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20、おじさん、森に閉じ込められる

 前話までの行頭のズレや誤字等を訂正いたしました。

 まだ作者の気づかない誤字等があるやもしれませんので、ご指摘いただければ幸いです。


 

 ツイッター始めました!

 絡んで頂ければ喜びます!

https://mobile.twitter.com/sirusukirisima





 クウちゃんが受肉した。


 受肉した肉体の構成要素はアレだったが、それはともかく今目の前にいるクウちゃんはとても美しかった。


 

 

 ただし、全裸だった。



「クウちゃん、そろそろ服着ようか?」



 

 俺はクウちゃんに服を着る様に勧めた。だが、そこで思い当たる。おじさん専用の軽トラには女性用の衣服なんて積んでいるわけがないのだ。


 軽トラの荷台に乗っている蘇生させた冒険者メンバーたちも全員全裸だ。女性用の服どころか、男性用の服だってない。せいぜい俺の着替えが上下一組あるくらいだ。


 せめて冒険者たちの意識が戻るまでにはなにか肌を隠すものを手に入れたい。





 ゴブリンたちの集落を見渡す。布と呼べるものは奴らの腰布くらいしか見当たらない。だが、あんな小汚い布を体に纏わせるのははばかられる。

 

 特に冒険者の女性たちはゴブリンたちに手ひどく暴行されたのだ。奴らの身に付けていた布なんて身に付けるどころか見たくもないはずだろう。


 命は蘇ったとしても、絶命するまでの記憶は消えていないはずだ。暴行された記憶は残っている。そんな女性がゴブリンの腰布を見たらどうなるか。PTSDのようにパニックを起こしてもおかしくはない。ひどいパニックになれば命に係わるし、たとえパニックにならずとも、記憶がフラッシュバックしてそれがきっかけで自ら命を絶とうとするかもしれない。



 

 そういえば、先ほどゴブリンたちはこの冒険者たちの物と思われる武器や防具を戦利品として身に付けていた。衣類も残っているかもしれない。


 

 


 俺は冒険者たちの武器防具類の回収と、衣類を探すべく軽トラを降りて集落の中央に向かって歩き始め……死にかけた。




 おかしい。軽トラのレベルが100になって『保護距離』が増え、俺は半径100メートルは軽トラから離れても死なないはずだ。


 呼吸が回復してきて体を起こした俺をクウちゃんが隣で心配そうに見つめている。



「なあ、どうして俺死にかけたんだ?」



 俺はクウちゃんに尋ねる。


 クウちゃんは視線を空中に逸らす。




「えっと……、ほら、私、受肉したじゃない? そのときね、私の存在が3次元に固定されちゃったみたいで……。つまり、私が7次元存在の恩恵で上げた軽トラのレベルも元に戻っちゃったらしくて……」


 

 なんてこった。




 確認すると軽トラのレベルは「12」だった。なので、俺は軽トラから12m離れたところで死にかけたという事だ。


 クウちゃんが顕現する前のレベルは「3」だったので、どうやらイノシシさんやオオカミさん、大量のゴブリンやゴブリン上位種を倒した経験値は反映されていたらしい。




 

 危なかった。油断していた。一度上がったレベルが元に戻るなんて思ってもみなかった。

 

 考えてみれば、チート的なレベルアップはクウちゃんの恩恵だった。あんな不確定要素の多いクウちゃんという人物のもたらしたことを素直に鵜呑みにするべきではなかったのだ。おじさんは慎重な生き物だったはずだ。これからも石橋を叩いて壊すような勢いで慎重にならなければいけない。




「なあクウちゃん、もう一度光の球(7次元)に戻ることは可能なのか?」


「……もう肉体と定着化しちゃったから……。この体で今世を全うするか、瞑想をたくさんして一つずつ次元上昇(アセンション)していくしか……」



 つまりはできないと。



 いつでもどこでも光の球(7次元)受肉状態(3次元)を行き来できるのなら、軽トラのチート状態も任意で発動できるかと思ったのだか甘かったようだ。



 できないものは仕方がない。



 俺は冒険者たちの装備や衣類を集めるべく運転席に戻る。





 考えてみればゴブリンと戦う前に発動した『自動積載』のスキルを使えばよかったのだ。レベルが下がったとはいえ、今のレベルでも半径12mの物なら引き寄せられる。


 ということは、俺はわざわざ軽トラから降りて死にかける必要もなかったということか。

 さっきはクウちゃんのせいにしてしまったが、単に俺の不注意100%だったのね。クウちゃんゴメンナサイ。俺は自分の汚れた心を反省する。



 クウちゃんは俺が死にかけたのを自分のせいだと思っているのか、一生懸命に冒険者たちの装備や衣類を集めていた。クウちゃん、全裸で立ったまま前かがみになるのはやめましょう。いろいろ見えて危ないです。






