17、軽トラ、突然レベルアップする
軽トラ視点ではありませんw
今後、描写的に残虐なもの、性的なもの、グロっぽいものが追加されていく可能性が高くなりましたので、本作品を「R15」に変更させていただきました。ご理解を頂ければ幸いです。
今回の更新では残酷描写はまだ出てきません。
「さあハヤト!私とあなたの異世界生活の『設定』を煮詰めていきましょ!」
クウちゃんが俺のいる異世界に転移してきた。
どうやら俺の嫁になるらしい。
そのことは日本にいる俺の妻や子供たちも了承しているらしい。
いろいろツッコんで異議を唱えたいところだがもう遅いようだ。
だがちょっと待て。
嫁云々の前にもうひとつクリアしなければならないことがあるだろう。
「なあ、クウちゃん。……クウちゃんは俺の嫁になるという事だが……」
「ええそうよ! 何か問題でも?」
「おおありでしょ! 今のあんたの姿を鏡で確認してみろ!」
そう、クウちゃんは高次元の存在だ。この異世界には、アストラルボディのままで転移して顕現している。
つまり、今のクウちゃんは光の靄が集まった、玉子のような形をした球の様にしか見えないのだ。
「このままだと俺はウィ〇オーウィスプを嫁に迎える事になってしまうし、いつもラジオと話しているとってもイタイ奴になってしまうんですが?」
今のクウちゃんは肉体がなく、声帯もないので声を出すことができない。なので、意思をラジオの電波に乗せて軽トラのスピーカーから音声を出しているのだ。
「ハッ!!! そうだったわ! 私としたことがうっかり……」
どうやらクウちゃんは今の自分の姿の事を忘れていたようだ。
「でも……次元があれだから……受肉するには……下げて……この世界の構成要素で……」
クウちゃんがなにやらブツブツ言っている。たのむからラジオのスピーカーでブツブツ言うのはやめて欲しい。ラジオのボリュームをゼロにしようかとも思ったが、怒りそうなのでやめておいた。
「えーと、クウちゃん。考え込んでいるところ悪いが、嫁云々の話はいったん脇に置かないか?」
クウちゃんのつぶやきが止まり、光の球が少し揺らぐ。こちらに意識を向けたのだろう。
「さっきのクウちゃんの話だと、俺を、その、勇者のように強くしたいんだろう?俺も今レベルを上げるためにこの森に狩りに来ていたんだが、この木々に阻まれて森に入ることができないんだ。なにかレベル上げのいい方法ってないかな?」
クウちゃんに問いかける。正確に言えば勇者のように強くなるのは「軽トラ」であって、レベルを上げたいのは俺ではなく「軽トラ」なのだが。
そうだ、俺はそもそもレベル上げの為に森に来たが、軽トラに乗ったままだと中に入れず立ち往生していたところだったのだ。本来の目的に戻らせてもらおう。
「なーんだ、ハヤト。そんなことで立ち止まってたの? さっきまでならいざ知らず、この私がここにいるのよ? まっすぐ進んでごらんなさい?」
この人は何を言ってるんだろう。まっすぐ進んだら木々にぶつかっちゃうではないか。軽トラには傷ひとつつかないとはいえ、なぎ倒せるわけではないし意味がないではないか。
「だいじょうぶよ! いいから、騙されたと思ってまっすぐ進んでごらんなさい!」
はいはい、分かりましたよ。そこまで言うんならぶつかってあげますよ。
俺はギアをローに入れ半クラッチにしながら軽トラを前進させる。
ほーら、木にぶつかっ……ぶつからないだと?!
なんと、進行方向の木々が軽トラの脇に道を開けるように移動し、軽トラの進路を阻むものはない。バックミラーを見ると移動した木々はすぐに元にあった位置に戻っている。
「これはどういうことだ?」
「ふっふー。驚いた?軽トラのステータス見てみそ?」
「見てみそ?」なんて一体何年前に流行った言葉だろうと思いつつ俺は取扱説明書のページをめくる。
〇軽トラステータス
名称:軽トラ 異世界仕様車
レベル:100(Up!)
