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第一章 第五話 人生はライフカードでは選べない/一つの無関係な命が消えた時

さて、今回は注意(警告)があります。

まずは、前回の最後から俊輔・孝司は二手に分かれて逃げています。

兵士たちも二手に分かれ追っています。

今回はその後からの物語となっています。

あれ?どうしてそんな事に?と思った方。思わなかった方。

申し訳ありません。私の描写不足です。

時間があったら後日、修正という形をとります。

次に、孝司視点で新出用語が多数出てきます。

混乱する箇所があるかもしれません。

先にお伝えしておきます。

最後に、俊輔視点の最後に若干鬱になる恐れのある個所があります。

お気を付けください。


「……終わりましたね。これで全部ですか?」

「はい。しっかり五機の破壊を確認しました。」

「………これは少しやりすぎたかもしれません。…カレン、被害状況を。」

「装甲に軽微の損傷を確認。それと右腕部マニュピレータに機能不全の兆行が現れています。」

「…私が聞きたいのはそうではなくて…」

「神殿の損壊は計算してざっと18億Gガラーです。」

「……テリオルの財政が傾いてしまうではないですか!」


ファルナ達は崩れ落ちた神殿内に立っていた。

周囲にはまだ火がくすぶっている。

そして彼女達の近くにあるのは、

瓦礫、残骸。そして――――


――見上げるように高い、この場の何よりも赤い、朱い、紅い――紅の機体だった。


人型で、重装甲とまではいかないが分厚い装甲を纏っており威圧感を感じさせている。

他の所は火がくすぶっているものの、その機体の周りだけがまるで蜃気楼のように揺らめいている。

それに何より異常なのがこの機体の装備だった。

背中に二本、腰に二本、左腕部の肘から下に一本の計五本の剣を納める鞘があり、

それに呼応する西洋剣が左腕部以外収められている。

左腕部の剣は右手で抜き放たれており、それら・・・以外に・・・装備が・・・見当たらなかった・・・・・・・・


「またアリアとエルネット財務大臣に怒鳴られます!」

「仕方ありません。…ファルナ様、アリア様の事が呼び捨てになっていますが…」

「構いません。こんな時くらい呼び捨てにさせなさい。…仕方ないってどういう意味ですか?」

「ワタシと《契約》した事です。《ソードイフリート》はただでさえ火力が他の《魔鋼機》と比べて高いのですから…」

「…はぁ。それもそうですね…」


そう言ってファルナは目の前の巨人――ソードイフリートを見上げる。

その姿には諦めと、後悔と、哀愁が漂っていた…


「…私、次期宮廷魔術師長なのになんで剣を振るっているのでしょう…?」

マスター・・・・。ソードイフリートはそういう機体なんですよ…伊達に名前にソードは付けてません。と言うか、名前がソードイフリートなのに剣を振らずに魔術撃ってたらおかしいでしょう。」

「そんなものですかねぇ…」


ファルナは振り返るとカレンに神殿の外を指差しながら言った。


「それじゃあ、お二人を迎えに行きましょう。そろそろ日が暮れてしまいますし。」

「ええ、行きましょう。何事も無ければいいのですが………?……っ!ファルナ様!」

「?…どうかしましたか?」

「申し訳ありません。…一機、仕留め切れてなかったようです。」

「……何ですって?」


太陽はもう、傾き始めていた――



くそ、と心の中で呟く。

俺の目の前には鎧を着た兵士が一人。

全身を包み込んでいるその鎧には――当たり前だが――俺の持っている警棒では傷一つ付かない。

しかもこいつが振っているのは間違いなく人一人殺せてしまうような幅広の剣だ。

命のやり取りなんて俺はしたこと無い。

――あいつなら経験済み・・・・なんだろうが…

そうこうしている内に兵士の剣が下から跳ね上げるように俺の首を狙ってくる。


「うおらっ!」

「うおっ!」


それをバックステップしながら首を捻って避ける。

急いでそのまま距離をとって体勢を立て直した。


「まずいな…」


このままじゃ消耗戦だ。

スタミナ削られてこっちがやられちまう!


