3、おじさん、高次元の人と会話する
3話目まで集中投稿です。今後は不定期更新となりそうですが、なるべく早く投稿できるように頑張ります。
【軽トラ(異世界仕様車) 取扱説明書】
助手席のダッシュボードから取り出した軽トラの取扱説明書にはこう書かれていた。
軽トラ本体の改造だけじゃなくて説明書まで……しっかり改稿しているとは。
俺は、この軽トラを異世界仕様に改造したであろうXさんの性格に疑念を抱いていた。
ガソリン動力をMP仕様にするのはまあわかる。しかし、【ストロング防錆】を【ストロング不壊】にかぶせてくるようなセンスの持ち主の人は、ざぞや適当な性格をしているだろうと思いを致していた。
だが、しっかりと改稿された取扱説明書を見てXさんに対する印象が少し変わってきた。
さっきまではツボのずれたユーモアセンスを持つふざけたチャラ男的なイメージだったが、取扱説明書までご丁寧に改稿してあるとなると、もしかして、とてもまじめで、それでいて肝心なところがどっか抜け落ちているかずれてしまうドジっ娘属性の人なのではないだろうか?
たぶん何千年とか生きているから娘と呼んでいいのかは分からんが。
それにしても【異世界仕様車】って……。寒冷地仕様車からもじったのだろう。そのセンスに脱帽だ。まあいいや。次のページをめくろう。
ごあいさつ
この度は私、時空を司る高次元の存在である尊くて気高いエリートであるわたしの提供する軽トラ異世界仕様車をお手元に置いて下さり誠にありがとうございます。
あなた様におかれましては、3次元世界の地球という惑星における我々と闇の勢力との間の戦争でのアクシデントに巻き込んでしまい誠に申し訳ありませんでした。
闇の勢力が地球を支配下に置こうとし、侵攻部隊を送るべく次元間ポータルを開こうとしていた折、わたしはそのポータルの発生に気づき、急いで時空周波数を合わせ相殺による封鎖を試みたのですが、その残渣が運悪くあなた様の運転する軽トラの目の前に飛ばされてしまいました。テヘペロ♪
このままではあなた様は闇の勢力の本拠地に飛ばされてしまい、瞬時に次元波によって肉体やエーテル体までも再生不可能なほどに分解されてしまうところでしたので、同じ3次元の軸の違う異世界にどうにかポータルを再構成して繋ぎなおしました。あの一瞬でそこまでするのって大変だったんですよ?わたしだからできたんですよ? ドヤ。
ところが、飛ばされる先の異世界では地球の人間が生存できない環境だったので、あなた様の乗っていた「けいとら」とやらに生命維持機能といくつかの機能を恩恵として与えてあげたのよ~。感謝してもいいのよ~? 感謝しなさいね!
と、いうわけで。わたしに愛と感謝を捧げながら、わたしの恩恵たっぷりの軽トラ異世界仕様車といっしょに異世界を満喫してね♪
か・し・こ♪
…………。
なんかいろいろ突拍子もない事が書かれていた。
そして……あれだ。こいつはダメな奴だ。テヘペロってなんだ。それに、「かしこ」の使い方が雑だ。間違いではないが頭語もつけろ。それでちょっとムカついてきた。
「……感謝しろとか命を助けてやったとかいろいろ書いているが、結局はこの時空を司る高次元の存在とやらのミスに俺が巻き込まれただけじゃねえかよ!!!」
『ギクッ』
俺が叫んだ瞬間、なんか説明書がビクりと震えた感じがした。なんか微妙に光を発しているし。
はは~ん、これはもしかして。…居るな。
「おーい!ドジっ娘の時空を司る高次元の存在様~!!出てきなさい!そこにいるんでしょ!!」
『ど・ど・ど・ドジっ娘じゃないもん!!!!』
はい釣れた。
「いくつか質問があります!!高次元のドジっ娘様!」
『だから、ドジっ娘はやめてってば~!』
俺の言葉に反応して説明書の白紙のページに高次元の存在様の話し言葉が浮かび上がる。
音声と紙媒体とのチャットは実にシュールだ。
「じゃあ、なんてお呼びすればいいのですか?」
『そうね!時空の女神様とでも呼んで崇めることを許すわ!』
「じゃあジクウさんで」
『ちょっとお!話聞いてたの!そんなおじさんくさい呼び方はイヤよ!』
ほう?おじさんのまえでおじさんをディスったなこいつ。まあいいや。スルーだ。
「じゃあクウちゃんで」
『……まあいいわ。わたしの威厳がないけどちょっとかわいい感じだし…。』
「ではクウちゃんに質問です。」
『いいわよ。答えられる事ならね!わたしに感謝しなさい!』
なぜこいつはいちいちマウント取りたがるんだろう…。すこし凹ましてやろう。
「今回の俺の異世界転移は、あなたのミスのとばっちりという事でよろしいですね?」
『ギクッ……。はい……。そのとおりです……。』
擬音をいちいち紙に転写するとは……。ツッコんだら負けだ。
「で、軽トラには恩恵?を与えておいて、俺本人には与えなかった理由は?」
『それは……仕方なかったのよ!だって、とっさの事で闇の連中のポータル閉じようとしたらどっかにはじかれちゃうし!はじかれたポータル見つけたらあんたは軽トラごと落っこちて行っちゃうし!必死で転移先変えたらそこは魔力の満ちた世界で地球の人間は生きていけないところだったし!しかもあんた軽トラの中にいたから恩恵届けるのにわずかなタイムラグが出て間に合いそうにないし!軽トラに恩恵届けるのだってギリギリだったんだからね!』
そうか。クウちゃんは一生懸命やってくれてたんだな。
まあ、自分のミスを自分で尻拭いしようとして拭いきれなかったという見方もできるが。
「わかった。転移の原因についてはあれだが、必死に俺を救おうとしてくれたことには心から感謝する。ありがとう。」
俺はお礼の言えるおじさんなのだ。
『そ、そうね。感謝しなさいよ!あと……ゴメンナサイ。』
どうやらクウちゃんも謝罪のできる高次元存在のようだな。凹まそうとか考えてごめん。
「で、もうひとつ大事な質問だ。……俺は地球に帰れるのか?」
『それは……。決して不可能ではないけれど……。非常に難しいとしか言いようがないの。』
「理由を教えてくれるか?」
『あなたが落ちたポータルの行き先を急いで変えたから、途中の演算とかがめちゃくちゃで検証にとてつもない時間がかかるの。もともとイレギュラーで飛ばされたポータルだから、イレギュラー部分についての検証も必要だし。それに、闇の勢力にわたしの使う周波数がバレて阻害を掛けられているから別の周波数に演算し直す手間も考えると……。それを闇の勢力との戦いの中で手が離せない中での片手間でやるとなるとなおさら……。』
「そうか。この世界と地球を繋ぎなおすのは並大抵の事じゃないんだな。わかった。」
ん?待てよ?
