第一章 第四話 仮面被りと光の助言者/Let's question!
答えのある問題は解く気になれるが、
答えのない問題は解く気にもならない。
だったらこの時の会話は一体どっちだったんだろう?
何処までも暗い、昏い、闇の中。
……オレはソレと対峙していた。
「…お前は一体何だ?」
「nagiって呼んでって言ったじゃないか。…その質問をそっくりそのまま返すよ。君は一体何なんだい?」
――光の集合体はオレの質問に対して質問で返す。
「僕は…月神俊輔だ。…お前だってさっき名前で呼んだじゃないか。」
「違う違う。名前なんてとっくの昔に知っているよ。…それに一体いつまで仮面を被っているつもりだい?自分の心の中でさえ君は自分の本心を曝け出さないつもりかい?」
「…仮面は人の前で使って初めて効果を発揮するものだ。お前がいなくなったら僕は仮面を外すよ。」
ふうん、と光の集合体――nagiは面白くなさそうに拗ねた。
――何だろう。こいつと話していると何か違和感を感じる。
「…まあ、いいや。今日は禅問答をするために君にこんな苦労をして会いに来たわけではないからね。」
さてと、とnagiは気を取り直したようにオレに言った。
「聞きたい事、あるんだろう?遠慮せず聞いていいよ。」
「…僕がお前から情報を聞くことによるお前のメリットは?」
「ないよ。ただ君が得をするだけさ。」
「……信用できないな。」
オレがそう言うとnagiは可笑しそうに笑った。
「…《信用》できないんじゃなくて《信用も》の間違いだろう?《人間不信》の《仮面被り》。」
その言葉に血が上る。
オレはなるべく平静を装って言葉を「なんだ、今ので怒ったのかい?ジョークだよジョーク。」…返せなかった。
「ん?何で分かるんだ。みたいな顔をしているね。それはとっても簡単、とってもイージー、とってもシンプルな答えだよ?聞きたいかい?」
「……いい。聞きたくない。」
きっとあれだ。オレはさっき孝司に言われて寝たのだからここは夢の中なのだ。
だから、きっとここはオレの精神に近い。
つまりこいつはオレの心を読んでいるのだろう。
こいつはオレにとって天敵の様だ。
「うん。そうだね。…あれ?何か天敵って何かこう……良い感じがする!」
オレは二度目の質問をした。
「お前は…何だ?」
「またその質問かい?……敵ではないよ。でも、味方でもない。…いうなればただの《助言者》さ。ほら、よくRPGにいるだろ?村人Aみたいな……うそうそ、冗談だって。でも助言者なのは本当さ。」
「…保留。」
「本当に!?やった!ありがとう!うれしいよ!」
「やっぱ信じな「ごめんごめん。ちょっとはしゃいじゃった。」……」
nagiは反省したかのように縮まった。
このままでは埒が明かないのでオレは質問することにした。
「…じゃあ、聞かせてもらおう。…あのロボットは何だ?ここはファンタジーの世界じゃないのか?」
「一度に二つも聞くなよ……第一の問、あのロボットは通称《魔戦機》。人が作り出した魔力で動く巨大な兵器さ。第二の問、もともと誰もこの世界――《アストラル》はファンタジー世界だとは言っていない。」
ま、大抵基本はファンタジーだけどね。とnagiは言う。
――たしかに誰もこの世界がファンタジーだとは言っていない。
だとするなら、
あの魔戦機とやらにも説明がつく。
……?
…魔力で動くだって?
