9、おじさん、はじめてのお金を手に入れる
またもや説明回です><
今日は軽トラのことでいろいろな発見があった。検証してみよう。
夕食を終え、軽トラの取扱説明書を確認する。
そこのステータスのページには
≪固有スキル≫のところに「積載物保護(New!)」
≪カスタム≫〈機能系〉に「幌(+)(New!)」の文字が追加されていた。
うーむ、混乱してきた。「幌」は分かる。レベルアップによって得たCP5を使って手に入れた。これは俺の意思で行ったことだ。
だが、初期からついていた「エアコン」や「MP電力変換」にCPを使った記憶はない。
そういえば、スライムを討伐していた時にカスタム〈戦闘系〉に付いた「轢く」や「撥ねる」もそうだった。自動で取得し、CPは使っていない。
どうやら、カスタムの項目には自動で取得できるものとCPを使って取得できるものが混在しているらしい。
どんな基準で区別されているのかはわからないし、どんなものが取得できるのかも分からない。
そういえば、「幌」の時は日本の軽トラをイメージして、「こんなのがあったらいいな」とイメージしたときに、頭の中に
『カスタムポイントを「5」使用して、「幌」を付けますか? Y/N?』
という文字が浮かび上がってきた。
かたや「轢く」や「撥ねる」のときは何のイメージも持たず、スライムを轢いたり撥ねたりした後に自動で取得されていた。
どのような法則かは分からないが、実際に取った行動や、スキルやカスタム項目の取得には俺のイメージや意思がかかわってくるのだろう。
もうひとつ気にかかるのは、「積載物保護」の項目が追加されたのは≪固有スキル≫の項目なのだ。
俺の認識では≪固有スキル≫というのは最初から付与されているもので、不変であり追加はされない物という認識があった。
大概のゲームなんかでも、そのキャラ特有の個性というか、そういった位置づけにある項目である。だが、あっさりと追加されてしまった。
≪固有スキル≫にある他の項目を見ると「MP駆動」「車体不壊」「成長可能性保持」「搭乗者保護」とある。
今回はこれに「積載物保護」が追加されたことになる。
こうして字面を見てみると「搭乗者保護」と「積載物保護」が並んでいるのであまり違和感はない感じを受ける。
説明書を眺めていると、各項目の詳細についても理解できるような気がしてきた。
その内容が説明書に記載されるようイメージしてみると新たなページに文字が加わった。
≪固有スキル≫欄の詳細を確認する。
≪固有スキル≫
〇MP駆動(標準装備):
・1㎞/1MP(時速30㎞を標準)
〇車体不壊(標準装備):
・HPが∞の根拠。ストロング不壊
〇成長可能性保持(標準装備):
・スキルやカスタムの成長の根拠。高次元の存在であるクウちゃん様の圧倒的能力と美しさと
カリスマ等々によって、もはや何でもありの成長を可能とする。「軽トラ」の事が良く分か
らなかったので適当につけたスキルという事は内緒よ♪
〇搭乗者保護(標準装備):
・物理攻撃無効
搭乗者への物理攻撃を無効にする。
・魔法攻撃無効
搭乗者への魔法攻撃を無効にする。
・精神攻撃無効
搭乗者への精神攻撃を無効にする。既に受けた効果は保護距離範囲内で全快する。
・状態異常無効
搭乗者への状態異常攻撃を無効にする。既に受けた効果は保護距離範囲内で全快する。
・生存保護
搭乗者のあらゆる環境下での生存を保護する。
・衛生確保
搭乗者を汚れ、病原菌から保護する。
・HP・MP自動回復(極小)
搭乗者のHP・MPを自動回復する
・積載物保護(New!)
荷物落下防止、荷崩れ防止、鮮度増進
※「搭乗者」とは「運転手」と「助手席、荷台に乗車した者」を指す。
※各効果は運転手は軽トラの保護距離内で自動発動。
他の者は乗車時(助手席、荷台)に自動発動する。
※保護有効距離は初期値半径5m。レベルアップで保護距離増加。
軽トラレベル6から1mづつ増える。
例)Lv100→保護距離100m
※保護有効定員8名(運転手、助手席、荷台6)子供は3人で2人計算。
運転手の許可なく乗車不可。
――情報量が多すぎる。
≪固有スキル≫の項目だけでこの量だ。おじさんは日本での書類仕事に慣れているとはいえ、なかなか文章の意味が頭に入ってこない。それでもおじさんはがんばって文字を読み込む。
村人たちの怪我が治ったのは「搭乗者保護」の「HP・MP自動回復(極小)」のおかげだろう。肩こりまで治ったのは「状態異常無効」になるのかな? 痔はどうでもいい。
野菜の鮮度が上がったのは新たに追加された「積載物保護」というやつだな。「鮮度増進」の項目がある。
ん?よく見ると「荷物落下防止」と「荷崩れ防止」もついているじゃないか。ということは、わざわざ「幌」をつけなくても荷物を落とすことはなかったという事か?
