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37、『青銅の家族』の戦い(2)


 軽トラのフロントガラス全面に投影されたヘッドアップディスプレイ。そこに映し出されているのは魔物であることを示す赤く丸い点。その点がゆっくりとこちらに近づいてくる。


 すでに、奴らが笛で呼び寄せた魔物たちはそのほとんどを『青銅の家族』(ブロンズ・ファミリア)たちが『軍師』クウちゃんの指揮のもと打倒した。


 実のところ、魔物の群れは昨夜も撃破している事から、今夜も軽トラの能力のみで掃討は問題なく可能であった。だがクウちゃんは『青銅の家族』たちにその戦いのほとんどを任せていた。

 これの意図するところは彼らに戦闘の経験を積ませること、どれだけ戦えるか確認したかった事に合わせ、彼らが自分たちの力で討伐を成し遂げるという経験や達成感、自信を得てもらいたかったというのが大きいだろう。冒険者としての承認欲求が満たされたとでもいうのだろうか。

 事実、彼ら彼女らの表情は実に晴れやかである。


 そして、クウちゃんはその先も見越していた。闇の勢力の手下である副領主一派との戦い。いま、眼前の敵を倒したとしても戦いには先があるのだ。闇の勢力はこれからも手を変え品を変え俺たちを弑するべく立ちふさがって来るだろう。今は緒戦の小手調べに過ぎないのだ。

 『車体不壊』の加護を持つ軽トラははっきり言ってほぼ無敵だ。小規模な局地戦ならば確実に完勝できるといってもいい。だがこれからは戦場が広がる。無敵であっても単一の戦力のみでは全体的な戦略で勝ちを拾うのは不可能である。

 俺たちは単に敵を撃退するだけでなく、この世界に生きる人たちを闇の勢力から守らなければいけないのだ。戦いの勝利は手段であって目的ではない。つまり、俺たちには『青銅の家族』のような信頼できる仲間という戦力の増強が必要不可欠なのだ。

 俺たちがいなくても戦場を任せられる将軍のような存在や、軍備や糧食を管理する文官、拠点となる街や村の確保はもちろん、その街や村を治めてくれる人材も必要である。

 『青銅の家族』のメンバーたちにはぜひ戦場を任せられるような役割を担ってもらいたいというのがクウちゃんの意図するところだろう。







 赤い点が目視できるまでの距離まで近づいてきた。本日最後の敵だ。


 その敵の姿は―― 石だ。デカい。堅そう。パワーありそう。


 いわゆるゴーレムという奴だった。



 昨夜の魔物を俺達(軽トラ)が全て無傷で倒したことを知った奴らは軽トラの破壊を試みるべくゴーレムをあててきたようだ。魔物の突進や牙や爪でも傷つかない軽トラを硬さと力の打撃で粉砕しようとでも考えたのだろう。



 後で分かったことだが、敵はこのゴーレムを使役するにあたり2人の魔法使いを投入していた。

 一人が「土魔法」でゴーレムの身体を形成。どうやら術者の魔法ランクでゴーレムの硬さや材質が変わるらしく、ランクが(2)までで土、(3)で石、(5)で鉄、(7)で鋼、(8)でミスリルとなるらしい。(10)にまでなるとアダマンタイトかオリハルコン並みの硬い金属でも生成が可能になるとか。また、鉄以上は金属の精錬も必要になるので同ランクの火、水、風魔法も必要となるし、もちろんミスリル以上の希少金属は元となる金属素材が必要となる。

 そしてゴーレムを動かすためには「闇魔法」による使役が必要であり、動かすためには形成に必要な土魔法ランクと同等の闇魔法ランクが必要になるとの事で、もう一人の敵がその役目を行っていた。

 

 魔法ランクについてだが、(3)以上というのはDランク以上の冒険者でもそれほど多くはなく、冒険者ギルドで把握している限りでは、魔法の最大ランクは王都にいるSSランク冒険者の火魔法(8)とされている。こうしてみるとリンシールの火魔法(5)やランシールの回復魔法(5)はけっこう優秀と言える。

 ちなみに「闇魔法」は所持者がとても少なく、冒険者ギルドに所属しているものの中にはその使い手は確認されていない。王家や貴族の私兵の中に数名、その存在が噂されているに過ぎないとの事であり、今回「闇魔法」の使い手が投入されたという事は副領主は虎の子を投入したという事になる。

