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40、軽トラたちのクリスマス

軽トラクリスマスバージョンです。



ツイッターでも報告してますが、ユニークユーザー様の数が5,000を超えました!

また、2日連続、一日あたりのアクセス数が1,000を突破致しました。

ブクマや評価、ご感想なども頂いております。


これもひとえに皆様のおかげです。ありがとうございます!


では、コロナ過で大変ではありますが、皆さまのクリスマスがハッピーなものになりますように!


「ハヤト! クリスマスよ! 性なる夜よ!」


 メオンの街を解放した数日後、起き抜けにクウちゃんが叫びだす。



「はあ? 今はまだ夏だぞ? 地球だってまだ8月のはずだが?」


「確かにそうなんだけど、なんか今クリスマスパーティーをしなくちゃいけないって気分になったのよ!」


「ふ~ん。でもあれって聖者の誕生を祝う事にかこつけた拝金主義者が始めた催しなんじゃないの? 金が絡むとなれば主導していたのって闇の勢力とかじゃない? そんなのに乗っかっちゃうのは光の勢力的にはまずいんじゃないの?」


「確かに、地球におけるクリスマスには闇の勢力もからんでいるけどそんなことは些末な問題よ! だって、みんなが楽しく幸せになれるのが大事なことなんですもの! 光の勢力としては幸せな心の波動はとってもウェルカムなのよ!」


 ふむ、なるほど一理ある。経緯はどうあれ人々が幸せになれるなら、それはそれでおっけーだな。時期がずれているのは、なにか大人の事情でもあるのだろうからスルーしておこう。



 俺は孤児院にある庭に来ていた。この庭には比較的大きくてクリスマスツリーとして使えそうな木が一本立っているのだ。多分もみの木とは違うのだろうが、おじさんである俺には植物の名前の知識なんぞ皆無だ。まあ、葉は緑色だし全体は縦長三角の形だし細かい所はいいだろう。なんといってもここは異世界なのだからな。雰囲気さえあれば充分だ。



『カスタムスキル「高所作業車」が発現しました。CP100を使用して「高所作業車」を有効化しますか  Y/N?』


 軽トラに新たに「高所作業車」が発現した。軽トラの荷台部分に作業床を乗せて高所に伸びるアームが出現している。アームのところはブームという名称らしい。車体の下には車体を固定するジャッキも出現し、アームを伸ばしても車体が倒れないようにしっかりと大地に固定されている。このジャッキはアウトリガというらしい。まあ、アウトリガがなくてもこの異世界軽トラは転倒などしないだろうが。


 ランシールとリンシールに高所作業車の作業台に乗って木への飾り付けを行ってもらう。この異世界にキラキラのモールなどはないので、事前に街の外にある森で狩りをして準備した。狩った魔物は羽の色が一本ごとに異なる「角クジャク」だ。

 

 「角クジャク」は生息数がそれほど多くないとのことだったが、副領主一派から没収した「魔呼びの魔笛」が役に立った。なんとこの魔笛、呼び寄せたい魔物をイメージしながら吹くとその魔物のみを呼び寄せるという特徴があるのだ。副領主はそのことを知らなかったみたいだが。


 「角クジャク」の羽根はクジャクの名のごとく様々な色に分かれている。羽根を色ごとに分け、孤児院の子供たちや療護院の人たちに手伝ってもらって大きなモールのようなものを作ってもらった。羽根の色には光沢もあり、充分キラキラモールとしての役割を果たしてくれるだろう。


 作業床に乗るランシールとリンシールはキャッキャッキャッキャッとはしゃぎながら楽しそうに飾り付けを行っている。暗黒僧侶としての素質を開花させたランシールの純朴な笑顔が怖い。ちなみにセヴラルドとソヴラルドは高い所が怖いといって拒否していた。冒険者としてそれは大丈夫なのか? ソヴラルドなんかは斥候で弓使いなんだろう? 木に登って偵察とか狙撃とか必要な技能なんじゃないのか?