HP ∞ ・MP max/100,000 ・SP 20/120・CP 600/600
≪分類≫:魔法道具
≪レア度≫:神話級(Up!)
≪運転者≫:橘隼人(専用)
≪固有スキル≫:
・MP駆動
・車体不壊
・成長可能性保持
・搭乗者保護
・積載物保護
≪スキル≫:
・MP自動回復(10)
・火属性魔法(10)
・水属性魔法(10)
・土属性魔法(10)
・風属性魔法(10)
・氷属性魔法(10)
・雷属性魔法(10)
・回復魔法(10)
・光魔法(10)(New!)
・精神干渉(10)(New!)
・時空干渉(10)(New!)
≪カスタム≫:
〈機能系〉
・エアコン(10)
・MP電力変換(10)
・幌(-)
・洗車(10)
・無限積載(New!)
〈戦闘系〉
・轢く(10)
・撥ねる(10)
〈操作系〉
・悪路踏破(10)
〈生活系〉
・異世界売店
・異世界CD」
≪恩恵≫:時空(特大)
レベル100だとーーーーーーーーーー!!!!!!!!
スキルの各魔法もMaxの(10)ランクになっているし、光魔法とか増えてるし!
精神干渉とか時空干渉とかやばそうなのまでがしれっと追加されている。
カスタムの方も、さっき沼の走破で覚えたばっかりの「悪路走破」や、「撥ねる」だの「轢く」だの物騒なランクまでMaxだ。「無限積載」なんてのも増えている。
森の中で木々をにゅるんと避けさせて走行できたのは「悪路走派」のランクアップによるものか? なんにせよ、これで森の中を縦横無尽に走り回ることができる。
「ふっふっ~、すごいでしょ~! 軽トラの創造主たる私が顕現すればこんなものよ! さあ、私に嵐のような称賛を浴びせなさい!!!」
いや、違うだろ。軽トラを開発したのは日本の自動車メーカーの先人たちだぞ? 基となったオート3輪を開発した人とかに謝れ。
とりあえず、「あーすごいねーありがとー」と称賛の言葉を浴びせながら、本来の目的であるレベル上げの為、森の中を魔物を探して徘徊する。
木々の間に動くものを発見。大きな黒い犬に見えるが角が生えている。目は赤くて鋭く、口の端から見える牙が大きい。たぶん狼の魔物なのだろう。
角オオカミはこちらを見つけると一瞬戸惑った感じを見せながらも、すぐに軽トラに向かって犬歯を見せて威嚇の構えをとる。やっぱ異世界で軽トラを初めて見たら魔物でも驚くし警戒するよね。
生い茂る木々を巧みにかわしながらこちらに突っ込んでくる。なんというか、軽快な走りとでもいうのかとても早くフットワークがいい。
大きく口を開けて跳躍する。その口からは大きく尖った犬歯が見え、真っ赤な舌を唾液が迸る口の中にのぞかせる。
角オオカミが飛び掛かってきた瞬間、俺は軽トラを急発進させる。ヒールアンドトゥでアクセルとブレーキを同時に踏んだままエンジンの回転数を上げ、サードギアで一気にクラッチをつなぐ!
『どかーん』
カスタムスキルの「撥ねる」(10)の効果なのか、俺の運転テクニックの効果なのか分からないが角オオカミは綺麗に跳ね飛ばされ一撃で討伐できた。
隣では玉子型の光の球が「いかにも私のおかげで討伐できたのよ感謝しなさい」とでも言いたそうなオーラを放っている。倒したのは俺のテクニックのおかげだと主張したいが面倒くさいのでかまわないでおく。スルーだ。
角オオカミの死体を荷台に積もうと近づいていくと、一瞬淡い光を放って「シュン!」といった感じで荷台に吸い込まれていった。そこでもさらに隣の玉子型の光がウザそうな光を揺蕩わせる。
「ダーリンは軽トラから離れると死んじゃうでしょ? だから、あ、な、た、の、た、め、に、自動で回収する機能をカスタムしてあげたわ!!!」
たしかに、わざわざ軽トラから降りなくても魔物の死体やら魔石やらを回収できるのはとても便利だ。だが、ダーリンという呼び名はいかがなものか?
