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24、クウちゃんも風呂に入る

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「あと数日したら、メオンの街に向かおうと思っています。」


 俺はアトラとペトラの父であるザトラさんにそう告げた。ザトラさんは、この異世界に飛ばされてから右も左も分からず不安だらけだったこの俺をとても気にかけてくれた。まさに恩人といってもいい。




 本音を言えば、この居心地のいいセバン村に留まっていたい。変な魔道具(軽トラ)に乗って怪しいはずの俺を受け入れてくれた村人たち。彼らに恩を返しながらこのやさしい空気の中で過ごしていたい。アトラやペトラ、村の子供たちともっと遊んで成長を見守ってやりたい気持ちすらある。



 だが、この村では俺の目的(仕送りの金稼ぎ)の達成は難しい。


 軽トラの力を使って農業を手伝う事はできる。でも、十分な金にはならない。近隣の魔物を狩る方法があるとはいえ、この近辺には魔物は少ない。俺一人の時でさえ、日々の生活がほぼギリギリだった。

 

 今日からはそこにクウちゃんと『青銅の家族』(ブロンズ・ファミリア)たち4人が加わった。『青銅の家族』たちは自分たちで食い扶持を稼ぐとは言ったものの、魔物が少ないこの近辺では稼ぎようがないだろうし、村の自警団として活動するにしても、この村には4人を養う余裕はないだろう。

 

 それに、受肉したクウちゃんの食べる量(コスパ)が分からない。見た目は中3か高1くらいの可愛らしいサイズだが中身は老獪で豪快な(とんでもない)彼女の事だ。とんでもなく良く食べ、良く浪費するに違いない。






「そうか、寂しくなるが、仕方がないな」



 ザトラさんは申し訳のないような表情でそう返してくれた。村には俺たちを養う余裕がない事をすまなく思ってくれているのだろう。



「本当に、俺を受け入れてもらって感謝しています。必ず、必ずまた寄らせてもらいます。」


「ああ、子供たちもハヤト殿になついているし、早めにまた顔を出してくれればありがたい」






 宴は終わり、村人たちは帰路に着いた。


 セヴラルドたち4人は村唯一の宿屋に泊まることになり、クウちゃんにもランシールやリンシールたちと一緒に宿屋に泊まるよう促したのだが、


「……わたしは夜が怖い。安心できるのはわたしを助けてくれたハヤトの隣だけ。お願い、わたしの側にいて!」


 と、両手で自分の身体を抱きしめながら渾身の演技を村人たちの前でかましてくれやがったので俺と一緒に軽トラの荷台で寝る事になった。こいつあざとすぎるだろ……。



 

 馬車の車庫に軽トラを入れ、風呂の準備を始める。荷台にお湯を溜める軽トラ風呂だ。



「ねえハヤト、明日には街に出発するの?」


「まだ数日は村に留まろうと思う。やっておきたいことがあるんだ」



 冒険者兄妹たちだって疲れているはずだ。休息も必要だし、ボロボロになった衣類とかを雑貨屋で揃えたりといった準備も必要だろう。


 さて、風呂の準備ができたようだ。



「クウちゃん先に入ってきて。軽トラの周りは『隠蔽』で見えないはずだから」


「おおおおお! これが噂の異世界風呂ね! 米や味噌醤油と並んで異世界物では主人公たちが冒険の初期段階で目標とするあの伝説の…………」


 

 いきなりクウちゃんのテンションが爆上がりした。そういえばこの人アニメやラノベ見て異世界生活にあこがれていたんだったな。とりあえず落ち着け。興奮状態での入浴は突然死の危険性があるぞ? おじさんは血圧に関する生活上の危険性に詳しいのだ。



「さあハヤト! 一緒に入るわよ!」


 やっぱりこうなるか。




 ということで、俺は今軽トラの荷台にお湯を溜めた風呂の中にクウちゃんと二人で入っている。


 一緒に入ろうという申し出を俺は当然断った。断ったのだが


「異世界のお風呂と言ったら主人公とハーレムメンバーが一緒に入るのはデフォでしょデフォ! たとえ男湯と女湯が別々にあったとしても絶対必ず一緒に入ることになるのは運命なのよ!!」


 と熱い口調で語り始め、挙句の果てには宿屋に泊まっているランシールやリンシールまでも呼びに行きかねない勢いになったため妥協したのだ。まあ、要するに延々と相手にしているのが面倒くさかったのだ。




 荷台の湯船に二人並んで入る。荷台浴槽は浅いのであおむけに寝そべって入るしかない。クウちゃんのメロンふたつは湯に浮くというよりも湯に入りきらず水面からあふれている。どうせクウちゃんの裸は昼間にゴブリン集落でたっぷりと見てきたのだ。おじさんにとって刺激がないとは言わないが目の保養以外に特に思うところはない。ないはずだ。


 ちなみにこの体勢ではおじさんのゾウさんも水面から顔を出しているが別に恥ずかしくなどない。おじさんは年と共に羞恥心が欠如していくのだ。地域のショッピングモールぐらいは毛玉満載のジャージ上下で平気で行けるのだ。



 クウちゃんは心底気持ちよさそうに湯船に体を浸して目を閉じている。



「ああ……これが異世界風呂……。わたしが肉体を持つなんて今世ではありえないと思っていたのに……。肉体なんて不便なものとしか思っていなかったけどこの体の(コア)から温まる感覚はチャクラが開くわね……」


 おいおい。あたたまるのは体の「芯」とかだし、温まって開くのは「毛穴」とかじゃないでしょうか?



