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第一章 第二話 言葉の通じない未踏の地で/翻訳者・陽山孝司でお送りします。

信用と信頼はまるで違う――

今、石造りの神殿っぽい所(めんどくさいので神殿)にはなんとも言えない空気になっていた。

原因はご存じ陽山孝司――ではなく、この僕の方だった。

理由は簡単。実に簡単でしかしこんな場所においては致命的な問題があったからだ。


「……いくぞ。準備はいいか?俊輔。」

孝司のその問いに僕は一言、ああ。と頷き次の一言を待った。

さっきまでの空気がまるで嘘のように張り詰めていく。

「じゃあ、始めてください…」

孝司が隣にいる黒ローブに話しかける。

ゴクッ、っと息をのむ音が聞こえた。周りの魔術師の方々だろう。

皆が今か今か黒ローブの次の言葉を待つ。

僕も過去今までにないくらいの集中をして――――



「……airilteauryuatemu?」

「ごめんなさい。まったく分かりません。」

あぁ~、みたいな感じで魔術師の皆さんは思いっきり落ち込んだ。

孝司もなんか溜息ついてるし。

…え?何、これ?この空気はもしかして僕が悪いの?

いやいや、だってしょうがないじゃないか。分かんないんだから。

僕のせいではない。……多分。

大体何で分かるの孝司。



現実逃避……しようかな。




さて、何がどうなっているのか分からなくなってきた。

こういう時、俊輔ならきっと自分の事を振り返るのだろう。

きっと自分を過小評価しながら。

では、俺も敬愛すべき我が《悪友》にならって自分の事を振り返ろう。

まずは名前から。

俺の名前は陽山 ひやま孝司こうじ

高校二年生でそこの月神俊輔とはお向いさんだ。

身長198cmで髪型は茶色に染めたツンツン頭。眼は普通の黒。日本人だからね。

自己的に判断してそんなにもてる外見ではないとは思うんだけどなぜかよく告白される。

前に「なんでこんなにもてるんだろう?」って言ったら俊輔に殴られた。

あと、「君は全校生徒の過半数を今敵に回した。」とかなんとか。

自分だって一部の女子に好かれているのに何を言ってるんだか。

きっと、気づいてないんだろう。今度遠まわしに教えてあげよう。

一応、学年トップクラスの成績をキープしてる。

あと、100mを10秒前半台で走れる。

とまあ、こんなところかな。


あ、俊輔が現実逃避を始めている。



「あの……コウジさん……」

後ろから綺麗な声がしたので振り返ってみるとそこには純白のローブを着た女の子がいた。

背は大体俊輔と同じ―――いや、あいつより若干高いからきっと170前後だろう。

綺麗な赤い髪をしていて恐らく16、7歳くらいだろうか。

「なんだ?えーっと…」

「ファルナです。ファルナ・エートランド。」

「ああ、ファルナ。よろしく。」

俺は手を差し出した。人間間における信頼関係の始まりは握手からだと思うんだ。うん。

よろしくお願いします。とファルナは俺の握手に応じてくれた。

「あのそれで、その……」

「何だ?遠慮なく言っていいぞ?」

「はい。その…」

ファルナはちょっとだけ躊躇すると少し小さな声で言った。

「…シュンスケさんの事、なんですけど…」

ああ、なんだその事か。

「気にしなくてもいいよ。君が悪いんじゃない。」

そう。別に彼女は――彼女たちは悪くないのだ。

そう思いながら三分前の事を思い返す。

三分前、そこのソイツが俺のことを変な物を見るような眼で見た時のことを――




「…………………はい?」

そんな間抜けな声を上げたのは我が《悪友》月神俊輔だった。

「……ごめん。もう一回言って。」

「ここは異世界なんだ。」

「もう一回。」

「ここは異世界なんだ。」

「……ワンモア、プリーズ?」

「…ここは、異世界なんだ。」

ようやく聞きなおしが終わった。

「もしかして頭を打った際に耳がおかしくなったんじゃ…」

「おもいっきり聞こえてるよ。」

そう言って俊輔はグルリと周りを見回した。

周りにはさっき俺に状況を教えてくれた《魔術師》達がいる。

俊輔は一通り周りを見た後、俺の方を向いて一言。

「孝司。もしかして頭でも強く打った?」

「それはお前だ!」

「いやだって、なぁ。」

「…なんだよ。」

俊輔は怪しむようにもう一度魔術師達を見回して、

「それこの人たちに聞いたんだよね?」

「あぁ。そうだが?」

それがどうかしたのか?