「君は頭が固いんだねぇ。確かにファンタジーとは言っていないとボクは言ったけれど、違うとも僕は言っていないよ。」
疑問を先に解消しようと話を進めるnagi。
サクサク進んで大助かりだが、心を読まれるのはどうにも不愉快だ。
「仕方ないだろう?ここは君の精神世界――夢の中だよ。分かりたくなくても分かってしまうのだから、分かること前提で話を進めた方が君としても楽だろう?」
「否定は出来ないな。…で、どういう事だ?この世界は何なんだ?」
「つまりね…この世界は《魔術と科学が融合した技術があるファンタジー世界》…分かりやすいだろ?」
「とっても分かりやすい。」
「他に質問は?」
「……」
オレは少し迷ってから聞いた。
「…この世界に魔王とか人類の宿敵とかそういったのは?」
「いない。少なくとも今は、だけど。…今、この世界で戦っているのは人間同士だよ。他の異種族もそれぞれの陣営に存在する。…君らが召喚されたのは魔王退治のための勇者としてでは無いよ。」
nagiはキッパリと否定した。
オレは次に聞きたい事を聞いた。
「僕達を召喚した所と、さっきの魔戦機の関係性は?」
「君たちを召喚したのはアストラルの五大大陸の一つ。西の《ヴァレスティア大陸》の丁度真ん中にある《テリオル王国》。魔戦機の保有数は少ない。…まあ、平和ボケしてた国だからね。」
「…何か駄目駄目な国だな。」
「でも、とっても過ごし易い気候の国だよ。」
nagiはまるで自分の事のように自慢した。
「…魔戦機の方は?」
「君たちを襲った魔戦機はヴァレスティアの北にある《アレオス帝国》の物さ。標準気温は軽くマイナスを超えるとても寒い所さ。でも、そこに住む人々が今日を、明日を、精一杯生きていくとても心の温まる国だよ。」
「そんな心温かい国がどうして僕達を襲ってきたんだ?」
「君だって大体は知っているだろう?セントラルキューブから歴史の読み込みは済んでいるはずだ。」
確かに。オレは言語翻訳の登録途中で転送されたがその前に歴史についてはもう知っているはずだ。
――まだ自分の記憶としては馴染んではいないが。
オレは記憶を手探りで探す。
確か帝国が王国に対して――
「帝国は最近周辺の国に対して侵略行為を始めている。もう大陸の半分を手にしているんだ。それでテリオルにも宣戦布告したんだ。確か、もうテリオルの国境付近――つまりこの神殿から北に2km位離れた所にある《クリフの谷》って所に前線基地を建ててたかな。」
折角思い出そうとしたのに先に言われる。
オレはそこまで考えて今の説明の中の疑問点に思い当った。
「なるほどね……ところで、どうしてお前はそんな事を知っている?」
「企業秘密。知りたいならボクに対する好感度をもう少し上げてからね。」
「心配するな。お前に対する好感度は永遠に0だ。」
どうやら喋るつもりは無いらしい。
しかしなるほど。これで色々と説明がつく。
多分、オレと孝司は王国の魔戦機に乗せられて帝国軍と戦わせられるのだろう。
勿論そう思ったのには理由がある。
オレ達が召喚されたのは魔力を多く持っているらしい。
魔力を動力としている魔戦機のパイロットとしてはこれ以上にない逸材って奴なんだろう。
そして、どういった訳かそれを知った帝国側に命を狙われていると。
それに帝国からしたってオレと孝司には興味があるはずだ。
王国に行けば戦わされる。もしくは国内に縛られる。
帝国に行ったら殺される。もしくは戦わされる。
ここは王国の国境付近。
谷がこの先のオレの人生の境界線。
オレは――
「ちょっと、ちょっと。勝手に自己完結しないでよ。」
「…今度は何だ?」
折角の思考を中断された。
「これはボクからの《忠告》。君はテリオルに行った方がいい。」
「…助言じゃないのか?」
うーん。とnagiは考えるように唸った。
「帝国には…君が最も憎んでいる男がいる。そんな奴と背中を合わせるような事はしたくないだろう?」
オレが最も憎んでいる男…?
「…それは、誰だ?」
「聞かない方がいいよ。君のために、ならない…」
「それでもいい。そいつは誰なんだ?」
「………」
「…教えてくれ。nagi。それは誰なんだ――?」
「……君のトラウマトップ3に入る出来事の元凶となった男だよ。」
――その瞬間、オレは――
――――ダレヲオモイウカベタノダロウ?
