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細工師、龍を生む

更新が大変後れてしまい申し訳ございませんでした。

遅れました部分は纏めて投稿する予定でございます。

彫像が放った凄まじい光が次第に収まるのを、顔の前にかざした腕越しに感じる。


「……ったく、どうなって……え?」

『おお~……大成功ですねぇ……』


俺の眼前には、蒼く輝く龍の彫像ではなく。



「……種族を神獣の一角・ホワイトドラゴン、名をフィルファーベル。この現世(うつしよ)に馳せ参じました、我が主様」



…………空が暗く染まり始め、辺りが次第に黒くなっていく中でも目を引くような、雪よりも真っ白な色をした綺麗な髪の毛と、神話にでも出てくる聖騎士のような鎧を纏った、麗しい女の子が立っていた。


「主、様……?」

「はい、主様」


天使様、いきなり女の子連れてくことになったんですけど良いんでしょうか。それも捻れた龍の角付きで腰に鞘に収まってるのに気迫が出てる長剣持ってる子。


◇◇◇


『これで生命が生まれましたよぉ……良かったですねぇ……』

「良かったんですかね……俺の持ち金、そこまで無いんですけど……」

「ご安心ください主様、私は主様の任意の時分に元の彫像に姿を変えることが可能です。ですから安心して野宿なさって下さいませ」


……まともなところに泊まる事を提案してはくれないんだな。


「えーっと……フィ…」

「フィルファーベル、です。主様」

「フィルファーベル、ねぇ……」


どこかで聞いた気がする名前だ……なんてふと思う。

この子とは初対面だし、当然面識なぞあるはずもないというのに……何故だ?どこで聞いたんだ?


『もしかしてぇ……聞き覚えのある名前だなぁ、とか……思ってたりしますかぁ……?』


相も変わらず、こちらの心境をピタリと言い当てる。本当、

……こういう部分の洞察力は凄いんだよなあ、この天使様。


「ええ、まあ……でも思い出せなくて」

『だったら無意識の想像かもしれませんねぇ……リノアさんが小さい頃に読んでたお話、覚えてませんかぁ……?』


小さい頃に読んでた……えーっと、童話っていうんだろうか絵本っていうんだろうか。

守護騎士が強い白の龍と共に故郷を護り、怨敵の国を倒す。

勧善懲悪をベースにした、いかにも子供の読み物らしい物だった。

そして、その白い龍の名前は。


「……フィルファーベル……!」

『はいぃ……この力によって生み出される生命は、多かれ少なかれリノアさんが思い浮かべたイメージによって形成されますぅ……リノアさんが無意識的にでも思い浮かべた「ドラゴン」が、絵本に出てくるフィルファーベルだったんですぅ……』


そういうカラクリがあった訳か……なるほど、初対面のはずなのに知っているような気がしたのはそのせいか。


「主様……お忘れに……?」

「あっ、あぁいや、そんなつもりじゃ……」

「あんなに私の読み物がお好きでしたのに……しくしく」

「いや鳴き声を声に出して言うなよ……」

『仲良くやっていけそうでなによりですぅ……というか、基本的にはリノアさんに絶対服従なので当然と言えば当然なんですけどねぇ……』


絶対服従、か……まあ、自分の為に働いてもらうって考えるとそれが一番いいのかもしれない。


「そういえばフィルファーベル……ベルって強いんですか?」

『そりゃあ強いですよぅ……リノアさんが胸ずぼぉされて崖下にぽーいってされたあの魔人族も、フィルファーベルさんなら剣の一振りで半殺し、もしくは全殺しできますよぉ……なんたって神代の細工師が創り出した生命ですからぁ……』


全殺しってなんだよ、初めから仕留められるって言えよ。

だが、何はともあれベルの強さが天使様の折り紙付きだってことはよくわかった。

……ついでにこの天使様の俺に対する評価も。何だ胸ずぼぉって。されたけど。


「ご安心ください主様、この不肖フィルファーベルがいるからには二度と主様を胸ずぼぉの状態になどさせませんので」

「ベルまで言わなくていいんだよ……」


目麗しく、スタイルが良く、何より強く忠誠心ある白龍

……なんというか、いい所取りのような気がしてしまう。


「……なら、もっと多くの彫像を造れば、ベルみたいな配下を量産できる……?」


何だ、思っていた以上にとんでもない天命(ギフト)じゃないか。これならすぐにでも大軍勢を組織して魔王軍を掃討──


『あのぅ……出来なくはないですが難しいかとぉ……』


──そう上手く行きませんよねわかってましたよはい。


「え、どうしてですか?彫像を作って詠唱を施せば生命が生まれるんじゃ……?」

『そのぅ……生み出された方々の強さは、彫像、ないし装飾品なんかの素材で左右されるのですぅ……』

「そのようでございます、主様」


ベルも首肯する。


「えっ……と、つまり……?」

『ベルさんは高純度の真鉱石が素材になっておりますのでぇ……素材が良いのと、リノアさんが思い描いた強さに上手く当てはまってくれましたけどぉ……例えばその辺の石っころとかだったらぁ……スライムにも苦戦しますぅ……』


