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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

神社と凪

作者: ねもし猫

 高学年になっても授業は変わらず退屈で、ようやく放課後。わたしは大きくのびをして、机にぐでーっと突っ伏していた。机の冷たさが、眠気で熱のこもった身体に心地よい。


「はやて、おつかれー」


 去年から聞き続けた声で、わたしの名前を呼ばれる。


「アオイちゃん、お疲れー」

「よしよし、お姉ちゃんがなでなでしてあげよう」

「わたしもう子どもじゃないし」


 ケラケラと笑って、アオイの短い髪が宙を舞う。


「あ、これさっき借りた消しゴム。さんきゅ」


 使いかけのモノ消しゴムが机に置かれる。手に取ると、大切に取っておいた端っこが、コンパスで書いたように丸くなっていた。


「あ、端っこが……」

「気にしなくていいよ」

「逆でしょ普通!」


 すこししょげながら、丸くなったモノ消しを筆箱にしまう。


「でさ、神社で神様っぽいの見つけたんだけど」

「そうなんだぁ」

「一緒に行かない?」


 というわけでわたしたちは、ランドセルを背負って神社に行ってみることにした。


「ってか、神様っているの?」

「ほんとに見たんだって」


 わたしたちは通学路を外れて、ひろい道路沿いを歩いていく。今朝降っていた雨はすでに止んでいた。長靴を履いているので、道路脇の水たまりを思いっきり踏んで、パシャパシャとやる。すかさずアオイがパシャパシャとやってから、長靴を履いていないことに気づいて唖然としていた。


「うぇー、ぐしょぐしょ……」

「まったく、子どもなんだから」


 大きな木々に囲まれて薄暗くなっている鳥居をくぐる。水たまりには、木漏れ日で照らされた神社といっしょに、わたしの心の奥までが見透かされる気になる。雨上がりの神社はどことなく神秘的で、本当に神様がいるんじゃないかと思った。

 素敵な大人になれますように、と小さく神様にお願いする。アオイは走って神社の横にまわる。

 こっちこっちと連れられて、社殿の奥へまわる。市指定文化財にもなっている旧社殿の中に、ぽつんと一人、同い年ぐらいの少女が座っていた。同い年ぐらいなのに不思議な雰囲気で、大人っぽかった。


「また来たの?」

「来ちゃったぜ」


 退屈そうな白い髪の女の子と、妙に馴れ馴れしいアオイ。旧社殿は外から鍵が閉められていて、中からは出られそうにない。


「あなたは?」


 女の子がわたしを見る。


「はやてだよ、あなたは?」

「……凪」


 それだけ言って、凪はまた退屈そうに前を向いた。


「いつも、そこにいるの?」

「うん」

「出てこないの?」

「出れない。だからわたしは、ずっとここにいるの」


 いたたまれなくなって下を向くと、古錆びた鍵が落ちていた。

 わたしがそれをとった瞬間、導かれたようにわたしは旧社殿の鍵穴にいれる。そのままくるっと回して、社殿の中に入っていった。


「ちょ、だめだよ!」


 アオイの静止の声も聞かず、わたしは凪の手を掴んでいた。


「一緒に遊ぼう!」


 凪は驚いたようにわたしを見つめて、それから静かに頷いた。

 それからわたしたちは神社近くの公園で、気が済むまで遊んだ。

 くたくたになってベンチに座り、自動販売機で買った飲み物を飲む。


「はー、楽しかった」

「生き返るー」

「……」


 好物のいちごミルクを飲んでいると、凪が立ち上がった。


「わたし、ずっとこうやって遊ぶのが夢だったの。だから、今日は楽しかった」


 ペットボトルから口を離して、大きく息を吸う。


「また遊ぼーよ!」 

「そうだぞ、わたしたちはもう友達だからな」


 アオイがそう言うと、凪は泣き出してしまった。


「ど、どうしたの?」

「うれじくでぇ、うぇええん」


 わたしたちは、凪につられてわんわん泣いた。

 凪もわたしたちと同じ、子どもだったのだ。ずっとあの小さな旧社殿の中で、じっとわたしたちを羨ましいと眺めていたらしい。

 その後、凪を神社に送ったら、住職さんが鍵を探していた。住職さんはわたしの持った鍵を見て、顔を真っ赤にした。しかし、わたしたちの泣きはらした顔を見てか、強く咎められることはなかった。