「ここは異世界です。…なんて言われて、はいそうですか。なんて納得出来るわけないじゃないか。」

何だ、そんな事か。

「それは単純にお前が疑り深いだけだ。それに…」

「それに?」

「こう、何かあるだろ?知ってるはずの無いことを知ってるとか。」

そう、俺だってそう簡単には信じないさ。

信じたのには理由がある。

その内の一つが《記憶》だ。

知識としてだが、今この世界がどんな状況なのかは知っている。

「う…ん…むむう。」

どうやら俊輔にも思い当たる節があるらしい。

「でもそれだけじゃ弱いよ。他に根拠はあるの?」

「もちろん。むしろこっちの方が決め手だ。」

俺は皆を見回して俊輔に言った。

「この人達、お前をずっと看病してくれてたんだ。」

どうだ、これならこいつも信じて――



「……ふうん。ま、いいか。」



「え、それだけ?」

「うん。それだけ。」

「どうしてだ!充分な理由じゃないか。」

「まあ、待ってくれよ孝司。別に君の事を疑ってる訳じゃない。」

じゃあ、どういう意味なんだ。

「僕はまだその人たちと会話を一言も交わしていないんだ。」

ああ、そういう事なのか。

「つまり、実際に話して判断するって?」

「そういう事。君が握手から人間関係を構築するように僕は会話から入る人間なんだ。」

「そしてぶち壊すと。」

「…君が僕をこの12年間どういう目で見てきたか良く分かったよ。」

「あの……」

「「ん?」」

声がした方に振り返ると白いローブがそこにいた。

「私はファルナ・エートランドといいます。申し訳ありませんが、少しお時間をいただけないでしょうか?」

ナイスタイミング。まずはこれで和解への一歩が踏み出された!

「ほら、向こうからお話がしたいってよ。」

「………?」

「?じゃないだろ。お前が、話したいって言ったんだろうが。」

「う、うん。確かにそうは言ったけど…」

なんか歯切れが悪いな。

「じゃあ、良いじゃないか。えーっと、ファルナだっけ。こいつも話がしたいってよ。」

俺は白ローブの女の子にそう告げた。

「そうですか。それは良かった。」

ファルナは俺のことをちらりと見て俊輔に言う。

「先ほど孝司さまにも簡単に説明したのですが実は「……ストップ。」はい?なんでしょうか?」

何だ?さっきから俊輔の様子がおかしい。

俊輔は俺にこう訊いてきた。

「孝司にはこの子が何て言ってるのか分かるんだよね?」

「当たり前だ。じゃなきゃ話にならないだろ?」

「…そっちの彼女は僕の言ってること、分かる?」

「もちろんです。ちゃんとそちらの世界での言語を全て《セントラルキューブ》が翻訳してくれてますから。」

お、何か新しい単語が出てきた。後で、聞いてみよう。

それにしても俊輔の奴は一体何が言いたいんだ?

「おい、俊輔。お前一体何が言いたい「…分からないんだ。」……んだ?」

俊輔は何とも言えない顔で申し訳なさそうにここにいる全員言った。





「だから……彼女たちの言ってる言葉が分からないんだ。」





「……は?」

……分かんない?

「「「「「な、なにぃぃいいいいい!?」」」」

びっくりしたのは今まで無口を通していた魔術師の皆さんも同じだった。





「まぁ、あいつも気の毒に…」

「本当にすいません。私たちのせいで…」

ファルナは目に涙を溜めながら俺に謝ってきた。

「いいって。あいつもそんなに怒ってないからさ。」

俺は出来るだけ優しく言った。

別に俺は怒ってないし。

「ほ、本当にですか?それにしてはシュンスケさんが怖い顔でこちらをじっと見ているのですが…」

え、と俊輔の方を見ると何か凄い目でこっちを見ていた。

……今日のあいつなら阿修羅くらい凌駕しそうだ。






あ、気づかれた。

まあ、いいや。このまま睨んでおこう。

僕はそうやって睨んでおきながら別のこと――僕がこの世界の言語を理解できない理由についてファルナさんが言っていた事(訳・孝司)を思い返していた。


――この世界には《絶対破壊不可能》と呼ばれている古代遺産アーティファクト・《セントラルキューブ》というのがあるらしい。

あらゆる知識を内包しておりそれを引き出すことの出来るものらしい。

でも現在はその知識を引き出すことができないのだとか。

ハッキリ言ってそれじゃ意味がないじゃないか。と思ったが実はまだ使い道があるらしい。

その内の一つが《異世界の言語を翻訳する》ことらしい。

なんでそんな機能が?と思ったがそれは解明されていないのだとか。

ちなみにこっちに来る時にソレに何か登録されるとか。


原理は簡単に言うとこうだ。


僕達が喋る。(伝わる)

