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第十一話:軍隊が攻めてくる

 傭兵たちをなぶり殺しにして、復讐を果たしすっかり機嫌がいいアンナ。

 次は貴族たちを襲撃するようだ。


 一旦、ヴァロワ卿の別荘に戻ると近くの村などの農民たちに兵士として参加するよう使いを出した。

 しかし、反応がよろしくない。


 ドゥジエム村からは五十名ほど参加してきたが、他の村からは二十名ほどだ。住んでた村で食い詰めたような人たちばかりでどうも冴えない。プレミエール村の三十名と併せてやっと百名くらいだ。


 こんな農民がいくら集まっても役に立たないんじゃないかと俺はアンナに聞いた。

「おい、アンナ。この冴えない百名でいったいなにをするんだよ」

「ヴァロワ城を攻撃! 落としたら首都を攻撃! 貴族を皆殺し! 税金無しの農民の国を作る!」

「そんなこと出来るわけないだろ、本当にお前あたまがおかしいぞ」

「うるさい! やるっていったらやるの。今日はもう寝るわ」


 もう逃げ出そうと思ったが、アンナたちに追いかけられて殺されるのはいやだ。

 仕方なく、別荘に居残ることになった。

 アンナはヴァロワ卿が使っていた豪華なベッドで寝てやがる。


 俺とエミールは地下の倉庫で寝ることにした。

 エミールがデカすぎて普通の部屋だと窮屈だ。

 ガストンもその隣の部屋、使用人が使っていた狭い部屋で寝ることにしたようだ。

 

 さて、いまいち農民たちの反応が鈍いのにイライラし始めたアンナ。

 意味もなくエミールを呼び出してはいきなりぶん殴ったり蹴りを入れたりしている。

 狂人だな。


 そんなところへ偵察に出していた農民から報告が来た。

「貴族の軍隊がやってきた。ヴァロワ軍だ」

「どれくらい」

「五百人くらいだ。騎士が五十人。後は歩兵二百人、それから弓矢を持っているのが百人くらい。その他、武器を運んだり食料とか運んでいるような連中が百五十人くらいいたよ」


 俺たち農民軍の五倍かよ。

「もう逃げたほうがいいんじゃないのか」

「逃げないわよ」

 俺が意見してもあくまで強気のアンナ。


 その偵察してきた農民が他にもヴァロワ軍の情報を教えてくれた。

「連中は梯子をいくつか持ってきた。あと、わからないものがあった。変な形をした、木で作った妙な機械で大きい籠に長い棒がついているものを持って来てたぞ。それから、でっかい移動式の塔。あとは、大きな丸太を釣っている箱型の物体とか」


「そりゃ、多分、最初のは投石器じゃないかな。後は攻城塔に破城槌だろ」

 ガストンが教えてくれた。


「城の門を崩すときや壁を越えるときに使うんだ。この別荘は元は城だったようなんで一応持ってきたんじゃないかな。しかし、そんなものこの別荘を落とすのに必要ないと思うけどなあ」


「ガストン!」

 突然、アンナが怖い顔でガストンに近づく。


「な、なんだよ」

 ちょっとビビるガストン。


「戦争ってどうやんの」

「え? お前、これは戦争だ、戦争、戦争って叫んでなかったか」

「本物の戦争に参加したことはないわよ」

「俺だって下っ端でウロウロしてただけだよ。そんなに詳しくない」

「でも、参加したんでしょ。なんか例として教えてよ」

「うーん、そうだなあ。平地で戦うとしたら、まず弓兵が矢を打ち合う。その後、歩兵同士が戦って、頃合いを見計らって鎧を着た騎士たちが馬に乗って突撃して敵軍を蹴散らすってのが普通かな」


「よし、とりあえず弓兵ね。あんたやりなさい」

 俺に向かってアンナが言った。

「俺一人で何が出来るって言うんだよ」

「一人でやれとは言ってないわよ。五本くらい弓矢があったわ。それを農民たちに渡して使い方を教えてやってよ」

「五人じゃどうしようもないだろ」

「なせばなるわよ」

「何考えてんだ、お前は。ふざけんな!」

「なによ、この意気地なし男!」

「なんだとー! この狂人女」


 また俺とアンナが喧嘩になりそうなんで、ガストンが間に入る。

「まあ、落ち着けよ。どう考えても普通に戦って勝てるわけないだろ」

「じゃあ、どうすんのよ」

「いま無い知恵を絞って考えてんだ……そうだなあ、多分、騎士たちは俺たち農民をなめ切っていると思う。だから、弓兵や一般兵士より先に、いきなり騎士たちが先頭で突撃してくる可能性がある。後、投石器とか持ってきているがそんなものこの別荘を制圧するのに必要ない。けど、わざわざ持ってきたってことは敵の軍隊にこの別荘周辺についての情報が行き渡ってないんじゃないかなあ」


 ガストンがアンナを促して、窓から別荘前の平地を指差した。

「一旦、あの草原に出撃しよう。敵もあの草原に陣をひくと思う。いろいろと武器を持ってきたりしたなら平地で準備するしかないと思う。そこで戦うことになるだろう。但し、騎士たちが馬で突撃してきたらすぐにこの別荘まで撤退だ」

「それで、どうすんのよ」


「別荘の前に長くて狭い坂道があるだろ。両側は崖になっているから上の方にあらかじめ丸太や岩とかを仕掛けておくんだ。多分、連中にはこんなだらだらと長い坂があるって情報が伝わってないんじゃないかな。急な坂道なんで馬が走る速度も落ちるだろう。騎士たちが突入してきたら丸太や岩を落とす。多分、当たったら落馬するだろう。そこを皆で襲う。鎧は重たいから動きが鈍くなるからな」

「いい作戦じゃない。それでいきましょう!」


「おっと、その場で死んだ騎士は仕方がないが、出来れば生け捕りにしたい」

「なんでよ」

「騎士を捕まえると捕虜にして身代金と交換するのが普通なんだ。だが、今回の場合は和平交渉に利用したい」

「あたしらは貴族たちを皆殺しにするって言ったじゃないの。忘れたの、ガストン」

「お前、本当にそれが出来ると思ってるのか。戦争ってのはやめる時のことも考えとくもんだぞ。傭兵たちにひどい復讐をしただろ。それで満足しろ」

 しかし、アンナは不満気な顔をしている。


「まあ、いいわ。とにかく罠作りが優先よ」

 さっそくアンナの指示で農民たちが仕掛けを作ることになった。

 崖の上部に目立たないよう丸太や岩を縄で縛り付けておく。

 騎士たちが坂道を上がってきたら、縄を切って落とすことにした。


 急な作業なんでたいしたものは作れなかった。

 俺は心配になった。

「ガストン、これでうまくいかなかったらどうなるんだ。騎士たち全員を倒せるのか」

「無理かもな」

「敵が騎士だけでなく全軍で攻めてきたらどうすんだよ」

「皆殺しにされて終わりさ」


 エミールがまた怯えている。

「し、死にたくないですよ、と僕は思うんだ」


「まあ、うまくいかなかったらとりあえず逃げるしかないだろう。いずれは捕まるだろうけどな。それで処刑されて終わりさ」


 ガストンはいつものように無表情で言った。

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