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オタクはオタクですが

私は来栖理沙。

数学好きの16歳。

家から十五分くらいの所にある喫茶店でイケメンさんと向かい合っている。

私と目を合わせようとしないイケメンさん。

正直、凄く気まずいです。

レンズ越しに彼の表情を覗き見る。

彼の名前は立仙湊。

私の義兄になる予定の人です。

私は彼から目を逸らし、カフェラテのカップに口をつける。


えーと?


何がどうなってこんな事に?


混乱しながらも私は事の発端を思い返す。



「ねぇねぇ、りーちゃん?」

自室で辞典と論文を机に広げ調べながら読んでいると、お母さんが部屋に入ってくる。

「何、お母さん?」

私は付箋を挟んで辞典を閉じ、お母さんを振り返る。

「あの、えぇとね、私……」

少し恥ずかしそうに、言いづらそうにそう切り出し、そのまま続きを発さないお母さんに私は痺れを切らし、私は言った。

「再婚でも決まりました?」

お母さんは驚いた顔をして固まる。

「いいんじゃないでしょうか?

お母さん、最近は働きっぱなしであんまり休めてないですよね?

心の休息は必要ですよ。

わたしは別に反対しませんよ。

というか反対する意味なんてないですし。」

そう言うとお母さんは泣き出してしまった。

そして泣きながら笑って何度もありがとう、と繰り返していた。



そしてその三日後。

近所の喫茶店で再婚相手とその息子さんと会うことになった。

再婚相手の人の名前は立仙疾風さん。

疾風さんはお母さんと同い年らしい。

そしてその息子さんは立仙湊さん。

彼は私より1つ年上らしい。

そして驚いた事に、同じ高校に通っているらしい。



___いや、知ってたんですけどね。

私、その名前を聞いたとき、思わず放心してしまいました。

学校の王子とも呼ばれる立仙湊さん。彼ほどこの学校で有名な三年生は居ないだろう。

有名人と兄妹になるんですか…。

少しの不安を隠すようにカフェラテを飲みながら二人を待っていると。

「すいません、待たせてしまいました。」

そう言い、二人の男性が近寄ってくる。

_この二人が、私の新しい家族になる人たち。

よくよく見てみれば、後ろにいた湊さん(と思わしき人)

の顔にはシワが寄っている。

何でしょう?

再婚に反対しているのでしょうか?

「いえいえ、大丈夫です。」

「失礼しますね。

…君が麻里奈さんの娘さんの理沙ちゃんかい?

これから宜しくね。」

「はい。始めまして、疾風さん。よろしくおねがいします。」

「こっちは息子の湊。」

「よろしくお願いしますね、湊さん。」

苦手意識を見せないように心がけつつ挨拶をしたが、無視されてしまった。

_もしかして、嫌われてる、とか?

いやいやいや、初対面の人に嫌われる程悪い所は流石にないはずです。

何なんでしょうね…?

そう考えている間も話は着々と進み、再婚の予定が決まった。

「それじゃあ再婚したら私達の家に住むんですか?

それとも私達がそちらに?」

少しばかり気になっていた事を聞いてみる。

「あぁ、それに関しては、新居を構えようと思っているんだ。

…と、失礼。」

疾風さんのスマホに電話がかかってきた。

疾風さんは外に出て、少し電話をして帰ってきた。

顔が暗いような?

なにを言われたんでしょうか?

「どうしたんですか?」

お母さんが話しかける。

疾風さんはすまなそうに言う。

「すみませんが、仕事が入ってしまいまして…一ヶ月後に海外へ行くことになりました…。」

お母さんは驚き、固まっている。


お母さん……。


「……そう、ですか…。」

小さい声でそう呟くお母さん。

「お母さん、耳貸してください。……お母さんは疾風さんについていきたいんですよね?なら、一緒に行ってください。私達のことは大丈夫です。」

私がそう耳打ちすると、お母さんは驚いた顔をこちらに向ける。

そして、暫く私を見つめ、疾風さんに向かって言った。

「…疾風さん。私、着いて行ってもいいでしょうか?」

それに対し、疾風さんは驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になって返事をする。

「えぇ、ありがとうございます。…それじゃあ二人はどうする?」

「私は残ります。学校がありますから。」

「……俺も。」

「あなた達だけで大丈夫?」

私達の言葉に心配そうに聞くお母さん。

「大丈夫ですよ。お母さんが忙しくて家に居られないときの家事は私がしていた訳ですし。」

「それじゃあ、任せようかな。」

「えぇ…。ところで、あの。……その場合、私と湊さんってどこに住むんですか?」

なんとなく答えがわかっていた事を

思い切って聞いてみると、

「二人には新しく建てる予定の新居で暮らしてもらう予定だったけど。」

そう平然という疾風さん。

……分かってました。

分かってたんですが、まぁ、やはりというか何というか。

当たり前っちゃ当たり前なんですけどね。


大丈夫でしょうか…?


