33、クウちゃん、軍師になる
「事情は相分かった。夕刻までには解散したまえ。以上だ。」
街の外壁の外での宴会騒ぎ。その場に現れたバンジャマ税務官への罵声の嵐。暴動へと発展しかねない雰囲気の中で馬車から降り立った副領主、ロドリグ・ブリュール準男爵と思われる人物が一言、たった一言話すだけで祭りのような喧騒も暴動のような罵声も一瞬のうちに熱を失い静寂と化す。
ロドリグ・ブリュール準男爵はそれ以外は何も言わず無言で馬車の中に引き返す。続いて税務官のバンジャマも馬車に乗り込み、護衛の騎兵の一団と共に馬車は街の中に姿を消していく。
準男爵一行は既に立ち去ったが、いったん消えた祭りの日が再び灯る事はなく群集は白けたムードになってしまった。
1人、また1人とその場を後にし、500人はいたかに思えた外壁外の広場に残ったのはもはやギルド職員やトランティニャン商会の売り子くらいのものだった。孤児院の子供らもいらぬ危険に巻き込まないようランシールとリンシールが送って行っている。
「ふう、さすが準男爵の貴族様だな。迫力が半端じゃねえや」
「ああ、あの子憎たらしい税務官が木っ端役人にしか見えなかったぜ」
門番リーダーのガエタンとギルドマスターのドニが言葉を交わす。
「まあ、どっちみちあと二刻もすれば片付けを始めなきゃいけなかったニャ。これでも久々の満員御礼、たった半日でここまで稼げたのだから御の字だニャ!」
ミネットの言う通りだ。準男爵の登場で出鼻をくじかれたような感はあるが、これでも十分当初の計画通りだ。そう、「奴らへのねちっこい反撃」の初撃としては十分すぎる。
・・・・・・・
そこに残っていた一同はギルドの出張窓口のテントの下に集合する。
俺、クウちゃん、セヴラルドたち『青銅の家族』の4人、トランティニャン商会の会長の娘のミネット、門番リーダーのガエタン、そしてギルドマスターのドニ。この9人が今の俺の「仲間たち」だ。ほかにもギルドや商会の職員、他の門番さんたちも仲間というか、もう味方と言っていいであろう。
「さて、まずは新しくこの場に集ってくれたドニに感謝したい。」
「ああ、事情はセブラルドたちから聞かせてもらった。あの鼻持ちならねえ副領主一派に一杯食わせてやりてえのはこの街のギルド員や冒険者たちの総意と言ってもいい。冒険者や街の弱い人たちを守るためにこれからも協力させてくれ」
「ああ、よろしくたの「さぁ―――て! ではこれから『ハヤトとゆかいな仲間たち』による『メオンの街解放戦線』の作戦会議を始めちゃうわよぉ―――――!!」」
おいクウちゃん、いきなりのテンションマックスで人の言葉を遮るんぢゃない。
「ん? 『解放戦線』ってのはどういう事だ? いささかスケールが大きくなっていると思うんだけど? 俺は奴らに嫌がらせして、せいぜい『ざまぁ』ってするくらいが関の山だと思っていたんだけど? ……まさか単にカッコいい言葉を言ってみたかったのか? もしかして厨二病か?」
「違うわよ! 真面目な話よ! そうね、どう話したら分かりやすく伝わるかしら? 街を奴らから解放するのは手段に過ぎないわ。分かりやすい目的として掲げるとすれば――― 『子供たちを助ける』というのが通りがいいかしら?」
クウちゃんは説明を続ける。
この街の副領主たちは住人達への締め付けを強めている。その結果、税の払えなくなった者たちは親子ともども奴隷商に売られていると聞いた。
生活必需品への税の上乗せなどで生活に困窮する人々が増え、結果的に子供の奴隷も増える。
それに奴らは何らかの方法で魔物を集めたり活性化させている。昨夜軽トラに襲い掛かった魔物の群れを見れば集める方法はある程度明らかにはなったが。
魔物が活性化されれば、襲われて命を落とす商人や旅人、冒険者も多くなる。魔物に親を殺された子供たちは孤児となるのが道理だ。
