23、おじさん、旅の仲間ができる
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「妹ちゃん2人はハーレムに入るのよ!!」
冒険者の4人兄弟から、命を救われたお礼をさせて欲しいと熱烈に迫られた。
俺は報酬はいらないと言うも、向こうもお礼をさせろと一歩も引かない。
何も受け取らないのは逆に失礼になると思い、金銭以外で何かをお願いできないか考えを巡らせていたらクウちゃんが爆弾発言をぶち込んできた。
「わたしには記憶がないわ。だから、同じように記憶をなくしているハヤトの為に身も心も捧げて一緒に旅をすることに決めたの! だから、だから!妹ちゃんたちもわたしと同じようにハヤトのハーレムに入りましょ!? あ、でもハーレム序列の1番は私だからね!!」
おお、クウちゃんがまた暴走したかと思ったが一応「設定」のことは覚えていたんだな。設定に添った話をしている。だが待て。その設定は主にセバン村の人たちに受け入れてもらうために考えたものだ。それをハーレムメンバーの募集要項のように使うんぢゃない。
それに、うら若き女性達がいきなりそんな突拍子もない提案をされたって困惑するし迷惑じゃないか。助けてもらったという負い目から断りづらいだろうし……。
そう思って女性二人の方を見ると、どちらも恥じらい2割、期待3割、興奮5割といった目線でこっちを見ている。あれ?
「それならばこちらからもぜひお願いしたい! だが、いいのか……? 妹たちはゴブリンに汚され……こんな汚れてしまった二人でも受け入れてくださるというのなら…… いや、これでは逆に恩義が増えてしまうではないか。だが、もしハヤト様が……」
「こんな……こんなゴブリンに汚されてしまった私なんかでもお役に立つのなら……どうせ、汚れた僧侶なんかじゃ冒険者どころかもう恋愛も結婚もできないし女としての喜びなんてもうあきらめていたけど……ハヤト様に私を清めていただけるなら……」
「うちの初めては奴らに奪われてしまったけど、心の処女はハヤトさんにもらって欲しいかな……」
長男と妹2人が何やら口走っているが少し待て。それは暴走という名の脱線だ。
「えー、話が進まないのでハーレムの件はとりあえず保留で。」
俺がそう言うと妹2人はあからさまに残念な顔を見せる。さっきまでこの世の終わりのような顔をして人生を悲観していた女性冒険者はどこに行った? もしかして軽トラの『状態異常無効』が効きすぎているのか? 元気になるのはいいが別方向で元気いっぱいになられてもな。
それに、兄の2人まで同じように残念な顔をするのは肉親としてどうなんだ。お前らはかわいい妹たちがおじさんの毒牙にかかることを望んでいるというのか。まあいい、この件はスルーして早く話をもとに戻さなくては。
「じゃあ、俺から皆に頼みたいことを伝える。さっきも言った通り、俺はこの軽トラの中で目覚めるまでの記憶がない。これから生活していくうえで知らないことが山ほどある。だから、機会があったときでいい。もしこの先、どこかの街で出会ったりしたときはいろいろと情報を教えてもらいたいし、知り合いの紹介なんかも頼みたい。以上だ。」
「……そんなことで…… たったそれだけでいいんですか?」
「ああ、金銭でのお返しは受け取らないし、皆はこれまで通り冒険者を続けて欲しい。」
すると、冒険者の4人兄妹は集まって何やら小声で相談し始めた。そして数分後、やたらすがすがしい顔をして4人がこちらを向き、長男が朗らかに告げる。
「分かりました! われらパーティー『青銅の家族』一同、ハヤト様の旅のお供として護衛、斥候、案内、交渉等を受け持たせていただきます!!」
「「夜のお世話も任せて下さい!!」」
なぜそうなった。
