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31、おじさん、ギルドに登録する


 少し寝坊してしまったが、どうやら丁度良い時間のようだった。



 昨夜はメオンの街の税務官とやらが差し向けた刺客らしき奴らが魔物を呼び寄せる笛を使って俺たちにちょっかいをかけてきやがった。


 自分たちを危険にさらすことなく相手に魔物を嗾けるような魔道具がある事には驚いたし、その魔道具が決して魔物の多い環境とは言えない街の外壁外で100を超える魔物をひと吹きで集められる威力にも驚かされた。


 このような手段を持っているのならば、あのように強気な態度に出てきたことにも頷けるというものだ。



 多分だが、税務官様の思惑としては


 俺が税務官さまに税金も賄賂も支払わなかったので街にはいれず野宿した。


 →すると運悪く魔物の群れに襲われてしまった。


 →ああかわいそうに、素直に払うものを払っておけばよかったのに。



 という筋書きを描いていたんだろうが、生憎俺には軽トラ様がついている。


 奴らは今頃すっかり、俺を首尾よく亡き者にしたと考えているだろうが、あんな奴らの思うようになってたまるものか。


 さあ、これからねちっこい反撃をするとしましょうか。







 目覚めた俺が運転席に移動しメオンの街の外壁を見ると、結構な数の人影が動いているのが見えた。


 人影の中には、セヴラルドたち『青銅の家族』(ブロンズ・ファミリア)のパーティーの面々、トランティニャン商会の商会長の娘であるミネットの姿。それに昨日すっかり仲間のように打ち解けてしまった門番の兵士たちを束ねるガエタンさんの姿もあった。


 よし、みんなの首尾は上々のようだな。



 実は昨日、野宿をするとセヴラルドたちと別れる前、みんなにはある事をお願いしておいていた。


 セヴラルドたち4人には、彼らの知己である冒険者ギルドのマスターへの働きかけを依頼していたのだ。


 依頼内容は「街外壁外でのギルド出張窓口の開設」である。



 出張窓口の開設を依頼した理由は、俺は軽トラから離れると死んでしまうが、魔道具(軽トラ)の街への持ち込みは税務官に禁じられた。したがって、俺は冒険者ギルドの窓口に行く事ができない。なので街の外壁の外に窓口を設置してほしいということだ。


 だが、それだけでは冒険者ギルドが応じてくれるはずはない。ギルドマスターの納得できる、ギルドにも益のある内容でなければこちらの要望を聞いてなどくれないだろう。


 ならばどうするか。ギルドに益をもたらせばいい。



 セヴラルドたちにはギルドに「ゴブリン集落の殲滅及びゴブリンキングの討伐」を報告してもらう。 

 だが、共同討伐者たる俺は街に入れない事情があるので正式な報告もゴブリンキングの素材も渡すことができない。

 現時点では正式な報告や素材を提出するには街の外壁外に出張窓口を開設するのが手っ取り早いと思ってもらえればよい。


 聞いたところによるとゴブリン集落というのは民への被害が出る可能性が非常に高く迅速な殲滅が求められ、殲滅したという結果は冒険者ギルドの有用性と共に民の安心を得るべくいち早く情報として流したいものであること。それにゴブリンキングという個体は個の強さのみならず、統率力、組織力に優れており放置すれば千を超える数のゴブリンを使役することもあり、討伐の困難さに加えて放置した場合の潜在的な脅威もあわさって討伐を大々的にアピールしたいがため、その討伐の証拠たる死体を衆目のもとに晒したいという強い意向が冒険者ギルドにはあるとのことだ。


 つまり、冒険者ギルドはゴブリンキングの死体を引き取る為には出張窓口を開設してくれるだろうという俺の思惑は予想通りに達成されたというわけだ。





・・・・・・・


 俺は軽トラに乗って簡易的なテントとカウンターが設けられた冒険者ギルドの出張窓口に近づく。

 カウンターの脇では無事に役目を果たしたセヴラルドたちがほっとした表情で俺を迎え、その横から男が一人、こちらの方に歩を進めてきた。

 男は筋骨隆々で背が低く、顔の半分以上を立派な髭が覆っている。見た目だけでその年齢を推し量ることはできないが、その雰囲気からは修羅場を潜り抜けている老練さが感じられた。


「妙な魔道具使いのハヤトってのはおめえか? おれはここメオンの街の冒険者ギルドのマスターをしているドニってもんだ。ああ、見ての通りドワーフだが、セヴラルドたちからはおめえさんは亜人や獣人でも気にしないとは聞いていたが大丈夫か?」


 大丈夫かと聞かれたが何のことか一瞬分からず思案にふける。

 この街は猫獣人の商会長が取り仕切るトランティニャン商会や、亜人と言われるドワーフがマスターをやっている冒険者ギルドがあることから獣人や亜人の割合は比較的多いのだろうという予想は付く。 

 そして、この国の王都では獣人は奴隷のごとく蔑まれていると聞いた。という事は副領主たちが幅を利かせてからは、この街でも亜人に対してのしがらみや風当たりは強いのだろう。

 となれば、このドニというギルドマスターの真意は、「街の外から来た人族であるお前(ハヤト)は、亜人のドワーフとまともな交渉をしても大丈夫なのか?」という事ではないだろうか。



