表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/47

10、おじさん、出稼ぎ状態になる

いつもありがとうございます。

 




 俺は異世界で初めて訪れた村、セバン村にて畑の収穫を手伝った。


 


 

 

 村にもどり、夜になるとザトラさんが現れ、いつものように日当として銅貨40枚を受け取る。

 

 

 ザトラさんは、収穫は終わったが、明日から俺はどうするつもりなのかとすこし遠慮がちに聞いてくる。

 


 商人が村に来て農作物の売却をすれば、今年は野菜などの品質が例年よりもとびぬけて良いので、高く売れたらその分追加でお礼をしたいからそれまでは村にとどまって欲しいという申し出と、収穫が終わったので俺にはこの村で出来る仕事はなくなったことから、収入がない俺への心配と、そんな俺を村に留め置く事への申し訳なさなどがザトラさんの表情には混じっている。



「そのことですが、実は記憶の一部が戻り、俺にはやらなければならないことがある事を思い出したんです。」



 俺は続けて語る。


 

「どうやら俺には子供がいて学校に通っているようです。多分、王都とか大きな町にあるような学校で、授業料がとてもかかるような事を断片的に思い出しました。記憶が完全に戻って故郷に戻れるようになったときに、おそらくは借金で賄っていると思われる家族の生活費と学費を払うためになるべくお金を稼いでおきたいんです。」





・・・・・・・・・


 

 話は数日前に遡る。この異世界に転移してきてから3日目の夜の事、俺は日本の妻にスマホで連絡を取った。

 

 スマホには使える機能に制限があり、音声通話機能は使えず無料メールアプリで連絡した。

 

 10倍という時間の流れの違いを考えれば、俺が雨の夜に次元間ポータルに落ち、異世界に転移してから地球時間では5時間半ほど経過していることになる。日本では午前1時くらいだろうか。


 


 俺の帰りが遅い事で心配してくれていたのだろう。俺と妻と子供2人、計4人の家族のグループチャットにはすぐに既読が付いた。


 


 

 俺は正直に、異世界に迷い込んで帰れる可能性は少ない事を伝えた。

 

 妻はオタクではないごく普通の日本人で異世界といってもピンと来なかったので、俺は日中にアトラたちと村を背景に軽トラと共にスマホで撮った写真(撮影者はザトラさん)を送った。もちろん俺の頭髪はフサフサになっている。

 

 フサフサ効果と、ゲームやアニメ好きな息子たちの補足がありある程度の理解はしてくれたようだ。



 

 とりあえず、朝になったら俺の会社に俺が帰ってこないことを連絡してほしいこと、体裁のために数日たったら警察に捜索願いを出してくれるよう妻に依頼した。



「じゃあ、あなたは行方不明扱いになるという事よね? 当然給料なんて出ないよね? 生活費とか、長男の大学の学費とかどうするの? 次男だって2年後には進学なのよ?」



 妻からの返答は、俺の心配よりもお金の心配だった……。




 


 日本の法律では、船の沈没等の特別な事案以外では、行方不明者は7年経たなければ死亡扱いとすることはできない。つまり、俺は失踪による行方不明扱いであり、家族は7年経つまで俺の生命保険金等を手に入れる事は出来ない。

 しかも失踪からの死亡扱いでは保険金が支払われない可能性もある。保険内容をしっかり確認しておけばよかった。

 異世界でアヒルを見つけたら保険のことを聞いてみよう。



 健康保険にしても、俺は行方不明で給料がないので職場の社会保険料を払う事は出来ないし、家族は俺の扶養扱いになっているので、俺の退職手続きを経て社会保険の資格喪失という面倒な手続きがなければ新たに国民健康保険に加入する事も出来ない。



 夫が行方不明扱いでも、ひとり親として所謂寡婦控除という税金の控除は受けられるが、収入が増えるわけではない。


 



 確かに、俺が行方不明状態となると妻や子供たちは困ることになる。長男にせっかく頑張って入った大学を中退して働かせるなんてとんでもない。長男の入った大学は標準課程で6年間。実は医学部だ。

 卒業しても最低3年は研修医扱いなので生計を維持できる収入が得られるまでには約10年くらい親が生活を支えてやる必要がある。その間に次男も大学進学の年齢になる。兄だけを大学に行かせて弟に進学をあきらめさせるのもかわいそうだ。貯金を取り崩し倹約しても数年も持たないだろう。



 妻が金の心配をするのも当然だ。どうすればいい。






 父親として、一家の大黒柱として、異世界からでも何かできることはないか?

