12、おじさん、立ち往生する
※ストックが切れてしまいました。
今後、更新の間隔が空いてしまうと思われます。
精一杯頑張りますので、今後ともよろしくお願い致します。
夜が明けた。爽やかな朝が来た。
今日もいい天気である。
俺がこの世界に転移してきてから毎日が快晴だ。
快晴なのは気分が良くていいことなのだが、この世界にとってはどうなのだろう。村の畑とか、収穫が終わったばかりだから大丈夫だとは思うが、水不足とかにはならないのだろうか?
今日も朝から農場に搾乳されたばかりの新鮮なミルクを運びに向かう。今日の助手席に座るのはペトラだ。
農場への往復には、途中で畑の脇を通る。収穫を終えた畑は作物の姿はなく、畝が居並ぶ土だらけの風景だ。
畑の土は黒色と灰色が入り混じっており、灰色のところは土が乾燥してカサカサになって色が変わっているようだ。
俺は水魔法を発動。小さな水球が軽トラの周りに無数に浮かぶ。
その水球を畑に向かって広域に放つと同時に風魔法を発動して水球を細かい水滴に変えながら、さらに広範囲に飛び散らす。
まるで雨が降り注ぐように、水魔法のシャワーが様に畑に向かって広がっていく。
「うわ~!ここにだけ雨が降ったよ!すご~い」
ペトラが喜んでくれている。
魔法の有効射程は未だ5メートルだが、風魔法を組み合わせる事で10メートルくらいの範囲までシャワーのおしめりを畑に与える事が出来た。別系統の魔法の同時発動成功だ。範囲魔法を覚えればもっと広範囲に水を撒くことができるだろう。
「あ、見て!虹が出たよ!とってもきれ~い!!」
おお、これは思っても見なかった副産物だ。
水滴が薄く広がる空中に小さな虹のカーブが現れた。
この世界の虹も地球と同じく7色のようだ。紫外線とかもありそうだな。おじさんは日焼けするとすぐ肌にしみができてしまうから気を付けなければ。って、体は若返っていたんだな。おじさんの思考回路が抜けない。
「あ~あ、すぐに消えちゃったね」
水滴がすべて地面に落ちると虹は消えてしまった。ペトラは消えた虹を残念そうに見ていたが、楽しんでもらえたとは思う。
よかった。子供の笑顔はこの世の宝だね。今度は他のみんなにも見せてあげたい。
ミルクを村に運びペトラと別れて俺は今日も狩りに出かける。
今日は森の方まで足を伸ばしてみよう。
森に向かって軽トラを走らせる。いつもの狩場の草原から大きく外れて緑の木々が立ち並ぶ方に進む。
そのまま真っ直ぐ進めば森に着くかと思っていたが、そう簡単にはいかなかった。草原と森の間には湿原? のような水分を多く含んだ泥状の地面が大きく広がっていた。
このまま進入すればぬかるみにタイヤを取られてスタックしてしまう。そうなれば軽トラから離れる事の出来ない俺は一生を湿原の中で過ごすことになってしまう。それはぜひとも避けたいところだ。
ちなみに、俺の住んでいた田舎の方言では、ぬかるみにタイヤをとられてスタックする事を「ぬかる」という。
実際の用法としては
「あい~んは。タイヤぬがってしまってうごがれね~じゃ~」となる。
「ぬかる」は口語になると「ぬがる」に変化し、動詞から状態を表す形容詞の「ぬがってしまった」へと活用変化する。
先ほどの用法を標準語に直すと
「あら~。タイヤがはまってしまって動けなくなってしまった~」となる。
なお、「ぬかる」は人の足が泥などにはまってしまう時も用いられ、
「田んぼさぬがってあがえねぐなった」
訳)「田んぼにはまって歩けなくなった」
というように使用される。
話しが大幅に脱線してしまったので元に戻す。
湿地帯にタイヤをぬがらへるわげにはいかない。
訳)湿地帯にタイヤをはまり込ませてしまうわけにはいかない。
迂回するにしても、この湿原はどうやら森を取り囲むように広がっているらしい。
俺は土魔法を発動する。
軽トラの進行方向に向けて、ぬかるんだ土を乾いた硬い土へと変化させる。
土魔法だけでは時間がかかるので、火魔法で温度を上げた風魔法も併用し、
土の乾燥(火魔法、風魔法)→土の硬化(土魔法)
と土の性状を変化させることによって、軽トラの走行速度に合わせて素早く進路上の路面を整地させることができた。
確認すると≪カスタム≫〈操作系〉の中に「悪路踏破(1)」が追加されていた。よしよし。こんな機能が欲しかったんだよね。
