39、おじさん、メオンの街を解放する
クリスマスSSに話の時系列を合わせるため連日更新です
昨日、一日当たりのアクセスが1,000を超えました!
皆様のおかげです! 本当にありがとうございます!
また、評価や感想、ブクマも頂けて嬉しい限りです♪
これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
……何故? 何故奴がこの場にいるのだ。
今日の朝、著しい功績をあげた冒険者への報奨授与式を急遽執り行うと女領主から連絡があった。
もはやこの街の実権は副領主たる自分たち一派が握っている。だが、いくら名目だけとはいえ領主は領主。領民や冒険者への賞罰は領主の名前で行われるのがどこの土地でも慣例であり、それがゆえに領主が自由に行える残されていた数少ない権限だった。
朝に連絡を受けたときには落ち目の領主が少しでも威厳を保とうとして悪あがきでもするのだろうと一顧もしなかった。副領主として式典に参列してほしいと言われた時も面倒としか感じなかった。
昨夜は、おかしな魔道具を操り、住民たちに魔物の肉を振るまってご機嫌を取るような目障りな奴をひねりつぶした祝杯を挙げていた。王都の高級娼館から奴隷にして払い落とした女どもを侍らせ美酒を愉しんだ。朝になっても酒精が抜けず怠さの残っている体を起こし、昨夜は体がもたず可愛がる事が出来なかった少女の一人を日の光の下で組み伏せようと考えていた矢先の領主からの連絡だった。
不愉快だ。これからあの幼い少女の身体を味わいつくそうとしていたところへの式典への出席依頼だ。断ろうとも考えたがまだこの街の実権を完全掌握しているわけではない。儀礼的な式典に出席しないとなれば領主や民衆寄りの地元貴族などから面と向かった批判を浴び議会工作などに支障をきたしてしまう。この街を完全に支配して主たる国王陛下に報告するまでは慎重に事を運ぶ必要がある。しぶしぶ儀礼服に着替え、式典に出席したところで我が目を疑う光景が目に飛び込んでくる。
昨夜の部下からの報告では――
従前の計画通り、『魔物を呼び寄せる「魔呼びの魔笛」を使って魔物を呼び、それを自分で撃退したような狂言を打って街の民を油断させておいてから街を襲おうとしていた怪しげな魔道具使いを騎士団で討伐した』というシナリオの元、あの子憎たらしい魔道具使いの夫婦の息の根を完全に止めたという事ではなかったか。
虎の子の魔法兵団を増員してゴーレム3体で陽動をかけ、強力な火魔法の高温で魔道具の中から引きずりだした使い手夫婦の首を騎士団で切り落としたと――。
報告に来たのは腹心の部下である税務官バンジャマと、王都より共にこの街に連れてきた騎士団長だ。今日の昼過ぎにでも完全破壊した魔道具と使い手夫婦の首を検め、その夜に部下たちにも酒と女を振舞う宴を行うはずではなかったか――。
なぜ、殺したはずの魔道具使いが生きていて、目の前に立っているのか。
副領主、ロドリグ・ブリュール準男爵は、その疑問の答え、決して望まぬその答えを眼前で見せつけられることになった。
「ではここに、ゴブリンキング並びにその集落を殲滅した勇気と武勇を称え、領民を代表して感謝状と報奨金として金貨10枚。及びメオンの街に屋敷を与えるものとする。ということでハヤト殿、ご婦人殿、これで貴殿らはこのメオンの街の住人ともなったわけだが、住民の立場から、このメオン男爵領領主であるわれになにか直訴したいことはないか?」
俺は壇上の領主様に向かって軽トラを左向きで停め、運転席から降りたその場で膝をついて領主様からのお言葉を賜る。その右隣には助手席から降りて回り込んできたクウちゃんも同様に膝をついている。クウちゃんも演技とはいえ人に頭を下げる事が出来たことに少し驚く。
その後ろにはセヴラルドたち『青銅の家族』やトランティニャン商会のミネットも並んでいる。門番のガエタンさんや冒険者ギルドマスターのドニさんは少し離れたところで待機していた。
「はい。ではお言葉に甘えて。どうやらこの街では忠臣を僭称し私利私欲のために領民や旅人たちに不当な税や役務を課し、あげく領主様をないがしろにし領内に我が物顔で蔓延る輩がいるようでございます。実は昨夜、俺たちはその輩からの襲撃を受け命を狙われまして――、 いや、言葉で申してもどうせそのような不逞の輩、虚言だなどと難癖をつけてくることと思いますので、まずは証拠をご覧ください。」
『カスタムスキル「野外ステージ」が発現しました。CP100を使用して「野外ステージ」を有効化しますか Y/N?』
俺が「Yes」と意識すると、軽トラの荷台には大きなスクリーンが現れる。
公園とかでミニライブをするローカルなバンドや演歌歌手が使っているのを見たことがある、軽トラの荷台に司会者や歌い手が上がる簡易野外ステージだ。荷台にはマイクやアンプ、スピーカーといった音響設備が組まれ、映像を映し出すプロジェクターのスクリーンもセットされている。
