表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/47

7、おじさん、あざとく信頼を得る

 投稿時に気を付けて見ているつもりなのですが、実際に投稿された画面を見ると改行ミスや誤字や変なスペースが空いてたりと、見栄えの悪さに嘆息しております……。できる限り修正させていただきます。

 




 俺が軽トラごと異世界に転移して初めて訪れた村。

 

 門番をしていたアトラという少年と、その妹のペトラという女の子と打ちとけることに成功する。


 

 

 村は収穫期で、大人たちは皆畑に行っているらしく、俺はアトラとペトラと話をしながら大人たちが戻るのを待っていた。

 

 収穫を終えてこちらに歩いてくる大人たちにアトラとペトラは駆け寄り、俺から聞いた話を大人たちに説明している。





「話はアトラから聞いたが……」


 俺の顔と軽トラを交互に見ながら、怪訝そうな顔をしてこちらに近づいてくる20代後半と思われる男性が話し掛けてくる。



「オレはザトラ。アトラとペトラの父親だ。アトラの話では、村に滞在して食事を分けてもらいたい、金を持っていないので代価に何か仕事をしたいとの事だが合っているか?」


「初めまして。俺はハヤトと言います。その通りです。お願いできますか?」




 話の通じる人のようだ。アトラもうまく説明してくれたのだろう。




「わかった。オレの一存では決められないから、村長のところに案内する。子供らの話ではあなたは悪い人ではなさそうだし、村に入れるのは大丈夫だろう。付いてきてくれ。」



 ザトラと名乗るアトラたちの父はそう話すと村の入り口にあたる柵の間にロープを渡してから、他の村人たちと共に村の奥に向かって歩き出す。


 アトラたちも門番の時間は終わったのか一緒に村に向かう。夜間は門番は立てないようだ。


 

 


 軽トラを運転して村人たちについて行く。


 軽トラが動くと村人たちから「おお……」という声が漏れる。


 乗り物の魔道具だという事はみんな理解してくれているようだ。


 


 この軽トラはマニュアル式なので、村人たちの歩くスピードに速度を合わせて半クラッチでの運転はなかなか辛い。おじさんは普段はオートマのミニバンに乗っているのだ。




「その魔道具から降りると死んでしまうというのは本当なんですか?」

 

 20代半ばくらいの綺麗な女性が話し掛けてくる。





「はい、多分本当です。実際に確かめて本当に死んでも困るので確証はできませんが?」


「まあ、たいへんなのね」



 冗談めかして返答すると納得したという表情で返してくれる。

 

 その瞬間、前を歩くザトラさんが少しこっちを睨んだような気がする。あ、この女性はザトラさんの奥さんなのだろう。一言会話しただけでやきもちを焼かれても困る。





 村の家々が見えてきた。家の立ち並んだ周りには柵が張り巡らされている。どうやらこの村は居住区と、その周辺の農地と2段構えで柵があるようだ。


 居住区の入り口のようなところには門番のような大人と、年配の男性が立っている。なるほど、夜間に門番がいなくてどうするのかと思っていたが、夜間は居住区の入り口に門番が立つらしい。



 年配の男性がこちらに話しかけてくる。



「奇妙な旅人というのはおぬしか?」





 どうやら先ぶれが出て俺の話は村全体に伝わっているらしい。村の中からもこちらをうかがうような視線が多く見える。


 入り口にいた年配の男性は村長らしい。




「はじめまして!ハヤトといいます。お話は聞かれたかと思いますが、このとおり奇妙な魔道具の中で目が覚めるまでの記憶がなく、食べるものもお金もありません。できればこの村の方々に助けてもらえればありがたいです。宜しくお願いします。」



 大勢に聞こえるように、なるべく大きい声で、誠意を込めて簡潔に自分の状況と希望を説明する。

 

 

 

 小さな村ではよそ者はうさん臭がられるのが常識だ。この異世界でも多分そうだろう。


 受け入れてもらうためには自分の事をある程度さらけ出して知ってもらう事が必要だと思う。日本でもそうだった。

 

 異世界から来たことなど知られてはまずい所も多いが、知られてもいい事や記憶喪失という設定などは積極的に広めていこう。






「わかった。おぬしがこの村で過ごす事を許そうと思う。」


 

 え、いいの?