 今回投入されたゴーレムは「石」だったので、おそらくは敵の魔法ランクは「土」と「闇」が両者(3)以上だったという事になり、魔法属性からして闇魔法の術者がランク(3)、土魔法の術者はそれと同じかそれ以上であるとの推測が成り立つ。




 

 石でできたストーンゴーレムが軽トラのすぐ目の前にまで迫ってきた。ゴーレムはその石でできた両腕を体の前で組みあわせ、軽トラを叩き潰そうと両腕を振り上げる。


「ゴーレムちゃんの攻撃力を確認しておきたいわ。そのまま動かずに待機しててね!」


 クウちゃんの指示に従い、俺たちはその位置のままゴーレムの両手を組んだ振り降ろしの攻撃を受ける。


「ドガ――――――ン!!!!!!」


 石の腕が軽トラの車体にあたる轟音が響き、俺は思わず両耳を手でふさぐ。予想通り、車体には一切のダメージはない。だが、その衝撃、揺れ、音は中に乗っている者の心の耐久値を削るかのごとくだ。もしかすれば、この攻撃には物理的効果のほかに「恐慌」をもたらす効果もあるのかもしれない。軽トラの固有スキル『搭乗者保護』に含まれる「精神攻撃無効」「状態異常無効」が働いているとはいえ、運転席にいる俺たちでも結構な恐怖を感じている。荷台の上にむき出しで乗っているセヴラルドたちはもっと恐ろしいだろう。


「セヴラルド、大丈夫か?」


「……大丈夫は大丈夫ですが…… きついものがありますね……」


 だろうな。直接的なダメージがないとはいえ恐怖感はぬぐえないだろう。



「で、どうだ? 『青銅の家族』は(ゴーレム)は倒せそうか?」


「剣も魔法も効かないんじゃないっすか?! どうやってあんなの倒すんすか?! 吹っ飛ばされんのがオチっすよ!」


 ソヴラルドが半分キレ気味に叫んでくる。うーん、俺も荷台にいて直であんな攻撃を目の当りにしたら文句の一つも言いたくなるだろう。気持ちは分からないでもない。


「だいっじょうぶよ! あなたたちなら楽勝で倒せるわ! 私の指示に従ってね~!」


 『軍師』のクウちゃんが叫ぶ。おいおい、ほんとに大丈夫なのか?



「全員、補助魔法(バフ)を重ね掛けして待機! ハヤトは軽トラを100m前進させて!」


 言われた通りに軽トラを前進させる。ちょっとビビって足が震えたのかクラッチの調整が甘くなりエンストさせるところだった。ん? 魔力で動く軽トラでもエンストすんのかな? 今はゴーレムがいるから無理だが後で試してみよう。もしエンストして『保護』の効果がなくなるようなら死んじゃうし。


 

 指定の位置に軽トラを移動させるとクウちゃんからの指示が飛ぶ。


「戦闘開始~! セヴちゃんは盾でひたすら防御ね! ランちゃんは氷魔法でゴーレムちゃんの右膝狙いね! ああ、イメージは攻撃じゃなくて凍らせて固める感じでお願いね♪」


 『青銅の家族』のメンバーは荷台から飛び降りて展開し、指示通り、セヴラルドは盾術でゴーレムの前進と攻撃を防ぎ、ランシールの氷魔法がゴーレムの膝に纏わりつく。それにしてもセヴちゃんって呼び方。ランちゃんはまだ分かるが。


「よおっし、お次はリンちゃん! 火魔法で膝の氷を蒸発させて! 大火力で一気にね! そしたらソヴちゃんは弓で膝に攻撃~! 射抜くんじゃなくて衝撃を与える感じでね!」


 クウちゃんの指示通りにリンシールの火魔法が飛び、ゴーレムの膝に纏わりついていた氷は一瞬で蒸発して霧散する。間髪入れずソブラルドの放つ弓矢が連続して5発着弾する。おお、早打ちか。やるな次男君。