 石鹸で体を洗う。さすがにどれほどイメージしても軽トラの荷台にシャワーは現れなかったので湯船のお湯を使うしかない。まあ、洗った後にお湯を入れ替えれば大丈夫だろう。


 クウちゃんが体を洗う。石鹸で肉体を洗うという行為は初めてなのだろう。勝手がわからず俺が体を洗う工程を見ながら見様見真似で行っている。すると、クウちゃんはアニメの入浴シーンを思い出したのか、お決まりの俺の背中を洗うという行動に出始めた。



「わたしがハヤトの背中洗うから、ハヤトもわたしの洗い残しのところ洗ってね!」


 ヤバい。これはやばい。枯れたはずのおじさんの脳裏には若かりし頃に友人たちと行った特別な浴場の光景が浮かび上がる。クウちゃんよ背中をメロンで擦るんじゃない。それは別の知識だ。負けるな俺。


 クウちゃんの身体の洗い残しを俺は洗うはめになる。先ほどの記憶の続きであれば逆ソ〇プというある意味男のロマン的なシチュではあるが今の俺にはやましい気持ちなどない。子供たちを小さい時に風呂に入れたときの記憶をフル全開で呼び起こす。そう、これは作業なのだ。子供たちがまだ小さいころ、親に反抗して口汚く暴言を吐くようになるはるか前の天使のように思えたころのあのあどけない笑顔と幸せな記憶を思い出し、やましい気持ちなど発生するはずもない心理状態で目を閉じてクウちゃんの足の指の間を丁寧に洗う。作業は美しい思い出と共に丁寧に集中するのだ。


 俺は煩悩を振り払うべく話題の転換を図る。話題のネタは……今手元にあるこれだな。



「なあクウちゃん、この石鹸をこの世界で転売するというのは金策としてどうなんだろう?」



 手元にある石鹸は『異世界売店』で買ったものだ。銅貨1枚、日本円では100円未満。なぜこれを買ったのか。

 軽トラ風呂に入れるようになってからセバン村の雑貨屋で石鹸がないか聞いてみた。すると、この異世界でも石鹸と言う物は存在はしているが結構な高級品との事で大きな街に行かなければ手に入らないことが判明した。

 ならば、この石鹸を大きな街に行って販売すれば俺の目的である仕送り分の費用をすぐに賄えるのではないかという考えが頭に浮かんだのだ。



「転売はダメよ」



 そうか、ダメなのか。一瞬残念な気持ちにはなるが、クウちゃんが変な勘違い桃色エロモードから真面目モードに変化したので話題転換の主たる目的は果たされた。




「えーとね、次元や時空の違う世界同士では価値を持つ物の一方的な移動は世界に(いびつ)をもたらしてしまうのよ」



 等価交換というべきか質量保存の法則というべきか。もし、100円で買った石鹸をこの世界で1000円で販売したらどうなるか。概念的には、900円分この世界の保有する「価値」が地球に移動する事になる。見た目的にはこの世界にいる俺の手元に900円分の価値が残る結果になるのだが。


 クウちゃんの話によれば偏在した価値は増えれば増えるほどその世界には「歪」が蓄積され、いずれはその「歪」を元に戻すための大規模な予想もできない事態が発生する可能性が高いのだとか。

 

 わかりやすいたとえで言うなら、地球に1億円分の価値が流れた場合、その価値を相殺するために1億円規模の被害が出る災害が発生する。逆に、1億円分の価値が流出してしまったこちらの世界では1億円分の被害を出すのに必要な数十年、数百年の規模で災害等が発生しない。

 災害等がないのはいい事なのではと思ってしまうが、災害とは見方を変えれば世界の動きだ。風がなければ種子は運ばれず大雨無くして川の流れは変わらない。結局は世界の動き全体が停滞し、その世界からは動的要素が失われ緩やかな滅亡に向かって行ってしまうとの事。


 そういえば、異世界売店でタバコやビールを買うときに税金はかかっていない。酒税や消費税という日本国内でしか通用しない価値はこちらの世界にまで進出する余地はないということか。関税なんかもないし。


 ちなみに、俺と軽トラが日本からこの世界に転移したときの「代価」として、どこかの王城の宝物個から白金貨10枚分くらいの価値のある神話級の伝説の武器が日本のどこかに転移したらしい。


 いやいや、軽トラは10億もしないぞ? となれば俺の値段が10億ということか? いや、一般的な日本人の生涯賃金はせいぜい2~3億円ほどだ。しかも俺は田舎のブラック企業で手取りも少ない。まあ、高く売れたんだからいいとするか。それにしてもその伝説の武器とやら、俺ん家の車庫の奥とかに転移してないかな? 妻にメールして探してもらおうかな? いや、でもそれを売り払われたらなんか俺は日本に戻れなくなってしまうような気がする。どうか人知れずどこか秘境にでも埋まっていてくれることを願うとしよう。




 さて、体も洗い終わったので荷台からお湯を抜いて風魔法で体と荷台を乾かす。異世界売店からビールを買って飲んでいるとクウちゃんがこっちを見ている。中身は成人を天元突破しているだろうが見た目は10代半ばの女の子だ。ビールではなくコーヒー牛乳を手渡す。もちろん瓶入りだ。クウちゃんは誰にも教わることなく腰を手に当てて一気に飲み干していた。




さあ寝ましょうか。




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