……つまるところ。


「そう簡単には、強い奴は造れねぇってことな……」

「そういうことです」

『はいぃ……まあ、逆に考えればぁ……純度の高い真鉱石とかぁ……魔水晶ならぁ、リノアさんが想像した通りの配下を創り出せるのでぇ……ふぁいおー、ですぅ……』


ふぁいおーなんて言われちゃってもどうしようもありませんよ、天使様。


 ◇◇◇


『一通り説明もしましたのでぇ……僕はこれにて引き取りますねぇ……』

「あ、はい。ありがとうございました、何から何まで」

『大丈夫ですぅ……僕の責任問題になっちゃいますしぃ……』


天使様、大分欲が見えてます。


『それではぁ……実り良い人生をぉ……』

そう言うと、ぱたりと声は止んだ。


「何はともあれ……ありがとうございました、天使様」

「ありがとうございました……」


片膝を着き、頭を垂れるベル。

可愛らしいのは元より、そこになんとも言えない格好良さを確かに感じた。


 ◇◇◇


天使様が去って数刻。

日はすっかりと落ちて、暗い闇が辺りを包んでいる。携帯用のランプに火を灯して、道を照らして進む。


「主様、これよりどちらへ向かいましょうか」

「どこ、か……」


そう問われて、思わず足が止まってしまう。

どこに行こうか。

カロウルの街を出て、早半日。

がむしゃらに単身で動き、かなり街から離れてしまった。

カロウルに居た頃は、魔王軍の元に行く方が近かったのだが……この分だとミュルダーの王都に戻る方が近そうだ。そしてここは……


「……ネアズの街の近くか」


ネアズはそこそこの辺境だが、一応はミュルダー王国領だ。

一先ずはネアズに行って一泊しよう。幸いにも、路銀は少しなら余裕がある。それなりにいい所に泊まれるはずだ。


「目的地はミュルダー王都・ハーネットだが……ネアズの街まで行こう。少し早いかもしれないが、今日はどっと疲れた気分だからな。早めに休もうか」

「仰せのままに」


……なんだか、落ち着かない。そもそも人の下につく事があっても、人の上についた事はない。


「……なあ、ベル」

「なんでしょうか、主様」

「なんというかこう……もう少しこう、そのよそよそしい感じ……どうにか解してくれないかな」

「できません」


即答でしたありがとうございます。


「それまたどうしてだよ」

「リノア様……主様は、私をこの現世に生み出したもうた御方。言わば神にも等しい私にとってこの上なく大切な方です。それをどうして軽く接せられましょうか」

「……俺にそこまで思ってるの?」

「当然でございますが」


……なんと言えばいいか分からないけど、彼女が良いならそれで良いだろう。そう片付けることとした。


 ◇◇◇


ネアズの街に着いたのは、実に一時間と少し後。

小さいながらも夜市が活気づいているのを見ると、少し心が洗われるようだ。

ここでゆっくり買い物でもしたいところだが……先に宿だ。


「えっと、二人分払えそうなところは……」


道に立って、きょろきょろと街並みを見回す。

出来れば良いところに泊まるのが贅沢ながらに希望だが……ベルが居ることを思うと、もう少しリーズナブルな所にした方がいいだろう。


「いえ主様、一人分で大丈夫です」


……と思っていたら予想外の答えが飛んできた。

天使様、斜め前からの亜光速の矢はやめてください。


「え?……でもベルが」

「お忘れですか?私は任意の時分で元の彫像に変われます……つまり、主様が寝ている間、私はそこいらのテーブルにでも置いておかれれば満足でございます。ひとつだけ注文をつけるならば、倒して置くのはやめてくださいませ。ちゃんと飾るように置いて下さい」


こちらが少し仰け反ってしまうくらいに(まく)し立てるベル。


「いやいや、そうもいかないだろう」

「何故ですか」

「ベルにも疲れをとって欲しいんだよ、俺は」

「一時間と数刻歩き通した位で泣き言は言っていられません。寧ろ休みはいらないくらいです」

「いや、でも……」

「ではこうしましょう、主様はベッドが二つの部屋を一人分の宿代でお借りになってください。部屋に着いたら私が彫像からこの姿に戻りますので」


それはやっていい事なのか……という考えが頭をよぎるが、ここで首を縦に振らなければ、恐らくベルが納得することは無いだろう。


「…………わかった、そうするよ」

「わかりました、では……私へのお心遣いに感謝致します、主様」


深深と頭を下げるベル。

忠誠心は強いけど……それ故の頑固さ、というのだろうか……。


 ◇◇◇


宿代を払って、軽い夕飯を摂ろうと街へ出る。先程見た夜市が目に鮮やかで、非常に賑やかしい様子だ。

ベルは「流石に鎧を着たままだと目立つから、服とか変えられたりしない?」とダメもとで言ってみたところ、一瞬で冒険者装束に切り替わった。

便利だなあ……神獣って。


ちなみに、夕飯にはベルきってのご所望で揚げたホリル鳥を使ったサンドイッチを頂いた。

あまりに美味しそうに食べるベルの姿に、出店の主人がサービスしてくれたのはいい思い出だ。



 ◇◇◇



斯くして新たな門出と相成った細工師。

旅の伴に白き龍・フィルファーベルを加え、一人と一体は一路、ミュルダー王国の王都であるハーネットを目指す。


……彼らの旅路の先に待つのは、安住か、それとも。

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