 さて、ツリーの飾り付けといえばピカピカ光るイルミネーションも定番である。この異世界には当然のように電飾なんて存在しない。ならばどうするか。魔道具があるじゃないか。


 トランティニャン商会の商会長、モンタン・トランティニャンさんもセバン村への買い付けを終えてメオンの村に戻ってきている。というか、俺が途中で拾って乗せてきた。



 クリスマスパーティーをすることが決定したとき、ぜひともセバン村の子供たちにも楽しんでほしいと思った俺は一路軽トラを走らせた。

 村に着いた俺は軽トラに『キャンピングカー』の「大部屋」を発現させ、アトラやペトラ、村の子供たちを全員乗せた。もちろん村長さんや親御さんたちの了承を得ての事だ。一応、村の大人代表ということでザトラさんとペーニャさんにも同行してもらった。ほんとは村の全員を連れていきたいところだけど、さすがに全員は乗れないし農作業やらの仕事もあるから仕方がない。


 セバン村からメオンの街への帰りの途中、村への買い付けから帰る途中のモンタンさんを拾う。まあ、村に行くときにも一回すれ違ってはいたのだが。


 モンタンさんを確保したのには目的がある。ツリーのイルミネーションに使えそうな「光の魔道具」を大量に貸してもらうためだ。商会の倉庫には100を超える在庫があるとのことだが、ざすがにたった一日のイルミネーションの為にすべて買うのは効率が悪い。レンタルという事で用立ててもらえないかの相談だ。ミネットは「ハヤトの頼みなら大丈夫だニャ! レンタル料金もタダでいいニャ!」と言っていたが、さすがに商会長直々の許可を得ておくべきと考えたからだ。


 モンタンさんにはもう一つ用事がある。それは、砂糖の原料、サトウキビかテンサイを栽培しているか仕入れられるところはないかを尋ねるためだ。


 この異世界では例にもれず砂糖は高級品であった。なんでも、王族や有力貴族あたりがその原材料や製法を秘匿しているらしい。力のある商会の会長さんであるモンタンさんも砂糖の現物は扱ったことはあってもサトウキビの現物は知らないらしい。

 ふと思いついた俺はスマホでサトウキビの写真を探してモンタンさんに見せてみる。軽トラの中ならWi‐fiがつながるのだ。

 モンタンさんの話ではセバン村の周辺で似たような植物を見たことがあるとの事。その話を聞いて、俺はアトラたちを街に送り届けてすぐに軽トラを反転させ再度村の方に走りだす。だが、どの辺にサトウキビが自生しているのかまでは分からない。うーむ、どうにかして効率的にサトウキビを探し出す方法はないものか……?



『カスタムスキル「カーナビ」に「検索」が発現しました。「カーナビ」にCP40を上乗せして「検索」を有効化しますか  Y/N?』


 おお! 便利な機能が発現した!



 村の周辺に戻った俺はさっそく「検索」機能を使用して周辺にあるサトウキビを探す。するとフロントガラス全面に示されたヘッドアップディスプレイの画面には検索対象物を示す緑色の点が多数現れた。

 セバン村の周辺はサトウキビに適した環境なのか多く自生していた。うん、ひと段落したら村で畑を拡張してサトウキビの栽培をしてもらおう。うまくいけば多くの収入が村に入るはずだ。


 自生するサトウキビを「風魔法」で狩り取り「自動積載」で収穫する。栽培するための苗を取らなきゃいけないから刈りつくしてはいけない。



 街の孤児院の庭に戻り、さっそくサトウキビの茎を絞っていく。軽トラのタイヤで轢いて潰して茎を絞り、砂糖成分がたっぷり含まれたジュースを絞りだす。ここから煮詰めたり不純物を取り除くのは異世界ならではの魔法を使えばあっという間だ。火魔法で煮詰め、風魔法の遠心分離で純度の高い砂糖が完成する。

 さすがに純白の白砂糖とはいかなかったのでケーキの生クリームの白色が若干黒く染まってしまったが勘弁してもらおう。その分新鮮なフルーツでごまかすのだ。


 

 ツリーの飾り付けはモールが終わり、イルミネーションのほうに取り掛かっている。イルミネーションに使うのは光源となる魔道具だ。それは冒険者がダンジョンに潜る時に使うようないわゆるランタンやランプのような形をしており、ツリーの飾り付けとしてはそぐわない形だ。だが、どうせ発光した様が美しく見えるのは夜暗くなってからであるので光さえ発していればランプの形などは見えないだろうから気にしないことにする。それよりも光の綺麗さで勝負だ。


 ランプは魔石を燃料にして発光するが、その魔石の性質によって光の色が異なるという。例えば、火属性の魔石ならば赤く光り、土属性で緑、水属性ならば青といった感じだ。ちなみに属性を持った魔石は無属性のそれよりもべらぼうに高価であるとのこと。