CPを損してしまったという事だろうか。
いや、思考はポジティブにいこう。もしそうだとしてもこの時点で気付けたからわずか5ポイントの損失で済んだと考えるべきだろう。
なんせ異世界で初めてのことだらけなのだ。
小さな失敗で学んでいきながら大きく致命的な失敗を避けるというスタンスは理にかなっていると思いたい。
「搭乗者保護」の「保護範囲」を見ると、やはり軽トラから5メートルの範囲ならば俺は加護下に置かれるらしい。
しかも、範囲内なら「物理攻撃無効」や「魔法攻撃無効」なども有効と。
スライムを倒したときなど、魔石を拾っている最中に攻撃されたら危ないと思っていたがどうやら大丈夫なようだ。
しかも有効範囲はレベルアップによって広がるらしい。
レベルを上げていけば、軽トラから離れて宿屋の温かいベッドで足を伸ばして眠ることも可能になりそうだ。よかった。
……さて。ツッコミタイムともいうべきか。とっても気になる文章が途中にあった。
・成長可能性保持(標準装備):スキルやカスタムの成長の根拠。高次元の存在であるクウちゃん様の圧倒的能力と美しさとカリスマ等々によって、もはや何でもありの成長を可能とする。「軽トラ」の事が良く分からなかったので適当につけたスキルという事は内緒よ♪
ステータス表示の中になぜか文章……。しかも書いた人が一目でわかる。
どこの取扱説明書に作成者の自画自賛を書き込むやつがいるというのだろうか……。
まあ、1つの謎はあっさり解けた。固定で不変であると思われた≪固有スキル≫に「積載物保護」が新たに現れたのはクウちゃんのアバウトな性格によるものだった……。
自画自賛の取扱説明書を読んで精神的な疲れを感じたとき、この村の若者のリーダーであり、アトラたちの父親でもあるザトラさんがこちらに近づいてくるのが見えた。
「ハヤト殿。話があるが大丈夫だろうか?」
「もちろん」
と了承するとザトラさんは話し始める。
「今日は収穫を手伝ってくれてとても助かった。その『けいとら』というやつは何とも不思議な魔道具だな……。私やみんなの怪我も直してくれるし、収穫した野菜の品質が上がっていたのもその『けいとら』に積んだおかげなのだろう?」
「それで、今日の手伝いのお礼と言っては少なくて申し訳ないが、これを受け取ってもらいたい。」
そういうとザトラさんは俺に袋に入った銅貨20枚を手渡してくる。
ザトラさんの話では、この村では村人共有の農地で毎年種植えから収穫、出荷準備までを村人全員で行い、商人に出荷後に得られた貨幣を村の世帯ごとに働き手や子供の数に応じて分配する仕組みらしい。
俺は今のところ旅人扱いで居候なので分配の頭数には入らないが、働きに応じた対価という事で食事代を除いた分を日払いで払いたいという事だった。
なお、本来は旅人が村に入るのに「入村税」が銅貨20枚必要になるが、それも差っ引いた額であるとのこと。つまり、明日からは一日当たり銅貨40枚もらえるという事だろうか。
よかった。無償で食事を提供してもらうには心苦しさを感じていたが、どうやらいままでの食事の代金は今日の働きでまかなえたようだ。
なおもザトラさんの話は続き、本来はもう少し多く払いたいがこの村はそれほど裕福ではないので、とりあえずはそれで勘弁してほしいとの事。
あとは、俺がお金を一切持っていないと不便だろうという事で早めに現金を渡してくれたみたいだ。ありがたい。
「ザトラさん、ありがとうございます。お世話になりっぱなしだったので、少しでもお役に立てたようでうれしいです。本当にこの村の人たちは皆さんいい人で、この村に巡り合う事が出来た俺は幸運です。明日からもよろしくお願いします。」
俺は心からお礼を述べた。
話しも終わり、ザトラさんが家に戻りかけたとき思いついたことがあったので質問してみた。