 ↓↑

セントラルキューブがそれを翻訳する。

 ↓↑

この世界の人たちに喋る。(伝わる)


…なんて分かりやすいのだろう。

こんな風に教えてくれたファルナさんもそうだが、うまく伝えた孝司もすごいと思う。


…話を戻そう。

なんで孝司がこの世界の言語が分かるのかこれでハッキリした。

もしかして実は異世界の言語だって解るのかと思ったが、なんてことはない。

ただ得体の知れないものに翻訳してもらってるだけじゃないか。

また、《主人公補正》っぽいものに助けられてるんじゃないかと。

まあ、それはおいといて。

次が、本題。

――なんで僕には分からないのか。

これはよく分からないらしい。

一応、僕達を召喚した儀式のシステムについて教えてもらった。


異世界から《魔力保有量》なるものが高い人間を選んでこちらに召喚するらしい。

その際に先ほどのセントラルキューブに登録するらしい。

そして登録されたら召喚場所の空に転移するらしい。

らしい、らしいっていうのはもちろんそうらしいという事しか知らないからだ。

今回僕達は同時に召喚されたが、ここに転移したのは孝司が先だったらしい。

孝司が言うには、

『何か真っ暗な所に落ちた後、すっごく頭が痛くなってその後闇が晴れていって・・・・・・そしたら空中にいた。』とか。

うん、晴れていってないね。割れていったね。

ちなみに綺麗に着地したらしい。ちょっとムカツク。

まあ、僕の推測通りならきっとそれが原因だろう。

…ちなみに今、僕はここが異世界であると仮定している。

もともと話し合って判断するつもりはなかった。

あの孝司が信じているのだ。

……あいつはバカだけど人を見抜く力を持っている。

僕が孝司を《信用》している理由はそこにある。

…そう。《信用》だ。決して《信頼》ではない。

僕が彼女達と話をしたかったのは、孝司が《信頼》した人たちがどんな人たちかを見極めるためだ。

…ただ、僕にも《信頼》出来る人たちかどうかを。

そんな事を考えていたら――



――頭を小突かれた。






「痛。」

「いつまでお前は人のことを睨みつけてるんだ。」

睨んでいながら眼はどこか虚ろになっていた俊輔の頭を軽く小突いてやった。

きっとこいつの悪い癖――意識を別のことに向ける――だろう。

周りからみたら怖い顔してるんだからやめろ。って言ってるんだけどな。

だってそのせいで、

「ご、ごめんなさい!きっと私たちのせいです、ごめんなさいごめんなさい!」

「見ろ!お前が睨み続けているからファルナがずっと謝ってるじゃないか!」

凄まじいほどの土下座っぷりだった。しっかり頭つけてるし。

「う、うわ!ご、ごめんファルナさん。怖かったよね。怒ってないからもうやめて!」

「え、ほ、本当ですか!怒ってないですか?」

「え、ごめん。何言ってるか全然分かんない。」

…俺は、静かに感動していた。

――悪友よ。お前、彼女と一緒ならお笑いの頂点を目指せるんじゃないか…?