 試しに無属性の魔石をセットしたランプに軽トラを通じて火属性の魔力を流し込んでみるとランプが赤く光った。調子に乗って光の3原色であるRGBのように各属性の魔力を混ぜて流し込んでみるとそれはもう様々な色を表すことができた。

 

 あとで分かったことだが軽トラの魔力を通した魔石には魔力が「充電」されていたらしい。通常、魔道具に使う魔石は内包する魔力がなくなると使い捨てになるのだが、なぜか軽トラの魔力で充電されてしまった。「MP電力変換」のスキルのせいだろうか? 魔力と電気は違うと思うのだが。まるで地球の充電式電池みたいだな。しかも魔石に各属性を選んで付け放題ということで商売のにおいを嗅ぎつけたモンタンさんやミネットの目が輝いていた。




 さて、ツリーの飾りつけも万端、甘くておいしいケーキにも目途はついた。メインの料理は羽をむしった「角クジャク」の肉に加えて、一緒に狩ってきた「角七面鳥」の丸焼きだ。ケーキ作りには領主様の邸宅のメイド達に加え、副領主が夜伽の奴隷にしていた女性たちも無事解放され一生懸命手伝ってくれていたし、料理のほうはトランティニャン商会の所有する屋台で従業員たちが一生懸命焼いている。


『カスタムスキル「キッチンカー」が発現しました。CP100を使用して「キッチンカー」を有効化しますか  Y/N?』


 いやいや。日本でよくある焼き鳥の屋台を想像したら調理も販売もできるキッチンカーが発現してしまった。焼き鳥やピザ、クレープやコーヒーからラーメンや石焼き芋屋まで様々なバージョンで発現できるようだが今は使わない。そう、軽トラはサンタさんを乗せるソリとして活躍させねばならないからだ。


 

 俺は軽トラのカラーリングを変える様にイメージする。赤と緑のクリスマスカラーのツートンにゴールドの線を入れてあしらってみる。うーむ、正直いまいちだ。俺のセンスが悪いのかもしれないが、やっぱりクリスマスと軽トラに親和性はないのであろう。


 サンタのそりといえば、欠かせないのはトナカイさんだ。だが、いまのところこの異世界でトナカイのような動物は見ていない。強いて言えば角シカが一番それに近いのだろうが魔物を街に入れるわけにはいかない。で、いま軽トラを引っ張るようにつないでいるのは馬である。


 この馬たちは先日の戦いで騎兵たちが乗っていたやつらだ。戦いの際に液状化現象を起こした地面に兵士たちと一緒に馬たちも埋まってしまったのだが、一頭ずつ人力で引き上げるのは面倒だったので馬たちも『自動積載』で荷台の上に引っ張り上げたのだが、なんと荷台に乗せた馬たちはやたらと賢くなってしまい、しかもやたらと俺とクウちゃんになついてしまった。軽トラの荷台にはテイムの効果でもあるのだろうか? ちなみにこのサンタ軽トラをトナカイに扮して引っ張る役は馬たちの間で大人気で、たった2頭の狭い枠を争って馬同士で競馬のような勝負をしたらしい。なんだこの馬たち……。


 今度はクリスマスのメインの役者、サンタさんだ。「衣装は私に任せてね!」とクウちゃんは言っていたので一体どんな素材で異世界版サンタコスチュームを作り出すのか楽しみにしていたのだが、なんとクウちゃんが取り出したのは『異世界売店』で安売りの殿堂の店から購入したミニスカサンタの衣装だった……。おい、異世界観が台無しだぞ。それをやるなら砂糖とかキラキラモールとか電飾とか異世界素材で準備する必要なかったじゃないか。俺のいろんな努力を返せと言いたい。しかも、俺の着る衣装までミニスカ仕様ってどういうことだ? まあ、俺は運転席に座ったままだから変態扱いはされないだろう。


 クウちゃんは様子を見に来た領主様にもミニスカサンタ衣装を着せてしまった。32歳のスレンダーな女男爵様のミニスカ衣装はなかなかよい。クウちゃんGJ。ちなみに領主様もノリノリだった。




 夕刻を過ぎ、あたりが暗くなり始めるとツリーに飾られたイルミネーションがひと際美しく輝いて見える。

 この異世界での今の季節はまだ夏だ。だが、やはりクリスマスといえばやんわりと降る雪に反射するイルミネーションの明かりという幻想的な雰囲気が欲しい。氷魔法で雪を降らせる。子供たちは季節はずれの雪に大興奮だ。さすがに雪だるまが作れるほど積もらせるわけにはいかないが。





 

 舞台装置は整った。さあ、クリスマスパーティーの本番だ!