「じゃあ、クウちゃんはどうやってこの世界にいる俺の座標?周波数?を知ることができたんだ?こうして会話?してるってことは俺の居場所にアクセスしてるってことだろ?」
『それは、あなたが軽トラごとポータルに落ちていくときに私の意思のかけらを軽トラに纏わせたからね。イメージとしては一本の細い糸が私と軽トラとの間につながっているということで理解できるかしら?』
詳しい事はわからんが何となくは分かった。
糸電話同士でつながってはいるが、その間にある糸がどこをどう通って伝っているのかは分からないという事だろう。
携帯電話の電波とかなら位置特定できそうなものだが、超アナログの糸電話ではそうもいかないようだ。
『あ、そういえば、わたしとの「糸」を使って、軽トラの中だったら地球とスマホでのやり取りもできるわよ~♪ ドヤ! 機能は大幅に限定されちゃうけどね』
そういえばポケットにスマホ入ってたな……。普通なら真っ先にスマホを確認するところだったのだろうがよっぽど動転していたのだろう。あといちいちドヤるな。
『ちなみにこっちの世界と地球とでは時間の流れ方が違うから時差に気を付けてね~♪』
「そういえば気になったんだが、スマホが使えるならなぜわざわざクウちゃんは紙媒体の説明書でチャットをしているんだ?普通にスマホで会話なりチャットなりすればよかったんじゃないのか?」
『……が苦手なの。ボソッ』
「はい?」
『だから~!わたし機械音痴でスマホとかよくわからないの!』
あれ?この人高次元の存在だよね。機械音痴って。やっぱりドジっ娘じゃなくて情弱おばさんだったのか?BBA?
『今なんかとても失礼なこと考えてなかった?』
うーむ、さすが高次元の方。人の心の機微まで読んじゃうのね。
「いやいや。ソンナコトハナイデスヨ。ところでクウちゃん、質問の続きだが、時間は大丈夫か?」
『そうね、そろそろ厳しくなってきたわね。あと数分というところかしら?』
「充分だ。では質問だ。闇の勢力とか言っていたが、地球は、俺の家族は無事なのか?」
『それは大丈夫よ。超才能あふれるわたしを筆頭にした光の勢力が全力を挙げて守っているからね! むしろこちらから逆攻勢を仕掛けている位優勢なのよ?』
クウちゃんが筆頭という点が疑わしいのと、筆頭ならばそれはそれで不安になるのと、むしろその光の勢力とやらが組織的に大丈夫なのだろうかといろいろ突っ込みどころはあるがとりあえずは安心した。
『また失礼なことを考えてるでしょ?』
「いや、ソンナコトハナイデスヨ。地球と家族を救ってくれてありがとう。では最後の質問だ。」
『いいわよ。なに?』
「クウちゃんは、またこうやって俺と話してくれるか? いや、忙しいのは分かるが、ぜひまたお話したい。質問というよりお願いだ。」
『!!……。デレ。わかったわよ。とーーってもいそがしいけどそこまで言うなら時間を見つけてまたお話してあげるわ!!!』
デレってなんだデレって。高次元の神様みたいな存在がデレるのも新鮮だな。おじさんにデレるんぢゃない。やっぱBBAなのかな? 姿を見てみたい。あと、残念な奴に認定。駄女神か?
「わかった。ありがとう。またこの説明書を開いて呼びかければいいんだな?」
『それでいいわ。あ、忙しい時はお返事できないからその時はごめんね。じゃあ、そろそろ時間だから通信? 切るね。それから、必要だと思うことを説明書に書いておくから目を通しておいてね! じゃあね? あと、わたしはピチピチギャルなんだからね!』
その通話? が終わると説明書はわずかに放っていた光が収まり完全な無機物に変容した感じになった。
ふう、疲れた。
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