 俺は集落内を軽トラを走らせながら『自動積載』のスキルを発動。冒険者たちの装備や衣類を回収する。回収した衣類は着れないことはないがやはり破損は多い。胸当てなどの他の防具で大事な所は隠せそうなのでまあ大丈夫だろう。





 回収した衣類と防具を全裸の冒険者たちに着せていく。


 俺は男性冒険者、クウちゃんは女性冒険者の担当だ。

 

 途中、クウちゃんは「交代してもいいのよ? 全裸の女性に服を着せるプレイも興奮しない?」なんて言ってきたが丁重にお断りした。


 それにしても、やはりというべきか男性冒険者たちは筋肉が盛り上がり体格もそれなりに大きいので着せるのに若干の苦労を要した。日本にいたとき異業種交流の研修で老人ホームに行った時の介護技術があって助かった。


 クウちゃんは当然3次元の世界で肉体を持った生物に服を着せるといった経験はなくてとても苦労していたので結局女性の服も俺が着せる事になってしまったが。

 若干興奮したのは内緒だ。


 

 服や防具を冒険者に着せたとたん、固有スキル≪搭乗者保護≫の『清潔保持』が発動し、汚れていた防具や衣類もきれいになる。だが、破損した部分は元には戻らない。けっこうボロボロ状態だ。これはこれで仕方がない。




 

 で、クウちゃんはといえば、今は衣類を身に付けている。冒険者に衣類を着せる行為を全裸のままで行うのには、体勢とかいろいろとフェチ好みのシチュエーションになってしまうのを防ぎたかったためだ。


 衣類は『異世界売店』で購入した。銅貨の貯えが多いわけではなので、安くておしゃれなし〇むらでの購入だ。さすがに異世界っぽい服装の品ぞろえはなかったが、アルプスの高原を舞台にした物語に出てくる上品な村娘のようないでたちになっている。


 



 それからは冒険者たちの意識が戻るまでの間、倒したゴブリンたちの魔石を回収した。いちいち解体して魔石を取り出すのはさすがに勘弁だったのでSP(スキルポイント)を2使い、風魔法のランクを(1)→(3)に上げて切り裂いて取り出した。


 風魔法の射程は



「軽トラレベル」12×「風魔法ランク」3   =半径36m




 なのでほとんど軽トラを移動させることなく『自動積載』で集める事が出来た。


 

 レベルが上がっててほんとによかった。レベルがクウちゃん顕現前の「3」のままだったらとても苦労したに違いない。まあ、『自動積載』と『無限積載』は本当にクウちゃんのおかげだから感謝しないとな。

 

 魔石の中には一回り大きなものの数個混じっており、倒したやつらの中には微妙な上位種もいたらしい。


 『無限積載』に収納された魔石を、取扱説明書に新たに加わったアイテムリストのページで見てみると、



「ゴブリンの魔石×124」のほかに


「ゴブリンファイターの魔石×3」「ゴブリンマジシャンの魔石×1」「ゴブリンプリーストの魔石×2」



 というのが混じっていた。さらに、ひときわ大きな魔石は、



「ゴブリンキングの魔石×1」



 という表示が出ており、あの大きな個体はゴブリンキングであったことが判明した。



 魔石以外にも


「ゴブリンの剣×28」「ゴブリンの棍棒×57」「ゴブリンの斧×24」


 とか


「ゴブリンワンド×1」「ゴブリンの剣(上)×1」「ゴブリンスタッフ×1」


 といったアイテムもあり、極めつけは


「ゴブリンキングの大剣×1」と「ゴブリンキングの冠」


 といった結構高値で売れそうなアイテムも存在していた。



 あとは銀貨や銅貨が入っていると思われる布の袋。多分冒険者たちの持ち物だろう。中身の確認はしないつもりだったが、しっかりとアイテムリストには金額が表示されてしまっていた。




 こうしてみるとゴブリンキングはこの世界ではなかなかの強者で、キングのいる集落は普通なら討伐はかなり難易度が高かったのではないかという気がしてきた。チート状態の軽トラ魔法であっさり首ちょんぱしちゃったから実感ないけど。




 魔石を取り出したあとのゴブリンどもは集めて火魔法で集落ごと焼いておいた。ゴブリンの死体を食おうと集まってくるモンスターがいるかもしれないし、死体が腐れば病毒も発生する。集落を残しておけばほかのゴブリンが住み着くかもしれない。


 ここはセバン村からそれほど離れているわけではない。村の人々が襲われてペーニャさんや村のご婦人たち、ペトラみたいな年端のいかない女の子たちが毒牙にかかるなんて考えたくもない。



