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36、『青銅の家族』の戦い

 『メオンの街外壁外の戦い』の第2ラウンド。


 『軍師』クウちゃんの指揮のもと魔物との相対を一方向に誘導し、魔物の足の速さの違いを利用して個別撃破を狙い土魔法で有利な戦場地形を構築することで敵の第1陣、角オオカミの群れを『青銅の家族』(ブロンズ・ファミリア)たちは危なげなく撃破した。


 『青銅の家族』の4人はクウちゃんの指示のもと、軽トラの荷台の上に戻りHPとMPを回復させながら魔物第2陣の来襲に備えている。


「さあぁーって、まだまだこれからよ!」


 クウちゃんは『青銅の家族』たちが全員荷台に乗ったのを確認して、さらに土魔法を発動。

 軽トラを中心とした場所の地面を数メートル盛り上げ小さな山を形成する。これにより、こちらに侵攻してくる魔物たちは山の傾斜を駆け上がりながら突進せざるを得なくなる。



「敵第2陣、来るわよっ! 迎撃用意!!」


 クウちゃんの指示でセヴラルドたちが戦闘態勢に戻る。迫ってくる魔物の第2陣は角シカだ。

 角シカは約20匹ほど。流れる様にこちらに向かって駆けてくるが、山の傾斜に差し掛かりその速度は半減する。


「遠距離攻撃はジャンプ中の前足を狙って!」


 指示通り、堀を飛び越えようと跳躍中の角シカの前足に弓と魔法が集中する。前足を破壊されたシカはうまく着地できずに堀のこちら側で転倒する。転倒して無防備な状態のところをセヴラルドとソヴラルドが剣でとどめを刺していく。

 堀のこちら側で絶命したシカたちはいい防壁となってくれる。後続のシカたちは堀のこちら側にある倒れたシカの身体も飛び越えようと大きく飛ぶため、無防備な滞空時間が増えるので魔法のいい的だ。


 角オオカミに続いて角シカの襲撃も危なげなくしのいだセヴラルドたちは再度軽トラの荷台の上で待機する。


「『青銅の家族』はいったん待機ね。ハヤト! 次の角イノシシは『お肉』がお高く売れるから昨日みたいにキレイに首だけ落としてね~」


 クウちゃんの指示通りイノシシさんには素材に余計な傷をつけないよう、軽トラに突進してくる間隙をついて一匹ずつ丁寧に風魔法で首を落とす。あとでおいしくいただきます。


 荷台で待機していたセヴラルドたちはひっきりなしに突撃してくるイノシシたちにビビっている姿を見て何だかかわいそうになったが、荷台の上が安全地帯(セーフティー)だという事を身をもって経験できたことで良しとしてもらおう。


 30匹近くのイノシシさんを処理すると、すぐに角サルたちが距離を詰めてくる。セブラルドたちは待ってましたとばかり荷台から躍り出て迎撃にあたる。


 サルたちは『堀』にトーチカのように身を隠し投石しながら連携して攻めてきたのには驚かされた。途中、セヴラルドが投石を盾ではじくのに気を取られた隙に前衛を抜けられた時はヒヤッとしたが、僧侶のランシールはスタッフで撲殺するわ魔法使いのリンシールは平然と蹴り殺すわで呆気に取られてしまった。



「なあ、なんだかセヴラルドたちとっても強くなってない?」


「はい! 以前ゴブリン集落で蘇生させていただいてからとっても身体が軽いんです!」


「そうなんすよ! なんか体を動かすイメージがすっと頭に浮かぶし、体もイメージ通り動くんすよね! 弓なんて外すイメージわかないっす!」


「うちの魔法も魔力がすんなり通る感じ―! おんなじ魔力の量でも威力マシマシ―!」


「……私としたことが、杖で殴るなんてはしたない事を……。 へへへっ、これはこれでたまらない感触ね…… この頭蓋を砕く感触……。ああ、魔物どもが私の足もとにひれ伏していくわ……。」


 約1名の僧侶の人が背徳的な目覚めをしてしまったようだが、各自以前より強さを実感しているのは確かなようだ。


 軽トラの固有スキル『積載物保護』は積まれた物の「鮮度増進」の効果がある。セヴラルドたちは命を落とした際『死体』として荷台の上に横たえたことで『積載物』として扱われ筋肉や血流、神経や魔力回路等の伝達系が最適化されたという事だろうか。だがそれではランシールの性格がマッド化したことの説明がつかない。いや、元からそんな性格だったのか?


 

 そういえば、セバン村ではセヴラルド達の手ほどきを受けた村人たちの戦闘能力が向上していた。幼いペトラがいきなり火魔法を使う事が出来たり、ペトラたちの母であるペーニャさんら村のご婦人の数人が初級の回復魔法を使えるまでに驚異的な成長を短期間で遂げていた。

 たった1~2日の手ほどきでそこまで成長するのは異様だと思える。何か他にも要因があったのではないだろうか?

