第一章 第三話 謎の声に導かれて――/僕と孝司と甲冑と、時々、狼?
一人称を変える人間は多分五種類に分かれるだろう。
1、二重人格者だから
2、趣味でやっている
3、厨二病でカッコ良さそうだから
4、なんとなくで使い分けているから
5、過去の体験により本当の自分を見せる事に恐怖を感じ、都合のいい仮面を被る事で自分を隠した―――臆病者だ。
「うわっ!」
急に浮遊感が無くなり僕はまた、落ちた。
――――今度はしっかり着地したけれど。
「なんだ!何が起こった!?」
孝司の声が聞こえる。
「何があったのさ!孝司!」
「わかんねぇよ!」
周りを見回す。
さっきの爆発でどこか崩れたのか辺りには煙が漂っている。
すると、うずくまっているファルナさんを見つけた。
走って駆け寄る。
「ファルナさん!どうしたんですか!どこか怪我…で…も……」
近づいた僕の目に映ったのは――――
――――緩慢な動作でこちらを覗きこんで砲門らしきものを僕達に向けたロボットと――――
――呆然とするファルナさんと――――
――――粉々に砕けたメモリーオーブだった――――
あ、やべ……
◆
「俊輔!ファルナ!」
気がつけば俺は全速力で走っていた。
距離は40mくらい。
――間に合え!
するといきなり体が軽くなったような気がした。
「コウジ様!肉体強化の魔術をかけました!ファルナ様とシュンスケ様を!」
「何か分かんないけどサンキュー!」
先ほどよりも早くなった。
これならきっと間に合う!
「俊輔!ファルナ!俺に掴まれ!」
「うわっ!」「は、はい!」
二人の腰の辺りを抱き込むようにして走る。
「コウジ様!こちらへ!」
そちらを見ると黒ローブの男がドアの前で俺達のことを呼んでいた。
「分かった!今そっちに…」
「孝司!右に飛べ!」
急に後ろを見ていた俊輔がいきなり叫ぶ。
それに応じて右に飛んだ。
ドッオォォォン!と轟音が鳴り響き、
さっきまでいた所が抉れて吹っ飛んでた。
「あぶね…」
「バカ!止まんな!全速力で走れ!」
俊輔の言葉に頷き全速力で走った。
横目でチラリとさっきのロボットを見る。
四足歩行で何かポ〇モンのメタグ〇スぽかった。
そのままドアの向こうに飛び込む。
『大地の如き堅牢さを授けよ!』
黒ローブが呪文っぽいものを扉にかけた。
「これでしばらくはドアが耐えてくれます。ファルナ様。今の内に王都まで脱出を!」
「なりません!私に部下を見捨てろと言うのですか!」
「優先順位をお考えください!あなたは王からの勅命を受けているでしょう!」
何かファルナは黒ローブと喧嘩している。
「なあ、俊輔?俺達どうしたら…俊輔!?」
「………駄目だ……」
「ど、どうした?」
「…儀式が終わってなかったから後ろでどうして言い争ってるのか分かんねぇ…」
「まじかよ…ん?俊輔お前口調が…」
「…え?口調がどうしたって…?」
「…何でもない。」
気のせいだったか…?
「…で、何で喧嘩してるの?ファルナさん達。」
「うん。実はかくかくしかじか…」
「それで分かったら凄いよ…しかし優先順位ねぇ。」
「分かってんじゃねぇか。」
「…よし。だったら…孝司。通訳お願い。」
「あいよ。」
「ねえ、ファルナさん。」
「私「あの…」何ですか!少し待っててください!」
「いや、悪いけどそんな時間は俺達にはないと思う…。」
「実はファルナさんに聞きたい事があるんです。」
「聞きたい事?何ですか?」
「何だってさ。」
「この神殿に隠し通路の類はありますか?」
ファルナは少し悩んでからこう言った。
「…そこのドアを開けて角を左に曲がった後に十字路があります。そこを右に三歩進んだところに一か所だけ色の違う壁があります。そこを四回叩けば隠しの通路が出てきますが…?」
俺は俊輔に隠し通路の存在を伝えた。
「…僕と孝司はそこから一旦脱出します。」
「「「はぁ!?」」」
俺もビックリ。何言ってるんだ俊輔?