今回使うのはスクリーンと音響のスピーカー、流すのは昨夜に俺たちが受けた襲撃の一部始終だ。
昨夜、俺たちは外壁外のいつものところで野宿を装い、何時ものように『カーナビ』の『索敵』を使って3度目の襲撃を待ちかねていた。
索敵の画面には、外壁上に陣取る6つの赤い三角が映っている。ここまではほぼ昨夜までと同様であったが、昨夜までと違ったことがあった。今回は魔物を呼ぶ笛の音は鳴らず、いきなりゴーレムが現れたのだ。しかも3体。一体は昨夜と同じストーンゴーレムのようだが、他の2体はどうやら土が素体となっているようだ。おそらく操る魔法兵の闇魔法ランクが低いのだろう。
ゴーレムたちはゆっくりとした歩みで軽トラの周りを取り囲み、車体に殴打をしてくるかと思いきや、ゴーレムたちは軽トラの前に2体、後ろに1体で取り囲み軽トラが走り出せないようにその車体を固定する動きを見せる。それと同時に街の中からその数30を超える赤い三角の点が現れこちらに向かってくる。移動速度から見て騎兵と馬車の一団だ。
軽トラの周囲を炎が包む。馬車に乗っていた魔法兵が攻撃魔法を放ってきたらしい。石や土で出来たゴーレムたちはそんな炎をものともせず軽トラの周りを取り囲んでいるままだ。
どうやら奴らの狙いはゴーレムで軽トラを動けないように固定して逃げられないようにし、そこに炎魔法を叩きこんでくる作戦のようだ。といってもこの軽トラに生半可な魔法が効かないことは奴らも昨夜までの襲撃で理解はしているだろう。とすれば奴らの狙いは軽トラではなく中の俺。熱さに耐えきれず軽トラを降りて逃げようとしたところを騎兵たちで始末する目論見なのだろう。
昨日までは笛を使って魔物を嗾けたりゴーレムを使役していたのに今夜は騎兵や魔法兵といった人間の戦力をあててきたことからみて、今夜の襲撃は奴らも本気のようだ。
だが甘い。その作戦は、うちの『軍師』が看破済みだ。
俺は、その作戦にまんまと嵌められたかのように運転席のドアを開けて外に出る。それを好機と見た騎兵たちは俺の周囲に群がり剣を抜き俺の首に剣戟を叩きこもうと殺到する。
だが残念。その攻撃は俺には通じない。
軽トラの「運転手」である俺には「保護距離」が設定されている。軽トラの固有スキルである『搭乗者保護』の機能は、軽トラから一定距離離れれば死んでしまうデメリットの代わりにレベルに応じた一定の距離の範囲で「運転手」である俺へのあらゆる攻撃を無効にする。
今の軽トラのレベルは昨夜の襲撃を退けたことでまた上がって現在「25」。今の俺を殺そうとするなら軽トラから25m以上引き離すことが必要なのであり、つまりは剣で切ろうとするよりも縄かなんかを俺に括り付けて引っ張っていく方がよほどの有効打となりうるのだ。まあ、縄を掛けようとする時点で攻撃とみなされて無効になるだろうが。
攻撃の通じない俺を見て、鋭利で重い剣の攻撃が生身の人間に通用しないという事象が信じられない騎兵の連中は一瞬ひるむ。周りの時間が停止したかのようなその一瞬に向け、俺は軽トラスキルの魔法を発動する。
奴らの作戦全てを看破していたクウちゃんの指示のもと、あらかじめ軽トラの周囲の地面には水魔法でたっぷりと水をしみ込ませておいた。
あらかじめ水分を含ませていた範囲にすべての騎兵や馬車が入っている事を確認し土魔法(4)でその地質を砂が多く含まれたものに変質させる。そこでギアをローとバックに交互に入れて軽トラを前後に動かし、取り囲んでいるゴーレムに打撃を与える。ゴーレムと軽トラとの間の隙間はわずかなものであるが、それでも激突の衝撃で地面にも衝撃が伝わる。
水分を多く含んだ砂地の地質、そこに加わる一定以上の強さの振動。
これがもたらすものは――
液状化現象。
質量の大きいゴーレム、華美な飾りや鎧を付けた騎兵の馬や兵士、過剰な装飾でその重量を増した馬車の車体がまるで蟻地獄の巣の様に地面に吸い込まれる。
騎兵や魔法兵らは腰から胸にかけてその身を沈め、馬車の車体は半分ほど地に埋まり、馬たちも首から上を残してその体を地面の下に隠している。
そこに追い打ちで魔法を発動。『精神干渉』を(1)→(4)に上げ、広範囲指定で『麻痺』を掛ける。突然地面に埋まり混乱していた兵士たちの精神状態ではいかに精鋭の魔法兵と言えどもレジストはできなかった。
兵士たちの顔が驚きと恐怖にゆがんだまま麻痺魔法で固定されたとき、物陰に隠れていた人たちが現れてその体を地面から引き揚げ縄で縛る。
実はこの場所に来るときに『キャンピングカー』を発現させ多くの味方も一緒に乗せて連れて来ていたのだ。
『キャンピングカー』で形成される空間は『部屋』というイメージのあるものに限られ、またその広さはクウちゃんの時空の恩恵で軽トラの荷台をはるかに超えるスペースまで内包する事が可能だ。
