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46、クウちゃん、学校を開設する


「さ~て、それじゃあ今日のメインイベントよ! これからみんなには魔道具(軽トラ)の加護を与えちゃうからね!」


 クウちゃんは領民のみんなに『学校』を開設する事を説明した後にそう告げた。


 

 以前、ゴブリンの集落で命を落としたセヴラルドたちが軽トラの荷台の上で蘇生された後、彼らの戦闘能力はどんどん向上していった。また、セバンの村で村人たちの怪我や肩こりなどを荷台に載せて直した後に四則演算や戦い方を教わった際には、まだ5歳のペトラが火魔法を覚えたり、主婦のペーニャさんが回復魔法を覚えるなど劇的な効果があった。


 軽トラの固有スキル『成長可能性保持』は荷台に乗った人すべてにその効果をもたらすらしく、自分の生き方や限界に関しての「リミッター」を外す働きをしてくれるのだ。別の言い方で言えば心のブロックを外すという事になるだろう。


 これからせっかく街の人々に学校で学んでもらうのだ。ならば、リミッターやブロックを外して伸びしろなるものを最大限に伸ばしておくべきだ。




 軽トラの荷台の横には3段ほどの足場となる階段が準備される。卒業式などで体育館の壇上に上がる為に用いられるのとよく似ているものだ。領民たちは荷台の上に乗ろうとして恐る恐る階段を登ってくる。

 そのたびに俺は一人一人に心の中で軽トラへの「乗車許可」を出していく。この軽トラには、「運転手」の俺か「助手(運転手補助全般)」であるクウちゃんが乗車許可を出さない限り物理的に乗ることが不可能だ。

 許可を出され、荷台に乗った領民たちには軽トラの「搭乗者」とみなされ固有スキルが適用されていく。『成長可能性保持』による成長リミッター外しの他にも、「HP・MP自動回復」や「状態異常無効」の効果によって領民たちの怪我や病気などもある程度なら治すこともできる。



 軽トラの荷台に乗った領民からは次々と驚きの声が漏れた。


「すげえ! 長年悩まされていた腰痛が治ったぞ!」

「膝が……膝が痛くない!」

「肩が軽い! 肩の凝りがどっか行っちまったぜ!」


 まるで某健康食品のテレビCMのような感想が次々と出てくる。むしろ、成長のリミッターが外れる事よりも直接的な効果を実感できるこっちのほうがわかりやすく感謝されているようだ。


「やってやる! やってやるぞ~! 僕にできないことなどないんだ!」

「そうか……オレは天使にもなれるんだな……」

「海賊王にも私はなれる!」

「天上天下唯我独尊!」


 一方、心のブロックが外れたことを実感する事ができた人も一定割合で存在していた。一部その方向性が不安になるような人もいたが、ブロックは外しても人生のタガは外さないようにしてほしいものだ。



「さすが魔道具(軽トラ)使いの英雄様だ!」

「軽トラ元帥様万歳!」

「トイレの神様のご加護だわ!」


 待て待て。元帥の呼称が広まっているのも意外だがトイレの神様ってなんだ。確かに先日街の中の汚物堆積所を一掃して街を綺麗にはしたがその呼び名は定着させないで欲しい。


 

 続いて療護院の人たちも荷台に乗り込む。足の欠損があったり寝たきりで動けない人などは療護院の敷地から建物の廊下に軽トラを乗り入れ、「自動積載」で荷台に載せていく。さすがに軽トラのスキルでも安全に荷台から降ろすことはできなかったので、力自慢の冒険者たちや騎兵たちの力を借りる。

疼痛などは治せたようだが、残念ながら欠損までは修復できない。


 

 以前、ゴブリンの集落で命を落としたセヴラルドたちを蘇生させたように死者を生き返らせることや身体の欠損、重病や重い呪いを解除する事は現時点ではできない。

 あの時はクウちゃんが7次元の存在として顕現した影響で軽トラのレベルが「100」に至っていたので、まさに神の御業ともいえるようなこともできたのだが、今の軽トラのレベルは「25」だ。早く軽トラのレベルを上げてこの人たちも救えるようにしたい。この人たちの人生を救う事ももちろんであるし、欠損レベルの怪我まで治せるという事は軍事行動における大きなメリットにもなるし、生産力増加という面でも領内の国力増強につながりいいことだらけなのだ。



 


 その後は同じようにして街の中の各集会所などを回り、同様に領主のセレスティーヌやクウちゃんの説明、軽トラの荷台に載せて軽トラの固有スキル『成長可能性保持』の効果である「加護」を与えていく。

 さすがに街の人全員というわけにはいかないが多くの領民に加護を与える事が出来た。今回受けられなかった人の為に、今後も日時を明示して巡回していくつもりだ。








 この日を境に、メオンの街の各所では「学校」が開設される。

 広い所では行政府の会議室や議場を開放して、孤児院の庭を使っての読み書き計算の授業。また、冒険者たちが自発的に勉強会をおこなうという名目で冒険者ギルドの訓練場を使用しての戦闘や魔法の訓練、トランティニャン商会の倉庫や物資集積所を利用しての職業訓練、療護院前庭での救急法、回復魔法訓練というところから始めていく。

 最終的には各所の集会場や裕福で広い敷地の家庭の庭なども活用したり、夜間にも授業を実施するなど、地理的、時間的な制約で通う事が困難な人たちにも門戸を開放していくつもりだ。