「…う、うううううう…」

気づけば俺は泣いていた。

「うん。とにかく分かんないけど僕は怒ってないから。……あれ、孝司何泣いてんの?」

「何でもない………何でもないんだ……」

「「?」」

「…ファルナ様。お取り込みの最中、申し訳ありません。そろそろ城へお二人を連れて行きませんと。」

感動的な空気をぶち壊したのは黒ローブを着た7、80歳くらいの爺さんだった。

「あ、はい。そうですね。そろそろ行きませんと。」

ファルナはこっちを見て言う。

「これから我が国の首都へとお二人をお連れしたいと思います。」

「なんだって?」

「これから首都へ移動するってさ。」

「それってどのくらい?」

「歩きで2、30分くらいかかります。馬車で行きますので15分くらいかと。」

「15分だってさ。」

分かった。と俊輔は頷く。

そこへまた新しい黒ローブがやってきた。

「ファルナ様。予備の《メモリーオーブ》を見つけました。多分この神殿最後の物です。」

「本当ですか!良かった…」

黒ローブが持ってきたのは手のひらサイズの水晶玉だった。

「ファルナ。そのメモリーオーブってのは?」

「セントラルキューブの端末です。これがあればセントラルキューブに登録できます。」

「本当か?おい、俊輔。お前にも分かるようになる「本当に!?」ああ。これを使えばな。」

俺はメモリーオーブを指差した。

「で、向こうに行ってから使うのか?」

「いえ。まだここには儀式に使った《マナ》があるのでこちらで行います。」

マナ?魔力みたいなもんか?

ファルナは黒ローブからオーブを受け取ると俊輔の前に立った。

「なにするの?」

「儀式です。大丈夫。すぐに済みますよ。」

「儀式だってさ。」

ファルナは深呼吸をしてから真面目な声で言った。

「…では、始めます。力を抜いて下さい。」

「力抜けって。」

「分かった。」

すう。と俊輔の体が浮かび、次にファルナの手からオーブが浮かぶ。

「おお…」

俊輔が驚いたように声を上げる。

「すげぇ…」

俺も釣られて声を上げる。

『世界に満ちしマナよ…我が願いを聞き入れたまえ…』

それはさっきまでの明るくてちょっと天然だった声とは違い、とても威厳に満ち溢れていてとっても優しい声だった。

『世界に満ちしマナよ…大いなる箱よりこの者にこの世界と語らう力を授けよ…』

すると、宙に浮かんでいたオーブが俊輔の体の周りを不規則に回っていく。

そしてオーブから見たことのない文字が現われて俊輔の体の覆っていく。

「綺麗だ…」

「ファルナ様はあの若さで我ら宮廷魔術師の頂点におられるお方。これくらいで驚いていたら後で腰を抜かしますぞ。」

「そ、そうなのか…」

呆然と俺はその光景を見ていた。

――儀式は終わりを迎えようとしていた。






すごい、と僕は思った。

――体が、浮いている!

それはこっちに飛ばされた時のような落ちていく感覚ではなくそっと誰かに体を持ち上げてもらってるような感覚。

人形のように糸で釣られているような感覚ではない。

僕は、ようやくここが異世界なんだと認識した。

『世界に満ちしマナよ…我が願いを聞き入れたまえ…』

声が、聞こえる。

この声はきっとファルナさんだろう。

なるほど。と思う。

(――とても綺麗で優しい声だ…)

孝司の言うとおりできっとこの人は優しい人なんだろう。

そこでふと思った。

今、どうしてファルナさんの言葉が分かるんだろう?

まあ、そんな事はどうでもいい。

後で移動中に聞こう…

『世界に満ちしマナよ…大いなる箱よりこの者にこの世界と語らう力を授けよ…』

二度目の詠唱が神殿に響き渡る。

僕の目の前に浮いていた水晶玉――メモリーオーブが僕の周りを不規則に、包み込むように動く。

そしてオーブから尾を引くように文字が出てくる。

現実ではありえない、幻想的な感覚。

しかし僕は、これが夢や幻でないことを知っている。

間違いなくこれは、現実なのだ――

『世界に満ちしマナよ…今ここに我が名、ファルナ・エートランドの名において命じる。』

三度目の、詠唱をファルナさんが唱える。

――僕にも儀式の終わりを感じる。

『…この者に、大いなる箱の恩恵を――――』

まずはちゃんと始めましてから始めよう。

そう決意した僕を――――――



『あたえ――きゃあ!』





――――重力はそんな僕を無慈悲に叩きつけた。




爆発音と―――――何かが勢いよく割れた音と共に。





僕の、希望・・と共に――――





第二話 言葉の通じない未踏の地で/翻訳者・陽山孝司でお送りします。 end

⇒next story 謎の声に導かれて――/僕と孝司と甲冑と、時々、狼?


はい。今回は孝司君の視点を交えながら俊輔君の危機について語りましたがいかがだったでしょうか?

さて、今回も皆さんのご意見・ご感想をお待ちしております。

アドバイスや、訂正のご指摘、ダメ出しでもかまいませんので

お待ちしております。

それでは。

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