微かに不安がよぎる。

……仕方ない、不安になっていても何も変わりません。

せめて、不安を感じ取られないようにしましょう。

「……そういえば、二人は行くところがあると聞いていたのですが。」

私がそう問いかけるとお母さんは時計を見て目を瞠る。

「あら、もうこんな時間。疾風さん、もうそろそろ行かなきゃまずいんじゃないかしら?」

「あ、本当だ…二人共、ここで待っててくれるかい?」

「はい、行ってらっしゃい。」

私は笑顔で二人を見送る。

二人は少し慌ただしく出ていった。

そして二人の姿が見えなくなると、私は正面に向き直る。

その時、自分が湊さんに睨まれていたことに気付く。

……な、何故でしょう?

何故か分からずただ混乱してしまう。

混乱して彼を見ていると、視線をそらされた。

は、はあ。

何が何だったのでしょう?

私はカフェラテのカップに手を伸ばしハンドルを持つ。

カフェラテの液面を見つめる。

正直、とても気まずいです。

どうしましょう、この空気……。

途切れた会話に私の顔も引きつる。

何を話すべきなんでしょうか……。


…何も思い付かない……どうしましょう…。


「あ。」

気になっていて聞けていなかったことあったんでした。

私は一口カフェラテを飲み、顔を上げる。

「あのぉ。……私、なにかしましたっけ…?」

何故睨まれていたのか、何故目を合わさないのか。

不思議でしょうがなかったこと。

気になってはいたものの、聞きづらかった事だ。

……というか聞きやすいという人はおかしいのでは?

「………」

なんだか黙ったまま、微妙な顔をしている。

……自分で推理するしか無いようです。

「……はぁ。

…私と会ったのは今が初めてなので、噂話関連ですか。」

私がそう言うと、一瞬驚いたような顔をする。

当たりですか。

「噂……私に関する噂、オタクだっていう話ぐらいしか無かった気が…。」

顔が明らかに引きつっている。

……案外この人、顔に出やすい人のようです。

「…もしかして、オタクが嫌いなんですか?」

「……嫌い、というか…。」

渋い顔でそう言う湊さん。

いや、これは嫌いと言うよりかは、

「……なる程、オタクが苦手なんですか。」

「ウッ」

痛い所を突かれた、というように顔を歪める湊さん。

「何があったんですか?いや、言いたくないんならいいんですけど。」

そう言うと、湊さんは苦々しく呟いた。

「……前、10ぐらいのときにストーカーされたんだよ…」

「な、なる程……それはアニオタとかドルオタあたりですね、確かにやらかしそうです。」

推しに似てる人がいると、とぼそっと呟く。

気まずい沈黙が流れる。

「ま、まぁ、安心してください。

私、オタクはオタクでも、数学オタクなんで。」

「…す、数学オタク……?」

不思議そうに聞かれる。

まあいつもの事なんですけど。

「はい。好きなのはオイラーの等式やイプシロンデルタ論法とイプシロンエヌ論法、多変数関数の極値判定とヘッセ行列に複素指数関数とオイラーの公式、e^xのマクローリン展開、三角関数との関係、ロルの定理、平均値の定理とその証明テイラーの定理の例と証明、偏微分の順序交換の十分条件とその証明、二変数関数のテイラー展開の意味と具体例、楕円の周の長さの求め方と近似公式、ガンマ関数(階乗の一般化)の定義と性質、n次元超球の体積の求め方と考察、多変数のガウス積分、関数の連続性と一様連続性、x^3/e^x-1の定積分、フレネル積分、C1級関数,Cn級関数、ディリクレ関数、フーリエ級数展開の公式と意味、複素数型のフーリエ級数展開とその導出、ヤコビ行列、ヤコビアンの定義と極座標の例連鎖律勾配ベクトル、スカラー三重積とベクトル三重積、コーシーリーマンの関係式と微分可能性、接平面の方程式の求め方、線形補間の計算式と近似誤差。

円周率も1万桁まで言えますよ。

3.14159265358979323846264338327950288…」

「もういいもういい。わかったから。」

そう言って途中でさえぎる湊さん。

あら、もう納得したんですか。

何やら頭を抱えているようですが、気にしない事にしましょう。

「まぁ、そんなことはどうでも良くて。

私は別に貴方に嫌われていようが、最低限の生活ができれば何でもいいんです。あ、あと数学の論文読む時間されあれば。」

それに、と口に漏らしてしまったが、その続きが言葉にならない。

思わず下を向いてしまう。

私が押し黙っていると、正面からため息が漏れる。

「…はぁ。……無駄に警戒して悪かった。お前は大丈夫そうだな。」

「えぇ、過去のトラウマの中のオタクさんとは

違って特別あなたに興味はありませんし。」

「おい、サラッと毒吐いてんのに気づいてるか?」

へ?なんの事でしょうか?