冒険者兄妹の長兄でリーダーたるセヴラルド曰く、俺が「冒険者を続けてほしい」と話したのだから、自分たちはこれからも冒険者を続ける。冒険の目的は俺の護衛やその他もろもろ。自分たちが勝手にやっている事なので迷惑でなければ認めて欲しい。
自分たちの食い扶持は自分たちで稼ぐし、そのためにパーティーのみで別行動することもある。稼いだお金は護衛対象者が円滑な旅を出来るように寄付もさせてもらうといった内容だった。
「それに、自分たちにも打算があります。こんなすごい魔道具を使いこなすハヤト様について行けばパーティーの生存率が大幅に上がりますし、さらには妹たちの事もあります。あんなことがあった以上、もはや夫たる男性を見つけ、嫁いで子を成すといった普通の生活は望めません。もし、ハヤト様のお側に仕える事がかなえば妹たちの生活も安泰になるという思いもあるのです。身勝手な願いとは重々承知していますが、どうか自分たちをお側に置いてください。」
そう言うと、兄妹4人はまたも土下座を決め込む。
うーむ。妙なことになってしまったが、正直道案内や交渉役をしてくれるというのはありがたい。この後行く先々で出会う人すべてに俺と軽トラの事をいちいち俺一人で説明するのは気が滅入る。それに、ずっと一緒ではなく別行動もとるという。常に一緒なら気疲れするが、それなりにプライベートタイムも確保できそうだしまあいいか。だけど……
「わかったわ!!これからよろしくね!!」
なぜおまえが返事するのだクウちゃんよ。
クウちゃんの言葉に兄妹たちは土下座を解いて手を取り合って喜んでいたが「ハーレムの件は保留な」と俺が言った途端に妹2人の表情が陰った。だって、俺には日本に妻がいるんだから。俺はこの兄妹たちに対しては記憶喪失設定なので詳しく説明できないのが歯がゆいが、俺の目的がどこかにいるはずの家族への仕送りといった話をあいまいな表現でどうにか伝える事に成功する。
こうして――
今日の朝はたった一人だった俺は、クウちゃん、そして兄妹冒険者パーティー『青銅の家族』たちと一緒に冒険する事になるのだった。
セバン村に戻る途中、セヴラルドたちから聞いた内容をまとめると、
セヴラルドたちは「メオンの街」を拠点として活動していた「Dランク」の冒険者パーティー。全員が兄妹で構成されたパーティーは比較的大きな街であるメオンの冒険者ギルドでも珍しかったらしく、それなりに他の冒険者たちには顔が効く。
冒険者ランクは最初の登録では一律「Gランク」になるらしく、Dランクというのはなかなかの実力者なのだろう。
リーダーは長兄のセヴラルド・ブロンズ。年は26歳。少し長めの角刈りといった感じの髪形をしている。身体は大きく力も強く、大盾と片手用の大剣を装備しているいわゆるタンク役。ゴツイ。
次男はソヴラルド・ブロンズ。23歳。ショートヘアーが少し乱雑に伸びた感じで中肉中背、全身がバネのようにすばしっこい印象を受ける。装備は細身の片手剣で、遊撃タイプのアタッカーのようだ。ちとチャラい。
長女のランシール・ブロンズは20歳。髪はストレートで腰まで伸びている。職業は僧侶で理知的な顔立ちをしているが、先ほどのハーレム加入希望の言動で俺の中では清楚美女のカテゴリから外れてしまった。キレイ系。
次女は17歳のリンシール・ブロンズ。魔法使いとの事だが、第一印象はショートボブの髪形からして身軽な部活女子校生だ。末っ子だけあってか、けらけらと笑う姿が似合いそうな活発さが感じられる。カワイイ系。
髪の色以外はタイプの全く違うこの4人兄妹は、およそ10年前に住んでいた集落が魔物に襲われて両親を失い、命からがら逃げのびてから生活の為に冒険者をしていたとのこと。末っ子のリンシールが小さいうちは依頼をこなすのに苦労したがなんとかこれまでやってきた。
