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6、おじさん、第1村人と出会う

ようやく村に着きました。

 




 軽トラごと異世界に転移した俺は、道中でスライムを討伐(轢いたり撥ねたり)しながら人の住む村を目指して走っていた。


 

 走り出してから2時間程経ったところで、とうとう村らしき光景が目に入ってきた。





 目に入るのは大人の胸位の高さの木の柵で覆われた畑。


 柵は切れ目なく設置されているようだが、ところどころ隙間がみられ壊れているものも散見する。


 畑の中には果樹と思われる樹木が数十本連なっているのも見える。

 

 


 まちがいない。人の手の入っている風景。


 ここが〈セバン村〉なのだろう。




 


 畑を囲む木柵が広く開かれた場所。おそらく村の入り口だ。


 そこの前に、長い槍を持った人の姿が二つ見えた。門番だろう。異世界第一村人を二人発見だ。

 

 だが、その人の姿は背が低く、それに比して槍がとても長く見える。


 


 

 村の入り口に向かってゆっくり軽トラを進ませる。速度を出すといらぬ警戒をされてしまうからな。


 人が歩くような速度まで抑えて進むと、門番もこちらに気づいたのか慌てたような様子でこっちに近づいてきた。

 

 一人が前に立ち、もう一人はその後ろにかくれるようにして近づいてくる。


 



 あー、警戒しているな。


 

 無理もない。俺が乗っている軽トラは多分この世界では誰も見たことがないだろう。新種の魔物と勘違いされてもおかしくはない。


 近づきながら窓を開けて笑顔で手を小さく振り、人間が乗っている事をアピールする。



「こ、この村に何の用だ!」


「このむらになんのようだ!」


 

 

 子供の二人組だった。


 




 すこし足を震わせて警戒しながらも、勇気を出して震える声で最初に問いかけてきたのは前に立つ10歳くらいの少年だった。日本だったら小学3~4年生くらいかな?

 

 少年は手に持った身長よりも長い槍を体の前に抱えてこちらを見ている。


 怖さと不安で槍を突き出したいところだろうが、槍の穂先をこちらに向けないのは、いきなり敵意を見せるのは失礼なことと認識しているのだろう。だれか大人に教えてもらったのかな?


 

 こちらも少年にいつまでも恐怖心を与えているのは本意ではない。



「こんにちは!俺はハヤトという旅の者だが、ここはセバン村で合っているか?」


「こ、ここはセバン村だ!その白い大きな鉄の塊は何だ!」


「おじちゃん、まものにたべられているの?」




 ひとつの肯定の返事と二つの質問が同時に飛んできた。


 俺が魔物に食べられていると心配してくれている? のは少年の後ろに体を隠している女の子だ。5歳くらいだろうか? 小学生というよりは幼稚園児のイメージがある。

 

 この女の子も勇敢にも槍を手にしているが、その身長と槍の長さはアンバランスこの上ない。二人とも大人の槍を借りてきたのだろう。




「いろいろ聞きたいことがあるのは分かる。俺も自分が乗っているものが不思議な得体のしれない物と見られることは分かっているし、警戒されるだろうことは分かっている。説明したいから、だれか大人の人を呼んできてくれないか?」



 少年たちの警戒心を少しでも解くべく、笑顔で交互に子供たちの目を見ながらゆっくりと話す。





「い、今は大人はみんな収穫に行って忙しい! 今日の門番はおいらだ! お、おいらが話を聞く!」



 緊張で震え、時折裏返る声で少年が叫ぶ。





 なんとなくわかった。今は、この村の大人たちは畑か何かの収穫に総出で出ているのだろう。そして、この子たちは大人の代わりに門番をしていると。


 子供たちが門番に出るのを大人たちが許容しているという事は、おそらくこの村はとても平和なはずだ。魔物も出ないし、見知らぬ旅人などもほとんど来ないのだろう。



 

 

 そして、この少年は責任感が強い子だ。


 

 魔物なのか乗り者なのかもわからない見知らぬ「軽トラ」が、平和なはずの村に突然現れた。


 その驚きと恐怖に耐えながら、自分の役割を果たす事と、後ろにいる女の子、おそらく妹だろう。その子を守る事に必死なのだ。


 門番を任されたというプライドや、妹にいい所を見せたい気持ちも混ざっているかもしれない。





 「わかった。失礼した、勇敢な門番さん。俺の話を聞いてくれるだろうか?」



 少年に敬意を払って口調を変える。


 おじさんは子育て経験があるし、PTAの役員を嫌々だがやったこともある。子供の扱いは少しは上手いはずだ。




「わかった!話を聞こう!」


「はなしをきこう!」

 


 少年はすこし得意げに返事をする。声の震えは収まったかな? 女の子がかわいい。


 




 俺が少年に説明した内容はこうだ。


 

 気が付いたら、この「軽トラ」に乗った状態で街道にいた。それまでの記憶はほとんどなく、自分でもどうしてこの状況になったのかは分からない。


 この「軽トラ」はどうやら乗り物の魔道具らしく、魔道具の制約で(呪いだと言おうとしたが、変に怖がられてもこまるので表現を変えた)軽トラから離れると俺は死んでしまうらしい事。

 

 食べ物もお金もなく困っていて、人のいるところを探してこの村にたどり着いたことをなるべく簡単な言葉を使って少年たちに説明する。





 情報量が多いのか、突拍子もない話に驚いたのか少年の表情が面白い事になっている。女の子は俺の顔と軽トラを交互に興味深そうに眺めている。



「それで、俺の希望だが、できればなにか食べ物をもらいたいことと、村の中に入れてもらいたいという事だ。お金はないが、俺にできる事があれば仕事や手伝いをする気はある。町の長に伝えてもらいたい。」


 

 大人に伝えて欲しいと言って、「俺も大人だ!」などと反発されてはまた機嫌を損ねてしまうので、町の長に伝えて欲しいと話す。「村」なのは知っているが、あえて「町」といえば少しは気分が良くなるかな?




