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45、クウちゃん、街の設計図を描く

 時系列では43話の続きになります。


 年末年始を挟み更新が遅れてしまいました。

 執筆のモチベーションがなかなか上がらず自分でも困っています。


「さあハヤト! この街のインフラを整えて完璧な街にするわよ! 公共工事よ!」


 クウちゃんが珍しくまともなことでテンションを上げている。


「この街に、古代ローマのように上下水道を敷設するわ! これが設計図よ!」


 クウちゃんはそう言うと3Dの幾何学線のスケールに沿って描かれた街の見取り図や上下水道の設計図を何枚も取り出した。その製図された建築図面には街並みに合わせ、どこに上水道や下水道を敷設するのかや、水や下水がスムーズに流れるように水路の角度までも細かく設計されている。ノートパソコンを手に入れたクウちゃんはまさに鬼に金棒と言った感じだ。


「この設計図を基にして街の上下水道工事の公共事業を行うのよ! そうすれば街は清潔に保たれて、その噂を聞いた人たちがどんどん移住して来るわ! それに工事で雇用を生みさせるから副領主に絞りとられたみんなの懐も温かく出来るし、工事の特需で商人たちも集まってくるだろうし、仕事を求めての移住者だって来るはずよ!」


 うむ確かに。クウちゃんの言うとおりだ。俺は街を軽トラのバキュームカーや洗車のスキルで綺麗にはしたが、それはあくまで汚れる前の状態に戻しただけだ。清掃や汲み取りの事業を再開すればこの清潔が保たれるとはいえ、なにかもっと、根本的な解決策があればいいと思っていた。下水道が整備される事でそれが解消できる。上水道も各家庭に整備されれば領民はわざわざ井戸に水を汲みに行ったり汚物を堆積所に捨てに行く苦労もなくなる。

 

 生活の中の余計な手間がなくなるという事は、すなわち一日の中で仕事に掛ける時間の割合が増すという事にもなり、各家庭の収入も向上し街や領内の国力も増していくということにつながっていく。

 

 それに上下水道の敷設のメリットは単に清潔が保たれることに留まらない。俺たちはこれから王都との戦いに身を投じる。いざ戦争になったとき、街中に点在する井戸の中に毒などでも入れられたらたまったものではない。安全の確保という観点から見てもこれは行うべきことなのだ。


 ただし懸念がない事もない。工事の特需で人も金も集まってくる、さらに便利で清潔な街としてうわさが広まればこの土地に居を構えようと移住してくる人も増えるだろう。それはとてもいいことではあるのだが、その人の動きや噂が王都に伝わったらどうなるか。

 いかにバンジャマが欺瞞の報告で煙に巻こうとしても、調査団なり斥候が派遣されてしまえば領地を乗っ取ろうとしていた副領主を俺たちが捕らえて王都との戦いの準備をしている事は筒抜けとなってしまうだろう。知られてしまえば討伐の大軍が派遣されてしまう。

 今はまだ力を蓄えなければいけない。王都の軍勢と戦えるほどの戦力、国力を確保するまでの時間を稼ぐこともまた俺たちの戦いなのだ。


「なあクウちゃん、公共工事はとてもいいことだと思うが、あんまりおおっぴらになると王都の連中に気づかれてしまうぞ? そのへんどうする?」


「う~ん、たしかにそうねえ……。冒険者ギルドやミネットあたりに頼んで街の外からも人を集めようかとは考えていたけど、それはやめておいたほうがいいかもね……。よし、街に住む人だけで進めましょ!」


 という事で上下水道工事の公共事業の基本方針が決定された。



 




・・・・・・・・・・・・


 その翌日――、俺たちは孤児院と療護院に比較的近い広場にいた。街の人たちに今後の街の方針と、公共事業の説明のため。そして、それらに関連してくる()()()()のためにである。


 この場には領主であるセレスティーヌや兵士長のガエタン、バンジャマや騎兵たち、トランティニャン商会のモンタンとミネット、冒険者ギルドマスターのドニに、冒険者代表として『青銅の家族』も顔を連ねていた。


 広場には街に住む大人たち、ギルドに登録している冒険者たちのほかに療護院の人たちや孤児院、そして街の子供たちまで多くの人が集っていた。

 この『メオンの街』の人口はおよそ1万人。そのすべての人が一か所に集まるのは不可能であるので今後場所と時間を変えて同様の説明をする必要はあるのだが、それでもこの会場に1000人くらいは集まってくれたようだ。


 領民に向けてセレスティーヌの話が始まる。なお、全員に向けてしっかりと話が聞こえるように、軽トラには『簡易ステージ』を発現させてその音響システムを使い、セレスティーヌはステージの上、つまり軽トラの荷台の上に上がっている。


 話の内容としては、先日副領主を捕縛する際に行政府の前で俺が軽トラのスクリーンで流した映像を見ていた人も多かったので、この街を牛耳ってきた副領主一派からこの街が解放されたことは皆知っているのだが、一応話の順番としてその部分の話から始まり、バンジャマや騎兵たちは王都にいる闇の勢力たちに洗脳されていたが洗脳は解かれたので我々の味方であること、税率などの施策を副領主一派が派遣されてくる前のものに戻すことなどの話が続く。

 

 そして話は重要な部分に差し掛かる。今後王都との争いは避けて通れない事、争いに巻き込まれるのが嫌ならば街を出ていってもかまわない事、争いに備えて国力を蓄える時間を確保するため、副領主が失脚したことを王都に知られないようにして欲しい事などがセレスティーヌの口から話される。

