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11.この瞳に愛を込めて

エバがその日国王陛下から受けた勅命は、一概には信じ難い命令だった。


王太子となる事がほぼ決まっている第一王子が、

もし道を踏み外し国家の仇となる存在となったら殺せとの命令だ。


その際に事前の許可はいらず、事後に責任を問われる事も無い、

たった一つだけ条件があっただけだ。

そしてこの命令は、第一王子からの願いだ。


自分の命を他者に委ねる愚かな行為、王族として貴族として、

いや生物として生きている意味が無い。


そんなくだらない価値の無い仕事は断りたかったが、

陛下直々の勅命であれば断わる事もできない。


仕事を受けた以上は仕方ない、甘っちょろい馬鹿王子の顔でもおがみにいこう。

そんな投げやりな気分で第一王子の部屋を訪れた。


まだ夕食も終わって就寝には早い時間にもかかわらず、部屋の中は薄暗かった。

メイドでも連れ込んでいたら、即首をはねてやろう。


そんな考えが横切りつつも、部屋の中を見渡すと一人の男が椅子に腰掛けていた。

あまりに生気がなく、気づくのが遅れてしまった、まるで人形のようだ。

小さな女の子に飽きられて、ポイと捨てられた人形。


「何か用ですか?」


普通こんな時間に王族の部屋に入って来る人間がいたら、

もっと別のリアクションがあるだろうに。


「自殺志願者の馬鹿王子の見学にきました」

「父からの依頼を受けてくれたんですか」

「依頼と言うか勅命ですけどね」

「そうですか、勅命を受ける程であれば、王家の墓守の一族の方なんですね、

馬鹿王子の顔はいかがですか、これでもご令嬢の人気があるんですよ」


王家の墓守、王族が死んだ際にその棺を担ぐ為だけの一族、周りからはそう思われている。

いやそう思わせている、実際にはもっと暗く深い部分にも携わるのだけどね。


直接顔をあわせてやっとわかった、何故壊れた人形の様に感じたのか。


意思の強そうな瑠璃色の瞳は、

一度砕けて寄せ集めてつなぎとめた様な印象を受けた。

きっとここにいるのは亡霊だ、馬鹿王子のほうがまだましだ。


「股がゆるそうな軽薄な顔でがっかりです。

それで私があなたを殺した場合の条件は、

我が一族によるソフィア嬢の保護で間違い無いですね」


「あってますよ、最近知り合った婆さんに騙されましてね、

詐欺師じゃ無いと言うから信じたらペテン師でしたよ。

保険は用意したいのでお願いしたんです。

そうそう、もし叶うならソフィアの前で首をはねて頂ければ最高です。

私が首をはねられる状況だとしたら、それがきっと一番きりがいい」


「王子様、貴方の言っている事はさっぱり分かりません。

ですが、興味はわきましたよ」


私はそう言って直ぐに部屋から出ていった。


アーサーは、暗闇の中ひとり思う。

回る世界の中、私も最後にソフィアを見つけよう。

恨み晴らした彼女の笑顔に応えるように、この瞳に愛を込めて。

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