呼ばれてから数秒間は自分の事を言われているのだという自覚がなかったし、そもそも俺は嫁と夫という関係性をまだ承諾していないはずだ。
そこを蒸し返すと一向にレベル上げも話も進まないのでスルーする事にしたが、スルーの濫用は流されっぱなしの人生に直結するというという事実に気づき戦慄する。おじさんというのは主体性を持って生きることが苦手な人種なのかもしれない。
森の徘徊を続け、今度は大きな猪に出会った。この猪にも角が生えている。この異世界の魔物は角が生えているのがデフォなのだろうか?
角イノシシの攻撃スタイルは突進による打撃。奇しくも軽トラの攻撃スタイルとよく似ている。森の中の少し開けた場所で、軽トラと角イノシシが正面から対峙する。
鼻息荒く、角をこちらに向けて突進してくる。
今度は0→400mのスタートダッシュのようにサイドブレーキで車体を固定、アクセルを踏んでエンジン回転数を上げ、ギアはセカンドでクラッチをつなぐと同時にサイドブレーキを解除!
『どかーん』
イノシシさんも一発で討伐完了だ。
「だから、ダーリンってばぁ。『撥ねる』のランクが(10)なんだから、普通にぶつかるだけで簡単に倒せるよ? あ、もしかして、ダーリンってば、わたしにカッコいい所見せたくて運転テク披露してるんでしょ?! やっだもう! ダーリンってばかわいいんだから! そんなに私の事を愛しているのね? あ~もう! 異性を意識し始めた少年少女の甘酸っぱい恋愛みたいね! うふふっ!」
……いや待て! そんなつもりは毛頭ないぞ! 日本にいたころの俺の頭髪の様に毛頭ないし毛根もない! それなのになんかすっごい恥ずかしい。
クウちゃんの音声がスピーカーから発せられるものだから、自分の恥ずかしい所が全国にオンエアーされているみたいでなんか余計恥ずかしい。全力で否定したいが、否定の言葉を発することすらムキになっていると思われそうで恥ずかしい。
俺は小さくため息をついて、さっきクウちゃんがカスタムしたという「自動積載」のスキルでイノシシさんを荷台に収納する。
ふと運転席のバックミラー越しに荷台を見ると、さっき積んだはずのオオカミさんもイノシシさんも姿が見えない。結構大きな個体だったから、軽トラの荷台は2体でほぼ埋まっているはずだ。軽トラを降りて後ろに回って確認したが、やっぱり荷台は空のままだ。
あれ? イノシシさんと戦っている時にオオカミさん落としたかな? でも、さっき積んだばっかのイノシシさんをすぐどっかに落とすなんてありえないしな……?
「もしかしてダーリン、獲物がなくて不思議に思ってるの?」
俺は軽くうなずく。
「あなたの獲物は亜空間よ!!」
どうしてこの人は通訳なしで伝わる会話ができないのだろうか?
よく聞いたら異世界物によくある無限収納アイテムボックスのように、荷台を通じて亜空間に任意の物を収納できるそうだ。ステータスに加わっていた「無限積載」ってやつだな。ちなみに時間経過も無いらしい。うん、チートの基本装備が手に入ったね。
これで村に帰れば新鮮なイノシシさんのお肉をアトラに食べさせてあげる事ができるな。無限に収納できるならすべて持ち帰ることもできるし保存もできるという事だ。狩れるだけ狩っていこう。
そうしてさらなる獲物を探して森を移動していると、木の陰に小さな子供のような姿を見つけた。
なぜにこんな森の中に子供が? と思ったのも束の間、その人影は明らかに人間のそれとは姿が違っていた。その体は緑色で、身に付けているのは腰巻1枚と粗末な石斧。
ゴブリンだ。
いつもありがとうございます。
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