第一章 第一話 おいでませ異世界/さようなら日常
最近友達が皆インフルエンザにかかっています。
皆さんもご健康にお気を付けください。
なお、この物語にはインフルエンザに対する物は一切含まれておりません。
さて、とりあえず自己紹介をしよう。
僕の名前は月神俊輔。何処にでもいるような物静かな高校二年生だ。
髪と眼は黒で158cmと同年代からしたら明らかに小柄だ。
ルックスはまあ、そう自慢できるほどではなかったと思う。
多分卒業後に大多数の奴が「ああ、いたねそんな奴。」と三十人中二十九人がそう言うだろう。
…ちなみに例外は孝司である。
生活は僕と祖父の二人暮らし。まあ、祖父ちゃんは何時の間にか「修行に行ってくる」とか何とかで現在行方不明中。
まあ、殺しても死なないだろうからその内ひょっこりと帰ってくるだろう。
両親は……昔ビルの中でテロに遭った時、僕と妹の佑香を庇って死んだ。
佑香も逃げる時に爆発に巻き込まれて僕の目の前で死んだ。
……あの時の事は今でも忘れられない。間違いなく僕の今までの人生の中でトップ3に入るトラウマだろう。
何せ夢に出てきて一人生き残った僕にありったけの呪詛を浴びせる。
それから僕はとても塞ぎ込んでしまった。
一人生き残ってしまった事にショックを受けたからだ。
最終的に僕が立ち直れる切っ掛けになってくれたのは、
孝司と、
祖父ちゃんと、
テロの主犯格を捕まえた特殊部隊の隊長さんと――
――あとはもうこの世にはいない《彼女》だった。
孝司は塞ぎ込んで何も喉を通らなかった僕を本気で殴って、蹴って、叩きつけて、無理矢理食事を食べさせてくれた。
……今思うとやりすぎだと思うが、あの頃の僕はそうでもしないときっと後を追って自殺していたかも知れない。
それを考えると孝司にはいくら感謝しても足りないだろう。
祖父ちゃんは僕に荒治療と称して自分が教えている古流武術を教えてくれた。
僕の運動神経がない為に基本中の基本である型しか教えてくれなかったけれど、あれで自信もついたのも確かだった。
隊長さんは僕の相談に乗ってくれたりしてくれた。
あの頃の僕は今の比ではないくらいネガティブ思考に陥っていたから、
あの人がいなかったらマトモな人間にはなってなかっただろう。
――もちろんそれは今と比べて、だけど。
そして彼女は僕に――
――やめよう。本題からずれている。
そう、何でこんな事をしているのかというと
ほらあれだ、正しく現実を認識するには正しく自分を認識することが大事でえーと、
つまり簡単に言うと、
「Gruuuuuuuuuuuuuuuuuuu――!」
「Gyaaaaaaaaaaaaaaaa――!」
「――、――――!」
「うわ!…おい見たか俊輔。あの鎧着た奴、手から炎出したぞ!すげー!」
「後ろ見て感心してないで、前見て走れバカ孝司!」
…現在僕は孝司に抱えられて狼?と鎧を着た兵士っぽい連中から全速力で絶賛逃亡中なのでした。
さて、何でこんな事になってしまったのか。
僕は孝司の体につかまったままここ数十分間の事を思い出してみる。
始まりは…そう。
間違いなくあれが始まりだろう。
そう、あれは20分くらい前―――
――僕達がこの世界に落ちてきたことから始まった。
「「え?」」
――その瞬間、目の前が真っ暗になった。
それと同時に感じる強烈な重力。
それを認識した瞬間、僕は何もない所で落ちたのだと理解した。
――何もない所で?ありえない。
僕達はマンホールのそばで話していた訳ではない。
大体そんなヘマを僕がともかく孝司がするとは思えない。
「一体何――うぁ、」
疑問の声を上げた僕の頭に突如として痛みが襲う。
頭でもぶつけたかと思ったがまだ僕は落下中だ。ありえない。
「グ、ガァァァァァァァァァッァァァッァァァ!」
今度は疑問を発することも無く痛みが襲う。
しかも一回だけではなく断続的に襲ってくる。
「い、痛い…頭が割れる…」
しかも痛みの間隔が短くなっている。
そう、この痛さを表わすならまるで
『知りもしない記憶を無理矢理押し込まれているような』感じ。
文化、歴史、事件、まるで旅行者が何処かへ行く時に事前にその場所を調べておくような…っ!
いきなり目の前の闇が、空間が歪んで―――
――不意に、世界が―――割れた。
次の瞬間、目の前に現れたのは高くそびえる石造りの壁……ではなく、床だった。
すぐに自分がどんな体勢でいるかを確認する。
床が壁に見えたということはそれはつまり正面に床があるということで、
「え、ってうわああああああ!」
――重力と共に僕はうつ伏せのまま落ちた。
足を床に向けようとして頭を向けてしまう。
それに気づいた時にはもう遅く――――
―――僕は頭から床に激突した。
「……ん、ううん……?」
「お、目が覚めたか。」
気がつくと孝司が僕のことを覗き込んでいた。
「……二、三十分くらい前に同じことがあったような…」
「そうか?」
僕は孝司に起こしてもらってその場に立ち上がる。
「…どれくらい気絶してた?」
「五分間くらいかな。頭から床に突き刺さっていた。」
「……よく生きているな、僕。」
そう言ってまだズキズキ痛む頭に触れてみる。
…うん、怪我はないみたいだ。
「…で、ここは何処なワケさ?」
僕は頭を押さえながら周りを見回してみる。
床は落ちる前に見た石造りの床で、周りには太い石の柱があってとにかく広かった。
まるでRPGの神殿みたいな所だと思った。
うん、だって周りにもなんか黒いローブ着た人とか白いローブ着た人とかいるし―――
―――ローブ?
「はい…?」
よく見るとなんか魔導師っぽい人たちがいる。
フード被っててよく顔は見えないけれど揃いも揃って共通していることは――
――なんか全員、困っているような感じだった。
「えーと…?」
「いいか俊輔。…落ち着いてよく聞いてくれ。」
何だ?こいつら?といった感じの僕に孝司が何かを伝えようとする。
「ここは何処なのかというお前の質問に対しての答えなんだが…」
いやいや、それどころじゃないだろう。
「ねえ、孝司。この人たちは一体「――異世界なんだ。」……は?」
……………………
………イマ、コノヤロウハナンテイッタ?
「だからな……」
やれやれ、といった感じで孝司はもう一度僕に言った。
「ここは――――――《異世界》なんだ。」
…………………はい?
「…………………はい?」
この瞬間、月神俊輔を歪みながらも支えた《日常》という名の柱は、
音もなく消え去った――――。
第一話 おいでませ異世界/さようなら日常 end
⇒next story 言葉の通じない未踏の地で/翻訳者・陽山孝司でお送りします。
さて、今回の話で主人公である俊輔君の人物像が皆さんに伝わったらいいなと思っています。
さて、毎度おなじみ(まだ3回目)お便りコーナー?
皆さんのご意見・ご感想をお待ちしております。
アドバイスや、訂正のご指摘、ダメ出しでもかまいませんので
お待ちしております。
あ、ここまでで一話ですよ?