さらに税の締め付けで生活が厳しくなった冒険者たちは実力に見合わない魔物や迷宮への挑戦を強いられ、商人達は危険な街道を旅しなくてはならないため、子供たちが親を失う負のスパイラルは拡大される。
それと並行して孤児院や療護院への予算も停止された。療護院の方は主目的を悟られないためのブラフであり、本当の目的は孤児院の子供たち。生活に困った孤児たちは生きるために奴隷に身を落とすしかなくなる。
そして、権力者たちが子供たちを弄ぶ際には、自然に見栄えのいい子を選ぼうとする。愛玩系の容姿の多い獣人の子、人族とは違った容姿や発育をする亜人の子などは、単に容姿の良い人間の子供たちより人気が高いらしく、亜人、獣人を虐げる政策をとる事でその子供たちを孤児や奴隷にしやすくなるのだ。
つまり奴らは多くの子供たちを奴隷にし、その子供たちを『人身売買』するのが大きな目的だというのだ。
「『人身売買』というのは理解しやすいようにその表現にしたのだけれど、おそらく実際にはその子供たちは、権力者たちに、性的にも、嗜虐的な要求を満たすためにも弄ばれ、ほとんどの子は命を落とすことになるわ。他にも、まだこの場ではショックが大きすぎると思うから言わないけど、奴らの独善的な欲求を満たすためにもっと非道な事が行われているの。それは一言でいうと『神や世界、全てへの冒涜』と表現するのが近いかしら。むしろそっちの方が奴らのメインの目的ね」
クウちゃんの説明を聞いた一同は、拳を強く握りしめ怒りでわなわなと震えていた。元、領主の騎士長であったガエタンなどは強く噛んだ唇から血が流れ出している。
「そ、そ、そんなこと、絶対許すわけにいかないニャ!! わっちら獣人や亜人を虐げるだけじゃなく、いたいけな子供たちをそんな風に扱うなんて! 絶対許せないニャ!」
「なるほどな。最近、やけに全滅したり行方不明になる奴らが増えていた。魔物たちが活発になって来ているのは知っていたが、それだけじゃないような気はしていた。冒険者たちが自分よりランクの高い依頼に挑まざるを得ない環境を作られていたということであれば全てつじつまが合ってくる! こんなに悪辣な奴は魔物なんかよりたちが悪い!」
「ああ、そんな悪魔のような奴らは絶対に許す訳にはいかない。領主様が必死で守ってきたこの街を、この領地を、その民を、あんな奴らにいいようにされてたまるものか!」
ミネットが、ドニが、ガエタンが叫ぶ。
セヴラルドたちも何かに気づいたように目を見開き、口を開く。
「そうか……。おかしいとは思っていた。なんであんな平和な土地にいきなりゴブリンが大量に現れたのか、ゴブリンキングなんて強い魔物が湧いて出たのか。それも全て……奴らの……自分たちは奴らのせいであんな……」
セヴラルドのつぶやきにランシールとリンシールが身を屈める。だがその顔には絶望ではなく怒りがこもっていた。
「そうだったんっすね。だったらオレたちは魔物に殺された冒険者達の敵討ちのためにも奴らをぶっ飛ばさなきゃいけないっす!」
ここにいる全員が怒っていた。義憤に燃えていた。自分たちの、いや、この街の、男爵領に住む人間、亜人、獣人たちすべての敵である奴らの所業に怒っていた。
「さて、敵と敵の目的、そしてわたしたちのやるべきことは共有化できたわね?」
クウちゃんの言葉に皆が頷く。
「じゃあ、具体的な作戦をたてるわよ!」
・・・・・・・
「なあクウちゃん、『具体的な作戦』って、昨日俺がセヴラルドやガエタン達に頼んだ内容とほとんど変わりなかったんじゃね?」
夜になり、俺とクウちゃんは昨夜と同じく野宿すべく街の外で軽トラに乗っていた。
「ぜっんぜん違うわよ! 一見やることが同じに見えたとしても、ミッションの最終目標を確認するのとしないのでは大違いよ!」
あのあと、我ら『メオンの街解放戦線』一同は、自ら『軍師』を名乗るクウちゃんの取り仕切りの元、『具体的な作戦』の立案にかかった。