「…………もう、他に聞くことは無いかい?」
「………ああ、ない。」
そっか。とnagiは笑い出す。
「じゃあ、また今度君が愉快な危機的状況に陥った時に…」
何か言ってるが気にしない。
何せ久しぶりの普通の会話だったのだ。
夢の中とはいえ、こちら側に来てから孝司以外と会話をしたのはこいつが初めてで――――!?
「…ちょっと待て。」
「……なんだい?もう質問は無いんじゃあ…?」
「……たった今、思ったことがある。…読んでいるんだったら、分かるだろう…?」
「…いいよ、言ってごらん。」
「お前は…いや、違うな…」
「オレは何でお前の言葉が分かるんだ?」
「……フフ、」
その瞬間、こいつは、nagiと自らを呼称したコイツは――――――
「フフフ、ハハハハハ、アハハハハハハハハハハハハハハハ!」
――――まるで壊れたレコーダーのように笑った。
「…!?」
「アハハハハハ、アハハハハ。……今更!今更気づいたのかい?遅いよ!その質問が最初だと思ったのに!」
「…………」
「ハハハハハ。………そう。……今君が考えている4つの可能性。その内1つが大正解!」
――オレが考えた4つの可能性。
1つ、この世界には《精神干渉》系統の魔術が存在し、それらを神殿からここに至るまでにオレが受けた可能性。もしくはファルナ達がオレに使った可能性。
「うわ、さっきまで仲よくしてたのに候補に挙げるのかい?」
この世界にそのような物があるかどうかは分からないがこれは無いと思う。
ここに来るまで会ったのは狼、甲冑兵士二人、ファルナ達だ。
「あとボクね。直接は会ってないけれど。」
まず、狼。論外。
次に兵士。あいつらは炎とかしか撃ってこなかった。よって除外。
ファルナ達。これは矛盾する。
なぜなら、そんな物があればそれでオレと意思疎通を図ればいいのだから。
だから、
「そう。それは違うよ。」
2つ、実はオレは二重人格者でこちら側に来た際、もう一つの人格が目覚めてオレを助けている可能性。
「君…そんな痛い子だったんだ…」
ハッキリ言おう。ふざけんな。
「ひど!」
オレにとっての《僕》は人とのコミュニケーションのための仮面だ。別人格なんかじゃない。
「その仮面付けてても人との間に信頼関係は築けないんだね…」
それにこんな奴がオレの別人格だったら今頃自殺している。
「うわー。すっごい傷ついた。」
3つ、カレンさんみたいなイレギュラーの可能性。
「ああ…彼女ね…ああいうのはイレギュラーの中のイレギュラーだよ。ボクに関して言うならああいったケースは無い。」
「お前が否定してくれて確信した。」
これに関しては否定材料がない。
「………否定、ね……」
だから、4つ目。
そう、これが答え。
「そのとおり。それが正解だよ。」
コイツは、
「では、もう一度挨拶しよう。初めまして《後輩君》。訳あって本名は明かせないから今まで通りで呼んでくれればいいよ。」
コイツは、オレ達と同じなんだ――――
今、思えばおかしかった。
nagiは自らを《助言者》といった時にRPGを例えに出していた。
大抵異世界の基本はファンタジーだとも。
普通はそんな風に例えない。
そんな事、こことは違う異世界から来たっていう何よりの証明じゃないか!
「…それじゃ、さようならだ。月神俊輔。いずれまた君がこの世界の《真実》を知ろうとするまで…」
「まて!nagi!」
――――折角見つけた帰るための手がかりなのに!
「お前は、帰る方法を知っているのか!」
「…さあね。知っているかもしれないし、知らないかもしれない。」
「はぐらかすな………!「いいのかい?君の友達の孝司君だったっけ?君を起こそうとしているよ?」…チッ!」
オレが舌打ちするとnagiはやれやれといった様子で言う。
「心配しなくてもいい。月神俊輔。君が生きていればボクらはまた逢える。だから、」
「……だから…?」
「だから――――死なないでほしい。そして、諦めないで欲しい。どんな不条理にも、どんな理不尽が立ち塞がっても。そうすれば、君の《牙》は届く。きっと届くはずだから――――」
「…………《牙》?」
一体何の事だ?
