35、クウちゃん、『軍師』ぶりを発揮する
クリスマスにSS上げようと考えています。
「ピ―――――――――――――――――――――――」
敵が魔物を呼び寄せる笛を鳴らした。
『メオンの街外壁外の戦い』の第2ラウンドが幕を開ける。
第1ラウンドと違うのは、荷台にセヴラルドたち『青銅の家族』パーティーが乗っている事。そして、クウちゃんの様子から考えて今夜のメイン戦闘を担うのは俺達ではなくセヴラルドたちのようだ。
「よっし来たわね魔物ども~!『軍師』クウちゃん様の華麗なる戦闘指揮をご覧あれ!!」
何かクウちゃんのテンションがやたら高い。テンションが高い人の隣にいるとなぜか冷静になるという効果が働き、俺はとっても冷めた気持ちになる。これはあれか? 俺やセヴラルドたちを落ち着けようとわざとこのような演技をしているのか? そうだったならば『軍師』として味方の精神状態を適切にコントロールできる有能な軍師と言えるのでは……。いや、それはないな。買いかぶるのはやめておこう。
「ハヤトはそのまま待機! いつでも軽トラを発進できる状態をキープしてね! 荷台の『青銅の家族』はしっかり軽トラに掴まってて! 急発進があるわよ!」
おお、クウちゃんが司令官っぽい。だがテンションが高くて若干ウザい。そういえばクウちゃんは光の勢力のなんとか班の班長さんだったと言っていたな。その時もこうやって部下を指揮していたのだろうか? その時も部下からウザいと思われていたのだろうか? 何となくだが、その部下の人とはいい友達になれそうな気がする。
クウちゃんは俺の失礼な思考にも気づかないようでカーナビ索敵のマップ表示を広範囲にして画面を注視している。
そうこうしていると、徐々に魔物が押し寄せる地響きが近くなってきた。魔物の先頭集団が肉眼でも確認できる。
索敵マップに移る赤い光の点の密度が増してきた。マップ表示では軽トラの右上にセバンの街があり、魔物はほとんどが左下から押し寄せてくる。他にも密度は薄いが上や下からも赤い点がこちらに向かっており、このままでは昨日の様に周囲を囲まれてしまうのは時間の問題だ。
「よっし、ハヤト! わたしのカウントで軽トラ発進よ! 発進後は速やかに進路を4時の方向に変更! 80Km/hで直進30秒!…………カウントいくわよ! ……3! 2! 1! 軽トラ発進!!」
「しっかり掴まれ(つっかまれ)ぇぇ―――――!!!!」
俺はクウちゃんの指示通りに軽トラを発進させる。やっべ。さっきまでものすんごく気持ちが冷めてたのになんか突然楽しくなってきた!
クウちゃんの指示が昔見たアニメを思いださせる。カウントダウンか? やっぱカウントダウンはおじさんにまでも少年の心の高揚を思い出させるのか? 今の俺はコスモ〇イガーを発進させる古〇進の気分だ!
カーナビの画面を見ると、絶妙なタイミングで魔物たちの包囲を抜けたことを確認できる。クウちゃんはこのタイミングを計っていたんだな。
「ハヤト! 相対座標S500,w600地点で船首を左90℃に向けて停止! 『青銅の家族』は軽トラ停止後ただちに強化魔法全開! 車輌左側面に展開せよ!」
「「「「「はっ!」」」」
やっべ、俺までノリノリで返事しちゃったよ。楽しいけどちょっと恥ずかしい。
ところでいきなり「相対座標」とか言われてもよくわからんのだが……あ、カーナビマップの中に座標軸が振られているのね。このカーナビ画面は日本の標準的な大きさだから戦闘とかとっさの時にはちょい厳しいな。どれ、S500,w600だな。よし、あのあたりだな。
『カスタムスキル「カーナビ」に「ヘッドアップディスプレイ(HUD)」が発現しました。「カーナビ」「索敵」にCP40を上乗せして「ヘッドアップディスプレイ(HUD)」を有効化しますか Y/N?』
キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!
ヘッドアップディスプレイ!! フロントガラスのほぼ全面が半透明で運転の視界を妨げないカーナビ画面とかになるやつだ!! 某兄弟が宇宙飛行士になる漫画で兄の方が月面探査車に搭載を進言したあの機能だ!