「……やるじゃねえか、兄ちゃん。」

「昔っから厄介事に巻き込まれててね…」


主に俊輔アイツのせいだ。

昔からアイツがトラブルの類を引き寄せている。

この警棒だってアイツと日々を過ごすために必要だっただけだし…


「それでも大したもんだぜ。普通、召喚したてでそんなに動けるヤツぁそうはいない。」

「そうなのかい?」


兵士と喋りながら息を整える。

――さっきからこれの繰り返し。いい加減、こっちが参っちまいそうだ。

すると兵士がいきなり兜を脱ぎ捨てて素顔を俺に見せた。

4、50歳くらいの髭をたくわえた茶髪のオッチャンだった。


「へへ、これで対等だろ?」

「んな訳あるか!」


こっちは学生服と警棒。あっちは鎧と剣だぞ!

兜外したくらいで対等まで持って行けるか!


「まぁまぁ。…ところで兄ちゃん。聞きたくないかい?」

「何をだよ。」

「どうして俺達が兄ちゃん達の事を殺そうと追うのか。」

「それは…」


それは何だろう?

ファルナ達は俺達の事を《魔力保有量》とかいうのが高いから召喚したって言ってた。

そもそもの問題でその《魔力保有量》というのが分からない。

多分その人物の持つ魔力が高いみたいな意味なんだろうけれども…


「……魔力が高いから?」

「その答えだと58点くらいだな。」


以外と厳しい採点基準だった。

俺は立ち位置を考えながら時間稼ぎのためにそのまま話を続けた。

どういうつもりなのかは分からないが、好都合だった。


「じゃあ、何なんだよ?」


とりあえず隙を窺って一気にケリをつけるしかないか…?


「兄ちゃん達が優秀な殺戮人形キリングマシーンになれる素質があるからさ。」


……………………は?

何だよそれ。意味分かんねえ。


「意味分かんねえよ。俺達はつい数時間前まで平和な一般人の生活を送ってたんだぜ。それがどうしてそんな事になるんだ?」

「……もしかして何も聞かされてないのか?」

「聞かされるも何も、さっきまで一緒にいたアイツがちょっと事故ってこの世界の言語が分からなかったから…」


言ってすぐに余計な事まで言ったと思った。

だけどオッチャンはそこには全く触れずに俺に言う。


「…すまない。俺たちゃ、てっきりもう知ってて王都に行くもんだと…」

「そんな事どうでもいいから教えろよ!どういう意味なんだ!」

「……説明してやる。ちょっと俺達《帝国》寄りの伝え方になっちまうが…」

「それでいい!教えてくれ、オッチャン。」

「…兄ちゃん。まず自分たちの事と魔力について知っているか?」


いきなり意味の分からない質問をされた。

魔力についてはチンプンカンプンだが自分の事が分かんない奴なんていないだろう。


「魔力に関しては全然。俺達は《魔力保有量》とかいうのが高いとかしか…」

「その様子だと《異邦人》についても知らないみたいだな…よし。」


オッチャンは剣を逆手に持つと地面に図を描き始めた。


「…何してんの?」

「分かりやすいように図で説明しようとしてんだよ。」


そうして描いたのが横一列に並んだ三つの丸と棒人間に二体の人型のロボットの絵だった。

…もしかしたらオッチャン、絵が上手いのかも知れない。


「よし。…じゃあ、説明してやる。まずは《魔力》についてだ。」


オッチャンはそう言って横に並んだ三つの丸の内、一番左端を剣で指した。


「魔力っていうのは三つあるんだ。いいか?順番に言っていくぞ。…こいつが《オド》。こいつは生きている全ての生物に宿っているんだ。俺や兄ちゃん、さっきの坊主だってそうだ。」


坊主ってのは俊輔の事か。

次に、とオッチャンは右端の丸を指す。


「こいつは《エーテル》。魔術全般に使われている。兄ちゃん達に最初に会った時、手から炎を出したろ?あれはエーテルを術式で編んで操作した物だ。」


ああ、あれの事か。

かっけぇ!ってはしゃいでたら俊輔に殴られたな…

最後に、とオッチャンは真ん中の丸を指す。


「これが《マナ》。世界中にある。空気みたいにな。兄ちゃん達が召喚された時に使われたヤツだ。」


これら全てを大概《魔力》って言うんだ。とオッチャンは言う。

確かにためにはなるがまったく説明になってないんじゃあ?