 思い返してみると村での収穫のときにほとんどすべての村人たちを荷台や助手席に乗せて怪我や肩こりなんかを治したことがあった。となれば、やはりこの軽トラに乗ったことで何かしらの成長促進効果があったと考えるのが自然だ。


 頭に思い浮かんだのは『固有スキル』の『成長可能性保持』。このスキルは軽トラ自体のレベルアップにのみ適用される性質のものと思い込んでいたが、どうやら『搭乗者』にも効果があったらしい。

 

 おそらくは人が無意識に自分に課している成長の「リミッター」を外す働きでもあるのだろう。「おいらはしょせん村人だから戦う力なんて無いよ」「私は主婦だから魔法なんて使えるわけがないわ」なんて思い込みからくるセルフイメージを「村人だけど戦えるかもしれない」「主婦が魔法を使えたら素敵だわ」とかに書き換えることができたらどうなるか。


 人間の可能性は本来は無限である。だが、多くの人間は集団での生活の中で他人と自分を比べ、他者から評価され、周囲の環境も相まって自分の能力や限界を自分勝手に定義してしまう。その定義は潜在意識に刷り込まれ現実の能力に反映されてしまうと聞いたことがある。

 例をあげれば「あなたはとっても優秀だね」と言われ続けて育った子と、「おまえは何をやらせてもダメな奴だ」と言われ続けて育った子がいるとする。両者の能力は全く同じだったとしても、前者は活発で積極的で利発に育ち、後者は引っ込み思案で消極的で凡愚に育つといった社会学者の実験がある。「思い込み」は人の成長にとってとても大きな要因を占めるのだ。


 セブラルドたちにも、「しょせん自分たちはどれだけ努力してもDランクどまり」みたいな思い込みがあったのではなかろうか。それが何度も軽トラに乗車する事で「どんな強敵にでも鍛錬次第で勝てるくらい成長できる」という意識に書き換わったとすれば、単に体の動きが軽くなっただけでは説明のつかない根本的な強さの「芯」を手に入れたというのも理解できる。まあ、約1名の僧侶さんは「神に仕える僧侶とはかくあるべし」みたいな慎ましさのリミッターまで破ってしまったみたいだが。まてよ、という事はあれがランシールの包み隠すところのない本性という事か。どうやらSでマッドな女破戒僧を爆誕させてしまったようだ。


 

 角サルを倒し終えたセヴラルドたちに次の魔物、角クマたちが迫っていた。

 

 角クマはフィールドに出現する動物型魔物の中では比較的強く、その強さの目安は単体でも「C」ランクパーティーが必要とされている。そんな魔物が8体も迫ってきている。セヴラルドたちのパーティーランクは「D」。つまりこれまでセヴラルドたちには角クマを討伐した経験はない。さすがに動揺し始めたパーティーに『軍師』からの檄が飛ぶ。


「クマちゃんは強敵かもしれないけど『メオンの街解放戦線』の先鋒たる『青銅の家族』なら大丈夫よ! 任せるわ!」


「「「「おう! (はい!)」」」」


 強敵を任されたという意気込みが4人を奮い立たせる。この戦いはメオンの街を、街の人々を、そして子供たちを守る為であると、戦いという行為の意味を再確認することで闘志がみなぎる。


 セヴラルドは突進してくるクマの先頭を盾ではじき返す。数メートルのノックバックをもたらす「パリィ」という技法はタイミングや角度などをきっちり合わせないと成功しないと聞いた。その難しいパリィをセヴラルドはきっちりと連続で成功させていく。

 弾かれたクマたちにはソヴラルドの弓矢、ランシールの氷魔法、リンシールの火魔法が次々と浴びせられその体力を削っていく。途中、一本の矢がクマの眉間に刺さり一撃で絶命させる、クリティカルというやつだろう。氷魔法で足を凍らされ動きの止まったクマの首を狙いすまして風の魔法が首を落とす。パリィしきれなかったクマも盾と激突することにより少しずつダメージは貯まり、隙を見ては盾の横から剣の一閃がさらにダメージを叩きこむ。

 弓から剣に持ち替え遊撃に回ったソヴラルドがクマの前足での「鮭捕りパンチ」を食らい大きく吹き飛ばされるもランシールの的確な回復魔法が飛び、速やかに戦線に復帰する。そのわずかの隙を縫って突破しようとするクマの突撃はタンクであるセヴラルドが通さない。

 

 そして、最後に残ったクマの身体にリンシールの火魔法が炸裂し――。すべての角クマを迎撃する事に成功する。


「お疲れ様! クマさんたちに完全勝利よ! 荷台に戻って回復して!」


 セヴラルドたちは荷台に戻り4人でグータッチを交わす。『青銅の家族』として初めての角クマ討伐。しかも8体の群れを大きな負傷者も出すことなく完全勝利だ。

 この結果はもはやこのパーティーの強さが「D」ランクにとどまっている事を意味しない。過去に目指し、研鑽し、それでも届かなかった「C」ランクの壁をあっさり超えていることはだれの目にも明らかである。角クマの群れを単独パーティーで討伐できる能力、それは「B」ランクと評されても異を唱える者は少ないだろう。

 もはや、彼らは彼らの忌々しい記憶となったゴブリンキングすら屠る事ができる。この戦いで「自信」というものを身に付けた彼ら彼女らはさらにこれからも強くなっていくだろう。



 満ち足りた笑顔の4人からフロントガラスのヘッドアップディスプレイに視線を移す。そこの索敵モニターには、ゆっくりとこちらに向かってくる1つの赤い丸の点が映し出されていた。


 そういえば、街の外壁の上にいた魔物を呼び出す役目の奴らは昨夜は3人だったが今夜は5人に増えていた。増えた2人は何かを仕掛けてくるための増員だと思っていたが、このためだったのか。


 

 モニターの中の赤い点が近づいてくる。その距離はとうとうその正体が目視できるまでに

近づいた。



 さあ、本日のラストバトルの始まりだ。




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