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5、おじさん、交通犯?になる

初の戦闘シーン?です。

 



 

 俺がこの異世界に転移した理由をクウちゃんから聞き、軽トラや俺のステータスを取扱説明書で確認した。いろいろ突拍子もない内容が続いて精神的に疲れてしまった。


 


 さてどうしようか。このままここにいても事態は変わらない。とりあえずこの世界の人類がいる所をめがけて移動するべきだろう。


 さっきの看板を思い出す。確か、〈メオン〉ってところは町で、〈セバン〉ってところは村だったな。



 町や村に行くとして、おそらく、俺が乗るこの「軽トラ」はこの異世界には存在しないものだ。


 この世界の人間が生まれてこの方、見たこともない得体のしれない物を見たらどんな反応をするだろうか?

 

 俺なら間違いなく警戒する。


 


 この世界の文化水準や生活様式がどんなものなのかはまだ分からないが、町の入り口で鎧を着た騎士たちに剣を向けられて取り囲まれる姿が容易に想像できる。

 

 異世界での人間とのファーストコンタクトはできれば平和的に行いたいものだ。



 と、いうことで最初の目的地はセバンの村に決定する。

 

 平和的で牧歌的な村人たちの中には興味本位で俺の話を聞いてくれるいい人もいるはずだ。多分。お願いだから居てくれ。いい人カモン。




 当初の目的はどうにか人里の中で警戒されずに過ごせるようにコミュニケーションをとることだ。第一村人はどんな人だろうか?




 セバン村に向かって軽トラを走らせる。荷馬車が通ったような車輪のわだちのある道を安全速度で進んでいく。


 道とはいえ、日本のアスファルト舗装の道路に比べれば起伏があり車体は揺れる。軽トラの固めのサスペンションはこの世界でも仕事をしてくれているようだ。




 15分程すると、視界の端になにやらうごめくものが目に入る。

 

 

 この異世界の生物とのファーストコンタクトだ!




 


 道から50メートルほど離れたところにくすんだ水色の物体がうごめいている。大きさは1メートルより少し大きい感じだろうか。

 

 その様子は、「プルプル」というよりは「ぐでっ、ぐでっ」という感じにゆっくりと揺れている。



「あ、スライムだ」



 


 はじめての魔物がスライムというテンプレに出会った。

 

 討伐したい衝動に駆られるがこの世界のスライムの強さがわからない。スライムには最弱説と最強説があるからだ。


 

 軽トラの車体は壊れないと書いていたが、魔物と戦って本当に壊れないとは限らない。単に説明書の表記だけそう書いてある可能性も否定できない。

 

 もし本当に軽トラが壊れないとしても周りを粘液で取り込まれたりして窒息させられるかもしれないし、車体の隙間から入り込んで俺が溶かされるかもしれない。

 

 スライムの強い奴は毒もあるし何でも溶かす。うむ、ここは安全策という名のスルーだ。


 幸いスライムはこちらに飛び掛かってくることもなく同じ位置でぐでぐでしているだけだったので容易に離脱できた。



 




 軽トラを運転しながら周囲を見渡す。うーん、風景が変わらない。

 

 異世界の風景はたかが30分ほどの移動では変化が感じられない。厳密にいえば遠くに見える山とか周囲の森との距離、草の生い茂る高さなど微妙な変化はあるはずなのだが体感的には変化したとは思えない。




 窓を開けて外の空気を取り込んでみる。暑い。

 

 夏の空気が入り込み体の周囲にまとわりつく。暑い。だが、不快ではない。


 日本の気候とは違うのだろう。湿度が少なく、暑いながらも爽やかな感覚だ。エアコンを止めて窓からの風に体を晒す。


 日本で言えば高原のような空気を感じながら、異世界の風景を楽しむ。



「山の避暑地のドライブって感覚だよな~」


 


 そんなのんびりとした雰囲気の中、道路脇の背の高い草むらから、いきなり軽トラの前に飛び込むものが目に入る。


「危ない!」


 

 反射的にブレーキを全力で踏み込む。異世界初の急ブレーキだ。




(ぐちゃっ!)


 何かを轢いてしまった……。



 


 軽トラをいったん停め、轢いてしまった何かに軽トラを寄せる。


 おそるおそる窓からのぞき込んでみると……

 

 

 スライムが潰れて溶けていた。



 


 


 どうやら、俺はスライムを轢き殺してしまったらしい。


 異世界初の人身事故? いや、スライム身事故を発生させてしまった。

 警察に連絡か? いや、この世界には警察はないはずだ。しかも人間を轢いたわけではない。



 

 少し冷静になろう。

 

 日本では所謂「出会い頭の事故」として扱われるところだが、轢いたのは人ではなく、ましてや犬とか猫とかでもない。


 

 あ、そうか。これは事故ではなく「スライムを一匹討伐しました」という事になるのか……。


 

 スライムとの邂逅はさっきスルーしたはずなのに……。おれのスルースキルよ働け。




 轢き殺しただけなので正確な強さまでは分からないが、この世界のスライムは最強ではないのだろう。多分弱い方だ。


 

 潰れて溶けたスライムをよく見てみると、その中に小さなビー玉のようなものが見えた。

 

 これは魔石という奴だろうか。おじさんのラノベ知識が脳内で推測を導き出す。


 

 スライムが確実に死んでいることを確認し、軽トラを魔石のそばに寄せてから降りて魔石らしいものを拾ってみる。


 ゼリーが溶けたようなスライムの死骸に手を突っ込むのは抵抗があったが思い切って手を伸ばす。でろでろな感触で手を汚しながら魔石らしきものを拾い運転席に戻る。



 車内に戻った瞬間、驚くべきことに粘液まみれだった手がきれいになる。

 手の中にあった魔石らしきものもついでにきれいになる。

 

