表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/10

細工師、命を狙われる

更新……頑張ります……

「…………えっ?」

頭の整理が付かず、ベルの言葉を飲み込むのが遅くなった。

無理も無いだろうと自分でも思ってしまう。何せ毒を盛られていたのだ。


()()()()()()()()()()()()()()()()()に。


「ご安心ください、私に毒物や怪しい薬品の類いは効きませんので」

口周りに僅かに着いた水を手の甲できゅ、と拭い取りながら続けるベル。


「……どういう事……いや違うな、つまりは……」

「ええ……これではっきり致しました」

トッ、とグラスをテーブルに置き


「主様は命を狙われています」


そう、極めて冷静に告げた。


 ◇◇◇


その後にベルが一通りの食事を一口ずつ一口ずつ口にしたが、そのどれにも毒は無かったようだった。


水の入った瓶の注ぎ口にも、中の水にも毒の反応は無かったのだが、俺のグラスの中を調べると反応が見られた。

どうやらやはり、俺のみを殺める算段であったようだ。


「ここに来て、急に段階が飛んだな」

ほんの昨日まで俺達、もとい俺の事を観察して機会をうかがっていたものが、今日になって実際に命取る気でかかってきている。

貴族連中の僻みか何か、恨みを買う要素が十二分にあるものだから、犯人までは特定できないだろうが……。


「ベル、なんとなくだが……俺はこの一回じゃ済まないような気がするんだ」

「私もそう思います。あまりに酷くなれば、陛下に掛け合ってお仕えを辞めさせていただくことも考えなくては……」


それもそうだ。陛下は残念がるかもしれないが、命に関わるとまであって引き止めはなさらないだろう。

まあそれも踏まえて、もう少しだけ様子を見てみよう。連中が徒党でも組んでいれば劣勢にも程があるが、そうでないならばまだやっていける。


「ベルが付いていれば一先ずは安心だ」

「勿体無いお言葉です」


何よりこのすこぶる強い従者がいるのだから、身辺の安全は心配いらないと考えてもいいだろう。


……本来ならば、命を狙われた時点で直ぐにここを去りたいが……陛下には何度もお世話になっている手前、こんな所で急にぱたりと居なくなっては恩を仇で返すことになってしまう。

それに、易々と身を引くようでは連中の思い通りだ。ならば、限界まで連中を苛立たせてやろうではないか。

側近や将軍ならまだしも、こちらを妬み嫉み、邪魔者扱いして消そうとしてくる貴族の有象無象なんてどうせ大したことは無いんだから。


俺が平気な顔してここに居続けることほど、奴らにとって腹立たしいことは無いだろう。


「とりあえず夕食を仕切り直そうか」

「かしこまりました」


従者用のグラスが割れてしまったという名目でもう一つグラスを持って来てもらい、それを俺用に充てて、今度こそゆっくりと食事を頂いた。


俺は一回くらいは食事に手を付けなくとも誤魔化せるほうなので(これは冒険者時代に空腹を凌いだ技法)、普段こんなことがあれば食事はいらないと言うところだが……体力の減りもあって流石に食べないという訳にもいかなかったし、何より作り手に申し訳ない。

ベルは心地の良さそうな笑顔を見せながら、豪勢な食事を前に夕餉の時間を楽しそうに過ごしていた。


 ◇◇◇


夕餉の時間はあっという間に過ぎた。食べ終わりついでに入浴も歯磨きも済ませてしまったのだが、昨日よりも早い時間にここまできてしまっている。

「(ここで寝ても、また寝付けないだろうし……)」


冒険者稼業の経験から、早い時間から眠るのは慣れっこであるはずなのだが……環境が違うからか、はたまた安息を手にしたこと故の気持ちの変化か、何が悪いものがついているんじゃなかろうかってくらいに寝付けない。


かくなる上は眠気を引き出すしかない。仕方ないが、またあそこの厄介になろうか。

「ベル……」

「書庫、ですか」

即答された。


「流石だな……読心術でも持ってるのか?」

「そのような便利なものは持っておりませんが、主様の考えくらいはすぐに分かります」

冗談めかして笑いながら言うと、ベルは微笑みを浮かべながら答える。

本当に、優秀で頼もしく思える仲間がいるものだ。


 ◇◇◇


警護の任の騎士の方に訳を断っておき、ランプやトーチが照らす廊下を歩く。

書庫に行かずとも、この柔らかな優しい、程よい間隔の明かりの中にずっといると眠くなって来そうだな、とも思う。

たった一つの気掛かりがあるとすれば……

「昨夜みたいなことがなけりゃいいんだけどな……」


書庫に潜んで急襲して来るだなんて、予想だにもしていなかった。体当たりされたくらいだったから良かったものを、あれでナイフだのダガーだのを持っていたら俺はまず間違いなく殺されていただろう。


