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26、おじさん、商人達と出会う

1万PV達成致しました!


皆さまありがとうございます!



 俺たちはセバン村を出発した。


 アトラやペトラ、村の子供たち。ザトラさんやペーニャさんをはじめとする村の青年やご婦人方。雑貨屋の主人に村長のジトラさんなど、ほとんど総出で俺たちを見送ってくれた。



 

 出発を決めた後、2日間は俺たちは村人たちと交流を深めた。

 

 冒険者4人兄妹は村人たちが自分たちで村を守れるように戦い方を教えた。

 長男のセヴラルドは青年たちに剣の使い方を教え、まだ子供であるアトラなんかも目を輝かせて剣を握っていた。

 次男のソヴラルドは主に弓を。また、雑貨屋の主人には強い矢の射れる弓の作り方を伝授していた。

 長女のランシールはご婦人たちに簡単な怪我の処置や病気への対処、薬の調合方法などを教え、なんとペーニャさんと他の数人のご婦人方は初期の回復魔法を使えるようにまでなってしまった。

 次女のリンシールは魔法を担当。数人の魔法に素質のある人達が初期の水魔法と火魔法を習得できた。驚いたのは脇で見ていたペトラが見よう見まねで火魔法を発動してしまいあわてて消火するといった一幕も見られた。


 クウちゃんはといえば、なぜか読み書きや4則演算を教えていた。この世界の言葉を既に教えられるまでに習得しているとはやっぱり頭はいいんだな。性格はあれ(残念)だが。


 俺はといえば、俺が他人に教えられることなどほとんどなかったので村人たちの家を巡って土魔法で家屋や蔵の修繕、強化や、農地の拡張を出来る限り行っていた。農地と村を行き来する荷車用の道もしっかり固めておいた。


 なお、ゴブリンの集落で手に入れたゴブリンたちの剣や棍棒などの武器は荷台に積んで「洗浄」してからほとんど村に寄付させてもらった。ザトラさんからは、商人が来て農作物を納品して現金が出来たらお礼を支払うから必ずまた村に寄ってくれと強く言われている。


 軽トラと共にこの異世界に一人で放り込まれどうしようもなく不安だった俺を温かく迎えてくれたセバン村の人たち。どれほどありがたかったか言葉には出来ないほどだ。こんなことくらいで恩を返せたとは思えないが、出来るだけの感謝の気持ちを伝えたかった。


「絶対、また来るからな――――!!」






・・・・・・・



「あら~? もしかしてハヤトったら泣いちゃってるの~?」


「これは心の汗だ」


 クウちゃんがウザい笑顔で俺の顔を覗き込む。だって仕方がないじゃないか。おじさんはアニメやラノベでだって号泣できるほど涙もろいんだから。


 「幌」を外した荷台には、冒険者兄妹の4人が乗っている。



「……速い……速すぎる!!」


 何時も冷静でどっしり構えている長男セヴラルドが冷や汗を額に迸らせて青白い顔をしている。他の3人はといえば……もはや目を開ける事も出来ずうつむいたまま荷台のあおりに必死に掴まっている。


 ちなみに今の速度は80km/h。さすがに速度を出し過ぎたかと反省して50km/hにまで速度を落とす。


 それにしても、この村から街へと続く街道はしっかりと整備されている。魔物を定期的に狩っていて治安も良く、この辺りを治めている領主様はとても民思いの優れた人物なのだとうかがい知れる。これから向かう『メオンの街』はその領主様である男爵様が居を構える街でもあるとのことで胸が高鳴る。



「ハヤト! 異世界の街よ! 屋台よ! ギルドよ! 娼館よ!!」


 最後の一つは同意できなかったが、クウちゃんも俺と同じような事を考えていたようだ。

 こいつ本当に高次元の存在様なのか? ゴブリン要素で受肉したが種族がサキュバスとかになってないか? おっといけない。運転中は取扱説明書を手に取るのはやめておこう。



 街道の向こう側から荷馬車がこちらへと向かってくる。よく見ると荷馬車は5台ほどで各馬車には御者席に2人ずつ人が腰かけている。

 このまま進むとすれ違う形になる。こちらとしては軽トラの姿を訝しまれるのは目に見えているので接触したくはなのだが、ちょうど見晴らしの良い所に出ており今更車体を隠すようなところも見当たらない。

 やむなくそのまま直進し、荷馬車の集団に近づくにつれ速度を落とす。向こうもこちらに気づいたのか、馬車を停め御者席から降りた人たちが剣を構えだす。やっぱこうなるよね。



「一回けいとらを止めて、自分らを降ろしてください。」


 荷台にいるセヴラルドから言われた通りに軽トラを停めると4人が身軽に荷台から降り、軽トラの前に警戒態勢で陣形を構える。



「なんだ、『青銅家族』(ブロンズ・ファミリア)の連中じゃねえか。なんだそれ? 新種の魔物でも生け捕ったのか?」


 どうやらセヴラルドたちと向こうの護衛の冒険者たちは知り合いだったらしい。


「おう、『鉄の楔』(ファー・コイン)だったか。こんなところで会うとはな。商人の護衛か? でも、何だってCランクにもなるお前らほどのパーティーが単なる護衛なんてやってんだ?」


「ああ、それがな、ここ数日この辺りの魔物が活性化してきたらしくてな。ゴブリンが集落を作っているという噂もあって、領主様が各村からの収穫物を買い取る商人たちの護衛に警戒レベルを上げて依頼を出したんだ。それでおれたちがここまで出張って来たってわけだ」



