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29、おじさん、カーナビを発展させる

上手く区切れず少し長くなりました。



「さあ、楽しい野宿の始まりだ!」



 軽トラから離れると死んでしまう俺の事情を知りながら魔道具(軽トラ)の街への持ち込みを禁止し、持ち込むためには法外な持ち込み税か賄賂をよこせと言い放つ「ほほう」とうるさい税務官の要求を俺は突っぱねた。


 結果、街に入れなくなった俺はクウちゃんと共に野宿をすることになる。


 あの税務官は去り際に「夜に気を付けろ」となにやら捨て台詞を吐いていきやがった。となれば、この夜に何かがあると考えるのが普通だろう。


 


 俺たちが野宿するのならば一緒に行動すると言ってくれたセヴラルドたちには街の中に入ってもらっている。彼らはもともとこの街を拠点にしていた冒険者だ。冒険者ギルドに登録している彼らは俺と違って街に入るのはフリーパスだ。彼らには彼らにしかできない()()()を進めてくれるように依頼している。

 同様にトランティニャン商会のミネットや、突然意気投合して仲間のようになった門番リーダーのガエタンさん達にもそれぞれ別の依頼をしてある。依頼によってはさすがに一晩で達成するのは難しい内容なので最大一週間程度のスパンが発生するとは思うが、それくらい野宿を続ける事は別に苦痛ではない。





・・・・・・・


 さて、野宿するとすれば普通は街の外壁のすぐそばが比較的安全なのだろう。だが、やつらはおそらく何か仕掛けてくる。となれば、極力軽トラの能力が露呈するのを避けたい以上は見晴らしのいいところは避けるべきだ。

 俺は外壁から数百メートル離れたところにある林の中に軽トラを停めた。


 まだ日が暮れるまでには少し時間がある。何かあるとすれば真っ暗になった夜中だろう。ならば今のうちにとCP(カスタムポイント)50を付与して軽トラに『隠蔽』を有効化。荷台にお湯を張り今のうちに風呂を済ませておこう。

 奴らのちょっかいに備えて見張りが必要なので、クウちゃんに先に風呂に入るよう促したら驚くほど素直に応じている。絶対一緒に入るとかごねるかと思っていたので意外だった。

 そういえば先ほどの税務官の登場からクウちゃんはやけにおとなしい。いつもの暴走発言がないばかりか、こころなしか表情も少し硬くなっているように思える。まさかあの日だろうか? でもいくら受肉したとはいえ高次元の存在様がお月様の日くらいで元気がなくなるとも思えない。というかそもそもクウちゃんにあの日ってあるんだろうか?


 クウちゃんと入れ替わりに風呂に入り、二人で少し早めの簡単な夕食を食べる。襲撃に備えて今日はビールは我慢だ。



 さて、腹の準備は整った。今度は迎撃の準備を整えておこう。『隠蔽』を解除してCP50ポイントを戻す。本当は『隠蔽』をかけ続けておきたいのだがCP(カスタムポイント)の最大量が足りない現状では致し方ない。


 

 CP20を使って『カーナビ』を有効化する。ただし、このままではただのカーナビだ。

 「異世界」に来て、「カーナビ」という「マップ」がある。となれば、アレが発現するのではないだろうか?



 『カスタムスキル「カーナビ」に「索敵」が発現しました。「カーナビ」にCP40を上乗せして「索敵」を有効化しますか  Y/N?』


 もちろんYesだぜ! これでCPをトータル60使ってカーナビのマップ内で索敵ができるようになった。


 さっそく画面を確認。画面を拡大して広範囲を表示。



 街から離れた森の方には赤い点がちらほらと見える。これは多分魔物の表示だな。


 メオンの街にはまだ入ることができてないので街中のマップ自体は真っ黒だが、中には三角の白い点がたくさん映っている。多分三角は人を表しているのだろう。

 その中に青く表示された三角がいくつか映っている。4つの点がまとまっているのは多分セヴラルドたち達だ。「味方」は青色で表示されると。

 門の付近に8つほど青い三角があるのはガエタンさんをはじめとする門番の人たちだろう。8人も俺たちの味方になるってどれだけ副領主のことが嫌いなんだあの人たちは。

 他にはミネットのいる商会の建物だろうか。白い三角がどんどん青色に変わっていっている。多分ミネットが商会の他のメンバーに俺たちの事を説明してどんどん味方を増やしているのだろう。


 そして、あったぞ赤い三角が! 街を囲む壁のあたりに3つほどの赤い三角が見える。おそらくは壁の上から俺たちの様子をうかがっているのだろう。ふっふっふ、おまえら丸見えだぞざまあみろ。そして街の中央部のすこしはずれたあたりには数十にも上る赤い三角がひしめいていた。これは副領主の館だろうか? どうやら俺たちは副領主の勢力から明確に敵認定されたらしい。


 

 おそるべし軽トラカーナビの索敵効果! 敵も味方も丸わかりだ! 地球でこれがあればサバゲ―なんかはその情報だけで圧倒的勝利が約束されるような代物だ。



 こんな便利な能力を軽トラに付与できるようにしてくれたことにお礼を言おうかとクウちゃんの方を見る。てっきりドヤ顔で自慢と自画自賛全開で来るかと思いきや、クウちゃんは未だに何かを考えているような真面目な顔をしていた。