 住職さんは凪が旧社殿に入る前に鍵を閉めて、どこかに行ってしまった。


「……、行っちゃったね」


 アオイが小さく呟く。


「どこで寝れば良いんだろう」


 凪が不安げにつぶやく。


「じゃあ、家来る?」


 勇気を出してそう言うと、凪はそっとわたしの袖を掴んだ。

 この神様に本当にご利益があるのか、不安になった。



――*――*――*――



 家まで連れてきたあと、わたしたちはお風呂に入って、部屋でゲームをしていた。


「ただいまー」

「あ、お母さんだ」


 はやて、いないのー? と下の階で聞こえる。


「どうしよ、えと、凪、隠れて!」

「……? どうして?」

「良いから早く!」


 凪はベッドの下にもぐる。わたしはそれを見届け……って、ぁああ!

 まって、そこはだめ!


「ちょ、なg……」

「ただいまー」


 ドアが開いて、振り向く。


「お、おかえり。ママ」

「今日の夜ご飯さー、納豆か漬物どっちが良い?」

「納豆で……」

「ほーい」


 お母さんは、わたしの部屋を出てキッチンに向かった。


「ふぅ、もう出てきていいよ!」


 凪がベッドから出てくる。


「どうして隠れるの?」

「知らない子がいたら、お母さん驚くでしょ?」

「そっか」


 凪は妙に納得したような顔をして、座布団に座った。

 わたしがドア側の座布団に座ろうとしたとき、扉がコンコンとノックされる。驚いて、返事を返す間もなくドアが開いた。


「ごはん作ってる間に、宿題終わらせときなさい」

「お母さん!」

「あ、お邪魔してます」


 凪はペコリと頭をさげる。

 お母さんは何事もなかったかのようにドアを閉めて、階段を降りていってしまった。


「まったく神社の人も、お母さんも、どうして凪を無視するのかしら」


 わたしは頬を膨らませながら、ぷんぷんと怒った。

 怒りながらも、ちゃんと宿題はやった。


「わたし、ご飯食べてくるから。ここで待っててね」


 凪は頷いて、ベッドに背を預けた。

 わたしは階段を降りて、食卓に座る。お母さんはテレビのニュースを見ては、しきりにうーむ、ふーんと言っていた。おとなになったらニュースを見れるようになるのかな、と漠然と思った。


「いただきます」


 納豆のパックを開けて、箸でかき混ぜ始める。

 凪は、よくわからない。神社に住んでいるみたいなのに、住職さんにもお母さんにも無視されるし。そもそもあんな奥の、外から鍵の閉まったところに住んでいたなんて、信じられない。友達と遊ぶのが夢だったらしいけど、そんなに長い間あの社殿の中にいたのかな。

 ぐるぐる、ぐるぐる、考える。わたしの頭の中は納豆のように、考えれば考えるほどかき混ぜづらくなる。だんだんねばりをましていって、かき混ぜるのすら難しくなる。

 まあいっか、と諦めて、目玉焼きに醤油をかける。

 目玉焼きの目玉が、じぃっとわたしを見つめていた。



――*――*――*――



「すごい! 光ってるの?」

「うん」


 一緒のベッドに入って電気を消すと、凪の髪がほんのりと光っていた。


「へー、いいなー」


 手でそっと触ると、さらさらした髪の毛から小さく光のつぶつぶが飛ぶ。


「明るくて眠れなかったりする?」

「ううん、大丈夫」


 いつもは豆電球をつけているけれど、今日は凪がいるから、背伸びして電気を消した。

 暗くないか怖かったけれど、これなら大丈夫そうだなと思った。ふと晩御飯のテレビを思い出す。


「そうだ、明日は午後から雨が降るらしいから、傘忘れてたら言ってね」

「わかった!」


 凪がやる気満々に返事をすると、光のつぶつぶがそれに呼応するように宙を舞った。それがなんだか星空みたいで、しばらく見とれる。


「はやて、大人ってなに?」


 不意に凪がそんなことを言った。


「うーん、わかんない」

「はやては素敵な大人になりたいんでしょ?」


 そんなこと言ったっけ。なんて思いながら、うーんと頭を悩ませる。


「ニュースを見たり、お化粧したり、コーヒーを飲んだり。あと、たまに夜ふかししたり?」

「ふーん」


 頭をひねって出した答えは、凪のお気に召さないようだった。


「どうやったら、大人になれるの?」


 凪はまたもや難しい質問を投げかけてくる。

 むむむ、と考える。考えて考えて、また頭が納豆になってしまったので、適当に場を濁すことにした。


「素敵な恋をしたり?」

「じゃあ、はやては恋をしたいんだ」


 うーん、そういうことになるのかなぁ?

