表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/47

41、おじさん、リモート会議に出席する


 俺たちは領都メオンの街を闇の勢力の干渉から解放した。


 だが、事はこれでハッピーエンドとはいかないものだ。

 もともと、この街を闇の勢力下にしようと副領主を送り込んできたのは強大な権力でこの国全体を支配下におさめている国王陛下なのだ。つまり、対外的にはメオン男爵領は国王に反逆をしたことと映ってしまう。副領主は退けても、今後第2、第3の刺客が来ることは容易に予想できる。いや、刺客ならばまだいい。反逆者を討伐するという名目で大軍で攻められたら、あっという間に街の人間すべてが皆殺しにされてしまうだろう。しかも、それは時間の問題で近い未来にほぼ確実に起こりうる現実なのだ。


 ということで、メオンの街の行政府では『メオンの街解放戦線』による今後の対策会議が開かれる事となった。


 会議の開催主はもちろんセレスティーヌ・メオン男爵。32歳独身で、スレンダーな体型の魅力的な女性である。

 セレスティーヌには家族はいない。3年前に前領主である父を病気で亡くし、その際に家督を継いでいる。セレスティーヌの母は生まれつき体が弱く、第1子であるセレスティーヌを生むと数年で亡くなっていた。

 この世界でも貴族の家系というのは男性が継ぐのが慣例であり、当然この男爵家でも後妻を迎えるべきだとか男子の養子を他家から迎えるべきだとの議論が家臣や使用人の間で持ち上がっていた。

 だが、セレスティーヌが生まれたときに前領主は既に40歳を超えていた。なかなか子宝に恵まれず、ようやく生まれたセレスティーヌを前領主は溺愛した。また、セレスティーヌの母である妃のことも心から愛していた前領主にとって、他の女性に子を産ませることも、セレスティーヌ以外の子に愛情を与える事も家督を継がせることも許容できず、数多くの再婚や養子縁組の話もすべて断ってきたのである。

 そのような状態でセレスティーヌは成人に至った。当然、家督の継続という観点から今度はセレスティーヌに婿を取らせてその夫、または子供を跡取りとするよう、他貴族家の次男以降の男性との見合いなどの話が幼少期から後を絶たなかったのだが、セレスティーヌはそのすべてを袖にしていた。


 前領主の父から溺愛され、英才教育を受けていたセレスティーヌもまた、唯一の家族である父を、そして父の治める男爵領の人々を愛していた。父の事を助けたい。領民の豊かで安らかな生活の為に粉骨砕身する父の様な為政者になりたいと願う彼女は領地のため、領民の為にと努力した。その愚直ともいえる研鑽を積んだ彼女にとって、目の前に現れる家の血筋のみでなんら自分自身を高めようと考えることすらしないボンボン揃いの他家の見合い相手と結婚するなど考えもつかない事であり、度々もたらされる縁談の話を聞く時間すらも、学問や領内の民と触れ合う時間を割くものとして心底煩わしく感じていた。


 そのような日々を重ねるうちにとうとう父が亡くなってしまった。まだまだ元気で現役領主として手腕を振るうものと思っていた父は、流行り病にかかってあっさりと亡くなってしまったのだ。悲しむのもそこそこに、領民の為に治政の空白を避けるべく彼女は領主の座に就こうとした。

 だが、父の後を継ぐ――。当たり前の事の様に考えていた、たったそれだけのことすら、周囲は快く思わずに様々な横やりが入ってきた。


 「貴族家を女性が継ぐのはまかりならん。」そんな声が周囲の貴族、さらには王族からまで巻き起こったのだ。

 家族と呼べる存在は父と自分の2人のみであったが、長い世代続いている貴族という慣習の為、遠縁ではあるが血筋の者もまた存在する。他の貴族家や有力商人などは一つの男爵家という魅力的な地位を我が物とすべく様々なアプローチを仕掛けてくる。

 セレスティーヌはそのような自己の権益しか考えていない貴族たちのやり方、考え方が心底、反吐の出るほど嫌いだった。われに贈り物をするくらいなら、その分民の税を軽くすればいいではないか。われのところに見合いの挨拶に来るヒマがあったら、その時間で領内の視察なりして民の声を聴けばいいではないか。われを貶める労力があるのなら、その労力で民の為の施策の一つや二つ考えればいいではないかと。もはや怒る事さえ面倒くさくなり呆れはてた彼女は、そのような煩わしい外野の声を無視する事を決意する。

 そして、周囲の反対などどこ吹く風で男爵の貴族位を継ぎメオン男爵領の領主に着任する。通常、王家や有力貴族の勧告を無視してそのようなことをすれば即廃嫡や家の取り潰しとされてしまうこともあり得たのだが、幸い、先々代からメオン男爵家の寄親となっているセイブル辺境伯が唯一賛成に回ってくれたこともあってその時点では事なきを得ることができた。

 

 その後、新王が就いた5年前より広く公布された獣人や亜人の差別政策、奴隷法の改悪、税金比率の上昇等を、父がそうしたのと同様に領民たちの事を重点的に考えて国全体の政策である新王の方針にとらわれない施策を継続させていたが、やはり一度目立ってしまった杭は打たれるものとして扱われ、王都からは領内の査察官という名目で副領主一派が派遣される。

 じわじわとその権勢を奪われていき、領主を失脚させられて男爵領を接収されるのは時間の問題と思われていた時に魔道具(軽トラ)使いの夫婦が現れて『メオンの街解放戦線』を結成し、副領主を追放する事が出来たのである。




 