私が首を傾げると彼は深くため息をつく。

天然かよ……と呟いたのが微かに聞こえた。

何が?

やっぱり分からない。

どういう意味でしょう?

「分かんないんならいい。」

「そ、そうですか。

なら、これからの事について考えましょう。

いきなり知らない人が家族になる、なんて言われて納得できないでしょうから、私のことは友人ぐらいに思っていただければ。取り敢えず家事の分担とかその他諸々決めましょう。」

「あぁ。」

喫茶店のマスターが開けた窓から風が入り込む。

微かに口元が緩むのが分かった。

新たな日常が待ちどおしくなってきました。


 数日後

「……ここが、新居。」

私は目の前の豪邸を見上げながら呟く。

ここが私達の家になるんですか。

楽しみです。

「ああ、新築という訳ではないけれど、綺麗だよ。

汚れも痛みもない。」

「それはいいですね!何なら新築よりこっちのほうが好きです。」

「良かった。家を気に入ってもらえて嬉しいよ。」

「実用第一だな。」

「勿論。見栄えを気にするぐらいなら実用性を求めます。

それにこの建物、しっかりと数学を使われていますし!」

テンション高々に言うと湊さんは呆れたような表情になる。

ちょ、その顔はひどいですって。

「荷物は運んでもらったから。」

「はい、あ、案内お願いします。」

「勿論。」

そう言って疾風さんは案内してくれた。

やっぱり実用的で素敵な家だった。

そして引っ越した二日後、二人は婚姻届を出し結婚。

更にその二週間後、二人は海外へ出張に行った。

そして二人がいなくなって四日後。

私が学校で階段から足を滑らせて落ちた。

保健室の先生が

「保護者に連絡しなくちゃ」と言ってお母さんには連絡したけど、来ることができなくてオロオロしていた。

そこで私は湊さんが義兄である事を伝えると、先生は驚きながらも湊さんを呼び出した。湊さんは何故呼ばれたのかわからないようだったが、私を見て驚いた顔をする。

そして心配そうに聞いてきた。

「大丈夫か?」

「見っともない所お見せしてしまいすみません。階段から落ちてしまいまして。痛みはあんまり無いんですが、足の骨が折れてるかと。」

「!…病院に行って確認してもらえ必要があるな…。」

「えぇ、私の車に乗せて連れてくるからついてきて。

取り敢えず荷物持ってきてもらわなくちゃ。」

そう言って側にあった黄みがかった受話器を取り、番号を打ち込みはじめた。

湊さんは心配そうにこちらを見つめる。

優しいんですね、会ってからあまり経っていない私なんかの心配をしてくれるなんて。

「…ありがとうございます。」

私は誰にも聴こえないぐらい小さな声で呟いた。

「ん?なにか言ったか?」

「いいえ、何にも。」

「そうか?」

湊さんに聞き返され、笑顔で答える。

「…なんと言いますか……。申し訳ないですね。無駄に心配を増やしてしまって。それに私がやっていた家事も出来なくなってしまいましたし。」

「…無駄に増やしてる訳じないだろ。まぁ、問題は家事なんだよな…。俺料理できねーぞ……。」

二人して頭を抱える。

と、そこで受話器を戻した先生が、

こちらを振り返り、松葉杖を差し出しながら言った。

「呼んだから、まずは来栖さんを車まで連れていきましょう。

湊さんは自分の荷物を取りに行っておいて。」

「分かりました。」

「お願いします。」

私はそう言って差し出された松葉杖を受け取り、先生の支えを借りながら立ち上がる。

「それじゃあついてきて。」

「はい。」

先生に支えられつつ車まで辿り着き、後部座席に座る。

「ありがとうございます。」

「うん、じゃあちょっと待ってて。」

「はい。」

私が返事すると先生は扉を閉め、保健室に戻っていった。その後ろ姿をボンヤリと眺める。最近、私の周りには優しい人が多いようです。嬉しいことですね。

でも、今回の怪我の原因は。

私は口をつぐむ。

思い出したくない、嫌な思い出を思い出す。

……あの人達には、悟られないようにしなくては。

大丈夫、大丈夫。

お母さんにも気付かれなかったし、友達にも気付かれなかった。

少し、人数が増えただけ。

大丈夫。

無駄な心配は、かけられません。

私はセーラー服を握りしめる。

…そろそろ戻ってくる頃でしょうか。

私はセーラー服を離し、軽く整え外を見る。

ちょうど二人がやって来ているのが見えた。

こんなぴったりな事あります…?

驚きながら二人を待つ。

二人が車に乗ってくる。

「よし、じゃあ行きましょう。」

運転席に座る先生がエンジンを掛け、後部座席の私達に声をかける。

「「はい。」」

先生が車を発進させ、病院へと向かった。

駄作ですいません!!

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