「わかっ「おじちゃんは貴族さまなの?」」

 

 少年の返事を遮って女の子が聞いてくる。少年の妹と思われるこの子は俺の服装をしげしげと見ていた。


 俺は仕事の移動中に異世界のポータルに落ちたので、スーツ姿だ。ネクタイなんぞ異世界では珍しいのだろう。フォーマルっぽい雰囲気が、田舎の子にとって貴族の服に見えたのだろうか。



「さっきも言ったが、おじさんはこの魔道具の中で目が覚めるまでの記憶がほとんどない。なので、俺が貴族かどうかは分からないが、多分違うと思う。名前も「ハヤト」としか思い出せないしな。」


 おじさんは子供相手に嘘を吐く。


 あえて苗字を名乗らず名前だけを名乗ったのは、異世界ラノベ物では平民は「字」(あざな)を持たないという設定が多く、苗字は貴族の家名と誤解されるかもしれないと思ったからだ。


 記憶がないという話も、「どこから来た」という問いをはぐらかすために有効と思いこの設定で通すことにした。おじさんは慎重なのだ。年の功とも言う。




「ふーん、変なの~」

 

 女の子はそれなりに納得したようだ。それにしても変って。

 

 もし俺が貴族だったら不敬罪とやらになっちゃうのでは?




「わかった。村長に伝えたいんだけど、おいらは門番でここを離れられないし、妹を1人にするわけにもいかないんだ。だれか村の人が通りかかるまで待ってくれないか?」


 

 女の子に発言を遮られた少年が言い直す。警戒心は薄れたのか少年っぽい口調になってくれた。

やっぱり女の子はこの妹だったんだな。




「もちろんだ、門番さん。そのあいだ、この村の事を少し聞かせてくれないか?」

 

 快く了承し、少年から村の情報を集める。できれば異世界の情報も。



 この少年の名はアトラ、妹の名はペトラというらしい。年齢は俺の予想が見事に当たり10歳と5歳とのこと。


 

 今は村の農作物の収穫期で10日間くらいは朝から晩まで収穫が続き、大人はほぼ全員収穫に駆り出されている。

 

 もちろん子供たちも収穫を手伝うが、収穫期の間は当番制で子供たちが門番をやっており、アトラは同年代の子供たちのまとめ役みたいだ。




 この辺りには魔物はほとんどおらず、たまにスライムを見かけるくらい。

 

 スライムもある程度そばまで行かなければ襲い掛かってこないので子供でも気を付けていれば大丈夫らしい。

 

 スライムは成人男子が一人で一匹を倒すのは結構簡単らしいが、数匹に囲まれると対処しきれずまとわりつかれて窒息の恐れがあるらしい。


 大人たちは定期的に食肉の狩りを兼ねながら見かける魔物を討伐して村の安全確保もしているとのこと。


 


 村の人口は百数十人、主産業は農業で、収穫期が終わると大きな町から商人が買い付けに来る。そこでお金や生活に必要な物資と交換して生計を立てているのが一般的らしい。



 近くにある大きな町は「メオンの街」で、そこには領主の貴族様がいる。商人もその町から来ており、収穫期以外にも定期的に訪れる。その商人以外には、たまに流れの商人や旅人、冒険者が来るくらい。

 

 領主様が有能なのか、この界隈は治安が良く盗賊などはいないらしい。


 

 

 

 アトラとペトラの兄妹とすっかり打ち解け、いろいろ教えてもらう。


 この世界は中世ヨーロッパ的な異世界物によくある世界らしい。車や電化製品はもちろん無く、代わりに魔法や魔道具がある感じだ。


 



 とうぜん、向こうも俺に聞きたいことはたくさんあるらしく、特にペトラは


「どこからきたの?」「そののりものなあに?」「そのおようふくだれがつくってくれたの?」「おじさんなん歳?」「おしごとなにしてるの?」「おくさんいるの?」「年収は?」

 

 と質問攻めだ。

 

 そのほとんどに、記憶がなくて分からないと答えるのは心苦しかった。

 


 時折大人びた質問もあった。近所のおばちゃんたちの会話でも聞いて覚えたのだろうか?


 女の子というのはこんな小さなころからでもおばちゃんの素質を持っているのだろう。




「おじちゃん、なんかしつれいなことかんがえてない?」


「ソンナコトハナイヨ?」



 ふう、あぶない。






 少年たちからある程度の有意義な情報を得られたところで、遠くからこちらに向かって呼ぶ声が聞こえる。




「おーい、お客さんか?」


「なんだそれは!魔物か?」


 大人の声だ。収穫帰りと思われる数人の大人がこちらに歩いてくるのが見える。




「あ、父ちゃんだ。おいらおじさんの事伝えてくるね!」


 アトラとペトラは2人で駆け出して行った。



いつもありがとうございます。

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