先日、メオンの街からセバン村に至るエリアの魔物分布調査兼討伐の依頼を受けてこちらに来て探索していたところ、ゴブリンの集落を見つけたそうだ。ゴブリンの数は多かったが上位種は確認できず、セバン村が近くにある事から即時討伐を決め、いざ討伐に入ろうとしたところで不意に後ろからゴブリンキングに襲われてあの惨劇に至ったとの事。
途中経過は悲惨なものだったが、結果的には俺が現れたことで村を救ったことになるだろう。話を聞けば聞くほど、正義感溢れる立派なパーティーだと思う。長男のセヴラルドの性格が如実に表れている。
そうして俺たち一行は、長い一日を終えて6人で無事セバン村へとたどり着いたのである。
出迎えてくれたアトラとペトラは一気に人数が増えたことに驚いてはいたが、冒険者にあこがれていたアトラはセヴラルドたちと出会う事が出来てとっても喜んでいた。
村長のジトラさんやアトラたちの父であるザトラさんにクウちゃんや冒険者たちとの出会いの「設定」を説明したところ、俺たちはゴブリンの集落を排除して村を救ってくれた英雄として感謝され、その夜はもてなしの宴会を開催してくれた。
俺はクウちゃんと隣どうしに座り、ザトラさんと語らいつつ、ザトラさんの奥さんであるペーニャさんから酒を注いでもらっていた。
「しかし、ハヤト殿とその『けいとら』殿は本当にすごいな。まさかゴブリンキングの率いる集落まで倒してしまうとは。」
ゴブリン一匹ならば村の青年男性一人でも結構余裕で倒せるのだが、複数の群れとなったりした場合はその難易度が格段に増す。その上位種のゴブリンキングは単体でもCランクパーティーが瀕死の状態でようやく勝ちが拾える強さであり、さらにゴブリンキングが率いる群れとなれば、Cランク以上のパーティー複数参加が絶対条件の特別クエストが発注されるほどの強敵なんだとか。
「いやいや、『青銅の家族』の皆さんがいなかったらどうなっていたか」
俺はそう答え、村長のジトラさんにもてなしを受けながら村の子供たちに取り囲まれている兄妹パーティーの方を見る。どうやら、彼らは「設定」どおりの受け答えをしてくれているようだ。次男のソヴラルドあたりはなんかお調子者っぽい雰囲気がしていたから少し心配だったのだが。
視線の脇では、ペーニャさんがクウちゃんに向かって気遣うような表情を向けている。村人達への設定上、クウちゃんはゴブリンたちに浚われていたことになっている。まだ若い彼女の身に起きた境遇を心配しながらも、どう接すればいいのか測りかねているような様子だ。
村の大人たち、特にご婦人たちも同じ気持ちなのかちらほらとクウちゃんに気遣う視線を向けていた。
「あ、このシチュー温かくてとてもおいしいですね……。覚えてはいないけど、たぶん、わたし、前に、こんなふうに、大切な人たちに囲まれて、楽しい食事をしていたんだと思うんです。だって、なんか、とっても懐かしい味がするから……」
クウちゃんのセリフに村のご婦人たちの目から涙がこぼれ落ちる。
おいおいクウちゃん。たしかに記憶喪失の設定に沿った言動をしろとは言ったが、そこまでお涙頂戴の同情を引く演技までは求めてないぞ? こいつはいったい誰だ? いつもの能天気ドジっ娘BBAはどこ行った? 中身が違うのか?
村人たちがクウちゃんに同情の視線を集めている中、隣にいる俺だけが冷めた目でいるわけにもいかないので手もとの葡萄酒に口を着ける。うん。この世界のワインもそれなりに美味い。といっても一般庶民のおじさんにワインの味がわかるわけもないのだが。日本にいたころは紙パックの大容量庶民価格のハウスワインだ。価格が1番、アルコール度数2番、飲みやすさが3番といったところか。ちなみに今はタダ酒だ。タダ酒は尊い。
いかん、思考を現実に戻そう。
俺はザトラさんに向き直る。
「あと数日したら、メオンの街に向かおうと思っています。」
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