しかし、そこで出された案は昨日俺がセヴラルドたちに依頼した内容とほとんど変わらなかったのである。
具体的に違ったことといえば、俺がガエタンに依頼していた『領主様とのお目通りの機会を設けてもらう』ことの内容が少し変化しただけだった。
最初は、期せずして門番のリーダーであるガエタンが俺たちの味方になってくれたこと、そのガエタンはかつて領主様の騎士長として仕えていたことを聞いて思いついたのだが、ガエタンに領主様に口利きしてもらい「珍しい魔道具をその目で見たい」とか言ってもらって謁見できれば、税務官に立ち入りを禁止された俺が、領主命令のもと堂々と街の中に入ることが出来て財務官たちへの痛烈な皮肉になるのではと思ったのだ。
クウちゃんの案はそれに+αが含まれていた。領主様にお会いするのは一緒だが、単なる謁見ではなく謁見の名目が違うというべきか。
そのことにより単なる謁見よりもハードルは多少上がったわけだが、結果論とは言え冒険者ギルドのマスターのドニまでが仲間に加わってくれたおかげで思いのほかうまくいきそうではある。
今日一日で税務官たちへの「嫌がらせ」が「ネオンの街解放戦線」へとグレードアップしてしまったが、仲間や味方、知り合いが増えていくのは楽しいことだなあと感じていた。
二日目の夜の攻防が始まろうとしていた。
〇メオンの街外壁外の戦い 一日目の成果
「スライム」
・魔石 @銅貨 1枚×86= 86
小計 銅貨86枚
「角ウサギ」
・魔石 @銅貨 3枚×41= 123
・肉 @銅貨 4枚×18= 72
解体手数料(素材価格×0,2) -14
食材として寄付 -58
小計 銅貨123枚(銀貨1枚、銅貨23枚)
「角オオカミ」
・魔石 @銅貨 30枚×46=1380
・肉 @銅貨 5枚×46= 230
解体手数料(素材価格×0,2) -46
食材として寄付 -184
小計 銅貨1380枚(銀貨13枚、銅貨80枚)
「角サル」
・魔石 @銅貨 20枚×31= 620
・毒爪 @銅貨 30枚×13= 390
解体手数料(素材価格×0,2) -78
小計 銅貨932枚(銀貨9枚、銅貨32枚)
「角イノシシ」
・魔石 @銅貨 100枚×24=2400
・肉 @銅貨 300枚×24=7200
解体手数料(素材価格×0,2) -1440
食材として寄付 -5760
・角 @銅貨 200枚×21=4200
解体手数料(素材価格×0,2) -840
小計 銅貨5760枚(銀貨57枚、銅貨60枚)
「角シカ」
・魔石 @銅貨 100枚×13=1300
・肉 @銅貨 100枚×13=1300
解体手数料(素材価格×0,2) -260
食材として寄付 -1040
・角 @銅貨 400枚× 7=2800
解体手数料(素材価格×0,2) -560
小計 銅貨3540枚(銀貨35枚、銅貨40枚)
「角クマ」
・魔石 @銅貨 200枚× 8=1600
・肉 @銅貨 100枚× 8= 800
解体手数料(素材価格×0,2) -160
食材として寄付 -640
・肝臓 @銅貨1000枚× 8=8000
解体手数料(素材価格×0,2) -1600
小計 銅貨8000枚(銀貨80枚)
合計 19821枚(金貨1枚、銀貨98枚、銅貨21枚)
今回の「解体手数料」を計算してみたら銀貨49枚、銅貨98枚(49万9800円)でした。前回のゴブリンキングの解体手数料が銀貨10枚(10万円)だったので、結構ギルドにも貢献できたのではないでしょうか?
ちなみに寄付をした肉の総額は銀貨76枚、銅貨62枚(76万6200円)でした。角イノシシの肉が高価でしたね。ちなみにオークの肉はもっと高価らしいです。
今回のハヤトの収入:金貨1枚、銀貨98枚、銅貨21枚(198万2100円)
・・・・・・・
現在の所持金 約500万円