「今の僕達がいても邪魔なだけでしょう。それなら二手に分かれて後で合流した方が安全です。」
「…俺達だけでさっきのロボットに遭ったらどうすんだよ?」
「逃げる。」
「ロボット…?ああ、魔戦機のことですね。」
魔戦機って何だ?
「でも、そんな危険なことはさせられません。」
あれ、またごちゃごちゃしてきたな。
俺は俊輔にファルナの意見を伝えた。
そしたら俊輔はニヤリと笑う。
「ファルナさん。僕達の荷物はここにありますか?」
「鞄でしたらそこに置いておきましたが…」
鞄の中…?あ、そうか!
俺達は下校途中に召喚された。下校途中という事は当然鞄もこっちに来ているはずだ。
俺達は色々と事件に巻き込まれる事が多かった。
そこで、何か遭った時に使えそうなものを常に持っておこうと決めたのだ。
「ファルナ。実は俺達は向こうの世界でもある程度、厄介事に関わったことがあるんだ。逃げるのには自信がある。」
「相手はあれだけではありませんよ?向こう側の騎士や、兵士だっています。」
「騎士?人がいるのか?だったら問題は無いよな。俊輔?」
「ああ。人が相手ならやりやすいね。」
「は、はぁ…」
「よし、善は急げだ。ファルナ、鞄は何処にある?」
「こちらです。コウジ様。」
いきなり、真横から声が聞こえた。
振り返ると、そこには――
「初めまして。ワタクシ、ファルナ様の従者のようなものをしております…カレンと申します。今後とも宜しくお願いします。」
――とんでもない美女がいた。
◆
「初めまして。ワタクシ、ファルナ様の従者のようなものをしております…カレンと申します。今後とも宜しくお願いします。」
カレンとそう名乗ったその女性はとっても美人だった。
髪はファルナさんのように――いや、それよりももっと朱くて長さは腰までスラっとのびている。
眼はエメラルドのようなとても綺麗な翡翠色。スタイルは文句の付けどころのない。
そして何より包容力のある優しい雰囲気が出ている。
そこまで思ってふと気がついた。
――言葉が分かる…?
「御心配にならなくてもワタクシは貴方方の言語で話しかけているだけです。」
覚えるのは苦労しました。とその女性――カレンさんは鞄をいつの間にか僕に差し出しながら言う。
「は、はぁ…そうですか…」
僕はカレンさんから僕と孝司の二人分の鞄を受け取りながら返事を返す。
「この神殿の近くにある谷から彼らはやってきています。そちらには近づかないように。」
聞きたい事を先に言われた!
「じゃあ、僕達は一旦神殿を出ます。今の時間は「現在午後4時50分となります…こちら側でも時間表記はほとんど一緒ですよ。後、山谷風にご注意ください。谷より逆に向かえば安全でしょう。」……ありがとうございます。」
ほとんど聞きたい事を言われてしまった。
もうどうでも良くなってきた。
「い、行こうか…孝司。」
「お…おう。」
僕らはいきなり現れたカレンさんに感謝をしてそれからファルナさん達に頭を下げて先ほど飛び込んだのとは別のドアから神殿の廊下に出た。
「右に三歩…これかな?」
見ると天井付近の一か所だけ色が違う。
僕はそこを押そうとして背伸びした。
「あれ?届かないな…」
「俺が押すよ。」
孝司が背の低い僕の代わりに壁を四回叩いた。
すると床の一部がスライドして地下に続く階段が出てきた。
よし、鞄の中には何が入っていただろう…?
「げ…これだけしか無いのか…」
僕と孝司の鞄から出てきたのはテキスト、ノート、筆記用具…こんなものはどうでもいい…事無いか?