「魔力については分かったけれどよ。まったくさっきの言葉の説明になってないぜ?」

「あせんなよ。まだ魔力について半分も終わってないぜ。」


うえ、マジかよと思いながら俺は思った。

――俊輔…お前今どんな状況なんだ……?

こことは違う所でもう一人と戦っているだろう悪友の心配を――



走る、走る、走る――――

目の前を邪魔する木の枝を両手で毟り取るようにへし折りながら、後ろにいるであろう帝国兵に投げる。

――もうさっき別れた所からどれくらい離れてしまっただろうか。

ただ体力の続く限り逃げる。

何よりアイツ・・・と約束してしまった。だったら諦める・・・訳にはいかない。


「――ッ!しつこいんだよ――お前ッ!」


急停止して右に回転し、そのまま左足で回し蹴りをする。

この道は高低差も無くて狭い道だから、これで距離を稼げるはずだ――――!


「――――っ!」


前方への加速力と右回転したことによる遠心力を乗せた僕の一撃は難無く右手の籠手で防がれる。

でも、その時の反動を利用して距離をとる。


――――逃げられない。

それが分かったのか、向こうも剣を構えた。


「……剣…だったらいけるかな……?」


僕はボソッと呟いて今の僕の手持ちを見る。

両手のグローブと、懐中電灯、財布に、携帯、鞄。

鞄は学ランの下に挟み込むように入れてる。急造の防具だ。…意味無いけど。

懐中電灯はベルトに挟み込んでいるが使い道はないだろう。

財布と携帯。これは一瞬気を逸らすくらいにはなるか…?

このグローブなら手の甲の辺りにつけられた何かの合金で剣を…防げないな。出来て逸らすくらいか。

手持ちで倒すのは無理。だったらやっぱり孝司やファルナさん達が助けに来てくれるまで待つくらいしか――――ッ!


「っ!考える時間くらいよこせよ…!」


踏み込みながら縦に振り落とされた剣を、体を左にずらすことで避ける。

続けて繰り出された右からの薙ぎ払いをバックステップで避け、その後の突きを紙一重でかわしながら踏み込んでタックルする。


「ぐっ…がは、ごほっ。」

「ハァ…はぁ……っ…はぁ…」


どうやら今のタックルが相当効いてしまったようだ。

それはそれでラッキーだがこっちも正直言ってヤバイ。

何がってアドレナリンが何か凄いことになってる。多分。

あんなに暴れてもスタミナが尽きない。

きっと一息ついたら、もう動けなくなるだろう。

こういうのは経験積みだ。

今は平気だと思ってても後からやって来る。

――明日は筋肉痛かな…

明日が来るかも分からないのにそんな事を思った。



さて、魔力についてオッチャンの補足説明を簡単に説明しよう。

先程の《オド》《マナ》《エーテル》。

これらは全て変換できるらしい。

具体的にこうだ。

オド⇔マナ⇔エーテル

オドからエーテル、エーテルからオドには変換できないらしい。

そしてオドからマナへの変換。

これが《魔力保有量》とやら深くに関わるらしい。

通常、オドには個人差があって訓練したりすれば増えていくんだとか。

余談だがファルナはあの中でもかなりの実力者らしい。

彼女も辛い訓練を経たんだろうか……?