 


 







 考えが煮詰まった俺は胸ポケットのタバコに手を伸ばした。タバコは最後の1本だった。



「ああ、悪しき習慣のタバコもこれで吸い収めか」


 俺は禁煙ができないおじさんではない。そう、禁煙ならば過去に何百回もやっている。ただ期間が短いのと続かないだけだ。



 俺は未練がましく、買い置きのタバコでも入っていないか助手席のダッシュボードの中をまさぐった。当然、身に覚えのない買い置きタバコなどあるはずもなく、手は空を切るものと思っていたが、



「チャリーン」



 スマホでアプリ決済をしたような音がなり、手の中にはタバコが現れた。




「??????」




 お金の音がしたので、銅貨の数を数えてみると2枚ほど減っていた。どうやら、銅貨2枚を払う事によって地球の日本からタバコを購入する事ができたらしい。


 金額がおかしいのは多分税金がかからなかったのだろう。日本のタバコは税金の割合が約6割を占める。タバコが500円として、税金が約6割で300円、差し引き200円となり計算は合う。異世界から買う事によって日本での税金は免除されるようだ。


 

 

 

 そこで、頭の中にある可能性が浮かび上がる。


 

 異世界から日本の物を買う事が出来た。お金を払って、物品も次元の隔たりを超えて手元に現れた。





 ならば、「送金」もできるのではないか?


 



 俺は銅貨10枚を握りしめ、「日本の俺の口座に振り込み!」とイメージしてみる。すると、手の中の銅貨が消え、口座に千円入金されたイメージが頭の中に流れ込んでくる。



 俺は慌てて妻にメッセージを送る。



「お金の件、なんとかなるかもしれない。」







 ステータスの≪カスタム≫の項目には、新たに〈生活系〉のカテゴリが現れ、「異世界売店」と「異世界CDキャッシュディスペンサー」が加わっていた。










・・・・・・・・・




 俺は記憶の一部が戻り、お金を稼ぐという目的ができたことをザトラさんに伝える。


「ただ、俺はどうやってお金を稼げばいいのかその方法が良く分からない。なので、しばらくはこの村に留まらせてもらい、近くの魔物を狩ったりしながら稼ぐ方法を見つけていきたい。」



 ザトラさんは、この村に金を稼ぐ方法がない事を心苦し気に感じているような表情で了承してくれた。



 


 翌日から、俺は軽トラに乗って村の外に出て魔物狩りを始める事にした。




 だが、朝から出かけようとする俺を村の子供たちの視線が引き留める。


 俺は子供たちを助手席や荷台に乗せ、牛や山羊から搾乳したミルクの壺を農場から村に運んだり、村の周りをかわりばんこに1周ずつ回った。もちろん、村長や親御さんの了承はもらってからだ。


 

 収穫期間中に仲間になりたそうな目でしきりにこっちを見ていたペトラや小さな女の子たちも、とても楽しそうにして喜んでくれた。


 この日からは、朝は子供たちを乗せてミルクを集め、村を周回するという日課が新たに加わった。


 

 

 子供たちと遊んだ後は村の外に魔物狩りに出かける。子供たちもついてきたがっていたが、さすがに魔物を狩るのに子供たちを連れていく事は出来ないのでどうにか説得して諦めてもらった。

 





 俺は軽トラで村の外を走る。魔物を探して村の周りをひたすら走る。


 












 魔物がいない……。









 村の近くは定期的に村の青年団や街から来た冒険者たちが駆除しているので安全という話は聞いていたが、ここまでいないとは思わなかった。


 なるべく村のそばで狩りをしたかったがいないものは仕方がない。この村に来る途中でスライムを倒したあたりまで足を伸ばす。



 迷わないように、街道が視界から外れないように草原の中を駆け巡る。ようやく数匹のスライムを見つけて轢き殺す。(討伐する)


 結局この日の戦果はスライム12匹。日給1,200円という結果に終わった。






 次の日からは徐々に行動範囲を広げていく。なにも目印のない草原とはいえ、さすがに数日うろついていれば土地勘らしきものが備わってくる。


 村に向かう時に通った街道の反対側も捜索する。相変わらずスライムの数はまばらだが確実に一匹ずつ轢き殺す。(討伐する)


 


 