「流石に昨日今日で同じような手は使わないだろうが……」

「やはり気を張っておくに越したことはないでしょうね……」

「ああ……」


そう言い合っている間に書庫に到着した。昨日と同じようにまた、明かりが灯っている。


「先客でもいるのか……?」

騎士の消し忘れではなく誰かがいるものだと思ったわけは、広い書庫に少し人の気配がしたためだ。

無論、警備の騎士か誰かじゃないのかと言われればそれまでだが……


「すみません、誰かいらっしゃいますか」


臆していても仕方なしと、俺は少し中に進んで声を投げかける。

すると、

「……うむ?その声はリノアか」

「えっ……陛下!?」


よく聞いた声がして、二人して声の方に足を進めた。

服装はこそ普段のものとは違っているが、如何にも、国王陛下その人である。


「陛下が、どうしてこんな時間にここに……?」

と聞いてみると、少し考えるような仕草をしたあと、


「はっはっは、いやはや恥ずかしい話じゃが……寝付けなくてのう。そんな時にはここに来るのが好ましいんじゃ」

と笑いながら言う陛下。色々と自分とは違っていると思ったが、案外人としては似通う部分があるのかもしれない。


「その様子から察するに、二人も同じような事情かな?」

と言い当てられて、軽くドキリ。

「あ、あはは……実は、そういうことでして……」

「なら好きなだけ居るといい。ここは時間泊まるで無縁じゃからな」

人のいい笑顔でそう言われた。


 ◇◇◇


それから少しの間、陛下と本について暫く語り合った。昔はどんなのが好きだったとか、こういう時にはこういうものが良いとか、色々だ。

その中で取り分けて印象強かった会話が、一つあった。

「神獣ネオリアの本は読んだかの?」

「はい、読ませていただきました」

「儂も年甲斐もなくああいうものを読んで熱が入ってしまってのう、いい年こいて恥ずかしい」

「陛下も読まれるんですか?」

「楽しいからの」

はははと笑いながら、それはまあ楽しそうにお話になられる。

「その線で行くと、お主の好きそうなものがもう一冊あるぞ」

「それは……ネオリアのような神獣の書物でしょうか?」

「うむ、それもこの国に古くからあるものだそうでな。なんでも本を持つ者を護る魔人のことが書かれていると」

「魔人……ですか」


顔にはできる限り出さないようにしたが……思わずほんの少しだけ、顔を顰めてしまった。

「どうかしたかの、具合でも悪くなったか……?」

「ああいえ……なんでもございませんので、お気になさらず……」

心配を掛けさせてしまった……。


「主様が胸ずぼぉされたお相手ですからね」

「それは言わん約束だろうが」


 ◇◇◇


件の魔人についての本を読んでみたいと思い、時間を惜しまずに一通り探してみたのだが、残念なことに書庫では見つからなかった。

陛下はまあそういうこともあるだろう、誰かが持って行っているかもしれん、と言ってくださった。

陛下の方はそろそろ戻らなければならないとの事だったので、お先に戻られた。

ベルを護衛につけることも申し出たが、それはいい、儂を殺すような者があればそいつもタダでは済むまいから、と言って一人で帰ってしまわれた。


「陛下らしいと言えばそうだが……」

「心配……ですね」


陛下が帰られてから数刻、暫し書庫に留まりながらそんなことを考えた。……まあ、陛下を快く思わない人間こそあれど、実際に一思いに陛下を殺めるような奴は居ないだろう。

そう考えて書庫を後にすることにした。

昨日とは違ってもう誰もいないようなので、灯りを消して扉を閉ざしておく。鍵は持っていないので掛けられないが、そこは問題ないだろう。

「それじゃあ、俺達も戻ろうか」

「はい」


バタン、と扉の閉じる音を背に、踵を返して部屋へと帰路に着く。

……月明かりの綺麗な夜だ。窓を通って廊下へと差し込む光が、灯りが少なくなった廊下を照らしている。

静かな夜間のこの場には、俺達二人の足音しか響いてはいない────



────はず、だ。


「…………ベル」

「はい、主様」

「……聞こえるか」

「ええ、聞こえます」


響く環境で、人目をはばかるような声で話す。

()()()()()()()()()に、気づかれないように。

俺達二人の他に、僅かばかりに聞こえた異質な音。手練の暗殺者であれば音は漏らさない、ならば。


「(刺客か、もしくは貴族連中の誰かが実力行使してきたか)」

ならばいい所だ、逆にとっ捕まえてやる。


「ベル、短剣類の届く距離にまで踏み込まれたら腕を抑えてくれ、俺が足を崩す」

「わかりました」


暗殺者ならまだしも、素人ならば失敗した場合のプランは逃げの一択だろう。いくつも得物を持っているとは思えない。さて、作戦開始だ。

わざと油断しきったようにスピードを落とす。

トッ、トッと、露骨に追ってくる足音が近づいてくるのがわかる。気配も……もうすぐ後ろ辺りか。


ここまで来れば、嵌めるのに難しくもないだろう。

「誰だ!」

自分でも思うくらいわざとらしく声を張り上げ、カッと足を止めて振り向いた。


「死ねぇっ!」

ローブに身を包んだ襲撃者、声色から察するに男だろう。

ギラリと光る白刃を以て、俺の命を狩らんと腕を突き出して──


「甘い」

──あえなく防がれる。

「ぐぉあ!?」


腕の突き出しよりも早いベルの腕の振りによって、刃を握った腕は鈍い音を立てると共に鋭い痛みをもって襲撃者に攻撃の失敗を告げる。


「残念だな」

ダメ押しにもう一発。勢いよく踏み込んだ足にこちらの足を引っ掛けつつ押し出して、こちらが身体を横へ避ければ。


「ふがっ…!」

物の見事に、奴は転倒した。


「よっしグッジョブ」

「勿体ないお言葉です」

「ぐっ……がっ」

褒めの言葉に喜ぶような声色で、テキパキと襲撃者を拘束魔法で縛りながら応えるベル。


「さて……理由は聞かせてもらうぞ」

一体どこの誰が、どう言う訳で俺を襲えと言ったのか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