表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/18

第四話:アンナに首を絞められる

 床に倒れた俺に馬乗りになって、首をアンナが絞めにかかった。

 目の前に片目で顔面傷だらけの女がいる。

 はっきり言って、怖い。

 ガストンやエミールが呆然と見ている。


「な、なんだよ。お前死にそうじゃなかったのかよ」

「うるさい! あんたがあの貴族を殺したんでしょ。たまたま散歩してたんだけど、あたし見てたのよ」

「な、何を見てたんだよ。つーか、息が苦しいぞ」


 俺はなんとかアンナの手を振りほどこうとするが、ますますアンナが絞めてくる。

「あんたらの前を馬が通った時、あの貴族をひきずり降ろして殺したんでしょ! それでなんか盗んだんでしょ! 何を盗んだのよ!」

「そんなことしてねーよ、って、く、苦しい」


 エミールがいつもと全然違うアンナにおどおどしながらも、例の件を喋ってしまった。

「あ、兄貴。や、やっぱりヴァロワ卿にあの貴族の落馬のこと、言ったほうが、よ、よかったんじゃない、と僕は思うんだ」

「だから言うなって、そのことを」


「なんだよ、やっぱりお前らが関係してたのかよ」

 ガストンが暴れるアンナを俺から引きはがしながらも、少しあきれた顔で俺たちに言った。


 弟の馬鹿たれが。

 仕方なく俺は事の顛末をガストンやアンナに話すことにした。

「村道で俺たちの前を通るときに馬が急に立ち上がったんだよ。それであの貴族が落馬して頭を石に打って死んだんだ。そんだけだよ。これは事故だよ」

「なんで馬が急に立ち上がったんだ」

「知らないよ。蜂かなんかに刺されでもしたんだろ」

 さすがに弟が屁をこいたのが原因ってことは言わなかった。

 馬鹿馬鹿しい話なので。


 そして、俺はアンナに尋ねた。

「なんでお前、あの貴族が死んだことを知ってるんだよ」

「あたしは木の陰に隠れていたんだけど、あんたらが逃げた後に近づいたらあの貴族の息子、フランソワが死んでるじゃない。あたし、驚いて走って逃げたんだけど、その場に髪飾りを落としちゃったのよ。それがフランソワの死体と一緒に水溜まりに流れて行って、どうもそれがあたしの家族が使っていたもんだとわかったらしいの。綺麗な彫刻がしてあるから。それで傭兵だか何だか知らないけど兵士たちが村にやってきて因縁つけて焼き討ちよ」

「じゃあ、村が焼き討ちに遭ったのはお前が髪飾りを落としたのが原因じゃないか」

「う、うるさい。それにあんた悔しくないの」

「悔しいって?」

「ジャンヌねえちゃんのこと、好きだったんでしょ」

「え、いや、そんなことはないよ」


 急にアンナが笑い出した。

「ウヒャヒャ! なにウソついてんのよ。普段の態度見ればわかるわよ。村に来てはやたらねえちゃんの方に近寄ってどうでもいいこと話してたじゃないの。ごまかすな! ねえちゃんはあいつらに乱暴されたうえに、殺されたのよ。復讐しろ、復讐!」

「そんなこと言ったって、相手は傭兵だろ。俺じゃあ、かなわないよ」

「あんたは弓が得意じゃないの」

「相手は傭兵だよ。イノシシやウサギが相手じゃないぞ」

「なんだと、この意気地なし野郎!」

 またアンナが俺の首を絞めにかかる。


「あんたなんて大嫌いだ! 嫌い! 嫌い! 嫌い! 大嫌い! あんたのせいで家族が殺されたんだ」

「お、落ち着け、アンナ」

 それにしても、こいつ片目を失ったばっかりだってのに元気だな。おまけにヘラヘラ笑ったりもするし。口調も普段と違ってものすごく乱暴だ。あまりにもひどい目に遭ったので頭がいかれたのか。


 ガストンが間に入った。再びなんとかアンナを俺から引きはがし、彼女を諭す。

「無理な事言うなよ。俺も農民とかが傭兵には勝てないと思うぞ」

「じゃあ、どうすんのよ」

 傷だらけの顔を向けて不満げな表情をアンナがする。


「領主、と言うか今は元領主か。とにかく、別荘に滞在しているヴァロワ卿に頼むしかないな。さっきも言ったけどこれは傭兵たちの暴走だと思う。フランソワ様が死んだ原因は落馬だってことを正直に報告しよう。そしてヴァロワ卿に討伐隊を出してもらって、その傭兵たちを退治してもらえばいい。もしかしたら、村が被害に遭ったってことで、いくばくかの慰謝料も貰えるかもしれない。まあ、それで我慢するしかないな。面倒事には関わりたくはないが聞いてしまった以上、仕方がない。お前らに付き合うよ」


 ガストンが小屋を出ていく。持ってきた斧を小屋の中に置いたままだ。

「おい、ガストン。斧を持って行かなくていいのか」

「斧とか持って行って貴族を刺激したらまずいだろ、武器になるからな」

「うーん、そうかもしれないな」


 俺も柄にしゃれた彫刻の入った愛用の狩猟用ナイフをテーブルに置いて、ガストンに続いた。エミールも連れていくことにした。こいつも一応、落馬の目撃証人だからな。


 俺はガストンには聞こえないようにエミールに小声で言った。

「おい、エミール。ヴァロワ卿の前ではオナラの件は言うなよ」

「うん、わかった。で、なんで言ってはいけないのか、と僕は思うんだ」


 こいつ全然わかってないじゃないか。

「お前が屁をこいたせいで死んだってことになるかもしれないだろ。つーか、実際のところそれが原因だよ。とにかく単なる落馬ってことで押し通すんだ」

「うん、わかったよ」


 そう言うわけで俺たちは領主の別荘へ向かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