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病める時も、健やかなる時も  作者: 生家 モノ
8/9

8話 私の平日

 “ガチャリ”と金属の部品が回る音がしました。玄関の鍵が開いた音だと1拍遅れで認識し肩の力が抜けます。夕飯の準備を終えて、日中に干して膨らんだ布団にクマ達と『小』の字の並びでうつ伏せで肘をつき本を読んでいたのですが…太陽で暖かくなった布団の誘惑に負けてしまったようです。


 ベッドサイドに腰掛けスリッパを履いたと同時に「ただいま。」と1階から真君の声が届きます、寝室のドアを開け廊下の電気を付けたのですが直ぐに消えてしまいました。2つあるスイッチのもう一方を彼が操作した為です。ニアミスに気付いたようで「あ」っと笑い混じりの音がした方向に「おかえり」と伝えます。


 階段を降りると、しゃがみ込み脱いだ靴を揃える真君がいて、右脇に仕事用に使っているグレーのメッセンジャーバッグと洋菓子店の紙袋がありました。

「昼間にお願いしたカーディガンだよ。」

 お土産では無いと訂正なのか、急に来た頼まれ事に対してなのか、申し訳なさそうに中身を伝えられました。期待した表情になっていたのでしょうか?


「ご飯食べたら付けるね~」


 紙袋とボタンを受け取り、階段を上り作業部屋に持ち込んでから台所に戻るとコンロに乗せていたお鍋の蓋を真君が開けているところでした。

「今日はカレーだよ」

「玄関開けたときから匂いで分かったよ、温めるね。」

 お鍋は彼に任せて、冷蔵庫から副菜のキャベツのマリネを出し、お茶を入れて楕円タイプのお皿の半分にご飯を盛ります。温まったカレーをかけてもらい自分のお皿をそれぞれ持って食卓について本日の夕飯の時間です。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「熱っ!」

 かじりかけたジャガ芋から反撃を食らった真君が話しかけてきました。


「そう言えば奏さんに昨日のこと秘密にしてって言われたよ。」

「職場で恋愛話が広がるとめんどくさいからね~」

「私達の時も、そうだったでしょ」


 スプーンに乗せたままのジャガ芋に何度も息を吹きかける彼の二の舞にならないように玉葱とルーを絡めたご飯を掬い様子を見ます。

 はふはふと息を零しようやく一口目を飲み込んだ後「確かに…。」そう呟いてからサラダに手を伸ばした彼を見てジャガ芋はスプーンで半分に割ることにします。

「お水持ってこようか?」

「大丈夫だよ、ありがとうね。」

 スプーンの動くペースが早くなっているのでヤケドはしてないようです。


「今日、お昼カレーパンだったんだ。」

「ゆかりさんのカレーの方が美味しい。」

 真っ直ぐこちらを見て伝えてくる彼に、照れくささと被ってしまった申し訳なさを「はいはい」に乗せて返しました。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 後片付けを終えてから、作業部屋にボタン付けに移ります。


『ボタン付け』


 ①ニット物は玉留めが抜けるので2本取りした糸をボタンに通して玉留め部分にくぐらせる。


 ②同じくニットはすくい目が少ないと土台へ負荷がかかるので編み糸2~3本分はすくう事、糸の引っ張り加減は均一に。


 ③ボタンに“足”を付ける。糸に“遊び”が無くギチギチに付けてしまうと外れやすくなったり、留めたときに布にめり込んだようになってしまう。布の厚み分コイル状に糸を巻き根元をすくい玉留めをする。コイル部分に針を刺して玉留めを隠して糸を切る。


「終了!」


 作業部屋を出て真君に話しかけますが反応がありません。そう言えばテレビの音も聞こえない…もしやと思い隣の寝室のドアを見ると5㎝ほど開いていました。


 仕事着のまま寝るのは躊躇われたのか、ベッド脇の床に座りこみ頭だけ乗せて器用に眠っている真君に『たいら』が右足が伸ばして「ばっちぃから風呂入れ!」っと訴えていました。


「ごめんよ、真君もお布団の誘惑にハマったんだ~」

『たいら』を撫でて諭して、『まる』の隣に避難させます。こちらは「仕方ないよね~」っと掛け布団をしっかりと着こみくつろいでいました。


 さてと、どうやって“起こそうか”?今朝のようなイタズラか正攻法で優しく起こすか?

 クマ達と相談して決めることにしました。

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