第3話。保安委員会
「いらっしゃいませ〜」
俺の名前はクロノ。あのブランゼル伯爵の銀の腕事件以来俺は、怪盗家業を勤しんでいた。圧政によって貴族に巻き取られた巻き取られた金を盗み夜の街にばら撒いたり(少しだけ猫ババしたり)。
貧しい少女が母の病に悲しむ姿を見て薬を恵んだり(盗んだ物)。荒野の夜に咲く一輪の花が、まあ、女性だな。強姦にあっていたのでそれを紳士的に救ったり。売り飛ばされそうになっていた少年少女を解放して元の親御さんに届けたり。
とにかく美徳とされるありとあらゆる事をここ半年、続けていると人々から正義の象徴として爆発的な人気まで出てきて、テレビや雑誌に取り上げられて人気急上昇しているのだ。
まあ、残念な事に怪盗アルセーヌ本人である俺には1円も印税が入ってこないんだよね。正体明かしてないから、しょうがないので昼間にファミレスでバイトして、夜に怪盗活動をしている。
「クロノ君はいつも真面目だね〜。いっそウチに就職するかい?」
この人は俺がバイトしているファミレスの店長さんだ。少しふくよかな気のいいチョイおじだ。
「いや〜、ありがたいですけど今の立場がちょうどいいですよ」
お金にはさほど困ってない。怪盗家業で大金を盗んで民衆にばら撒いているが全部ではない。少しだけ、まあ、一般人からすれば大金だが、いくらかくすねている。このくらいやんないと食っていけないからな。
それで、あれ以来危ない裏路地の危険な店に行ってないかと言うと言っている。武器や物資の補給をしたりしている。なので知り合いに見られないように気をつけなければ。
どう言うわけで、俺はこう見えてもいろいろと忙しいからな正社員になる暇はない。週に数回のアルバイトがちょうどいい。
「え〜、クロノくん。大丈夫なの〜?」
「ヤヒール先輩…」
出たな。嫌な先輩(年下)ヤヒール=ノゴエグサ・クロヴヨ。俺より早くバイトしているからって先輩風を吹かせやがって、貴族のくせにバイトをしている変わり者だ。
俺が学校を退学してなかったら一つ下の後輩になっていた人物だ。コイツはとにかく憎たらしい。毎回嫌味を言ってきたり突っかかってきたりしてめんどくさい奴だ。
何で金持ちの貴族がバイトしているかと言うと、このバイト先に好きな女の子が来ているからだ。彼女は平民で名前がイルジュ・テリ。皆んなは親しみを込めてイルと読んでいる。
彼女も同じ学校で、学費を稼ぐためにここでバイトしている女の子なんだが、赤髪で三つ編み眼鏡といった大人しい女の子なのだが、体は全く大人しくないボンキュッボンのグラマラスな体型をしている。オマケに女性にしては少し高い方。165㎝といった所だろうか、まさにグラビア体型でヒヤールの野郎が続行になるのもわかる。
奴自身は親の育成方針として、下の苦労を知るために自分が経営しているこのファミレスでバイトさせていると言っているが絶対に嘘だ。イルを追いかけて、わざわざこのバイト先に来たのだ。オマケにオーナーの息子だからやりたい放題だ。
「学費を払えないほど貧乏なんですから」
この野郎〜、俺は別に学費が払えなくて退学したわけじゃねえんだよ。何で貴族ってこんな嫌な奴ばかりなんだよ。辞めろその顔殴りたくなる。俺は必死に殴りたいのを我慢していた。
今ニコニコと笑顔で答えているが、顔から下は怒りで血管剥き出し状態だ。その後も嫌味を言われながらバイトをする。スルーし続けても言ってくる。物凄くしつこい。とにかく相手が飽きるまで俺は仕事を続けた。
「しかし、今日も人が多いですね」
「アレの影響だろうね」
「アレですか?」
「夜の貴公子。怪盗アルセーヌ様ですよ」
ようやくピーク時を過ぎて一息つけた。今日も人が多くって大変だったと話していたら、店長がある話をし出そうとすると、先ほど話したグラマラス学生のイルが食い気味に話してきた。いつもは大人しいイルが珍しく興奮気味に話してきた。
「黒に統一されたスタイリッシュな服装に、仮面の下に隠された謎の正体。やることなす事全てがカッコいいです。知ってますか?有名な映画監督が実写映画を作るって噂されてるんですよ」