「ハヤト、真面目な話があるわ。聞いてくれる?」


 おっ、おう……。なんだろう、こんな真面目モードのクウちゃんは初めて見る。いや、ゴブリン集落でも似たような雰囲気はあったな。でも、普段アレな人が真面目になられるとなんか怖い。



「ハヤトがこの異世界に飛ばされたのは、闇の勢力との戦いの中でのわたしのミスのせい。……そう思っていたでしょ?」


 ああ、そう思っている。闇の勢力との戦いというスケールの大きさがピンと来ないが、そんな御大層な戦いのなかでクウちゃんが天然ボケによるミスをしたとばっちりで異世界へのポータルとやらが俺の運転する軽トラのすぐ前に現れて、そこに俺が軽トラごと落ちたのが原因なはずだ。



「でも違うのよ。今までハヤトにこのことを伝えるべきか迷っていたのだけれど、やっぱりハヤトにも知っていてもらいたい。ハヤト、あなたは闇の勢力の周到な計画によってこの異世界に飛ばされたのよ。つまり、あなたは奴ら(闇の勢力)から狙われているの」


 なんですと? 闇の勢力が俺個人を狙っている? 待て待て。俺は日本のどこにでもいる年収が平均よりもちょっと少ないさえないハゲのおっさんだぞ? 俺なんかを狙う意味が分からない。



「今のハヤトに記憶はないと思うけど、たぶんあなたはスターシード。闇に支配された惑星を救うべく、自ら地球という閉鎖された牢獄世界に肉体を持って転生した光側の魂の一人なのでしょう」


 ん? すたあしいど? そういえばつぶやく系のSNSでそんな単語を見たことがあるような。



「たぶんハヤトは日本、いや地球にいれば多くの地球人の覚醒を促して惑星の次元上昇(アセンション)を実現させるキーパーソンの一人になっていた。それは光側の目的であり勝利そのもの。闇側の奴らから見れば敗北を齎す厄介な存在だわ。」


 覚醒を促す? うーむ、確かに俺はSNSで光と闇の戦いだとかそういうカテゴリをよくフォローしていた。UFOとか宇宙人とか、世界の秘密結社だとか、陰謀論だとかスピリチュアルだとか俗にいう都市伝説系のつぶやきを目にするたび「再つぶやき」とか「良いな!」を押しまくっていた。

 そういえば、俺が「再つぶやき」した記事は何でか知らないがことごとく元の記事を大きく超えて数万とかの反応が来てたっけ。俺が独自で情報を発進したことはなかったのだが。


 ってことは、もしかして俺ってば知らないうちに地球人の覚醒を促す光の勢力側のインフルエンサーになってたってことなのだろうか? 自覚は全くなかったが。



「だから奴ら(闇の勢力)はハヤトを地球という惑星から遠ざけたかった。殺害という直接的な手段を取らなかったのは、単に奴らに我々(光の勢力)の防衛網をかいくぐる実力が残されていなかったことと、ハヤトを異世界のこの惑星に転移させることで奴らに何らかのメリットがあるのだろうということ。」


 うわぁ。俺はただ考えなしにSNSをやってただけなのに下手すりゃ殺されていたかもしれないのね。

 でも、俺を転移させたのはクウちゃんの力だって聞いてたけど、闇の連中もそんな能力持ってんのかな?



「そして、ハヤトをこの異世界に転移させるにあたって奴らはわたしの力を利用したの。やつらには宇宙間の距離をワープさせるポータルは作れても、異世界間を渡る力を持ったポータルを構成するようなリソースはもう持っていないわ。だから、ピンポイントでわたしにミッションをミスに導く暗示をかけ、そのミスのリカバリーとしてわたしが異世界間のポータルを再構築し、その転移先にこの惑星が選ばれるように緻密に誘導されていたのよ。」


 つまりは俺も狙われたがクウちゃんも狙われたってことね。クウちゃんは多分有能なのだろうが性格がアレだからな。俺と違って狙われたのは納得だ。痛い痛い、つねるなクウちゃんよ。



「で、なぜ奴らはハヤトを転移させる先にこの異世界のこの惑星を選んだのか? その理由が今までよく分からなかったんだけど、今日なんとなく分かったの。 いいハヤト? 私もこの世界に来るまでは知らなかったのだけれど、この異世界のこの惑星ジャステラにも、闇の勢力の支配が及んでいるわ。それは確実よ。」


 たしか元の世界では闇の勢力はほぼ一掃されて、最後の拠点が地球だと聞いた。そして光側が完全制圧して地球を開放するのも時間の問題だとも。ということは、地球に残った奴らを倒したとしてもまだこっちの世界に奴らの残党は生き残っているということか。



「この異世界には魔物がいるわ。そしてその魔物たちは、この世界の住人たちに恐怖や絶望などの『負の感情』を与えるために奴らが作った人工生物だと思うの。負の感情を搾り取る為なら奴らは生物学上のモラルだとか倫理とか、銀河聖典の規約なんかも簡単に踏み越えるからね。そうして、奴らはこの世界の住人たちの負の感情を搾り取ってエネルギーにし、勢力の拡大、再興を狙っているのも間違いないわ。」