 


 もっともめるかと思っていたが、すんなりと村長さんの許可をもらえた。


 村人の多くがその言葉を聞いているという点でも安心できる。ラッキーだ。おじさん感激。

 

 

 

 だが、もう一歩深めたい。

 

 今の時点では、あくまで「許可」である。このままではまだ俺は「奇妙な旅人」であり、腫れ物のようなあたりさわりのない扱いになってしまうだろう。


 「信頼」につながるもう一歩が欲しい。




「ありがとうございます。あと、受け入れてもらうにあたって村の皆さんに聞いて欲しい事があります。よろしいでしょうか?」

 

 村長に許可を求め、村長が頷く。




「俺に記憶がないのは先ほど話しましたが、みなさんはおそらくこの奇妙な魔道具の事を不審に感じていると思います。俺も記憶がないのでこの魔道具のことはよくわかりません。わかっている事は、俺はこの魔道具から離れると死んでしまうという事です。そのことを皆さんに分かって欲しいのです。いまから、そのことをみんなの前で証明してみますので見て下さい」




 

 さっきザトラさんの奥さんらしき人と話したときに思いついた。

 

 実際に死ぬわけにはいかないが、「俺が魔道具から離れれば死ぬであろう」という根拠は見せた方が良いと思ったのだ。

 

 俺の話と、俺という人間を信じてもらうために。


 



 俺はおもむろに軽トラから降りる。


 アトラとペトラは俺が死んでしまうのではないかと息をのんでいる。子供たちの信頼がうれしい。


 

「降りただけではまだ大丈夫なんだが、ある程度離れるととても苦しくなる。」


 



 そう言って軽トラからゆっくり距離をとる。

 

 4メートルくらい離れたところから慎重に。5メートルに近づくと途端に息苦しくなり体が重くなる。もう少し、もう少し。

 

 とうとう耐えきれなくなり重力に抗えず地面に跪く。体中から冷や汗が吹き出して呼吸ができない。多分顔も真っ青だろう。喉を掻きむしりながら、力を振り絞って軽トラの方に体を転がす。



「はぁ、はぁ、ハァ」



 俺の呼吸音だけがあたりに響く。


 村長を始め、村人たちは息をのんでこちらを見つめているのだろう。多くの視線を感じる。

 

 


 ようやく言葉を発せるほど息が整ってきたので村長に向かって話しかける。



「これが、俺が魔道具から離れると死んでしまうと話した根拠です。俺の話は突拍子もなくて信じられないかもしれないが。どうか理解だけはしてほしい。」



 苦しむ俺の様子を様子を見て演技だと思う人はいないようだ。実際演技ではないし、本当に苦しかった。


「おじちゃん! だいじょうぶ!?」


「そこまでしなくてもよかったのに!」



 ペトラとアトラが駆け寄ってくる。素直にうれしい。




「……おいらがもっとうまく説明できれば、ハヤトさんはこんなことしなくてもよかったんだよな! ごめんねハヤトさん!」


 おお、アトラが自分に責任を感じている。


 そうじゃない、アトラの心を痛めるために俺は体を張ったわけじゃない。勘違いを解かなくては。




「アトラは何も悪くない。お父さんたちにちゃんと説明してくれたしむしろ感謝している。俺が、俺の事を、みんなに見て、知って欲しかったからやったんだ。心配してくれてありがとう。」


 

 アトラと目が合う。安堵したような眼だ。ペトラも心配そうに見てくれている。この子たちはいい子だな。



「おぬしの事情はよく分かった。村人たちも良く理解した事と思う。」


 村長さんから好意的な言葉をもらう。村人たちも頷いているようだ。体を張った甲斐があったというものだ。




「おぬしを宿屋か私の家に泊めようかと考えていたが、その様子では魔道具から離れて家の中に入るのは無理じゃろうな。どうしたもんか……」


「そのことなら気にしないでいただきたい。どこか邪魔にならないところにこの魔道具(軽トラ)を停めさせてもらえればその中で寝ますから。」



「わかった。ならば、そこの馬車の車庫でいいだろうか?」


 みると、居住区入り口の近くに馬小屋と、馬車の車体を格納するような屋根のついた車庫がある。馬は2匹ほどいるが馬車の車体はない。商人や旅人が来た時に使う所のようだ。



「ありがたい。使わせていただきます。村長さん、村の皆さん、面倒をかけるが宜しくお願いします。」



 こうして、俺は異世界に来て初めての居場所を手に入れた。










 村長さんから貸していただいた車庫に移動する前に、村の皆さんに数点追加で話をさせてもらった。

 

