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34、『青銅の家族』、出撃する


 俺の入街を拒んだ奴らへの嫌がらせから始まった攻防戦、初日の夜は俺達(軽トラ)の圧勝で、冒険者ギルドの出張窓口でゴブリンキングの死体を披露したり、昼過ぎまでに魔物の肉を振舞ったりして街の人々が宴会で盛り上がったまではほぼほぼ目論見通りに事を運んでいたのだが、副領主のロドリグ・ブリュール準男爵がその場に現れたことで勢いは削がれてしまう。


 だが、クウちゃんは副領主らの真の目的を看破し、街や領内の子供たちを救うべく『メオンの街解放戦線』を立ち上げ、自ら『軍師w』に就いた。自分で自分を軍師ってww クウちゃんは異世界モノだけでなく戦国物にも造詣があるようだw そのうち自分のことを傾国の美女とか言いだしそうだ。


 そして今は二日目の夜。俺とクウちゃんは街の外で野宿をしながら軽トラの中で敵の出方をうかがっていた。






・・・・・・・


「話は変わるけど、『闇の勢力』って連中は本当にとんでもない事をやろうとしているんだなぁ。それに、よくクウちゃんは奴らの目的まで看破できたよな。」


「ハヤト、それは違うわ。()()()()()()()()んじゃなくて既に()()()()()()()地球でね」


 !!!!?


「前も言ったでしょ? 地球は奴らに支配されているって。奴らがこの異世界でやろうとしている事は既に地球で奴らがやってきたことの再現に過ぎないわ。強いて違いを言えば、その手段に地球では魔物ではなくて人同士の争い、戦争や紛争を使ってたってくらいかしら。あと、権力や財力を使うという点ではほとんど同じね。」


「なるほど、人間社会を裏から支配しているってのは何となくわかる。俺も日本にいるときはSNSとかよく見てたからな。でも、子供の人身売買ってのはさすがに一部の極悪な奴らがやっているか、もしくはゴシップじゃないかと思っていたんだけど?」


「……違うのよハヤト。ショックを受けると思って昼は皆には言わなかったけど、ハヤトには知っておいてもらった方がいいかもね。」


 クウちゃんは覚悟を決めたように話し始める。


 小さな子供に極限の恐怖を与えると体内にはある「物質」が生成される。与える恐怖は痛みや苦痛で死に至るようなものほど純度のいい物質が生成される。その物質を脳から抽出して、ある「薬」が作られる。その薬は、人間の若返りに高い効果があるため、権力者や金持ちはその薬をこぞって求めるという。

 時代によっては「不老不死の薬」としてその価値を掲げて闇の錬金術師が横行し、またその薬を求めるものに存在を示し争いを誘発する餌にもされていた。

 その薬の常習者を現代で見つけるのはある意味簡単だ。テレビや映画でよく顔を見る某国の政治家、実業家、映画産業のスターたち。奴らが画面の中で若々しい姿を見せているのもその薬のおかげだという。

 かつて、某国の女性大統領候補が各所に送ったメールの内容が世に出た事件があった。当時の現職黒人大統領との間で交わされたメールの中には、とある飲食店で料理を注文するといった何という事もない内容のものがあった。しかし、その実情は本当の注文内容、つまりは性的な目的で注文する子供の年や性別、人種などをある程度示す隠語だった。当時その内容をネットで調べた者の中にはしばらくピザを食べられなくなった者が続出した。

 権力者たちは子供たちを攫い、奪い、犯しながら、その薬を生成させるべく傷つけ、命を奪いながらその薬を手に入れる。

 そして、恐るべきことにその薬は一部の特権階級の専属ではない。ごく身近、日本の各所にも販売所があるという。実際に『薬剤名 販売所』で検索すると日本の地方都市にも販売所が多数あり、その住所は某宗教施設の所在地と奇妙な一致をみるという。それなりの金さえあれば世界有数のセレブでなくとも買えてしまうらしい。

 つまりは、世界中で、日本でも、数多くの子供たちが表に出ることなくそのような所業の犠牲になっているのだとか。



 ………………。


 クウちゃんからその話を聞いた俺は無言にならざるを得なかった。地球でも子供たちがひどい目に合っているという事実。そしてひどい目に合わせているのは同じ人間だという事実。

 実際、闇の勢力とやらの大本は地球人ではないらしい。まあ、クウちゃんも地球人ではなかったから、宇宙人とかが存在するというのは今の俺にとっては今更だ。

 クウちゃんは7次元だったそうだが、闇の勢力の大本はだいたい5次元位の位相に存在しているそうだ。地球人を支配して負の感情を集めているとは聞いていたが、いくら支配下にあるとはいえそこまであからさまに地球人が地球人の子供に対して嬉々として蛮行を行う様にはさすがの俺もショックを受けてしまった。