 その日、初めてスライム以外の魔物を見つけた。角のついたウサギだ。


 最初にウサギを見たときは「異世界で初めてのかわいいモフモフ小動物か!?」と心が躍ったが、その期待は一瞬で裏切られた。 

 ウサギの目は明らかにこちらに敵意を向けており、真っ赤で鋭く怖かった。


 

 ウサギは角で軽トラに突進してきた。車体に穴が開かないか心配したが杞憂だった。

 

 はじかれたウサギは今度はタイヤに角を向けて突進してくる。


 (さすがにタイヤはまずいのでは?)と思ったのも束の間、角はタイヤをパンクさせることはできなかった。

 

 安心した俺は丁重に角ウサギさんを跳ね飛ばす。(討伐する)討伐成功だ。

 

 


 さすがにウサギさんを解体して魔石を取り出すのは心優しいおじさんにはハードルが高く、獲物(死体)は荷台に放り込んでおいた。





 



 角ウサギを3匹ほど仕留めて村に戻ると「肉が食える!」とアトラが喜んだ。


 

 アトラの後ろから現れたザトラさんからは


「角ウサギは雑貨屋に持ち込んでくれ。魔石の値段と、解体の手数料を除いた肉の値段で買い取ってもらえるはずだ。」

 

 と教えてもらった。


 


 ウサギ肉は日ごろのお礼の意味を込めてザトラさんに渡そうかと思っていたが、それだと村のみんなにとって平等ではないらしい。

 

 いったん雑貨屋に卸した肉を、村の人があらためて雑貨屋の店頭で買うというシステムなのだそうだ。

 

 ちなみに後でアトラが残念そうに雑貨屋から出てきた。ウサギ肉は売り切れてしまったらしい。また捕ってくるからな。



 


 雑貨屋といえば、この数日でいろんなものを買い込んだ。この村に一軒だけの商店とあって、農具や日用品から、剣や槍や斧といった武器から簡単な皮の鎧や盾も置いてある。

 

 品ぞろえは多いとは言えないが、俺は下着や衣服、皮の靴や簡単な食器類を購入し、ようやく日本のスーツを脱ぐことができた。今の俺はどこから見ても異世界の村人だ。軽トラに乗っていなければの話だが。


 



 俺はその日の夜、助手席の「異世界売店」を使いタバコとビールを手に入れていた。


 

 ウサギの魔石は一個当たり銅貨3枚、肉は解体手数料を除いて一匹当たり銅貨4枚だった。

 

 今日の収入はスライムの討伐も合わせて銅貨27枚分。狩り初日の2倍ほどの稼ぎだ。


 

 で、肝心な支出のほうだが、ザトラさんの奥さんであるペーニャさんの手料理のお礼として一日銅貨10枚。「異世界売店」からのタバコとビールで一日銅貨4枚。


 ちなみにビールも日本の税金はかからず、税金を抜いて考えれば500ml缶一本で銅貨1.1枚相当なはずだが、どうやら端数は繰り上げとなるみたいで銅貨が2枚消えていった。

 そのことに気づいた俺は2本同時に購入したところ銅貨は3枚で済んだ。うん、また酒量が増えるね。


 

 毎日の経費(酒タバコ含む)と雑貨屋での買い物を合わせると俺の懐の余裕はほとんどない。最低でもペーニャさんに払うご飯の代金を確保しなくてはならない。まるで異世界その日暮らしだ。出稼ぎ状態ともいう。





 「異世界売店」と同時に発現した「異世界CDキャッシュディスペンサー」で日本の家族に満足な仕送りできるようになるのはいつになることやら……







〇軽トラステータス


名称:軽トラ 異世界仕様車


レベル:3(UP!)


 HP ∞ ・MP max/10,000 ・SP 2/2 ・CP 10/10


≪分類≫:魔法道具


≪レア度≫:幻想級


≪運転者≫:橘隼人(専用)


≪固有スキル≫:

・MP駆動

・車体不壊

・成長可能性保持

・搭乗者保護

・積載物保護


≪スキル≫:

・MP自動回復(1)

・火属性魔法(1)

・水属性魔法(1)

・土属性魔法(1)

・風属性魔法(1)

・氷属性魔法(1)

・雷属性魔法(1)

・回復魔法(3)


≪カスタム≫:

〈機能系〉エアコン(1)・MP電力変換(1)・幌(+)

〈戦闘系〉なし・轢く(1)・撥ねる(1)

〈操作系〉なし

〈生活系〉「異世界売店」(New!)「異世界CDキャッシュディスペンサー」(New!)


≪恩恵≫:時空



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