 釈然としないまま、まぶたを閉じる。勉強をして、たくさん遊んで、みんなで泣きはらしたからか、わたしはすぐに夢の世界に落ちていく。

 目を覚ますとくちびるに柔らかな感触を感じた。目の前には真っ青な瞳と透き通った白い肌と髪。

 ……って、おかしいでしょ!


「何するの!」

「何って……キス?」

「どうして疑問形なのよ。あぁ……わたしのファーストキスが……」


 凪はよくわからないという顔をして、考え込んでしまった。

 あこがれのファーストキスが、こんなに簡単に終わっちゃうなんておかしい。

 初めてのキスは苺やレモンの味がするという噂を聞いたことがあるけど、そんなことはなかった。

 しばらくすると、凪は何か合点が言ったと言う顔をして、わたしを見た。


「安心して、わたしも初めて」

「なお悪いわ!」


 テンポに飲まれてはいけない。そう自分に言い聞かせながら、軽く深呼吸をする。


「ねぇ、もっかいキスしよ」

「しません、そもそもわたし達女の子同士でしょ!」

「女の子同士じゃキスしちゃいけないの?」

「それは……でも、まだ付き合ってもいないのに」

「じゃあ付き合お」

「えと、えと、それは……」


 間髪入れずに飛び出した突然の告白に、わたしはしどろもどろになる。顔が熱くなって、心臓が早くなる。


「はやて、付き合ってくれないの?」

「わ、わたし達まだ会ったばかりでしょ」

「はやて、わたしのこと嫌いなの?」


 凪は、今にも泣きそうな顔をしてわたしを見る。

 わたしは頭がいっぱいになって、爆発してしまった。


「嫌い!」


 わたしはそれだけ言って、部屋を飛び出した。



――*――*――*――



「で、凪とケンカしちゃったんだ」

「うん」


 放課後の教室で、わたしはアオイに相談していた。アオイはよくふざけているけれど、根は真面目だ。だから、こういう時は頼りになる。


「きっと大丈夫だよ。凪も悪いと思ってると思うよ」

「アオイ……」


 わたしは子どもじゃないのに、アオイが頭をよしよししてくる。いつもなら振り払うけれど、今日はその手がありがたかった。

 しばらくそこでじっとしていると、ガラガラと教室の戸が開けられた。


「はやてさん、いる?」


 学級委員の蘇芳さんがわたしをよんでいた。


「えっと、何か用ですか?」

「お友だちが探してたみたいよ」


 蘇芳さんの後ろから出てきたのは、凪だった。凪は白い髪をなびかせながら、わたしの席に歩いてくる。


「はやて」

「な、何よ」

「傘」


 凪が差し出してきたのは、傘だった。


「……雨、降るって言ってたから」

「……ありがと。」


 わたしが小さく礼を言うと、アオイと蘇芳さんは教室の外に出ていってしまった。

 二人で話し合えと言うことなのだろうと、取り計らってくれたことに小さく感謝する。恥ずかしいから正面では言わないけれど。

 二人が出ていって、教室には静寂が訪れた。思い出したように雨の音が聞こえだして、うるさかった。


「それと、急にちゅーしてごめんなさい」

「いいけど、どうしてあんな事したの?」

「恋をすれば、はやてが女の子になれるって思ったの。それで、ベッドの下の漫画を思い出して」

「ベッドの下……あ」


 秘蔵の少女マンガコレクションを隠していたことを思い出す。バレていたのかと、顔がやかんのように熱くなって、凪の手をぎゅっと握って立ち上がる。


「行こ!」


 わたしはずかずかと逃げるように教室を飛び出して、昇降口につく。

 下駄箱から靴を取り出して傘を広げる。わたしが雨の中に飛び出すと、凪は立ち尽くした。


「どうしたのよ」

「傘、忘れた」

「はぁ!?」


 凪が申し訳無さそうにするので、わたしは凪に傘を差し出す。


「じゃあ、一緒に入ってあげてもいいけど」

「いいの?」

「しょうがないでしょ」

「ごめんなさい」


 凪は小さくちぢこまる。


「べつに、いいわよ。どっちも許してあげる」

「それって……」


 おそるおそるわたしを覗き込む凪は、小リスのようだった。