通常のキャンピングカーの室内や、以前クウちゃんが桃色イメージで発現させたラ〇ホのような部屋ではさすがに大人数を収容する事は出来なかったので、今回発現させたイメージは「大部屋」だ。
修学旅行でクラスの男子全員が泊まり、枕投げを行えるような大部屋をイメージしたところ、広さ60畳ほどの広大な広さを持つ大部屋を内包するものが軽トラの狭い荷台の上にできてしまったのだ。ちなみに外観は通常の軽トラキャンピングカーのままだ。
その「大部屋」に乗り込んだのはトランティニャン商会の比較的力の強い男性や獣人の従業員、そしてガエタンさんの仲間の門番の人たちだ。彼らはこの場所に着くと大部屋から出て林の中に身を潜めこのタイミングを待っていたのだ。ちなみに、なぜ大部屋の中で待たなかったのかといえばCP総量の関係で戦闘中は『キャンピングカー』を解除しなければならなかったからだ。
なぜCPが足りなかったのか? それはこの襲撃の一部始終を証拠として映像に収める必要があったからである。
そう、この場にスタンバイしてからすぐに『ドライブレコーダー』をCP40で発現させ、録画をしていたのだ。
CPは『カーナビ』で20、『索敵』で40、『ドライブレコーダー』の40を足して最低でも100必要だったため『キャンピングカー』は解除せざるを得なかったのだ。ちなみに『ヘッドアップディスプレイ』もCPが40必要でポイント不足になる為発現させていない。まあ、カーナビの通常画面でも事足りたのだからよかったのだが俺的には残念だった。くっ、はやくもっとレベルを上げてCP総量をあげなければ。
軽トラを襲ってきた騎兵たちが捕縛されると時を同じくして外壁側で待機していた『青銅の家族』やギルドマスターのドニさんは他の冒険者たちと協力して外壁の上でゴーレムを操っていた6人の魔法兵を拘束している。それによって制御を失ったゴーレムたちは地面に半身を埋めたままその形を保てなくなり文字通り土へと還っていった。
捕縛され、縄で縛り上げられた兵士は一人ずつ『自動積載』のスキルで軽トラの荷台に上げられていく。運転手である俺に『搭乗』を許可された兵士たちは『搭乗者』とみなされ、軽トラの固有スキル『状態異常無効』と『精神攻撃無効』の効果が発動し、俺がさっきかけた『麻痺』の魔法の効果も無効化される。
兵士たちの多くはそこで正気に戻る。先ほどまで殺気立っていた目が温和なものに変わり、そして今までの自分の行動を思い出し、戸惑いと深い後悔の表情に染められていく。
そう、彼らの多くは闇の勢力による『洗脳』にかけられていたのだ。洗脳の解けた兵士たちは、
「自分は、国を、民を、家族を守るために兵士になり、鍛錬を積んで王国騎士にまで上り詰めたんだ! 断じて民を苦しめるつもりなどなかった! 国王や副領主たちに怪しい術にかけられて……そこから正気を失って……。ああ! 自分はなんてことをしてしまったんだ! 操られていたとはいえ罪もない人や子供をこの手にかけてしまうなんて!」
まるで懺悔でもするかのように同じようなことを叫ぶ者たちがほとんどだった。中には洗脳にはかかっていなくとも、家族を養うため、家の出自の柵の為など、正気を保ちながらもやむなく副領主らの命令に従っていた者も数名いた。驚いたのは、今回の襲撃の総大将として馬車の中に乗っていた人物、副領主の側近と思われていた税務官のバンジャマもまた洗脳の被害者だった事である。
・・・・・・・
軽トラの荷台に設けられたスクリーンに映る昨夜の出来事の一部始終。メオンの街の行政府の入り口前広場集まった多くの領民もまたその映像を見ていた。
最初は理不尽な襲撃を掛けてくる騎兵たちへの怒りの声が多く上がっていたが、洗脳の解けた兵士たちの独白が続く場面になると、皆、操られていた兵士やバンジャマに同情した。
その映像を青白い顔で一言も発せずに見ていた副領主、ロドリグ・ブリュール準男爵は映像が終わったところで我に返りハッとする。いつのまにか、彼の周囲にはついさきほどまで自分の部下だと思っていた男たち――、 税務官のバンジャマや騎兵の騎士たちにいつの間にか周りを取り囲まれていたのだ。
「さて、副領主、ロドリグ・ブリュール準男爵。そちの働いた悪行は他にも様々あろうがとりあえずは今明らかになった分でも充分だ。領主権限でそちの副領主の任を解く! 並びに無辜の旅人を不当に殺害しようとした罪で捕縛する! 縄を打ち地下牢に連行せよ!」
この日、セレスティーヌ・メオン男爵が治める男爵領、そして領都メオンの街は数年ぶりに闇の勢力の干渉から解放されたのである。
いつもありがとうございます。
ブックマーク、評価をいただければとても励みになります!
感想、誤字報告、レビューもお待ちしております。
今後ともよろしくお願い致します。




