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38、領主さん、『メオンの街解放戦線』の盟主になる

クリスマスSSに話の時系列を合わせるため連日更新です


「この度は領内に出現したゴブリン集落の殲滅、およびゴブリンキングの討伐、誠に大儀であった! ここに領民を代表して感謝を示し、その功績に対し報奨を与えるものとする!」


 俺達は今、メオンの街の行政府の入り口前にある前庭にいる。男爵領の行政府の前庭と言ってもそれほどの広さはなく、イメージで言えば日本の県庁や市役所の玄関前にある車寄せを含んだちょっとした駐車場と言った感じだ。もっとも、庁舎たる建物は中世の雰囲気漂う3階建ての機能的な建物であり、駐車場と言っても馬車が数台停められる広さで、その周囲は花壇や生垣で囲まれている。


 そして、俺の目の前にいるのはこの男爵領を治める領主様、セレスティーヌ・メオン男爵である。







・・・・・・・・・・・・


 セレスティーヌ・メオン男爵は女性だった。年齢は30歳くらいだろうか。領内に人道的な為政を行い、領都であるメオンの街の治安は良く、住民である獣人や亜人も人間族と変わらぬ扱いを徹底しているほか孤児院や療護院への支援も厚い。また、領内の村や街道の安全にも心を配り定期的な魔物の調査や駆逐を行っており、そのため領内の村近辺は魔物の脅威がほとんどなく領民から信頼され信奉されている。


 だが、そんな領民たちの平穏は一人の男が現れたことで揺らいでいく。王都から副領主として派遣されたロドリグ・ブリュール準男爵の存在によって。


 王都では新王が即位した5年前から、それまでの平等主義から打って変わり人間族至上主義の政策を取り始めた。その政策に面従腹背で獣人や亜人をこれまで通り平等に扱うメオン男爵領に対しての査察官という名目で副領主と役人、騎士たちが派遣されたのである。


 名目は査察ではあるが、実質は領主を失脚させて男爵領を接収しようとする意図である事は誰の目にも明らかであった。


 王の勅命で派遣された副領主は次々と民衆を圧迫する施策を広めた。領主のセレスティーヌ・メオン男爵はそれを何とかして阻止したかったのだが、王の勅命には逆らえない。逆らったり、なにか口実を与えてしまえば即刻貴族位の剥奪と男爵領が没収される事は目に見えており、領民を守るため、現在の地位を保つためにと耐え忍んでいたのだった。


 そんな折、一昨夜のこと、彼女のもとに人目を忍んで面会を望むものが現れた。以前は領主直属の戦士長を務めていたが副領主により門番に左遷されてしまったガエタンと、ドワーフであり冒険者ギルドの長を務めるドニの2名だった。

 この2人が連れ立って面会に来ることは初めての事で訝しむも、どちらも彼女にとっては信用のおける人物であり、かつては領内運営の業務で少なからぬ交流もありその人となりも知っている。

 なにか街に関する重要な案件である事を察し、執務室に通し、人払いをして盗聴防止の魔道具を起動させて2名の話を聞く。


 話の内容は、セバンの村近辺でゴブリンキングの率いるゴブリン集落を殲滅させた魔道具(軽トラ)使いの冒険者を行政府に呼び出し報奨を与えて欲しいとの事。

 詳しく聞けばその魔道具(軽トラ)使いは副領主の子飼いである税務官より魔道具(軽トラ)の街への持ち込みに不法な税を課されてそれを拒否。その魔道具使いは魔道具と離れると死んでしまうという制約があり実質入街を阻まれている状況にある。


 そして昨夜、その魔道具使いの存在を快く思わない副領主一派から魔物を嗾けて弑そうと襲撃されるも、それを全て退け、しかもその時に倒した魔物の肉を孤児院の子供たちに振舞ったというのだ。これにより、民衆はゴブリンキングをも倒している魔道具使いをちょっとした英雄と崇め、それに伴い副領主一派への反発が強まっている。

 この機に魔道具使いに報奨を与える名目で街の中に招けば、難癖をつけて魔道具使いの入街を阻むどころか面子を潰された腹いせに魔物を嗾けるような副領主一派の鼻を明かし、その影響力を大きく削げるのではないかという提案であった。


「ふむ、そちたちの言いたいことは分かった。先日の外壁外でのお祭り騒ぎの件も私の耳に入っている。確かに、どうせこのまま耐え忍んでいても奴らに領地を接収されてしまうのは時間の問題だから何か一矢報いたいところではある。だが、その軽トラ使いとやらは信頼できるのか? 副領主らと敵対しているのは確かだと思うが、英雄と評された後で手のひらを返して民たちに貢物や若い女を差し出せなどと無体を言い出したりするような可能性はないか?」


「それは全く心配ございません。軽トラ使い――、彼の名前はハヤトといいますが、彼は率先して冒険者たちに魔物解体の仕事を与え、孤児院の子供たちにと魔物素材の肉を振舞っておりました。自分に何の益も無いのにです。純然たる善意です。それに、一緒に行動しているクウちゃんという若い妻もおります。わざわざ街の女性に手を出すことはありません。」


「そうだ。それにハヤトはドワーフの俺に対しても普通に、いや、敬意をもって接してくれた。それにトランティニャン商会の娘のミネットも奴の事を信頼している。というか、あれはもう信頼以上の何かだな―― ともかく、ハヤトは信用できる男だ。長年ギルドマスターをやっている俺が断言する。首を賭けてもいい。」