 学びの場を広げるにあたり、物理的な場所はどうにかなっても困難なのは教師の確保だ。

 今現在教師を務めているのは、勉学では領主のセレスティーヌが直々に教鞭を執ったり、バンジャマや高級文官がその任にあたっている。戦闘は騎兵や領の兵士、セヴラルドたち冒険者有志が剣や弓の使い方などを教え、魔法に関しては攻撃魔法など戦闘に関するものは領の魔法兵やリンシールたちが担う。回復魔法や医学的なものに関しては教会のシスターをはじめ街の診療所、薬師やランシールたちだ。職業的なものはトランティニャン商会の職員のほか、商会が集めた鍛冶や服飾職人、建築業や料理人などの各種専門職たちが、生活魔法や職業技術的な魔法を含めてその技術を惜しみなく教えてくれている。


 

 これほどのそうそうたるメンバーが教師陣にそろっていればなんの問題もないのではと考えてしまうが、実は大問題なのだ。

 このメンバーたちは領主をはじめ、行政や街のインフラを回すべき人達。そう、彼らが教師の役割をしている間は街のすべてが回らなくなってしまう。なので、この『街中教室大作戦』の第一目標は「民衆の中から教師と成れる人材をいち早く育成する事」にある。

 最初は短期集中的な教育で教師役を育成し、その後は育成された教師を各地に派遣し徐々にでも教育の場の広域化を図っていくのだ。目指すは「領民皆教育」である。

 教師や教育の質については、裾野となる学ぶ人々の人数が増えていけば、いずれは頂上となるところにいる者も押し上げられていき自然と向上していくであろう。もちろん、街の主要メンバーたちによる短期的なブラッシュアップの集中講座も継続して行っていくつもりだ。


 で、今現在街の主要メンバーたちが教師役をしている穴を埋めているのはクウちゃんと俺である。

 ノートパソコンを手に入れてしまったクウちゃんにとって、この世界の領内運営に関する税などの計算や、トランティニャン商会の出納などお茶の子さいさいである。いずれは表計算ソフトを駆使できる人材の育成もしていきたいほどだ。まあ、それには『異世界売店』でノートパソコンを追加購入したりしなくてはならないし、そもそも電源は『MP電力変換』のある軽トラの側でしか使えないからいろんな制約もあるのだが。

 

 そんなノートPCをフル稼働させているクウちゃんを助手席に乗せ、俺は領内の見回りを行っている。冒険者たちが教師役をやっている今、街道付近に出る魔物たちの討伐を行うものがいないので代わりに軽トラで倒して回っている。街道や領内各地の村近辺の安全確保は大事な仕事だ。

 

 魔法ランクを上げて『悪路走破』を(5)まで上げたので、森だろうが山だろうが軽トラで進入可能になっている。以前にゴブリン集落を見つけたときのように木などの障害物が軽トラの進行方向から勝手に避けてくれるのだ。どんなところにも入って行けるようになったので、山や森に巣食っている強力だったり群れを成している魔物たちも片付けていく。


 魔物をたくさん倒したおかげで軽トラのレベルも「25」から「32」にまで上がっている。結構な量の魔物を倒したはずだが、やはりというかレベルアップの速度が落ちている感じがする。レベルが上がれば上がるほど次のレベルアップに必要な経験の量が増えてくというのはこの軽トラでも同じなようだ。

 また、魔物の素材も相当な量を手に入れている。もちろん、これらは俺が一人占めするのではなく、主要メンバーが教師をやっていてインフラ機能が止まっている街の為に使うのだ。まあ、俺が求めなくてもセレスティーヌが「手当て」とか「報酬」という名目で代価を支払ってくれるのだが。

 肉は食料に、素材は鍛冶や衣類、魔道具の材料として主に領内で利用する。魔物の解体は冒険者を目指す領民たちへの解体の教育実習の教材としても活用される。

 もちろん各素材を現金化するという手もある。が、現金化するという事は物流が発生するという事だ。冒険者ギルドや商会を通してこれまでと比べてとんでもなく多い量の素材なりが流通したら、間違いなく他国や周囲の他貴族の領地や、なにより王都から注目を浴びてしまう。目立つことは避けねばならない。なので流通による現金化は通常より少し多い量にとどめておこうというのがギルドマスターのドニやトランティニャン商会長のモンタンの意向であり『解放戦線』全体の意向なのだ。


 魔物の討伐には副領主からせしめた『魔呼びの魔笛』が役に立った。吹く時のイメージで効果を適用させる範囲や種別、割合を設定できるので効果的な間引きができた。あまり駆除しすぎてしまうと魔物とはいえ生態系が崩れてしまうし、あまりにも一気に呼べばスタンピードを引き起こしてしまうので、効果が調節できるという機能は重宝した。



 領内にある各村の周辺の魔物を駆除した後はその村にも立ち寄っていく。セレスティーヌからもらった地図には、このメオン男爵領の領地内には大小合わせて13の村があることが書かれていた。そのうちの一つにこの異世界に来て右も左も分からない俺を温かく迎えてくれたセバン村もある。

 セバン村では、俺が旅立つまえに街の周囲に土魔法で魔物からの防壁を作ったり、農地を拡張して畑などの土を改善したりしてきた。さらに、なぜかクリスマスパーティーをやろうとなった時には砂糖を求めてこの村の付近に自生しているサトウキビを発見し、その分の農地も拡大しておいた。ほかの12の村にも今後同様の事を行っていきたいと思う。

 村の数が多いので時間はかかるだろうが必要なことだ。領内の各村での農業生産が上がればすなわち領の国力が上がる。いずれはセバン村のサトウキビのように各村ごとに特産となる作物を作っていきたい。ああ、そういえばメオンの街で教師の人材が揃ったら各村にも派遣しなくては。


 

 こうして、『解放戦線』の領内の国力増強は順調に進んでいくのであった。


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[一言] 侯爵以下マトモな貴族が一人もいないのに国として成り立ってるのがすごいよね。
2021/01/08 13:55 退会済み
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