……閑話休題。

ともかくオドの量は人それぞれ。

そしてマナはオドを練って自身の外に放出されたものらしい。

オドからマナへの変換にはまた人それぞれの倍率があるという。

それを《魔力変換倍率》なんて風に言うんだとか。

この《魔力変換倍率》も訓練で鍛えられるが、余り伸びないらしい。

オドの量と魔力変換倍率。

この二つを計算して求められたのが《魔力保有量》ってわけだ。

ちなみにこの計算において重要視されるのは倍率のほうらしい。


「……分かったか?つまり兄ちゃん達は一のオドから十のマナを出せる優秀な人材って訳だ。次、説明するぞ。」


オッチャンは今度は二体の人型ロボットの内、片方を指した。

――――今度はロボット……?

俺の脳裏に儀式の最中に現れた四足歩行のロボットが浮かぶ。


「こいつは通称《魔戦機》。魔力で…いや、マナで動く兵器だ。…兄ちゃんは見ただろう?」

「ああ……あんなもん生身の人間に向けて撃つなよ……」

「エーテルカノンの事か?俺らだってあんなもん喰らいたかぁねぇよ。」


オッチャンは気まずそうな顔をする。

あれ、何か俺悪いこと言ったかな……?


「……まあ、もう分かるだろうが兄ちゃん達を乗せたらこれはスゲェ武器になる。何せとてつもない量のマナを出せるんだからな…でも、それはスペック上での事だ。兄ちゃん、さっきの俺が言った武器の名前言ってみな。」

「……《エーテル》、カノン……?」

「そう、それだ。じゃあちょっとばかし別の話に移るぜ。」


そう言ってオッチャンは棒人形に剣を向ける。

……あれ、何か俺の方が剣を突き付けられているような気がする…


「これが……兄ちゃん達、異世界の人間。俺達、《アストラル》の人間からは《異邦人》って呼ばれている。」

「異邦人……?…エイリアン?」


何かエキサ○ト翻訳みたいに訳してみた。

言いようとしちゃ合ってるのかもしれない。


「意味分かんねえが…話、続けんぞ。」

「分かった。」

「異邦人は選出のシステムからして保有量が高い。つまり、パイロットとしては最適だ。だが……」

「だが?」

「異邦人には俺達からしたら決定的な欠陥がある。」

「欠陥……?」


欠陥って何だろう?

さっきのオッチャンの質問を思い出せ……

魔戦機に乗せれば《スペック上は》強くなるらしい。

そしてオッチャンに訊かれた武器は《エーテルカノン》。

……まったく噛み合わない。

ん?待てよ…エーテルカノンって名前なんだからエーテルを…撃つのか?


「……異邦人はマナをエーテルに変換・・できない・・・・。」

「は?」

変換・・だよ、変換・・。異邦人はエーテルを扱う事が出来ないんだ。…ここまで言えばあとは分かるな?」


エーテルが、扱えない。

それはつまり――――


「そう。兄ちゃん達が乗れば魔戦機は飛び道具は持てない。いや、もしかしたら武器そのものを扱えないかもしれない。最近はほとんどエーテルで剣も構成するからな。」

「ちょっと待てよ。だったら武器そのものにエーテルを積んでおけば…」

「駄目だ。兄ちゃん、人の魔力で使った方がいいんだよ。」


訳分かんねえ……

人の方がいいってどういう意味だ?


「…兄ちゃんは走ったら疲れたら、止まって休むだろう?」

「当たり前だろ。じゃなきゃまた走れないじゃないか。」

「そう。そこだよ兄ちゃん。休んだら・・・・走れるんだよ・・・・・・。……魔力についての補足だ。オドは体力と言ってもいい。つまりな、オドを回復できるんだよ。時間経過でな。そして、オドはマナに変換できてマナは動力だ。…分かるか?」