「そうそう、この前も有名なアイドルが中の人を探してるって番組で言ってたよ」
おうおう、店長とイルがキャッキャッウフフしてる。俺の話で大盛り上がりだ。2人とも俺の大ファンらしい。いや〜、こうしてファンの声を直接聞けるのは何とも嬉しい物だな。
「見ました『探せ!ppp調査隊!』って番組が始まりまして、有力な目撃情報には粗品がもらえるらしいですよ」
パステル・パレード・プリンセス。通称ppp今大人気の女性アイドルグループで、彼女達が俺の解説や調査などをする番組らしい。俺も見たが可愛いアイドル達にカッコいいとかキャーキャー言われて、見ててとてもニヤけてしまった。めちゃくちゃ嬉しい。
「素顔はブサイクだって噂されてますけどね」
ヒヤールの野郎が急に話に割って入ってきやがって、何だよ自分の好きな人が、黄色い声援をあげてるからって俺を貶すなよ。
俺はわりかし顔はいいほうなんだぞ、ちょっとメガネと前髪で隠れてるかもしれないけど。学園ではイケメンって少しモテはやされてたんだからな。まあ、そこも理由の一つで気に入られなくて、男貴族どもにいじめられてたんだけどな。
「そ、そうかな。僕はイケメンだと思ってるけど、イルちゃんはどう思う?」
「そうですね。確かにイケメンだったら完璧かもしれませんけど、たとえブサイクと言われる分類の人でもカッコいいです」
「でも、泥棒する犯罪者だよ」
「ちょっとこんなこと言うのは変なのかもしれませんけど、そこがまたカッコいいと言うか、法で捌けない悪の為に自ら悪に染まる。正義の悪って言うですかね。その生き様がすでにカッコいいと思います」
「それはアレだね。優しい男よりも、ちょっと刺激的な悪い男に惚れちゃう的な奴だね」
「アハハ、そうかも知れませんね。でもあくままで物語の登場人物に惚れるそんな感じですよ」
「確かに怪盗の恋人とか、ちょっとロマンチックかも知れないけど、犯罪の傍を担がされるみたいなもんだもんな」
それはそう。もし俺が恋人を作るとしたら怪盗を止める時だな。おかげでそう言う事をするのはすっかりエッチなお店になってしまった。
下手に恋人を作らないように、性欲はお店のお姉様方にお世話になっている。ちなみに受付に年齢を聞かれる事はないので堂々と入っているが、実際はそう言う店は成人してからだ。
お店も金が入るから目をつぶってるんだろうけどな。グレーゾーンと言うやつかな?たまに女の人に「若いですね。何歳ですか?」って聞かれる時があるが、適当に二十歳と言ってある。
あと、余計な情報かも知れないが、俺はエッチが上手いらしい。仲のいい嬢達にイキすぎて疲れるから、最後に来て欲しいと言われるくらいだ。
俺とした後はイキ疲れて後の客の相手が疲れると愚痴を言われるくらいだ。そう言われると、ちょっと嬉しい。男として自信が持てる。
などと話していると、来客の鐘が鳴った。雑談タイムを終わらせて客を出迎える。すると、入って来たお客は女性の方で、随分と背の高い女性だった。イルよりも更に高い。170以上はあるな。黒いスーツにパンツ。スカートじゃないのが残念。長い黒髪で本当少し癖のついた髪が色ぽくって、どこか風格を感じるカッコよさを持った。美人系のスレンダー美女と言った感じだ。
「いらっしゃいませ。アレ、アヤさん」
「こんにちわ。店長さん。久しぶりですね」
「今日は外回りの仕事ですか?」
「えぇまぁ、新しい依頼が増えて大変でして、力をつけようと」
「そうですか、それじゃあお好きな席でお待ちください」
そう言って、アヤと言われた女性は席についた。どうやら店長の知り合いのようで、誰か気になって聞いてみた。
「お知り合いですか?」
「うん。保安の人で、現場バリバリの三等国家保安委員だよ。ここ最近は来てなかったけど、ちょっと前までは結構な頻度で、ここでご飯を食べてから外回りに行ってたんだよ。また、何かしらの事件を追ってるんじゃないかな。あ、もしかして怪盗を追ってたりするかもね」
「へぇ〜、保安のそれも三等級ねぇ。そいつは凄い…」
かなりリスキーだけど、是非お近づきになりたいね。