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病める時も、健やかなる時も  作者: 生家 モノ
5/9

5話 ゆかりさんとお出かけ。

 トゥトゥ、ルットゥトゥ~

 トゥトゥ、ルットゥトゥ~トゥトゥ…


 目覚ましのアラーム音以外での起床、今日は日曜日だ。我が家は屋根が平たいから留まりやすいからなのか『鳩』が時折やってくる。居着かれてはいないので糞害に悩まされないのは幸運だ。


「おはよう。」

 ベッドの右端にいるゆかりさんはまだ夢の中、僕らの間にいる『たいら』と『まる』、そして声だけ聞こえた鳩に声をかけた。

「…ん、おはよう…」

 口の動きがまごまごして、ようやく音になった声色で反応が返ってきた。まだ寝かせてあげたかったと思いつつ彼女を見ると朝日が眩しい様子で掛け布団を抱き寄せていた。

 ここで再び眠られてしまうとゆかりさんは長い夢の世界に旅立ってしまう事を僕は知っている。


「せっかく気持ち良さそうなのに~」


『たいら』はゆかりさんの味方をしているように眉間にシワが入っていた。『まる』はというと「たまには早起きも良いんじゃない?」っと言いたげに首をかしげている。“こいつ”は僕の味方らしい。


「ゆかりさ~ん、今日はデートだよ!」

「起きてよ~!」

 継続的な声かけ作戦で“覚醒”に持っていくが、外の鳩が飛び立った音が聞こえた。驚かせてしまったようで申し訳なくなる。


 ゆかりさんを立ち上がらせる事に成功したので、手を引きながらリビングへ向かう。朝食用に買っておいた半額シール付きの焼きそばパンを冷蔵庫から出していると彼女がお茶を用意してくれた。だいぶ目が覚めてきたようでほっとする…今日は以前から楽しみにしていた絵画展に行く予定だったからだ。


「あのホール駐車場狭いから、早く行かないと混むね」

 向かいの彼女の手元を見ると焼きそばパンは殆ど残っていなかった。僕も慌てて口に詰め込むが、ショウガが多い部分を食べてむせこんでしまいお茶で流し込むと濃いめで入っていことに気付く、焼きそばの油が口の中からスッと消えて渋めの余韻が残り呼吸が落ち着いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 渋滞も無く道はスムーズに流れている、ゆかりさんは上機嫌でナビに取り込んだばかりのドラマの主題歌を歌っていた。僕も合わせるように鼻歌を歌っていたが、信号待ちで停車して横断歩道を渡る人々を見ているとゆかりさんの声が止んだ。


「あ!あの白いわんこモフモフで可愛い!」

「右見て、飼い主さんに寄り添ってる子!」

 反対車線側の歩道に視線を向けるとポメラニアンと赤いリードを持った男性がいて、お互いがペースを合わして歩く姿を確認できたと同時に信号が青に変わった。

「あの子、優しそうだったね。」

 僕がそう言うと相づちが返ってきて、犬の話を続けている内に目的地の多目的ホールに到着した。

「スマホ、ちゃんとマナーモードにしてよ~」

 そう言って、ゆかりさんはさっさと車から降りてしまい、置いて行かれないように急いで後を追う。


 受付でチケットを購入して順路を進む、先客のボリュームを抑えた話し声や足音を聞きながら絵画を見る。近くで見ると油絵の具に絡まった筆の毛が付いていたり、下書きが透けていたりして描き手の情景まで見えるのが良い。合同展なのでそれぞれタッチが違うことも楽しい。


 ふと“気になった”絵に行き着いた。石像をスケッチしている学生服の数人を描いた絵だった。


「この子、真君に似てるね~」


 ゆかりさんの何時もより抑えられたはずの声が背中に刺さった。そうだ、実際に見た風景だから気になったのだ。絵画の下に添えられているタイトルと作者を見ると、高校の美術部顧問の名前だった。その石像はよく題材にされた物だったし、壁の汚れも見覚えがある。描かれていた人物の中に木平も見付けた。この頃から比べると垢抜けているが伏し目がちな所となで肩は変わらない。思い返せば先生の作品そのものを見たことは無かったが、陰影の付け方やバランスの取り方が教わった手法のままで先生も変わってないんだと思い少し笑ってしまった。


「後で横の喫茶店に寄ろう、その時に話すね。」


 今ゆかりさんに話してしまうのは惜しい気がして濁した。彼女の目に、この作品がどう映ったのかも聞きたい。それに展示作品は、まだ半分以上も残っているのだから。

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