もちろん「Yes!」
俺がYesを選択した瞬間、軽トラのフロントガラスは近未来感あふれる全面モニターに早変わりした。「索敵」効果も継続しているので画面には多くの赤い点も表示されている。
「おお、これは「すごいわハヤト! 宇宙〇艦ヤ〇トのレーダーかしら?! それとも機〇戦士〇ンダムのホワ〇トベースのブリッジ?! それとも……!!」」
クウちゃん、感動するのは俺も一緒だから気持ちはとても分かるがアニメの年代が俺と一緒だぞ? 見た目はJCとJKの中間なんだから、せめてもっと最近の作品をだな。まあいいか。俺も最近のは良く知らないし。あと、戦闘中なんだから軍師様は落ち着くべきだ。
「ハヤト様! 何があったのです?!」
「大丈夫だ! 作戦に影響はない!」
ほら、セヴラルドたちを驚かせちゃったじゃないか。軍師様はホットなハートとクールなヘッドでいなくちゃだめよ。
それにしても、アナログな軽トラに最新鋭で近未来的なヘッドアップディスプレイか。やっべ、かっこよすぎるぜ。マジでこの軽トラ日本に持ち帰りできないかな。キャンピングカー仕様でこのヘッドアップディスプレイで旅したら俺は幸せになれる自信がある!!
『ヘッドアップディスプレイ』の有効化にはCPは合計で「100」必要だが、他のスキルを有効化しなければ現状でもCPは足りる。今CPを使って有効化しているのは「5」ポイントの『幌』と「1」ポイントの『インターフォン』だけだしな。早いとこ軽トラのレベルをもっと上げて『キャンピングカー』とか、様々なスキルを同時発動させたいところだ。
おっと、今は戦闘中だったな。浮かれていないで思考を現在に戻さないと。クウちゃんの事を言っていられないな。
クウちゃんの指示通り「相対座標S500,w600」地点に到着し、サイドブレーキを引っ張ってドリフトの様に後輪を滑らせ車体の向きを90℃左に向ける。
フロントガラスの索敵画面を見ると。先ほどは赤い点は周囲に散らばって各方向から包囲されかかっていたが、軽トラで走行して一定の距離を開けた今は魔物を示す赤い点は一直線に左方向から迫ってきている。なるほど、軽トラを移動させることで包囲される事を避け敵を一方向にまとめたわけだな。やるじゃないか軍師クウちゃん。
「まだまだこれからよ! 戦場地形構築! ソヴラルドは弓! ランシールとリンシールは魔法の射程内に入った敵に攻撃開始! セヴラルドは前方待機で抜けてきた敵に対応!」
「「「「はいっ!」」」」
返事と同時に強化魔法をかけ終えた4人が荷台から降りて陣形を構築する。長男セヴラルドは自身の身体に身体強化(5)、次男ソブラルドは同様に敏捷強化(3)と命中補正(2)、僧侶である長女ランシールは全体バフの防御力上昇(4)をそれぞれ発動させる。次女のリンシールは強化系のスキルはないようだ。
クウちゃんは指示を出すと同時に軽トラの土魔法を発動させ、戦場となる地形を変えていった。『青銅の家族』の両側には魔物に側面から包囲されるのを防ぐように高さ3mほどの土の壁が構築される。
壁の構築が終わると戦場となる場所の向こう10mほどのところの地面が削られ、幅2mくらいの「堀」が出現する。土魔法のランクが(4)なので形成速度は速くないが敵の侵入速度を逆算していたのだろう、充分間に合っている。堀の深さは1mくらいなので魔物を落として仕留めるわけではなさそうだ。そんなに掘り進める時間もない。
魔物の先頭集団が押し寄せてくる。先頭は魔物の中でも足の速い角オオカミの集団だ。40匹くらいいるだろう。
まもなく会敵するかと思われたその時、角オオカミたちは邪魔な「堀」を避けようとジャンプして飛び越えようとする。角オオカミたちの身体が宙に浮いたその瞬間、ソブラルドの放つ弓(弓技能(4))が、ランシールの放つ氷魔法(2)が、リンシールの放つ火魔法(5)が次々とオオカミたちの身体を射抜いていく。僧侶のランシールも攻撃魔法は使えるようだ。
空中に浮いて機動の取れなくなった角オオカミたちは次々と弓や魔法で射抜かれていく。射抜かれた魔物の死体で堀が埋まり、ジャンプする必要のなくなった後続のオオカミたちが一直線に『青銅の家族』たちに向かって駆ける。
駆け抜けてきたオオカミたちに、パーティーの先頭を守るセヴラルドは盾(盾技能5)を持って迎え撃つ。オオカミたちの突撃は広範囲を守備する盾技能に阻まれ、その動きは一瞬止まる。その隙を逃さずセヴラルドは剣技能(5)で切って捨て、近接戦闘に移行したことで弓から剣に持ち替えたソヴラルドも同様に剣技能(2)で対応する。
「ハヤト! 堀にたまった死体を『自動積載』で回収して!」
「了解!」
『青銅の家族』たちが倒して堀に埋まっている角オオカミたちの死体を『自動積載』で『無限積載』に回収する。それによって堀の深さは復活し、後続の角オオカミたちはジャンプして飛び越えざるを得ない。身体を浮かせたオオカミたちに魔法が炸裂し、第1陣の角オオカミたちは全滅したようだ。
「よぉっし順調~!! 『青銅の家族』たちは荷台の上に戻って『搭乗者保護』でHP、MPを回復させながら第2陣に備えてね!!」
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