 「ゴブリンの集落」という言葉が出たところで『青銅家族』4人の表情がこわばる。



「あ、ああ。そういう事だったのか。……ゴブリンの集落なら、そこの魔道具(軽トラ)使いのハヤト様がキングのいる集落をひとつ壊滅させたぞ。」


 あーもうセヴラルドったら正直なんだから。そこは「設定」どおりに「おれたちがやっつけた!」だろうに。

 まあ、自分たちの手柄として大手を振って話すことをはばかるあたりはセヴラルドの人柄からしてしょうがないか。それに他の3人の反応も致し方ないだろう。ゴブリンたちに命を奪われたのだ。数日やそこらで平常心になど戻れるはずもない。


 それでも今の会話から分かったことがある。どうやらセヴラルドたちがゴブリンたちに全滅させられたことは誰にも知られていない。すなわちランシールとリンシールがゴブリンたちにひどい目にあったことも、この軽トラに死者を蘇生できる能力があるという事も誰にも知られていないという事だ。



 馬鹿が付くほど正直(いい人)なセヴラルドではぼろが出かねない。俺は会話の主導権を握らんと軽トラの窓を開けて『鉄の楔』の男に話しかける。


「こんにちは! 俺はハヤトって言います! この前セヴラルドさんたちとこいつを倒したんですけど、これって街に持って行けば報酬とかもらえるんですかね?」


 俺はわざと大声でそう話し、おもむろに荷台に通じる『無限収納』からゴブリンキングの死体を道端に取り出す。

 

 どうせ『無限収納』のことは街に行けばいずれはバレる。だったら、俺たち(主に軽トラ)の事を少しでも好意的に周知してもらうべく、こちらから可能な限り(支障のない範囲)は情報開示していこう。



「おおお! こいつはゴブリンキングじゃねえか! すげえじゃねえかあんた!」


「はい、セヴラルドさんたちとこの魔道具(軽トラ)の力でなんとか倒せました!」



 (軽トラ)だけの力ではないことをしっかりとアピールしておく。



「それに、さっきのは『収納袋』か? こんなでっかいのが入るなんてよっぽど希少(レア)度の高い高価なモンでも持ってんのかい?」


「ああ、それも魔道具(軽トラ)の力の一つです。でもまあ、便利な代わりにいろいろ制約もあるんですけどね」



 ここで俺はセヴラルドさんに目線を送る。俺と軽トラの説明パートをセヴラルドさんにバトンタッチだ。話を信ぴょう性を持って広めるのならば、自分の口からではなく他者の口から語ってもらった方が効果的だ。

 最低限、俺が軽トラから離れたら死んでしまうという条件は周知のことにしておきたい。よし。これでこの『鉄の楔』(ファー・コイン)パーティーのメンバーや商人の一団も情報の拡散に一役買ってくれるだろう。




「なるほど、これはすごい魔道具ですね」


 話を聞いて興味を持ったのか。

 商人のリーダーと思われる人物が御者席から降りてこちらに歩み寄ってくる。


「初めまして。私は『トランティニャン商会』の会長をしているモンタン・トランティニャンと申します。わたしたちはこれから『セバン村』の農作物を買い取りに行くところなのですよ。今年はなにやら農産物の出来がとても良いとかで、領主様もとても楽しみにしていらっしゃるのです。」


 そうか。この人たちはこれからセバン村に向かうんだな。ザトラさんたちが言っていた例の商人というのはこの人たちなのだろう。商人としての格が高いのか、旅装であっても貴族の前に出ても恥ずかしくないような整った服装をしている


 

 だが、俺の気をひいたのはそこじゃない。


 商会の会長を名乗るモンタンさんは礼儀正しく帽子をとって挨拶してくれたのだが、その帽子の下から現れたのは……現れたのは……!



「うっきゃ~~~!! ケモミミだわっ!! やっぱり異世界ね!! 異世界だわ!」


 感情を抑えろクウちゃん!! それはさすがに失礼すぎるだろ!! 指をさすな!



「あ、すみません! この娘お腹が減ると空中に物珍しい食べ物の幻覚が見える体質なんですよ! ちょうどモンタンさんの頭あたりに幻覚が見えたんでしょう!!」


 われながらなんて強引な言い訳だ。それにしてもクウちゃん。『ケモミミ』はまだ許す。俺もクウちゃんが叫ばなければ声に出すところだったからな。しかし『異世界』と叫ぶのはいかんだろ! 俺たちがこの世界の人間じゃないことはセヴラルドさんたちにも知られるわけにいかないんだから!



「はて……? けもみみぃせかい? それはいったい?」


「はっはっは。実はこの娘は記憶を無くしておりまして。どこか遠くの地から来たようなのですが、おそらくそっちの地方にそのような名前の食べ物でもあるんでしょう」


 って畜生! 「設定上」記憶を無くしているのは俺もおんなじじゃねえか! 記憶のない俺が記憶のないクウちゃんの事を説明するって不自然だろうが! どうする? かなり不自然な流れになってしまったぞ?



「まあ、ハヤトさまったら。記憶がないのはハヤトさまも同じではないですか? それなのにそこまでクウちゃんさんの事を心配するなんて。いまだ思い出せない子供さんたちの影をクウちゃんさんに重ねていらっしゃるのですね? おいたわしや…… 嗚呼、早くお二人とも記憶が戻りますように……」


 ナイスだランシール! さすが見た目は理知的美人僧侶! その祈りのポーズは完璧だ!



「そうですか。それでは少し早いですがご一緒に昼食などいかがでしょうか? おいミネット! 休憩と食事の準備だ!」


「はいニャ!」



おお…… これは……


 

 モンタンさんに名を呼ばれて御者台からぴょこんと降り立ったその人物は……


 耳だ!! 尻尾だ!!  猫だ!


 ケモミミ娘だった!!


いつもありがとうございます。

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