 ふむ、この世界の魔物は負の感情を集めるために作られたものだと。それなら問答無用で人間に襲い掛かってくる生態は理解できるな。



「で、そこにハヤトの存在がどう絡んでくるのか。おそらく、奴らはハヤトの存在をこの世界の住人の負の感情をより効率的に搾り取るために利用しようとしてくるわ。地球に転生したスターシードであるハヤト自身の感情はもちろんのこと、ハヤトを経由して集めた負の感情は通常のそれより質も量も大きくなるってことよ。」


「……俺を利用する? 具体的にはどうやって?」


「ん~そうね。たとえるならば絶対の信頼を置いていた相手にもし裏切られたなら、その怒りや絶望はとてつもなく膨らむのは想像できるわよね? そう、プラスから転じたマイナスは通常のマイナスの感情より奴らにとって質がいいのよ。 たとえばハヤトをこの世界でのヒーローみたいな立ち位置にさせて、民衆の期待を一身に集めてから謀殺するとか? それかヒーローだったのに闇に落ちてこの世界の魔王になっちゃうとか? いろんなパターンがあると思うけど、奴らが何らかのちょっかいを積極的に仕掛けてくるのは間違いないわね。」


 いやいや、抹殺はまだ分かるが、さすがに俺は魔王にはならないと思う……。いや、そうとも言えないか。

 もし俺が、この世界の住民に裏切られたり蔑まれたりして住民たちに対して負の感情を抱いたとしたら。それが積み重なりこの世界を恨み憎むようになってしまったとしたら。そしてそうなる原因を作ったのが俺をこの世界に転移させたクウちゃん達(光の勢力)のせいだと思い込んでしまったとしたら。

 そうなれば、俺の抱く負の感情は奴らの良い餌となり、俺自身も変容してこの世界に仇をなす軽トラ大魔王になってしまうかもしれない。


 実際、セヴラルドたちがゴブリンたちに弄ばれていた時に俺は強い怒りと悲しみを感じていた。「怒り」と「悲しみ」。それは「正」ではなく「負」に属する感情。スターシードの俺が抱いたその感情はそれだけでこの世界の住民のそれをはるかに超える奴らのエネルギーたりうる。あんな場面を度重ねに見せられるだけで俺は奴らにエネルギーを提供してしまう。俺の感情の在り様が、俺の心が、俺の行動のすべてが適切にコントロールされなければいけないということか。


「ハヤトは気づいてた? さっきの街の税務官とやら、名乗ってもいないのにハヤトの名前を知っていたわよね? 奴らは十中八九闇の勢力の手下だわ。これからあんなふうにハヤトの心を揺さぶろうとちょっかいをかけてくる奴がどんどん増えてくるかもしれない。」


 確かに、俺もセヴラルドたちも俺の名前を一切口にしていないのに奴が俺の名前をまるで挑発するように呼んだのには違和感を感じていた。



「それに、ハヤトがこの異世界に飛ばされたとき、私が開いたポータルを利用して奴らも何らかの『因子』をこの世界に送り込んだことが確認されているわ。さっきの門番さんの話だと、ちょうどハヤトがこの異世界に来たのと同じようなタイミングで奴らの行動はエスカレートしてきている。おそらくその『因子』が奴らの活動を活性化させるような働きをしている事は間違いないわ」


「これから奴ら(闇の勢力)はハヤトの目の前にどんどん現れて、ハヤトは奴らに相対する機会が増えてくる。ハヤトが闇の勢力に『負の感情を吸い出す装置』として狙われていることを知れば、ハヤトは感情を抑えてしまうかもしれない。そう、感情という人間らしさを抑えたままの人生をハヤトに強いる事になると思ってこのことを伝えるか迷ったわ。でも、何も知らないままに奴らの思惑に振り回されるハヤトにこのことを告げずに黙って見ているのはわたしが辛いの。だって、わたしはもうハヤトのハーレム1号なんだもの。愛する人があんな奴ら(闇の勢力)に翻弄されているところなんて見たくない! わたしがハヤトを支えたいの!」


 クウちゃんの真摯な目が俺を射抜く。そうか、クウちゃんは二つのやさしさのどちらをとるべきかで揺れて悩んでいたんだな。俺に何も教えず見守るべきか、何もかもを教えて寄り添うべきか。

 

 ――そして、俺に寄り添う方を選んでくれた。



「クウちゃん、教えてくれてありがとう。クウちゃんは、俺が感情を抑えて生きていくようになるんじゃないかって心配してくれたようだけどそんなことはない。なぜなら、今、俺は、クウちゃんへの『感謝』の感情で満ち溢れているからな! 闇の勢力がいくらちょっかいかけてきたって、これから二人で、いや、皆で、明るく楽しい異世界ライフを満喫しようじゃないか!」


「わかったわ! それじゃあさっそく愛し合いましょ!!」


 


 待て待て! 今俺たちは刺客に狙われているんだからな!






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