のグリム焼きだね。とっても美味しいよ」
「わぁ〜!!でもシチューも食べたいし、、、」
「両方頼むといいよ。好きなだけ食べな〜!お金はルーファ様が出してくれるからね。食べきれなかったら華來さんが食べてくれるから」
「え?僕にまで火が飛んでくるなんて。まあ、その時はその時!2人とも思う存分に好きなの注文してね」
「ルーファ様、私は」
「黎舞もいつも頑張ってくれてるんだし、今日は羽を伸ばしていいよ。ここまで来たら逃げられないよ。キセルも取られちゃったし」
「ありがとうございます。ルーファ様」
みんなの注文が決まったあと定員を呼び注文を済ました
ヒルは味の想像をしているのか何処か上の空だった
ルーファは諦めたのかキセルを返してもらった後煙を一息ふいた
イリヤは注文表をペラペラとめくりこれから来る料理に楽しみを膨らませているようだった
華來は袖を手に入れた状態で下を向いていた
黎舞は水を1口飲んでから微動だにせずに座っている
(みんな個性が溢れてるわね)
周りの客達はソワソワしながら食事をしたりしているが緊張している者もチラホラいる
仕方ないのも無理は無い3人もの統括者が揃っているのだから
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やがて料理が出来上がりテーブルに揃うと皆で食べ始める
ヒルはキラキラとした目で1口食べる
「ん~~~!!」
手をブンブンと振って感情を表す彼女に私は笑みがこぼれる
「慌てて食べるとやけどするから気をつけてね」
私はひとつ忠告した
ヒルはうんうんと頷いたあとも嬉しそうに食べる姿に私は幸せを感じた
(こんな美味しい料理をまた味わえるだなんて、アレイ様には感謝しないといけないわね。私の責務を全うするためにも)
私が難しい顔をしてたのかルーファにほっぺをツンとされる
「っ?!」
「今は難しい事考えずに食事を楽しむと良いよ」
そう言ってチーズが乗った薄いパンのような物を口に運び込まれた
「?!」
(なにこれ凄く美味しい。今まで食べたこと無い味だわ)
「これはピザっていう食べものだよ」
「とても美味しいです。こんなの生まれて初めて食べました」
「ちょっと何してんの!ルーファ様。オレのソフィーに勝手な事しないでよ」
「うわぁ。イリヤが下戸なの忘れてた。しかもしれっと高いワイン頼んでる」
頭を抱える華來にイリヤは肩に腕を回した
「ちょっ、近寄らないで僕もお酒無理なのに」
「そんなこと無いでしょ。ほら〜一緒に飲もぉ〜よ」
「遠慮します」
「黎舞は?一緒に飲む〜?」
「いえ、今は仕事中なので御遠慮します」
「皆してオレを無視するのぉ〜」
酔ったイリヤはワインひと瓶持って私に近づいて隣に座った
助けを求めようとみんなをみると皆からの視線は『あとは任せた!』というメッセージが込められている
(酔ってる人の相手とかしたことないよ。どうすれば)
「ソフィーは飲まないの?」
「私はその飲んだことなくて」
「えー。勿体ない一緒に飲もぉよ」
「でもこれから儀式もありますし」
「そうだねぇ」
そんなことをいいながらワインを飲む
(どうしよう。とりあえず腹ごしらえしないと)
私はスプーンでシチューをすくって食べようとした所でイリヤにパクッと食べられてしまった
「あぁ!私のシチューが、、、ぅぅ」
「大丈夫だよぉ。後で沢山食べさせてあげるからさ。とりあえずオレに1杯だけ付き合ってよ〜」
イリヤが言い終わったと同時に華來が立ち上がりイリヤを担いで言った
「これ以上ダメダメっていうとイリヤがキス魔になるから連れてくね。食事楽しんで」
犠牲は1人の方がいい…といいながら去っていってしまった
「華來がいてくれて良かった良かった」
「助かりました。これでやっと食事に集中できます」
私はご飯の続きを食べることにした