第60話「DM 木島亜衣2」
在過は、ツイートを遡って見ているときに新しいDMが届く。
【神鳴の両親に誘拐宣言したらしいじゃん。ほんとお前の頭犯罪者の思考じゃん、やばすぎでしょ】
『はぁ……、別に誘拐宣言なんてした覚えはありませんけど』
なんてことない、親友の友達を護るために行う相手への攻撃。誰が正しくて、誰が悪いのか? そんなことなど考えもしないのだろう。本当の出来事は当事者しかわからないことであり、その当事者がそれぞれの知人や家族に相談をしたとしても、伝え方次第で相手を悪者に仕立て上げ、自分自身を悲劇のヒロインにすることは想像以上に簡単なことだ。
神鳴がどのように友達に伝え、両親に伝えていたのか知るすべはないが、話し合った家族が発した言葉と、DMで送られてくる内容から想像に難くない。
俺の何が悪かったのか? 俺の行動や発言が、大きな事態に発展するほどのものだったのかと在過はDMを見つめながら考えるが、結局のところ自分自身もアイツがおかしいと思っていた。
【連れて帰るとか言っておいて、誘拐発言と一緒で草】
『自分の娘を洗脳できると発言する父親の方が、よっぽどヤバくて犯罪者の思考ですけどね。もしかして、何かの団体入って、マインドコントロールとか本当にヤバいことしてるんじゃないっすか?』
【パパさんにスクショ送りましたwww 洗脳とか、マインドコントロールとか、お前の頭お花畑ですか? きっとお前を育てた親がまともじゃなかったんですねwww】
『君もすでに洗脳されてて可哀そうですね。発言とやってることが、過去に大事件起こして死刑囚になった宗教団体のソレで救われないね』
【は? 私たちを馬鹿にしてんの? マジでお前知らないよ】
『私たちって(笑) 何かの団体に加入してるの自分で暴露してて爆笑させんなよ』
【お前なんかに、神鳴は絶対に渡さないから。地獄に落ちろ悪魔】
『悪魔悪魔って、君も篠原家も同じ宗教に加入して洗脳されてんの? 別に宗教悪く言うつもりないけど、さすがに笑うよ』
木島亜衣とのやりとりにストレスが蓄積してく在過は、次第に挑発するような発言をしていく。当然そんなことすれば、相手も反論して苛立つだろうが、それ以上に神鳴の家族と交友関係の相手からの家族を馬鹿にされる挑発が許せなかった。
確かに家庭環境はよくなかったのかもしれない。幼少期の出来事は、息を飲むほど恐ろしく逃げ出したかった自分もいる。それでも両親を恨んでもいなければ、よくあの状況下で育ててくれたものだ……と感謝さえていた。感謝すると言う気持ちが芽生えたのは、在過が社会人経験を始めたことによるものでもある。
【神鳴が過去にどれだけ苦しい思いをして、どれだけ泣いていたか知らないくせに! ずっと一緒にいた私が神鳴を護る。神鳴を苦しめさせる、泣かせる男なんかいらない!】
【…………】
本音とも言える発言を読む在過は、返信を書く気持ちが消える。木島亜衣が言っている、過去に神鳴が苦しい思いをして、泣いたと言う件については想像がついていた。それこそ、木島亜衣や篠崎雷華も言っていた在過と付き合う前の彼氏の件だろう。
元カレが暴力と束縛する男性で、神鳴がずっと苦しい思いをしていたと聞いたことがあった。詳しい詳細は本人からも話してもらえていない為、本人が話してくれるまで聞かないつもりでいた。
しかし、ここ最近は事あるごとに神鳴の家族を含めた交友関係とのトラブルが増え、その度に暴力を振るう男、DV男と言われるようになったのは、過去の元カレの件もあるからなのかもしれない。
そんな考えを巡らせていると、木島亜衣が在過に訴えかけていることは、本当に神鳴を助けたい、護りたいと言う純粋な気持ちなのかもしれないと思うと、在過は先ほどまでの苛立ちが、ゆっくりと抜けていく。
【元カレがどんなことをしたのか、今後のことを考えると神鳴の為にも知った方がいいよな……。はぁ……リクに頼んでみるか】
在過の心には、神鳴を護りたい、一緒に結婚して家族になりたい。子供ができて、旅行行ったり楽しく過ごす未来を見たい気持ちは、まだ消えていなかった。
神鳴が好きと言う強い気持ちの小さな隙間の中に、好きな人が、あの両親と一緒に暮らすべきじゃない離れさせなければ……と自分でもよくわからない不安のような感情もあった。
SNSアプリを終了させ、メッセンジャーアプリのLINEを立ち上げる。やり取りの一覧をスクロールさせていき、高橋リクのアイコンをタップしてメッセージを送った。
【悪いんだけど、急ぎで調べてほしいことがある】