 もし、日本にいる俺の子供たちがそんな目にあってしまったらなどと考えてしまうだけで恐ろしく、慌てて思考を止める。

 だが、思考は止まらず次に頭に浮かんできたのはこの世界で出会った子供たち。アトラやペトラをはじめとするセバン村の子供たちの姿だ。


「なあクウちゃん。地球は『光の勢力』の皆さんが悪い奴らをやっつけてくれるんだろう?」


「ええもちろん。と言っても正確には『地球人の自由意思がそう望めば解放の手伝いをする』と言った言い方にはなるけどね」


「じゃあ、この異世界では誰が悪い奴らをやっつければいいんだろうな?」


「決まってるじゃない? ここに元、光の勢力のエリート様と、そのエリート様の加護を受けた魔道具(軽トラ)に乗っている(スターシード)がいるのよ?」


「ああ、やっぱりそうなっちゃうのか。でも、そうだよな……。どっちみち俺は奴らに名指しで狙われているようだから逃げるのも無理そうだし、それに知ってしまった以上は子供たちやこの世界の人たちを見捨てるなんてできない。一人の親として、立派な日本のおじさん代表として、子供たちの笑顔は守らなきゃな。」



 こうして、俺には「日本の家族への仕送り」と合わせて「異世界で闇の勢力と戦う」という新しく、そしておじさんらしからぬ壮大な目的ができてしまったのである。





・・・・・・・


「さてクウちゃん軍師w様? 敵は今宵どのような出方をしてくると思われますか?」


「そうですねハヤト総大将閣下w様。おそらくまだ向こうはこちらの実力を測りかねている様子。昨夜の夜襲の規模、昼に敵の総大将(副領主)が様子をうかがいに来たことから考えてもまだ様子見程度でしょう」


 なるほど。って、いつの間に俺は総大将閣下にされてしまったのだ。しかも草まではやしやがって。戦国モノのロールプレイをするならするでまじめにやれと言いたい。



 俺は『カーナビ』の『索敵』を発動。街の外壁の上には昨夜同様赤い三角(敵の印)が見えている。


「今日は敵さんは5人か……。昨日より2人増えたが何か仕掛けてくるのかな?」


 俺は情報を共有すべく、新たに発現させた『インターフォン』を起動して荷台のセヴラルドたちにその旨を伝える。

 『インターフォン』は運転席と荷台に乗っている両者で会話を可能にする、ただそれだけの機能だ。荷台に人を乗せたとき、会話の際にいちいち運転席から降りたり窓を開けて叫ぶのは非効率だと考えたら発現した。この距離なので無線は必要なく有線でも事足りるし、家の玄関とも違って防犯の必要性も無いから画像も必要なく音声のみだ。日本でもホームセンターなどで数千円で買えるだろう。実際有効化に必要なCP(カスタムポイント)はたったの「1」だったしな。


 今回はゼヴラルドたちは本人たちたっての頼みで俺たちに同行していた。今彼らは『幌』を張った荷台に乗って待機している。

 昨日彼らにはギルドマスターのドニに外壁外への出張窓口の依頼をお願いしていたが、それも叶った今となっては特にやる事もなく、俺たちがまた野宿をして襲撃を受けるのは予想できたため、足手まといになるかもしれないが護衛として同行させてほしいと4人に土下座して頼まれたのだ。それにしてもこの兄妹たち、土下座の頻度が多すぎないか?


「セヴラルド、外壁の上に5人いる。昨日は奴らが魔道具と思われる笛を吹いて魔物を呼び寄せていた。笛の音が聞こえたら戦闘開始だ。あと、敵の人数が昨日より2人多い。他に何か隠し玉があるかもしれないから注意しろ」


「「「「了解 (です)!」」」」


「戦闘の指揮は『軍師』のわたしが出すからね!! 大船に乗ったつもりで頑張ってね!」


 乗っているのは軽トラなんだが。まあいいか。



 正直、セヴラルドたちを同行させるのには気が進まなかった。彼らもDランクの冒険者パーティーでそれなりに腕が立つのは知っているが、いかんせん敵の数が多すぎるのだ。昼に数えたところ、昨夜は結局、


 角ウサギ×18、角オオカミ×46、角サル×31、角イノシシ×24、角シカ×13、角クマ×8


 と、合計で140体もの魔物が一気に出現したのだ。軽トラの固有スキル『搭乗者保護』のおかげで車内にいる俺とクウちゃんは「無敵」だから弱めの魔法しか使えなくても余裕をもって倒せたのであって、1パーティーが普通に戦いを挑む魔物の数ではない。

 ウサギやオオカミならば囲まれなければなんとかなるかもしれないが、サルなんかは知能があって常に集団で襲ってくる上に爪に毒もあり非常に戦いずらいと聞いたし、イノシシやシカは単体でも結構てこずる。さらにクマに至ってはCランク以上が適正ランクなのでセヴラルドたちでは1体だけでも勝利は難しいだろう。

 彼らの役に立ちたいという気持ちは充分理解できるのだが、その身を危険にさらさせてしまうのは本意ではない。


 それでもクウちゃんが「『軍師』のわたしにまっかせておきなさ~いぃ!」とか言うから同行を許可したが、まさかクウちゃんは本当にセヴラルドたちに戦わせるつもりなのか?

 確かに軽トラの荷台に乗ってさえいれば『搭乗者保護』がはたらいて安全地帯にはなるが、100を超える魔物の群れに囲まれてしまったら荷台への撤退すらも容易に出来なくなるのではないかととても不安だ。


「ピ―――――――――――――――――――――――」



 俺のそんな不安をよそに、今夜も敵の笛の音が開戦を告げてきた。



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