「おっけ~よっ! 今の工程を繰り返して!」


 ソヴラルドが守る中、氷と炎と弓矢がかわるがわるゴーレムの右膝に着弾する。それを5回ほど繰り返したところで変化が現れた。


「ビキッ!」


 硬い物にひびが入る音。ゴーレムの右膝は斜めにひび割れ、自身の重みでそのひびを広げ、膝から下の足が地面についたままその巨体が重力に引かれて地に倒れる。


 クウちゃんは硬くて通常攻撃の通りにくいゴーレムに対し「部位破壊」を狙っていた。いくら硬いと言えど物質である。可動部として結合の甘い関節部を氷で冷やし高温で溶かす。その繰り返しにより、温度差による構成素体である石そのものへのダメージに合わせ、わずかな隙間の部分に入り込んだ水分が急激に気化する事でその隙間を広げて結合をさらに甘くさせる。そこに打撃を繰り返し行うことで破壊を容易にしたのだ。


 片足を失ったゴーレムは、それでもまだ動きを止めず残された両手を振り回してゼヴラルドたちを攻撃しようとする。だが移動能力をほとんど奪われたゴーレムの脅威度は数段下がる。とどめこそ刺してはいないがもはや勝負ありである。


「セヴちゃんたちお疲れ様! ね? あなたたちでもちゃんとゴーレム倒せたでしょ? でも、とどめを刺すのは手間がかかりそうね。ちゃっちゃと済ませちゃいましょ! ハヤト! 轢いちゃって!」


 こらこら。若い女の子(見た目だけは)が「轢いちゃって」なんて物騒な言葉を明るく使うんじゃありません。昔の暴走族のヘッドの彼女(スケ)みたいじゃないか。


 セヴラルドたちが全員荷台に乗ったのを確認して俺は軽トラのアクセルを踏む。横たわったゴーレムを軽トラで「轢く」。

 身体の厚みがあるので軽トラの車体は揺れに揺れるのだが、物理法則を無視するような動きでゴーレムを轢いて車体がその体の上を通り過ぎる。ゴーレムが両手を支えに体を起こす。半分起き上がったゴーレムに軽トラで激突すると今度は「撥ねる」が発動する。

 「轢く」と「撥ねる」のランクはどちらも(1)だ。だが、数回轢いては撥ねてを繰り返しているとランクが(1)→(2)、(2)→(3)へとみるみる上がっていった。そして、両方のランクが(3)になってから「轢いた」ときに石壁の崩れるような音がしてゴーレムの身体は石の瓦礫へと姿を変えた。胸のあったあたりからは大きな魔石が出てきたが、その後すぐに魔石も砕け散ってしまった。


「あ~あ、やっぱり。せっかく苦労して倒したのに銅貨の1枚にもならないのね。もう、ゴーレムってほんと嫌がらせ以外の何物でもないわね……。」


 静かになった夜の草原にクウちゃんのボヤキが沁みていく。


 『メオンの街外壁外の戦い』は昨夜の第1ラウンドに続き、今夜の第2ラウンドでも完全勝利で終わった。




レベル:21→25(Up!)

 HP ∞ ・MP max/30,000  ・SP 19/29・CP 39/145


≪分類≫:魔法道具


≪レア度≫:幻想級


≪運転者≫:橘隼人(専用)


≪固有スキル≫:

・MP駆動

・車体不壊

・成長可能性保持

・搭乗者保護

・積載物保護


≪スキル≫:

・MP自動回復(1)

・火属性魔法(1)

・水属性魔法(4)

・土属性魔法(4)

・風属性魔法(4)

・氷属性魔法(1)

・雷属性魔法(1)

・回復魔法(4)

・光魔法(1)

・精神干渉(1)

・時空干渉(1)


≪カスタム≫:

〈機能系〉

・エアコン(1)

・MP電力変換(1)

・幌(+)有効化必要CP5

・洗車(1)

・無限積載

・自動積載(1)

・カーナビ(通常)(+)有効化必要CP20

・カーナビ(索敵)(+)有効化必要CP40

・インターフォン(+)有効化必要CP1(New!)

・カーナビ(ヘッドアップディスプレイ)(+)(New!)有効化必要CP40


〈戦闘系〉

・轢く(1)→(3)(Up!)

・撥ねる(1)→(3)(Up!)

・隠蔽(-)


〈操作系〉

・悪路走破(1)


〈生活系〉

・異世界売店

異世界CDキャッシュディスペンサー

・簡易トイレ(-)有効化必要CP10

・ゴミ箱(-)有効化必要CP5

・キャンピングカー(通常)(-)有効化必要CP100


≪恩恵≫:時空


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