そして、僕愛用の金属入りハーフフィンガーグローブと、孝司愛用の特殊警棒、あとうちの高校の発明同好会からもらった振ると充電できる懐中電灯。
「…おい、俊輔…」
「……もっと何か入ってると思ったんだ…許してくれ…」
「…まあ、今から戻るのも何かあれだしな…」
まあ、これから地下に降りるんだし懐中電灯でも役に立つだろう。
僕達は階段を下りた。
◆
「カレン!何処に行っていたのですか!」
「《クリフの谷》から《エーテル》が異常に溢れていたので調査を。勝手な真似をして申し訳ありません。」
カレンは私に頭を下げて謝った。
「…結果は?」
「谷の向こうに《帝国》の前線基地を。襲撃部隊は魔戦機五体、帝国軍兵士三十二人。それと、谷を凍らせた《魔鋼機》が一体。薄いスカイブルーの機体でした。内、兵士三十人はここに戻るまでに排除しました。」
「氷を操る薄いスカイブルーの魔鋼機…確か、《冥氷》とか言う…」
「その可能性が高いかと。」
「…三十人と言いましたね…残り二人は?」
「領内に侵入させてしまいました。申し訳ありません。」
「もう謝らなくても構いません。それより、魔戦機五体は?」
「ただ今、神殿・祭壇内に一機。残り四機は神殿の四方を囲むように配置されています。」
「そうですか……セバスチャン!チャーリー!」
「はい。ファルナ様。」
「お呼びですかな?」
私の前に二人の魔術師がやって来る。
「貴方達は他の皆を神殿から逃がしてください。私はカレンと周辺の魔戦機を倒してからあの二人と合流します。」
「「分かりました。」」
そう言って二人は先程コウジさんとシュンスケさんが出て行った扉から神殿内に散らばる。
「…あの二人は無事、逃げ切れるでしょうか…?」
「コウジ様御一人ならそれも可能でしょうが…問題はシュンスケ様のほうかと。」
「…そんなに酷かったですか?彼は。」
「ハッキリ言って劣悪です。ワタシが鞄を差し出したのに気づくまで五秒間かかっていました。コウジ様はすぐに気が付きましたが。」
「…致命的な反応の遅さですね。……そういえば召喚した際も着地に失敗していたような…」
「一応、重心はしっかりしていたので何らかの武術をやっていそうですが…果たしてそれで逃げ切れるのか…ましてや《冥氷》が来ているとなると…」
これはあの二人を先に逃がしたのは失敗だったかもしれない。
急がないと二人とも危険だ。
「…急いであの二人と合流しましょう。でもその前に…カレン。」
「はい。アレを排除しましょう。」
私とカレンは祭壇内に戻る。
祭壇には先程の魔戦機がいた。
「あれは一体何という名前だったでしょうか…」
「《スタンディス》…魔戦機と呼ぶのもおこがましいただの移動砲台です…その分コストは安上がりですが。」
スタンディスのアイカメラがこちらを覗きこむ。
それと同時に砲身も動き出す。
「…安上がり?《エーテルカノン》を装備してですか?」
「帝国は兵器製造技術に優れていますから。それにあれは恐らく精度の低い粗悪品でしょう…それでも生身で喰らえば消し飛ぶでしょうが。」
私達に、照準が定まる。
「まあ、いいでしょう。それより私達は急いでるのですから早く終わらせましょう。」
「分かりました。」
砲身の向こうに緑の光が収束していき――
『――――燃えさかれ…《ソードイフリート》!』
周囲は――業火に包まれた――
◆
「何て言うか…さ」
「ああ、全く無駄だったな。」
階段を下りてすぐに何か光ってる魔方陣っぽいのがあったので触れてみると何か薄暗い所に出たので手探りで見つけた扉を開けると――
――森だった。どっからどう見ても森だった。
「…誰か教えてくれれば良かったのに…」
(じゃあ、今度からは教えてあげるよ。)
「――――ッ!?」
何だ?今の声は?
「孝司。何か言った?」
「あ?何も言ってねえけど?」
(彼は何も言っていないよ。君に話しかけているのはボク。…それよりいいのかい?君達、逃げているんだろう?)