「……動力が・・・チャージできる・・・・・・・…?マナはエーテルにも変換できるから持っている武器にもチャージできる?」

「そういう事さ。でも兄ちゃんじゃただ速く、長く走っていることしか出来ない。」

「でも、それじゃあ……」

「そう。兄ちゃん達の意味がないよな。魔術が使えない。機体の武器が使えない…だからほら、これで最後の説明だ。」


オッチャンはそう言うと最後のもう一体のロボットの絵に剣を突き刺した。

その動作には若干の怯えと恐怖を感じさせる、そんな動きだった。


「……さっきオドは変換してマナになって放出される。って言ったよな。」

「ああ。オドを練ってマナにして放出するんだよな?」

「ああ、そうだ。でも良く考えてみな?自分の中にあるものには人は手出しできないが、自分から離れたものには他人でも干渉できるよな?」

「ああ。自分で大事そうに何か持ってたら他人は触れられないけど、そこら辺にあったら誰でも触れる…」

「そうだ。……こいつが兄ちゃん達を殺戮人形にしてしまうかもしれない存在だ。」


オッチャンは忌々しそうにその単語を俺に言う。


「…………《魔鋼機》。…俺達はこいつをそう呼ぶ。」



「ヌウ…オラァ!」

「――――ッ――ハァ!」


袈裟切りをかわしてカウンターに蹴りを入れて引き離す。

――――剣を避けるのは簡単ではない。と言うかヤバイ。

所詮は剣。攻撃は自ずと線と点になる。

つまり斬撃と刺突になる。

斬撃は手と剣を見れば予想つくし、刺突は大きく引いたらそうだと分かる。

だから避けるのは簡単…ではない。

僕の体がその予想についてこない。

認識してから行動までのタイムラグがあるのだ。

そのせいでもう何回か掠ってる。

しかもこっちは拳撃、蹴り。打撃なので鎧には大した効果は無い。

このままじゃ間違いなくこっちのパワー負けになるだろう。

とはいえ、勝機はある。

さっきのようなタックルを繰り返せば鎧の中でも衝撃は伝わる。

問題は……


「…そんな事をする暇がない――――っ、このっ――――!」

「ハァァァァッ――――!」


放たれた逆袈裟切りをワンテンポ遅れてバックステップしてかわそうとする。

が、かわしきれずに学ランとその下の鞄を斬られる。

――――皮膚には届いてない……!


僕は学ランを脱ぎながら、鞄を兵士に向かって投げつける。

それを左手で払われる。

ここまでは予想通り。

僕は学ランの両袖を持って巻き取るようにして剣を押さえる。

剣さえ封じてしまえば向こうは必殺の一撃を放てない……!


「よし――――!」


そのまま一緒に遠くへ投げ捨てようとするが、


ビリリリリィィィ!


学ランを切り裂かれた!?

くそ、予定外だ。距離を置いてひとまず息を――――――!?


「な……?」


ガクンっと僕の膝が折れる。

――――――もう、限界・・か――――――?


「これが……ラストチャンス………!」


これを崩されたらもう逃げるしかない。

僕は右から剣を水平にして突き出された突きを、剣の腹を右手の甲で弾くことで逸らす。

剣先が上に逸れて相手はがら空きになる。


「――もらった!」


踏み込みながら相手の背後を見る。

幹の太い樹があった。

あんなのが後ろにある状態でさっきのタックルを喰らえば意識くらいは奪えるんじゃないだろうか。

こちらの技に自信があるわけでは無いけれど、それくらい期待したっていいはずだ。


右足で踏み込んで肩から思いっきり体当たりを――――――!?

左手から煌いた銀色の光を上体を無理やり動かすことでかわす。

今のは、


投げスローイングナイフ――――――!?」


そのまま背中をつける形に倒れる。

すぐに起き上がろうとするが――


「がっ……」


勢いよく腹を踏まれる。

そのままヤツは僕の頭に剣を――――――


「――――――諦められるかぁ・・・・・・・―――――――!」


勢いよく起き上がって顔面目掛けて殴りつける。

もちろんほとんど意味は無いし、こっちだって痛い。

でもそれでいい。


「うおおおおおおおおおっ!!」


そのまま兵士に背を向けて逃げ出す・・・・

とにかく広い所に逃げられれば……!