 

 ゴブリンキングの死体だけは焼かずに『無限積載』に保存している。


 『あにめ』に造詣の深いクウちゃん曰く「ボスモンスターは、ギルドでお披露目して周囲がざわめくのがデフォでしょうが!」という理屈らしい。

 まあ、確かにギルドで解体すれば硬い体皮などは素材として買い取ってくれるかもしれない。




 さて、ここでのやるべきことは全て終わったはずだ。




 荷台に横たわっている冒険者たちの意識はまだ戻らない。


 とりあえず、村に戻るべきだろう。







 俺は軽トラを走らせ、来た道を戻ろうとする。道と行っても木々の生い茂る森の中だ。


 集落に進入してきたところから森に入ろうとすると




「ドカーン」



 軽トラは木にぶつかった。



 またまたうっかりしていた。




 クウちゃんが受肉して3次元の存在になってしまったことで、軽トラのレベルは「100」から「12」に戻っていたのだ。


 来るときは「悪路走破」のカスタムスキルのランクが(10)になっていたので、進行方向の木々がにゅるんと避けてくれていたのだが、スキルが発動しない。現在のスキルランクは(1)に戻っていた。



「悪路走破」のランクを上げようと意識を集中してみるが、ランクアップの条件が不足しているらしい。


 このスキルの発現条件は


        「土1×風1×氷1×火1×時空」


 となっており、ランクを一つ上げるためには土魔法、風魔法、氷魔法、火魔法の4つのスキルランクを全て上げる必要があるようだ。

 

 つまりはランク2にするためにはSP(スキルポイント)が4、ランク3にするためにはSP(スキルポイント)が8必要となる。


 

 進行方向の木々がにゅるんと避ける効果は『悪路走破』(5)の「進路確保」の効果で、「進路上の障害物(木や瓦礫等を取り除く(破壊or避ける))」というものらしい。


 さっき風魔法のランクを2つ上げたが、『悪路走破』のランクを(5)にするためにはあとSPが14必要だ。


 今のSP(スキルポイント)の残りは……11? 予想はしていたがポイントが足りない。

 

 CP(カスタムポイント)を振り分けてランクアップしないかとも思い試してみたが、このスキルのランクにはCPは関与しないようだ。≪カスタムスキル≫のカテゴリにあるスキルなのに……。条件や設定が複雑すぎるぞクウちゃん(創造主)



 

 だが、SP(スキルポイント)の計算が合わなくないか?


 たしかSPはレベルアップごとに1増えていくはずだ。今の軽トラレベルは12。レベルが11上がったから取得SPは11。さっき風魔法に2使ったから残りは9ポイントなのではないだろうか?


 確認したところ、どうやらレベルが5の倍数の時にボーナスポイントとしてさらに1ポイント付与されるらしい。レベル5とレベル10のときのボーナスが付与されていたというわけか。納得した。多くもらえてラッキー。


 ちなみにこのボーナスポイントはCP(カスタムポイント)にも適用されるらしく、1レベルごとに+5ポイント取得、5の倍数ボーナスでさらに+5ポイントとなるようだ。





 

 さて、ポイントの計算に関しては納得した。だが、根本的な問題が解決していない。



 SP(スキルポイント)が足りない以上、『悪路走破』のランクを上げることはできない。したがって、森の木々を避けて走行する事ができない。






「……なあ、おれたち森から出られないんじゃないか……?」







いつもありがとうございます。

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感想、誤字報告、レビューもお待ちしております。

今後ともよろしくお願い致します。



〇軽トラステータス


名称:軽トラ 異世界仕様車


レベル:12

 HP ∞ ・MP max/20,000 ・SP 11/13・CP 65/65


≪分類≫:魔法道具


≪レア度≫:幻想級


≪運転者≫:橘隼人(専用)


≪固有スキル≫:

・MP駆動

・車体不壊

・成長可能性保持

・搭乗者保護

・積載物保護


≪スキル≫:

・MP自動回復(1)

・火属性魔法(1)

・水属性魔法(1)

・土属性魔法(1)

・風属性魔法(1)→(3)Up!

・氷属性魔法(1)

・雷属性魔法(1)

・回復魔法(3)

・光魔法(1)

・精神干渉(1)

・時空干渉(1)


≪カスタム≫:

〈機能系〉

・エアコン(1)

・MP電力変換(1)

・幌(+)

・洗車(1)

・無限積載(New!)

・自動積載(1)(New!)



〈戦闘系〉

・轢く(1)

・撥ねる(1)

・隠蔽(-)(New!)


〈操作系〉

・悪路走破(1)


〈生活系〉

・異世界売店

異世界CDキャッシュディスペンサー


≪恩恵≫:時空


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