 領主セレスティーヌ・メオン男爵の懸念に、かつての戦士長であった門番のガエタンと冒険者ギルドマスターのドニが答える。


「そうか、そちたちがそこまで言うのならそのハヤトとやらは信用しても問題なさそうだな。確かにその者に報奨を取らせることで奴らの鼻を明かすことはできるだろう。奴らの間抜け面を拝むことができるのはとても愉快なことだ。しかしな、それだけでは決定打にはなり得ないのもまた事実だ。面子を潰された奴らが、なりふり構わずわれを放逐にかかるやもしれぬし、腹いせにさらに民衆に対して締め付けを厳しくされると困るのは民たちだ。安易には了承できかねるな。」


「ええ、そうおっしゃると思っていました。正確には、『メオンの街解放戦線』の『軍師』たるクウちゃんさんが、恐らく領主様はそのようにおっしゃるだろうと言ってました。」



「!! なんだ、その『メオンの街解放戦線』というのは! 詳しく教えてくれ!」


「はい、ここからがお話のメインになります。クウちゃんさんの話では、ぜひ領主様に『メオンの街解放戦線』の盟主に就いて頂きたいとの事でした。」


 

 ガエタンから解放戦線についての詳しい話が続く。


 魔道具(軽トラ)使い――ハヤトなる人物と、その妻である『メオンの街解放戦線』の軍師クウちゃん。この2人は、このメオン街の現状を聞いて、特に孤児院の子供たちや奴隷落ちになる子供たちが奴らの人身売買に供される事を嘆いてこの街を救おうとしているらしい。

 そのためにはかつて善政を布いていた領主であるわれを味方に付けたい。だが、向こうからすれば領主であるわれの人となりがまだ分からない。もし、われが単に領主や貴族という立場や権益に固執するだけで、その権限を奪おうとする副領主と敵対しているだけの人間であれば味方に付ける意味はなし。

 だが、本心から民の事を思い憂いている人物なのであればぜひ盟主となってこの街に善政を取り戻してほしいということらしい。

 つまり、今のガエタンやドニとの会話の中で、われが自分の保身のみを考えて奴らの鼻を明かすことだけを目的としてあっさりと提案に乗り、そのことによって不利益を被るかもしれない民の事を慮る言動をしなかったら、私はそのクウちゃんとやらに見限られることになったのだろう。


「そうか、われはそのクウちゃんとやらに見定められていたのだな。」


「はい、失礼をご容赦いただければ幸いです。ですが、クウちゃんさんの見込み通り領主様が民のことを第1にお考えになっている旨を直接のお言葉でうかがうことができ、また『解放戦線』の盟主にお誘いする事が出来て正直安心しております。」


「ああ。そのハヤトやクウちゃんという者たちに伝えてくれ。『解放戦線』の盟主への就任要請、謹んでお受けしたい。そして、この街の民を救うためにご助力願いたいと。」


「「ご英断、ありがとうございます。必ずや申し伝えさせていただきます。」」


 ガエタンとドニが意を得たりと微笑み、深く頭を下げる。



「それで、どうするのだ? ハヤトとやらに報奨を授与するのはかまわないが、そこまで深く考えている御仁たちだ。単に奴らの鼻を明かして終わりではないのだろう? 民たちにとばっちりを加えさせないようにその先の事も考えているはずだ。われは何をすればいい?」


 セレスティーヌ・メオン男爵、32歳独身の女性。容姿端麗で妖艶ともいえる美貌の女男爵はまるでとても面白いいたずらを考えている子供のように無邪気な笑顔を浮かべている。


「はい、クウちゃんさんが言うには、実際に報奨授与の為に街の中、行政府前まで呼び出してもらう事は先ほどのお話通りなのですが、その日程をこちら(クウちゃん側)に一任して頂きたいとのこと。さすれば、最も効果的なタイミングで最も深刻なダメージを奴らに与える事ができ、その結果として領主権限として副領主一派を堂々と解任する事ができるとのことでした。」


「なんと! おもしろい! 奴らを解任できるほどの材料があるというのか! おもしろすぎる! そのクウちゃんとやら、恐ろしく頭の切れる御仁と見た! ぜひこの機会にお近づきになりたいものだ!」


「ええ。では、『解放戦線』の盟主への就任、それにクウちゃんさんから連絡が入り次第、魔道具使いのハヤトへの報奨授与を執り行って頂けるということをご了承いただいたということでよろしいですかな?」


「もちろんだ! 戦士長ガエタン! 冒険者ギルドマスタードニ殿! この度は有益な情報を提供してくれたこと感謝する! これで……わが領民の民たちを苦しみから解放する事ができるやもしれん! クウちゃんやハヤトとやらにもよしなに伝えてほしい!」


「領主様、ありがとうございます。付きましてはもう一点のみ、クウちゃんさんからの伝言がございます。ハヤトに報奨を授与した際に、『なにか領内のことで直訴直訴したいことはないか?』と一言尋ねてほしいとのことでした。」


「もちろんかまわん! 察するにその一言が物事を動かすキーワードとなるのであろう。あ~楽しみだ! 民の笑顔と活気あふれる街が戻って来るぞ!」





 

 そして準備は着々と行われ、クウちゃんからの連絡が入り「領内のゴブリンキングが率いる集落を殲滅」した魔道具使いへの報奨授与が執り行われることになった。




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