 ちなみに、争いを避けて街から出るといった選択をする者は最後までいなかった。皆、この街を愛しておりこの街を守るためにどんな些細なことでもできることで協力したいと申し出てくれたのだ。


 王都に対する情報の遮断に関しては、この世界において多くの場合、情報を拡散させるのは国や街を股にかけて活動する商人や冒険者、旅人たちが媒介になる事が多い。

 商人の出入りに関してはこの街をほぼ独占状態としているトランティニャン商会が全面的な協力を申し出てくれている。

 冒険者にあっては、本来、冒険者ギルドは国から独立した組織であり、国や領地の権力争いに介入する事は許されないため、ギルドとしても冒険者たちに箝口令を布くわけにはいかないのでギルドマスターのドニから何かを言うわけにはいかない。だが、この街のギルドに登録している冒険者たちは皆一様にこの街の事が好きだった。副領主一派が幅を利かせてからも街の人々を守るために何かできないかと拠点となる街を変えることなくここに残っていた気のいい連中なのだ。そんな冒険者たちなのだから領主であるセレスティーヌの依頼には喜んで従った。ギルドとしても冒険者たちが自分の意思で行動するのならば口をはさむことなどできないのだから。

 今後は、街の外から入ってくる商人や旅人に対しては商会が、同じく外からの冒険者に対しては冒険者たちが協力して情報を伝えないように立ち回りながら、同時に王都の間者がまぎれて入ってこないように目を光らせることとなった。




「それでは、この街を解放してくれた『解放戦線』の軍師殿から、今後の具体的なことについて話して頂く。軍師殿、宜しくたのむ。」


「は~い! わたしが『軍師』のクウちゃんよ! みんなよろしくね! じゃあ、早速だけど皆さんにお知らせね! これから皆さんには学校に入ってもらうわ! 読み書き計算はもちろん、剣や魔法での戦闘訓練とか、魔法を応用させた職業訓練とかもね! もちろんこの街の人は無料だし、強制でもないわ!」


 おお~、と集まった民衆から歓声が起きる。この世界での識字率は低く、日常会話は問題なくとも字を読むことができない者も少なくない。また、字が書ける者といえばその割合はぐんと低くなる。字を学ぶためには学校に通うというのが一般的だが、通っているのはせいぜい貴族や商家や裕福な家庭の子弟に限られ、平民では学費を払ってまで子供を学校に行かせられるような家庭は少ない。そのような状況で、無料で学びの機会を得られるというのだ。

 集まった民衆の中にはにわかにその言葉を信じられない者も多かった。民衆の一人が口を開く。


「戦闘方法や魔法を学んだら、その対価に強制的に徴兵されるのか? 学べるのは嬉しいが、おれが兵隊にとられれば嫁や子供たちが生活できなくなる!」


「そんな心配は無用よ! さっきも言ったけどほんとにホントの無料なんだから! それに学んだ結果兵士になったとしてもちゃんと給金はでるし、兵士じゃなくても魔法を覚えて向いている職業についてもいいんだからね! 職業選択の自由よ!」



「ぼ、ぼくみたいな孤児院の子供でも勉強してもいいの?」


「あったりまえよ! むしろ子供たちは逆にほぼ強制的に勉強してもらうからね! 日中に生活の為に仕事したり、家の手伝いをしている子たちは夜にも学校を開くし、それでも無理だったら最低限の生活費の保障はするからね! 今のうちにたくさん学んで、出来る事が増えれば、将来たくさんのお金を稼げるようになるんだからね! だから親御さんたちや周囲の大人も理解してあげてね!」



「わしはもうジジイなのだがそれでも学校に行ってもいいのかの?」

「私は主婦なんだけど勉強してもいいのかしら?」


「もっちのロンよ! 学びに年齢や立場は関係ないわ! むしろ、人生経験を経たからこそより深く学べることもあるし、社会の役に立てることだって多いわ! 主婦だって、例えば火魔法や水魔法を覚えれば料理の幅も広がってお洗濯だって楽になるわ! そして、効率よく家事をこなして空いた時間はご近所の主婦が集まって甘いものを食べてお茶を飲むのよ! 女子会よ!」


 なぜ女子会の話になったのかは不明だが「お茶」なんかを飲めるのは貴族階級くらいしかいないこの世界だ。『女子会』の意味はいまいち伝わっていないようだったが、平民の主婦でもお茶を飲める生活ができるという事を聞いたご婦人方は黄色い歓声を上げている。ちなみに俺が日本にいたときによく嫁が女子会に行くと言って出かけていたが、その都度我が息子たちは「女子って年でもないだろ」と冷静なツッコミを入れていたことが思い出される。


 高齢の方について、魔物も普通にいて戦争も多いこの世界では、特に平民の平均寿命は短く、高齢と言える年齢まで生きられたとしても酷使された体はボロボロになり、ほぼ肉体労働しかないこの世界の労働環境では肩身の狭い思いをしている者も多い。

 そのような者からすれば今一度家族のため、社会の為、自分が愛する街の為にやれることができるというのはこの上ない喜びに違いない。



 ひととおり住民たちからの質問も終わり、皆一様に安心した表情を浮かべている。どうやらみんな理解してくれたようだ。


「さ~て、それじゃあ今日のメインイベントよ! これからみんなには魔道具(軽トラ)の加護を与えちゃうからね!」






いつもありがとうございます。

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