「魔鋼機?魔戦機とは違うのか?」


俺はオッチャンに質問する。

俊輔が昔、『人の話を鵜呑みにしちゃ駄目だ。』って言ってた。

それは真実は人の数だけあるから、たった一人の真実で判断するな。って意味でアイツは言ったんだっけ……?


「大体は同じだ。魔鋼機ってのは魔戦機の複座型みたいなもんだ。一人が操縦を担当して、もう一人が機体のマナ、エーテルを制御する。兄ちゃん達は操縦だな。もう一人の方が兄ちゃん達の放出したマナをコントロールするって事だ。」

「なるほど…確かにそんなもんに乗せられたら一騎当千の兵士ができちまう。」


それが俺達が襲われる理由か。

でもどうしてオッチャンはそんな怖そうにしてんだ?


「…こっからは余談だ。余談だが…重要な事だ。……魔鋼機のサブパイロットって奴らについてだ。」

「……?何か違うのか?」

「ああ。兄ちゃん、魔鋼機ってのはな自己再生・・・・するんだ。人間のようにじっくりと、時間をかけてな。もちろん動力はマナだ。分かるかい?」


分かるか?って分かるわけが…

ん?でもさっきのオドは体力。みたいな言葉と合わせると…?


「魔鋼機は、人間・・なのか?」


自分で言ってみて突拍子のない言葉だと思った。

でも、ここは異世界。

もう俺の、俺達の常識じゃ測れない。

だったら突拍子でもなんでもいいから考えた方がいい。


「80点。魔鋼機は人じゃない。ただそれに近い答えだ。」

「…じゃ、何なんだ?」

「《コアドール》って奴らがいる。性別、生まれ、性格。あらゆることが違うが、ただ一つだけそいつらに共通していることがある。それが魔鋼機・・・のパイロット・・・・・・だって事だ・・・・・。」

「……それじゃあ。」

「ああ。魔鋼機はコアドールと命を共有・・・・してるんじゃないか・・・・・・・・・って話だ。」


何か色んなことを知りすぎて頭がこんがらがってきた。

俺はどうすればいいんだ……?