「すみません。この村に来る途中でこれを手に入れたのですが使い道はありますか?」
スライムを倒したときに手に入れた魔石を出して訪ねてみた。
「これは魔物の魔石ですね。この大きさだとスライムでしょうか? そうですね。これだと一個あたり銅貨一枚くらいで買い取りしてくれますよ。」
なるほど。魔石はお金になるようだ。
村には品ぞろえは少ないものの、武器から農具から食材やポーションなどなんでも扱っている雑貨屋が一軒あり、そこで魔石を換金する事ができるとのこと。
雑貨屋の主人も収穫期は収穫に参加しているため収穫期には店は閉まっていたため、その店の存在に俺は気づけなかったようだ。
これは後で知ったことだが、この世界の通貨基準を日本円に換算してみると
銅貨1枚=100円
大銅貨1枚=千円
銀貨1枚=1万円
大銀貨1枚=10万円
金貨1枚=100万円
大金貨1枚=1千万円
白金貨1枚=1億円
となるようだ。スライム一匹倒して100円の稼ぎというのは少ないのか多いのかよくわからない。
なお、物価の相場としては標準的な宿屋が一人部屋一泊大銅貨5枚、朝夕食事付きでプラス大銅貨1枚らしい。大部屋や安宿はもっと安くなり高級宿は恐ろしく高い。
わざわざ「日当」を持ってきてくれたザトラさんにお礼を言って別れ、先ほどの自画自賛の取扱説明書を読んだ精神的な疲れからか、これ以上ステータスの検証をする気も起きずにその日も軽トラの狭い座席で眠りについた。
翌日からも、朝から収穫の手伝いに精を出す。といっても軽トラでは畑には入れないので運搬と積み下ろしくらいだが。
他の子どもたちも乗りたそうにしていたため、かわりばんこに助手席に乗せて村と畑を往復する。
村の井戸に着くとペトラや他の女の子たちが仲間になりたそうにこちらを見つめ、畑に戻ると、すでに一日乗ったからとローテーションから外されたアトラがうらやましそうにこっちを見る。うん。軽トラは子供たちに大人気だ。
果実の収穫では、軽トラの「幌」を外し、荷台に人を乗せて果樹の下を移動する事ではしごをいちいち立てかけ直す手間が省けて大きな時間短縮になった。日本の良い子はマネしない様に。
ちなみに幌を外したら説明書の表記は
幌(+)→幌(-)
と変化し、カスタムポイントが5戻ってきた。幌のような(+)や(-)の表記がついている装備系は「ON」にしたときだけポイントを使うようだ。
これで心置きなくカスタムのポイントが使えそうだ。
高い所にある果実は子供たちが率先して軽トラの運転席の上に立って収穫していた。
日本だと絶対に子供たちにやらせてはいけない危険な行為だが、加護の効果でバランスを崩すことはないし、「ストロング不壊」効果で、何人乗っても軽トラの天井が凹むことはない。物置ではないが100人乗っても大丈夫そうだ。
7日ほどで収穫がすべて終わった。例年ならば10日以上、天候によっては2週間くらいかかるそうだが、今年は俺の軽トラのおかげでとても早く終わったと村のみんなからお礼を言われた。
うん、感謝はうれしいが俺というよりは軽トラのおかげなのでなんだか微妙だが笑顔で感謝を受け取る。おじさんは営業スマイルも熟練なのだ。
〇軽トラのステータス
名称:軽トラ 異世界仕様車
レベル:2
HP ∞・MP max/10,000・SP 1/1・CP 5/5
分類:魔法道具
レア度:幻想級
運転者:橘隼人(専用)
固有スキル:
・MP駆動
・車体不壊
・成長可能性保持
・搭乗者保護
・積載物保護(New!)
スキル:
・MP自動回復(1)
・火属性魔法(1)
・水属性魔法(1)
・土属性魔法(1)
・風属性魔法(1)
・氷属性魔法(1)
・雷属性魔法(1)
・回復魔法(3)
カスタム:
〈機能系〉エアコン(1)・MP電力変換(1)・幌(-)(New!)
〈戦闘系〉なし・轢く(1)・撥ねる(1)
〈操作系〉なし
恩恵:時空




