事件3 フラグ探偵と誘拐事件
「そ、そんな馬鹿な…っ、俺の作った薬が…効かない…っ!?」
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遡ること72時間前。
柚薇樹が探偵事務所を構える、この鹿鳴町で起きた誘拐事件。
知り合いの蒼中警部補に呼ばれ警視庁へ行くと獣狩警部から誘拐事件が起こったことを知らされた。
「誘拐されたのは鞘夜気 華鬼ちゃんと鞘夜気 遥鬼くん。9歳小学3年生の双子の姉弟だ」
「さややき?珍しい苗字ですね?しかも双子…」
「あ、あぁ、この誘拐犯は、昔誘拐罪で捕まったことがあるんだ」
「犯人が分かっているんですか」
「ああ。分かってはいる。分かってはいるんだ。居場所も」
「居場所も…?私の存在意義…」
「この誘拐犯の被害者は、いつも決まって珍しい苗字、小学生、姉と弟の姉弟もしくは兄と妹の兄妹なんだ」
「全く、随分な趣味ですね……。捕まえたら『きめぇんだよこのクソショタロリコン』とでも言ってあげたらいいです」
「駄目だそれを言うと奴は…、奴は…!」
「奴は…?」
「ドドドドドMだから興奮してしまうんだ…っ」
「…………………(絶句)。はぁ、どこまでもキッショいクソ虫ですね」
「如月くん!!!どっ、どうしたキャラ崩壊だっ!」
「ああ、言ってませんでしたっけ…?私普段から口悪いですよ?一人称も違いますし」
「ええぇ…」
「それで?犯人も分かっていれば居場所も分かっているこの状況で私が呼ばれた理由は何ですか?」
論点ずらしてすみません、と柚薇樹が話を戻す。
「いや、ずれてはいないんだ」
「?」
「さっき言った通り、誘拐犯はドMだ」
「それがなにか…?」
「ドMだから、自ら捕まろうとして自分の個人情報もベラベラ電話で喋るし、しかも逆探知しやすい様にわざと話を長引かせる。そこは居場所も言ってくれればいいのに。クソったれ」
「それ言ったら喜んでくれるんじゃないですかね。あと、居場所を言わなかった理由は、見つかるかもしれない、逮捕されるかもしれない、といったスリルを楽しむためだと考えられます。……というか、絶対にそうです。クズの頭の中はクソなんですよ」
「…なんか、如月君、グサッと心の奥深くに刺さるような暴言は吐かないんだな」
「? うーん、そこまで語彙力あるわけでもないですしね?」
「そうか…?また話が逸れたが、君を呼んだのは、その犯人が『君に会えたら誘拐した子供を返す』と言ったからだ」
「私に…?」
「ああ、君にだ」
「別にそういう意味で呟いたんじゃないです」
「Twitterか?」
「……。まあいいや、行ってきます。その犯人の居場所はどこですか?と言うか名前は?」
「居場所は、鹿鳴町倉庫地にある第3倉庫だ。名前は山田 太郎」
正直なところ、この名前でふりがな入らないんじゃないだろうか。
「じゃあ、行ってきます。…って、待ってください、第3倉庫…?そこってヤンキーの溜まり場になってません?」
「…そうなんだが、山田が『如月君一人で来てね☆』とファックスを送ってきて…」
言いながら獣狩警部はそのファックスを柚薇樹に見せる。
「……」
すうーっと息を吸い、
「コロス☆」
小さな声で笑顔のまま、呟いた。
ロリとショタが誘拐されたんですって。