「これは約束だ。またいずれボクは君の前に姿を現す。その頃には君はもうボクの事を信じてくれないかもしれない。でも、ボクは必ず君の前に現れるよ。だから約束してほしい。諦めないって。」
「………元から信じちゃ、いない…」
「それでもだよ。それでも約束してほしい。」
「………ああ。約束、しよう。」
――約束の仕方なんてもう忘れてしまったけれど――――
「いい返事だね。……それじゃ、また。」
「ああ。また、な…」
nagiの周りが歪んでいって、
そして、オレは、僕は――――
◇
「……あ……」
「起きたか。…大丈夫か?気分悪そうだぞ。」
「……ああ。大丈夫…うん。」
そうか。と孝司はそれ以上何も聞かずにいてくれた。
ありがたいな。と僕は思った。
「見えるか?向こう側の草むら…」
孝司が遠くの草むらを指差して言う。
草むらの所にはさっき僕らを追いかけて来た兵士たちがいた。
あいつが――nagiの言ってた事が正しければ《帝国》の兵士だろう。
まだ僕らを探しているみたいだ。
「…どうする?」
「どうするもこうするも見つからないように逃げるしか…」
僕達が悩んでたその時、
「ガルルルル……」
さっきの狼っぽいのが――もう狼でいいや――僕の真横に来ていた。
「………」
「………」
「グルルルルル…」
わあ、とてもお腹が減ってそうだよ。
危ないなぁ。あはははははは。
「…孝司?何か食べ物持っていない?」
「…昼飯の時に食ったサラミが2本。」
「一本頂戴。」
「……死ぬなよ。」
死ぬか。と僕は言葉を返した。
僕はサラミを一本受け取ると狼に差し出した。
頼む。これで向こうに行ってくれ。
「……」
狼はサラミを咥えて茂みの向こうに行った。
「…間一髪セーフ。」
「いや、アウトかもしんない。」
え、と僕が振り返ると――
「……」
「……」
兵士たちがこっちを凝視していた。
うん。これは、その、あれですな。
どうする?どうするよ僕!
第四話 仮面被りと光の助言者/Let's question! end
⇒next story 人生はライフカードでは選べない/一つの無関係な命が消えた時
今回は前回の最後辺りに出てきた謎声
自称nagiとの質疑応答となりました第六話です。
ええ。俊輔に戦闘フラグ立てましたとも。
次回は戦闘ですよ。はい。
さて、今回から後書きにちょっとした小芝居があります。
それらも含めたりして感想お待ちしています。
では、興味のある方だけスクロールどうぞ。
――猟犬の楽屋裏――
俊輔「ふう。やっと第六話まで進んだか。」
孝司「しかしあれだな。設定に無理があるというか…これしっかり伏線回収出来るのか…?」
?「ふふふ。それは心配いらないさ。…多分。」
俊輔&孝司「「な、なんだ!?」」
?「ふ。なんだかんだと聞かれたら…」
俊輔「……」
孝司「……」
?「……」
俊輔「…乗ってあげないからな。作者。」
島凪(作者)「ばらすなよ!?あと乗っかれよ!」
孝司「……かっこいい。」
俊輔「…は?」
島凪「やっぱお前には分かるんだなぁ。よし、孝司は今度にしといてあげよう。」
俊輔「何の話だよ…」
島凪「ん?インタビュー。」
孝司「じゃ、俺は行くわ。達者でな俊輔。」
俊輔「ちょ、待て…孝司!」
島凪「ふふふ。では最初のクエスチョン!」
俊輔「はぁ!?」
島凪「…ぶっちゃけ、君本当に主人公なの?」
俊輔「お前がそう書いているんだろう!?」
continue...
いや、ただロ○ット団が気に入ってるだけですよ?