「凪のこと、嫌いなんて言って悪かったわ。その、あれは急に出ちゃっただけで、凪のことは嫌いじゃないから」

「、、。ほんと!?」

「ホントよ」


 わたしが家に向かって歩き出すと、凪はいそいそとついてくる。

 しばらく歩いていると、昨日遊んだ公園のあたりで太陽が雲の隙間から顔をのぞかせた。

 空には薄く虹がかかっていて、こういうのもありかもしれないと思った。




 まだ暑い秋の朝のことです。


 『さくら荘のペットな彼女』を徹夜で見ていたわたしは、ねぼけ眼のまま学校に向かっていました。電車のなかでぐっすりと眠っていると、朝キスのシーンを思いつきました。

 これは良い、とスマホにすぐメモを取ったのを覚えています。

 こんなかんじ↓


――――――

これまでのあらすじ 朝キス



引き剥がし

「何するの!」

「何って……キス?」

「どうして疑問形なのよ。あぁ……私のファーストキスが……」


思案する


「安心して、私も初めて」

「なお悪いわ!」

「ねぇ、もっかいキスしよ」

「しません、そもそも私達女の子同士でしょ!」

「女の子同士じゃキスしちゃいけないの?」

「それは……でも、まだ付き合ってもいないのに」

「じゃあ付き合お」


赤面


「えと、えと、それは……」

「おはよー。いやぁ、明日は赤飯かな」

「先輩! いつからそこに」

「まだ付き合ってもいないのにあたり?」

「◯◯、付き合ってくれないの?」

「だって、私達まだ会ったばかりでしょ」

「◯◯、私のこと嫌い?」

「そうじゃないけど……そもそも、どうしてそんなにキスしたがるの?」

「恋が知りたいの」


沈黙


「◯◯、恋を教えて」

「ふぇ!?」

「暑いね、外で涼んでくるよ」

「ちょっと、おいて行かないでください!」


ガチャ

情景描写


「じゃあ、もう一回だけだよ」

「うん」

「でも、約束があります」

「する」

「まだ何も言ってないのに…… キスしたら付き合わないから、分かった?」

「分かった」


唇が近づく


「仕事だよ! 出勤だ!」


じとー


「あれ、お邪魔だった?」

「部長、入っちゃだめだよ~。今二人は熱烈な愛の語らいを……」

「してません!」


cパートへ


――――――


 今見てみるとけっこう違いますね。

 それから一ヶ月がたち、ずいぶんと寒くなったころ。遅筆なわたしは、朝キスをどう落とし込むかに思い悩んでいました。朝キスは面白いのですが、どう使うべきかに悩んでいたのです。

 朝キスには2つの条件があります。まず常識知らずなキャラと、常識的なキャラクターを用意すること。そして常識知らずなキャラクターがキスをする理由です。


 最初に書いたのは思いっきりファンタジーのなろう系でした。すぐボツ。

 つぎに書いたのはプ◯キュア風の魔法少女モノ。一度書いてまあまあの出来だったのですが、なんか違うとおもってボツにしました。ちなみにこのとき凪はミルクという名前で、謎の最強プ◯キュアが敵を圧倒する感じで考えていました。結局ボツ。


 気分転換に映画でも見ようと、まえから気になっていたわたてんのプレシャスフレンズを見ることにしました。わたしはひどく感動してしまったわけです。

 そして天啓を受けました。


「ゆるゆりとか、わたてんみたいなゆるい百合を書くのです……」


 もう書くしかないと書き始めました。

 ひょんな感じで出来上がったのが、本作というわけです。

 ちょっとでも面白ければ良いなあ。


 凪の髪の毛はある宇宙人がもとになっています。あだしまっていう百合作品の、とってもキュートな宇宙人です。

 お気づきの方もいらっしゃると思いますが、神様です。ただの子供にしか見えません。

 本名は「三枝 凪」っていいます。



 続編のプロットは出来上がっているので、いつか続きを書く予定です。……たぶん。

 最後に、ここまで読んでくださりありがとうございました。


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