 副領主追放後の対策を話し合う『メオンの街解放戦線』の会議への招集者は武官代表として元門番長で、解放後に戦士長の地位に返り咲いたガエタンさんや門番だった面々、そして洗脳の解けた騎兵の隊長と魔法兵の筆頭のほか、文官には領の高級文官数人と並んで、すでに洗脳が解かれた元税務官のバンジャマも参列している。

 民間からはトランティニャン商会の商会長のモンタンさんとその娘であるミネット。冒険者ギルドからはギルドマスターのドニさんと、冒険者代表として『青銅の家族』の4人が顔を連ねる。そして、この度正式にメオン男爵領解放戦線の『軍師』に就任したクウちゃんも会議のテーブルに着いている。


 で、俺はどうしているのかと言うと相も変わらず軽トラの運転席にいる。だって、軽トラから離れたら死んじゃうんだもん。行政府の建物の奥にある会議室までなんて行けるわけないじゃないか。

 

 だが、俺は現在進行形で会議に参加している。一体どういうことなのかと言うと、スマホを使ってリモート参加をしているのだ。まさか異世界まで来てリモート会議に参加するとは思っていなかった。

 

 『異世界売店』で某安売りの殿堂の店から買ったスマホホルダーのアームで軽トラのハンドルにスマホを固定。スマホの画面が小さいので、表示画面はフロントガラス全面に表示されるヘッドアップディスプレイを使い、俺の顔を映すカメラはスマホの機能をそのまま使っている。

 会議室の中の俺の席には、クウちゃんが先日購入したノートパソコンが置かれている。このノートパソコンと俺のスマホを繋ぐことでリモート会議が可能になったのだ。でも電波届かないんじゃないの? そもそも電波あるの? という俺の懸念もあっさり解決された。

 

 Wi‐fiは軽トラの中でしか使えなかったはずなのだが、


 『カスタムスキル「中継車」が発現しました。CP100を使用して「中継車」を有効化しますか  Y/N?』


 ということで、Wi‐fiの電波の距離が軽トラレベル×1kmまで広がってしまったのだ。つまり、今なら軽トラを中心に半径25kmの範囲でWi‐fiがつながるのだ。




 



 どうやら会議が始まったようだ。多分領主様が冒頭のあいさつをしているのだろうが、画面が固定されていて誰がどこでしゃべっているのかよくわからない。お、クウちゃんがノートパソコンの向きを変えてくれたな。領主様の顔が軽トラのフロントガラスに映し出される。


「えー、ではこれから『メオンの街解放戦線』の今後の方針を話し合いたい。まずは、見事この街を解放してくれた、当戦線の『元帥』であるハヤト殿と『軍師』であるクウちゃん殿にあらためて心からの感謝を申し上げたい」


 え、俺いつの間に『元帥』になっちゃったの? 軍師を自称するクウちゃんを内心で笑っていたのだがそれよりも恥ずかしくないかこれ? 日本の息子たちに「お父さんは『元帥』になったんだぞ!」なんて言ったら大爆笑されるか徹底無視されるかどっちかしか思い浮かばないぞ? どうにか撤回してくれないかな……でもそんなこと言える雰囲気じゃないよな……。


 

 俺の思いをよそに会議はどんどん進んでいく。


 元税務官バンジャマ達からの報告で、副領主は一ヶ月に一度の間隔で王都へ報告する伝令を出していたらしい。この伝令が途絶えると何か異変があったものとして王都から調査の者が派遣される可能性が高い。ならば、伝令はこれまで通りに送る必要がある。

 伝令役は騎兵隊が交代で行っていたようなのでこれまで通り。伝える内容は副領主が実権を失ったことを馬鹿正直に伝えるわけにはいかないので「現状維持」「膠着状態」「きわめて順調」といった報告を織り交ぜ、いまだ副領主がこの街を調略中であるとして可能な限り時間を稼ぐこととなった。


 また、バンジャマをはじめ、この街に派遣されていた騎兵たちの家族は王都に住んでいる。今後王家との武力衝突に至った場合、確実に彼らの家族は人質として扱われるだろう。それを避けるため、彼らの家族たちを早急に保護する必要がある。

 もちろん、バンジャマや騎兵たちが「自分の意思で『メオンの街解放戦線』に参加するのならば」という前提がつくのであるが、騎兵たちは全員『解放戦線』への積極的参加を申し出た。彼ら曰く、国や王家への忠誠は当然あるが、それはあくまでも「民衆の為に国がある」という前王までの施策のもとでのこと。民や家族を守るために、平民や下級貴族の家柄の出自から鍛錬して国のエリートとして上り詰めた彼らにとって、民を蔑ろにして自らの権益のみを追い求める今の王族や貴族などは唾棄すべき存在であり、彼らの本懐は民を守ることこそにあるとのことだ。

 彼らが心置きなく『解放戦線』で活動できるよう、彼らの家族たちをメオンの街に連れてくる必要がある。

 その策として、「副領主一派のメオンの街の調略は順調であり、さらに領地と男爵位の接収をより確実にするため、騎兵たち派遣されている者たちの忠義を高め活動にさらに精進できる環境を整えるために家や土地を与え、家族をメオン領に住まわせることが望ましい」といった献策を王家にあげ、月に一度の報告役である伝令が王都と往復する際に徐々に家族たちを連れてくるという案がバンジャマから出され、全会一致で可決される。


 ふむ、敵対していた時はいけ好かない奴だと思っていたが、洗脳が解かれて味方になったバンジャマ君はなかなか切れ者のようだ。


いつもありがとうございます。

ブックマーク、評価をいただければとても励みになります!

感想、誤字報告、レビューもお待ちしております。

今後ともよろしくお願い致します。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 楽しく読ませてもらってます、更新頑張ってください! 続きを!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