 この魔道具は「軽トラ」という名前なのでそう呼んで欲しい事。いつまでも「乗り物の魔道具」と呼んでいては呼びづらい。

 

 あともう一点は、この通り俺は軽トラから離れられないので夜間にトイレに行くときなどは村の外に軽トラごと移動する事を主に門番の人に了承してもらった。

 さすがに馬小屋の中でズボンをおろしていたすわけにはいかない。


 


 異世界に来て困ることのひとつにトイレの問題がある。トイレの問題を端折っている異世界ファンタジー作品も数多くあったが、俺にとって現実のこの生活の中で端折るわけにはいかない。出るものは出るのだ。


 じつは、この村に向かう途中でも便意を感じてトイレタイムは行った。


 まわりにスライムなどがいないことを確認し、街道脇の木が連なるところに軽トラを停め、もしも人が通りかかったときの為に街道から見えないよう、軽トラに隠れるような形で用を足した。



 

 そのトイレ中、ふと子供のころの話を思い出した。

 

 友人から聞いた話だが、その友人が小学生のころ近所の子供たちと外で遊んでいた時、1人の男の子がおなかが痛くなった。

 

 近くにトイレはなく、その子は民家の塀と、そのそばに泊まっていたトラックの間に隠れて蓋のない側溝の上にしゃがんで用を足す。

 

 ところが、その子が用を足し終わる前にそのトラックが走り去ってしまい、見事に恥ずかしい姿が衆目にさらされてしまったらしいのだ。

 

 その話を聞いたときは皆で大爆笑したものだが、俺は笑いながらもその男の子の気持ちを察し、かわいそうだなあという感情や、トラックの運転手は気づいていたのだろうかという疑念や、その後の後始末はどうしたのだろうかと考えていた。



 

 で、俺のトイレタイムの時の状況がまさにそれであった。

 もちろん軽トラは走り出すこともなく周りに人の目もない。後始末?軽トラに備え付けていたボックスティッシュがあったから助かったよ。ティッシュが無くなる前に、この異世界でティッシュ代わりになるものを見つけなくては。




 その後、話もひと段落して村長や村人たちも各々自分の家に帰り、俺は軽トラを車庫入れする。

 切り返しをすることもなく一発で車庫入れ成功だ。おじさんなのだからこれくらいの運転テクニックは当たり前だ。

 

 そのあと門番の人に話をきいたところ、外に出ると畑仕事の時に使う公衆トイレがあるという事なので場所を聞く。後始末用の葉っぱもこの収穫のこの時期は大量に準備されているらしい。助かった。


 


 少しすると、アトラとペトラ、そして村に来る途中で俺に話しかけてくれた20代半ばの綺麗な女性がこちらに向かってくる。やっぱり親子だったんだな。


 女性の名前はペーニャさんといい、やはりアトラとペトラの母親でザトラさんの妻らしい。ちなみに村長はザトラさんの父、アトラから見て祖父にあたり、名前はジトラさんとのこと。



 ペーニャさんたちは俺に食事を持ってきてくれたらしい。俺が軽トラから離れれられないことを考慮して運んできてくれたとの事。ありがたい。

 こちらからねだるのもはばかられていたので本当に助かる。



 そもそも俺は軽トラの中にいる限りは空腹では死なないようだが、腹の減り方は普通であり、今はとても腹が減っていた。

 本当はペーニャさん1人で食事を運んでこようとしたらしいが、ザトラさんが子供たちについてこさせたらしい。うん。きれいな奥さんを1人で怪しい旅人に近づけるわけにはいかないよね。客観的にみてその判断は正しいと思う。



 

 食事は野菜の多く入った温かいスープとパン。日本の物ほどではないが、この世界の生活水準から考ると十分にうまいと感じられた。

 

 あたたかい食べ物は体だけでなく心も癒してくれる。空腹もプラス補正に働いたのだろう。スープには肉も入っている。味もいい。あとで何の肉なのか聞いてみよう。


 

 

 食事を頂きながらアトラたちと話をする。

 

 どうやらアトラたちは明日からは門番ではなく収穫の手伝いに回るらしい。門番は他の子たちの当番とのこと。


 ペーニャさんからもらった食事を平らげ、井戸から汲んだという冷たい水を飲みほして思いついたことを口にする。




「明日から、俺にも収穫を手伝わせてほしい。」




いつもありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