「そこでだ、兄ちゃん。そのまま王都に行くと戦わせられる羽目になるかもしんねえ。俺達の、《帝国》の方に来ないか?」

「嫌だね。」


驚くくらいすんなり言葉が出た。

でもオッチャンには悪いけど俺は――――――


「俺の大事な《悪友》を殺そうとしたんだ。ついていける訳無いだろう――――――!」


――――そうキッパリと決めたんだ。



「………ふぅ、はぁ。」


なんとか一息つけた。

でもすぐに見つかるだろう。

周りは木を伐採したみたいに開けていて、見つかりやすいがこっちも見つけやすい。

もう太陽は――――――思ったけれどこれは太陽なのかな?――――隠れてしまっている。

地平線近くまで沈んでいるんだろう。森で見えない。

とにかく休憩しないと……


「………驚いた。こんな近くまで忍び寄ってきてたんだね。」


首筋に冷たいものが当てられる。

――――鈍く銀色に輝く剣が当てられていた。

……チェックメイト。

もう逃げられないし、抵抗できない。


逃げる気も無いし、抵抗する気も無かった。


思いっきり背中を蹴られる。

回転しながら倒れる。

目の前には剣を振りかぶった兵士がいた。

そのまま今度こそ脳天目掛けて振り落とされ――――――




――――――世界がスローモーションになった。



だからって僕が速くなった訳じゃない。

これは、走馬灯のようなものだ。

だから少しずつ近づいてくる死をよける事は出来ない。

そう。だからこれは、懺悔の時間なのだ・・・・・・・・

僕が、生きている人に。

    死んでしまった人に。

    これから出会ったかもしれない人に。


そんな人たちに対する――――――言葉を贈る。

これはきっと――――――そんな時間。

――――――それじゃ、始めよう。



まずは、僕がこれから出会ったかもしれないあなたに。

―――――――ゴメンナサイ。もしかしたらあなたの事を、僕は信頼できたかもしれない。



次に、生きている人達に。


まずはファルナさん。

――――ゴメンナサイ。実は君の事はコレっぽっちも信じてなかった。

もしかしたら、もっと君と話せれば………僕は君の事を信じる事が出来たのかもしれない。


次に、祖父ちゃん。

――――ゴメンナサイ。もっと僕がうまくできれば僕はここで死ななかったかもしれません。

もしかしたら、祖父ちゃんから技を教えてもらえたかもしれません。


それと、nagi。

あんなに諦めないって約束したのに結局、僕はこの程度の人間だったんだ。

こんな僕が、約束なんて守ることすらできないこの僕が――――――

――――ゴメン。結局君に逢う事は出来なかった―――――――


それから、孝司。

――――君は、お前は・・・僕の最高の《悪友》だったよ。

――――ゴメン。結局最後までお前を《親友》だと思う事は、出来なかった。

――――十年前、お前がいなかったら僕は―――――――



最後に、もう逢えない、もう逢うことのないあなたたちに―――――――






父さん、ゴメンナサイ。

僕は佑香を護れなかったよ。

僕は父さんとの約束を守れなかったんだ。

あの時、僕は父さんと約束したのに。

佑香を護るって約束したのに。

絶対に、護るって約束したのに―――――――!



母さん、ゴメンナサイ。

僕はここで死んでしまうみたいです。

僕は母さんとの約束も破ってしまうみたいです。

あの時、約束したのに。

生き残ってみせるって約束したのに。

絶対に、生きるって約束したのに――――――!





佑香。ごめんな。

兄ちゃん、もう駄目みたいだ。

佑香は―――――――

佑香は兄ちゃんの事、怒ってくれるかな?

佑香は兄ちゃんの事、恨んでいないかな?

佑香は―――――――こんな兄ちゃん、許してくれるかな?






最後に。

本当の最後に。

本当の、本当の最後に君に、■■に言いたいな。

―――――――そして、聞きたい。


―――――――僕は、生きていていいのかな?


―――――――僕は、生きてて良かったのかな?


―――――――僕は、死んだ方がいいのかな?


―――――――僕は、死んだ方が良かったのかな?


―――――――僕は、幸せなのかな?


―――――――僕は、幸せだったのかな?


―――――――僕は、幸せになれたのかな?



―――――――君は、生きていて楽しかったかな?

―――――――君は、死ぬべき人間だったのかな?

―――――――君は、幸せだったのかな?





―――――――君は、僕と、オレと・・・一緒に過ごして楽しかったのかな――?




もう、答えは返って来ないけれど―――――――



最後に―――――――それが―――――――





―――――――知りたかった。



結局、何も変わらなかった。

結局、僕が死んでも変わらない。

僕という存在が欠けても、変わらない。

たとえ異世界でも―――――――変わらない。

無慈悲なまでに、変わらない。

世界オレは、変わらない。

まるで――――鏡だ。





―――――頭上に煌めく銀色の光。

僕は、そんな瞬間にも目を瞑ることが出来なくて―――――――





―――――――僕の視界セカイは、真っ赤に染まった。




第四話 人生はライフカードでは選べない/一つの無関係な命が消えた時 end

⇒Chapter 1 The final story 終わりも突然やってきた/夕焼けの向こうの彼女と血塗れた僕

さて、何か俊輔DEADENDっぽい終わり方になってしまった第五話。

■はあなたの事ではありません。いちおー俊輔のトラウマに関わる人物です。

ちなみに今回、俊輔視点の途中途中のあれは(一応)戦闘シーンのつもりです。

……my主人公、お前は何時になったらロボットアクションをするんだ……?

後、サブタイの無関係な命って何だよ?って方。

御心配なく。一見誰も死んでなさそうですが次回に分かることでしょう。

(実はあまりに長くなりすぎたから次回にカットしました。)

次回は第一章の最終話とエピローグ。幕間の三話同時更新です。


今回は書き方を若干変えました。

具体的に言うと、地の文と会話文の間に一行分空白を入れました。

これについてのご意見・ご感想。

それ以外についてもお待ちしております。

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