 軽トラ取扱説明書を見るとステータスの詳細が書かれており、どうやら軽トラの固有スキル「搭乗者保護」には、車内にいる限り物理や魔法攻撃、精神攻撃や状態異常のほかに汚れも防ぐ効果があるらしい。なんてこった。

 

 そういえば先ほど汗だくになった体もさっぱりしている気がする。風呂も洗濯もいらないようだ。便利すぎる。便利すぎるが、なにか便利の方向性が違っている気もする。


 

 ちなみに他のステータスも確認してみたところ、



≪カスタム≫〈戦闘系〉に「轢く」が追加されていた……。




 「轢く」なんて単語、日本で見る事なんてほとんどないわ。

 

 なんか、「殴る」とか「蹴る」とかよりもイメージが悪い。


 

 もうすこし字面がなんとかならないものか……。



 


 意図した形とだいぶ違ったが、異世界で初めての魔物討伐(轢き殺す)を行った。


 経験値とかって入っているのかな?さすがにスライム1匹ではレベルは上がらないだろうからもう少し倒してみるか。



 


 その後、道に迷わないよう、街道から大きく外れないようにしながら目につくスライムを「轢いて」討伐していく。


 スライムは微妙に色が違うような気はするが、どれも一撃で潰れて溶けていくので強さにそんなに差はないようである。

 

 魔石らしいものも回収する。こちらも大きさなどにほとんど差異はない。

 

 ちなみに、スライムを轢いたときの感触は「ぐちゃっ」である。まるで大きなウ〇コを踏んだような感覚だ……。



 



 4匹目の時に初めてスライムからの攻撃を受けた。

 

 ただぐでんぐでんしているだけのスライムがタメを作ってこちらに飛び掛かってきたが、フロントガラスに弾かれて潰れて溶けた。

 

 

 

 ステータスには「撥ねる」が加わった。

 

 よくニュースで聞く「車に撥ねられました」の「撥ねる」だな。

 

 「轢く」とか「撥ねる」といった字面は見ていると心が萎えてくるな……。






 そういえば、車というのは走る凶器であると数十年前に免許を取る時の自動車学校で教わったことがある。


 考えてみれば、その気になれば車の殺傷能力というのは使い方次第では刃物や拳銃を上回る。飲酒運転や危険運転などはとても許容されるものではないのだ。

 

 そのため、その取り扱いには一定の年齢と技能と知識をもって運転が許可される「運転免許」と、十分な配慮とマナーとモラルが求められるのである。地球では。



 そんな走る凶器の車で魔物を轢きまくっているおじさんがここにいます。





 10匹ほどスライムを討伐(あえて轢いたとは言わない)したところで軽トラの車体が一瞬光った気がした。取扱説明書を確認。

 

 

 レベルアップ!


 レベルが2になっていた。




 

 レベルが上がったことでステータスやスキルに変化はなかったが、SPが1、CPが5になっていた。どうやらポイントを取得したようだ。



「このポイントを使えばいろいろ強化できるんだよな?」


 たしかSPはスキルポイント、CPはカスタムポイントだったはずだ。




 スキルの一覧を見てみる。各スキルのところには(1)という数字が並んでいる。

 

 たとえば、スキルの「火魔法(1)」のところにSP(スキルポイント)を割り振れば「火魔法」が(2)になってパワーアップするのだろう。


 

 カスタムはどうだろう。こちらはなんとなく複雑そうだ。

 

 ためしに「エアコン(1)」のところを見て意識してみた。だが、そこにCP(カスタムポイント)を注いでも「エアコン(1)」のランクが上がるイメージが湧いてこない。なにか条件が不足しているような感覚がある。



 

 

 ポイント以外にも、視点を変えて他の事を考えてみよう。


 

 軽トラといえば荷台だ。たくさん荷物を運べる軽自動車のトラックを軽トラと呼ぶ。


 カスタムというからにはなにか車体パーツや機能を追加できるのではないだろうか?


 

 日本の軽トラの姿を思い浮かべる。たしか、荷台には荷物を保護するシートや、縦に荷物を積み重ねられるように幌を付けた軽トラがよく走っていたはずだ。

 

 今、俺の軽トラは荷台がむき出しの状態だ。


 

 荷台に幌が付いた姿をイメージしてみる。すると目の前のスキルポイントが5減って荷台に幌が付くイメージが頭に浮かんできた。



『カスタムポイントを「5」使用して、「幌」を付けますか?  Y/N?』



 取扱説明書の白紙のページに浮かび上がる文字。

 

 このあとどんなところでポイントが必要になるか分からないので「No」を選択。おじさんは慎重なのだ。


 とりあえず今は、村への移動とスライムの討伐(轢き殺すとは言わない)に「幌」は必要ない。



 





 カスタムの仕様が少しわかった気がする。


 エアコン(1)はおそらく氷魔法や風魔法が基になっている。エアコンのランクを上げるには、基になる魔法のランクをスキルポイントで上げる必要があるのだろう。


 エアコンのスキルランクを(1)から(2)に上げるためには、氷魔法や風魔法を(1)から(2)に上げなくてはならないという事だ。多分。


 かたや、「幌」のような魔法などのスキルに関連のないようなものは直接スキルポイントで取得できるという事だ。

 

 

 いろいろ不明な点はあるが、まあ、この認識で大きく間違っている事はないだろう。


 



 その後も街道を進みながらスライムらしきものを見つけては討伐(轢き殺し)し、すこし遠くにいる奴はスルーし、最初の看板のところからだいたい2時間程経った頃、


 




 とうとう村らしき光景が目に入ってきた。






いつもありがとうございます。

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