そうだった。
この声のことは分からないが今はここから離れるのが先だ。
「孝司。先に行こう。」
「ああ。どっちに行くんだ?」
僕は風向きを確かめる。
…まだ陽は昇っているから風の吹く方向に進めば谷から離れるはずだ。
「…多分こっち。」
(あ、言い忘れていたけれどそっちには…)
この時、僕はもっとこの謎の声をしっかり聞いておくべきだったと後悔した。
僕らが進んだその先には――
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
――鎧着た兵士が二人、真正面にいた。
「…に、」
「「逃げろー!」」
△
…はい、回想終了。
何か僕の回想以外もあった気がするけどそんなことはなかった。
その後逃げてたら狼っぽいのとかもやってきて喰われそうになったりして。
…僕達はあれから森の中を全力で走っていた。
何とか振り切れたが一応走って距離を稼いでおいたのだ。
「孝司!次の木を右に!」
「分かった!」
孝司が僕の言うとおりに右に曲がる。
「ストップ!」
僕は孝司を止める。
「…一旦休憩しよう。」
「ハァ…ハァ…っ!…ハァ。わ、分かった…」
孝司は僕を降ろすとその場に座り込んだ。
神殿内にいた時は気付かなかったがもう日が沈み始めている。
夜になるのも時間の問題だろう。
「まったく、どうなってるんだか…」
「ファルナ達大丈夫かな…」
「…あのまま、僕達が居たままだったら絶対に足手纏いだったよ…」
「そりゃ分かってるけどよ…クソッ!」
ガンッ!と孝司は木を殴りつけてそのままもたれかかった。
「なあ、俊輔…」
「…なんだい?」
「あれ…なんだったんだろう…」
「………」
僕は答えない。
「俺はここを異世界だ。って聞いたんだぜ。」
僕は答えない。
「普通、異世界って言われたらファンタジーな世界だろ…」
僕は、答えない。
「何でロボットとか出て来るんだ…?」
僕は――答えられない。
答えられるはずがない。
「……分かんないよ…」
〈じゃあ、教えてあげようか?〉
「――っ!」
「…どうした。何か見つけたのか?」
「……いや、疲れているだけみたいだ。」
「…休んどけよ。俺が見張っておいてやるから。」
「でも…」
「いいから休め。こんな時にお前が倒れたら困るんだ。」
「……分かった。」
〈そうそう。それが賢明な判断だよ。〉
「…お休み、孝司。何かあったらすぐ起こしてね。」
「分かった。任せとけ。」
――孝司のその言葉を最後に僕は意識を闇の中に落とした。
………
……
…
◇
そして――――
「やあ、こうして話すのは初めてかな?月神俊輔君。とは言っても、ボクの体はこんな光の寄せ集めのような物じゃないけどね。」
僕は――オレは夢の中でソイツと出会った。
「お前か。さっきから僕の頭に話しかけていたのは?」
「そうだよ。でもお前なんて呼び方はしてほしくないなぁ。もうちょっとフレンドリーに呼んで欲しいなボクは。」
そいつの体は――――体と呼べるのか?――――まるでそこにだけ光が集まったようなそんな体だった。
そう、光そのものに話しかけられているような、およそ理解の範疇を超えているような光景。
「…あ!そうだ。いい名前を思いついたよ。ボクのことは《nagi》って呼んでくれないかな?」
――――その光の集合体はまるで新しい玩具を見つけた子供のようにオレに言った。
第三話 謎の声に導かれて――/僕と孝司と甲冑と、時々、狼? end
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この物語はファンタジーロボットアクションです。
……あれ?これって嘘なんじゃない?
一体いつになったらウチの主人公は戦うのでしょうか?
自分でそう思うようになってしまった第5話です。
皆さんお元気でしょうか?
最近キーボードがおかしくなってきました。
さて、5話では俊輔君の頭に響く謎の声を頼りに脱出を……頼りにしてない!?
それとファルナには雑魚とのバトルフラグを立てました。
一章が終わる前に戦闘シーンは出来るのか?分かりません。
こんなに回想に時間をかける事に腕の未熟さを感じます。
いつも通りに感想お待ちしております。