 領主様のあいさつで乾杯が始まる。おいおい、孤児院の庭なのに酒の屋台まで出していいのか? もちろん、子供たちには果汁の飲み物が無料で振舞われている。

 

 孤児院やセバン村の子供たちだけでなく、もちろん街に住む子供たちも大勢集まってきている。街の大人たち、冒険者や旅人たちも集まって孤児院の庭には入りきれず周辺の道路や空き地までにぎわってくる。


 ザトラさんやペーニャさんはうっとりとしながらツリーの明かりを見上げている。うん、連れてきてよかった。

 ギルドマスターのドニさんは酒を飲んでいる冒険者たちに騒ぐなと言って回り、戦士長の地位に返り咲いたガエタンさん達も門番の兵士たちや、洗脳を解かれて正気に戻った元騎兵たちと一緒に騒ぎを起こす大人がいないか見回りをしてくれている。真面目なのはいい事だが、せめて酒の一杯でも楽しんでほしい。


 ミニスカサンタコスに身を包んだ領主様とクウちゃん、ランシールとリンシールにミネットが軽トラの荷台に乗って子供たちにプレゼントを配っていく。軽トラの運転席には俺が座っているが、先導の馬たちは的確にまだプレゼントをもらっていない子供たちを見つけてそちらに軽トラを引っ張っていくので俺は一切運転していない。ギアをニュートラルに入れてハンドルを馬の動きに合わせて操作するだけだ。

 子供たちへのプレゼントはクウちゃんが準備していた。ミニスカサンタコスを異世界売店で買うような彼女の事だから、いったい何を準備したのか気になった。いたいけな子供に変なモノを渡してないだろうな? 

 アトラからプレゼントを見せてもらったところ、俺の懸念は見事に外れてプレゼントの中身はこの異世界の言語で書かれた絵本と筆記用具、ノートのセットだった。この世界の住民は識字率が低いようで、渡された絵本は子供たちが楽しく字を学べるように工夫された内容だった。どうやって準備したのか後でクウちゃんに聞いたところ「わたしの自作よ!」と言っていた。孤児院とセバン村、街の子供たちを合わせて500セット位は用意したようだ。そんな量をどうやって準備したのかは気になったが、やっぱり『異世界売店』で厚紙印刷可能なプリンターとノートパソコンを購入して、印刷したものを製本テープで作成したらしい。パソコンとかけっこう高かったんじゃないか? まあ、最近は懐があたたかかったからそれくらいはいいか。せっかくだから俺も日本の長男と次男にクリスマスプレゼントでも準備するか。あ、でも日本は今夏だったな。本当のクリスマスまでに何か考えておこう。




「ハヤト! プレゼントは配り終わったわよ! そろそろアレいっちゃって!」


 クウちゃんに声を掛けられ思考をやめて周囲を見渡す。プレゼントをもらった子供たちの嬉しそうな笑顔。おいしいケーキをほおばるおいしそうな笑顔。料理や酒を楽しみ安らぎの笑顔を浮かべる大人たち。


 ああ、周りが笑顔で埋め尽くされている。心の底から良かったと思う。この街を解放できて、クリスマスパーティーを開催できて。

 人の笑顔を見る事が、人を笑顔にすることこそが幸せなのだと実感する。俺の顔も自然と笑顔になっていた。


「ハヤト! 気持ち悪いニヤケ顔してないで、早くアレやっちゃってよ!」


 気持ち悪いとは失礼な。まあいい。おじさんはそんな誹謗中傷なんかに負けないのだ。慣れているともいう。


 俺は火魔法の魔力発動をイメージ。


 大きく、高く、丸く、そして色とりどりに!





「「「「「「た~まや~」」」」」」


 クリスマスパーティーのメイン演出としての打ち上げ花火。


 明日も、これからも、皆の人生が幸多く笑顔の絶えないものでありますように。



  Happy Merry Christmas!!



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