俺は悠々と軽トラを湿地帯の中を走らせ、軽トラをぬがらへるごど(ぬかるみにはまらせること)なく無事に湿地帯を通り抜けた。
森に着いた。森の中は鬱蒼として森の中を見通すことはできない。
というか、木や灌木の生い茂る森の中だ。先ほど覚えた「悪路踏破」を使ったところで地面は何とかなっても木々が邪魔で軽トラは森の中には入って行けない。
「森に入れれば大きな獲物がいそうなんだが……。」
俺は森に入る方法を考える。こんな便利な軽トラだ。さっきも土魔法で湿地帯を踏破したのだ。魔法の組み合わせと俺のイメージでなんとかなりそうな気がする。
まずは進路の邪魔になっている木や灌木を何とかしよう。
火魔法で燃やすか? いや、それだと山火事で大惨事になってしまう。森を消滅させたら村人たちは森の恵みを得る事が出来なくなってしまう。
風魔法を発動。イメージはエアーカッターだ。竜巻をイメージする。だが、風魔法のランクが低いためかせいぜいつむじ風だ。
つむじ風を縦に圧縮し、薄く、薄くイメージする。風の円盤の完成だ。
風の円盤を木の幹に向かって放つ。空気の塊が木にぶつかり乾いた擦過音が森に響く。
「やったか!?」
ダメだった。
風の円盤は木の皮に傷をつけただけで、皮の下の生木の部分にはほんのちょっと傷がついただけだ。
ならば。風がだめなら水はどうだ。
エアーカッターの応用でウォーターカッターを発動する。イメージは鳴門の大渦。尤も、魔法ランクが低いのでせいぜい縦置き洗濯機の水流くらいにしかならない。
回転する渦の端が鋭利になるようイメージして木に放つ!
「どうだ!」
ダメだった。
その後も某スライムに転生した魔王様の水カッターをイメージしてみたりしたが結局またもや木の皮に傷をつけただけで終わってしまった。
さらなる策を展開する。
氷魔法で薄い氷の刃を形成。放出と共に風魔法で加速させてみる。
切断力を上げようと薄くした氷の刃は衝撃にもろく、木にぶつかると切断するどころかすぐに砕け散ってしまった。
強度を上げようと刃を厚く、斧のようにしてみたがやはり威力が足りず、幹に傷をつけるのみ。
氷の斧にヒントを得て、小さな厚い刃を無数に形成。
先ほどの風のつむじ風カッターの外周に纏わせ、氷の刃の「回転丸のこぎり」をぶつける。
氷の丸鋸切りは木の幹を削り始めるが、長時間の作業となり風魔法の回転により氷が溶けてしまう。
氷の刃を土魔法で作り直す。丸のこぎりの土刃バージョンだ。
氷の時の様に刃が溶ける事はないが強度は足りず、削るのにとても時間がかかっている。
小さな細い木ならばなんとかなりそうだが、幹が直径1メートルを超える木々が生い茂るこの森では効率が悪すぎる。
「うーん、やっぱり魔法のランクを上げなきゃだめだな~。」
魔法のランクを上げるためには軽トラのレベルを上げる必要がある。しかし、草原周辺にはスライムや角ウサギがまばらに生息しているだけでレベル上げの効率は悪い。
レベル上げの効率を上げるために森の中に入りたいが、入る為には木が邪魔であり、木を切り拓くにしても魔法ランクが低くてままならない。
どうやら八方ふさがりのようだ。地道に数少ないスライムやウサギを探し出して倒すしかないのだろうかと考えていたところ、
「うふふっ!困っているようね!」
突然女性の声が軽トラの車内に響いた。どうやらその声はカーラジオのスピーカーから流れてくるようだ。
「わたしの力が必要なようね!!さあ、わたしを求めなさい!!!!」
上から目線のウザい声が軽トラの車内に響き渡った……
〇軽トラステータス
名称:軽トラ 異世界仕様車
レベル:3
HP ∞ ・MP max/10,000 ・SP 2/2・CP 10/10
≪分類≫:魔法道具
≪レア度≫:幻想級
≪運転者≫:橘隼人(専用)
≪固有スキル≫:
・MP駆動
・車体不壊
・成長可能性保持
・搭乗者保護
・積載物保護
≪スキル≫:
・MP自動回復(1)
・火属性魔法(1)
・水属性魔法(1)
・土属性魔法(1)
・風属性魔法(1)
・氷属性魔法(1)
・雷属性魔法(1)
・回復魔法(3)
≪カスタム≫:
〈機能系〉エアコン(1)・MP電力変換(1)・幌(-)・洗車(1)
〈戦闘系〉轢く(1)・撥ねる(1)・
〈操作系〉悪路踏破(1)(New!)
〈生活系〉「異世界売店」「異世界CD」
≪恩恵≫:時空