「ああ、もちろん大丈夫だ。大丈夫どころか、あなたみたいな話の分かるドワーフや商会の獣人さんに会えることができてとても嬉しい」


 社交辞令抜きでこう答える。すると助手席では案の定、異世界大好きクウちゃんが目を輝かせてドワーフのドニさんを見ていた。さすがに手をワキワキはさせていなかったが。



「そう言ってくれるとありがたい。では早速ゴブリンキングを検めさせて欲しい所だが物事には順番がある。まずはギルドへの登録からやっていこうか」


 道理である。冒険者ギルドに登録していなければギルドからの討伐報酬を受け取る資格が発生しないし、資格のない所に討伐の報告や死体の受け渡しをする必然性すらなくなってしまうのだから。



「ああ、お願いする」


 俺の登録者名は「ハヤト」、クウちゃんの登録者名は「クウちゃん」だ。

 クウちゃんに関して言えば、登録名は「クウ」になるのではと思っていたが、クウちゃん曰く

「だって、ハヤトが『クウちゃん』ってつけてくれたのよ! 字数を減らすなんてもったいないわ!」


 だそうだ。なにがもったいないのかはよく分からない。

 異世界語の自動翻訳はうまく働いているとは思うが、実際俺たちの名前なんかはどのように認識されているのだろう。

 クウちゃんの例を考えてみると、例えば中国っぽい名前で「ジャッキー・チャン」みたいな感じで「クウ・チャン」とでも認識されているような気がする。セヴラルドたちもクウちゃんを呼ぶ時も「クウちゃんさん」だし、たぶんそうなのだろう。

 ちなみに、登録したばっかりの俺たちの冒険者ランクはもちろんのこと「Gランク」である。今のところ別にランクの高い低いは問題ではない。ギルドに素材を納められるという立場があれば現状はそれで充分だ。



「よし、登録は終わったぜ。久々の大物を見たくてギャラリーも集まってきたようだし、いっちょ頼むぜ!」


 そういわれて周りを見ると、いつの間にかカウンターの周囲には7~80人ほどの人の輪ができていた。

 全体的には人間が多いが、その中にはいわゆるケモミミ、獣人の姿やドワーフやエルフ、ホビットではと思われるような容姿の者も高い比率で混じっている。やはりこの街は亜人や獣人が比較的多いようだ。


 彼ら彼女らの視線は俺の方、正確には俺の乗っている軽トラ(魔道具)に向いている。

 おれはそこでおもむろに、といっても『無限収納』から取り出すだけなので指一本動かす必要もないのだが、多少大げさにカウンター前のスペースにゴブリンキングの死体を取り出す。

 体長は3mを超える巨体があらわになると周囲からは「おお~」といった歓声が上がる。


 続けて、カウンターの上に


 「ゴブリンの魔石×124」「ゴブリンファイターの魔石×3」「ゴブリンマジシャンの魔石×1」「ゴブリンプリーストの魔石×2」を置き。


 

 さらに


 「ゴブリンワンド×1」「ゴブリンの剣(上)×1」「ゴブリンスタッフ×1」「ゴブリンキングの大剣×1」と「ゴブリンキングの冠」を取り出す。


 大剣と冠のあたりで周囲の歓声はさらに高まる。そして極めつけにかなり大きめの


 「ゴブリンキングの魔石×1」


 を置いたときに歓声は絶好調へと至った。



 ゴブリンキングの死体は、クウちゃん曰く「ギルドのカウンターでドン! と出すのがテンプレでしょ!」との言により解体せず魔石を取り出すにとどめておいて正解だったな。まあ、俺には解体などできないのだが。

 歓声をよそに、ギルドの職員たちはゴブリンキングの解体に取り掛かる。解体がしやすいように、事前にギルドの職員が土魔法を使って周囲の地面を固めていた。



「あ、ついでにこいつらも解体してもらいたいのだが?」


 俺はそう言うと臨時の野外解体場に、昨夜の襲撃で返り討ちにした魔物の死体を追加する。


 昨夜の襲撃時は周りが暗い事と、次々と倒した魔物を収納したので何をどれだけ倒したのかよくわかっていなかったが、いざこの場で確認してみると


 角ウサギ×18、角オオカミ×46、角サル×31、角イノシシ×24、角シカ×13、角クマ×8


 と、結構多かった。死体のほかにも


 スライムの魔石×86、角ウサギの魔石×23


 が入っており、スライムに関しては倒した記憶がないので恐らくは他の魔物に踏みつぶされて魔石のみが残ったものと思われる。


 

 その量にギルドの職員たちは半ば呆れて遠い目をしていた。

 ゴブリンキングだけじゃなくて、これだけの量の魔物を解体するとなるととてもではないが日のあるうちに終わりそうもない。


「あ、ギルドマスターさん。もしよかったら、この場に集まった冒険者さんの中で解体のできる人に依頼としてお願いしてもいいでしょうか?」


 俺がそう尋ねると、大量の魔物の死体を見て目を丸くしていたドニさんは


「ああ、ぜひそうしてくれ!」


 と、悲鳴のように叫びながら許可をくれた。


「じゃあ皆さん、お願いします!」


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