よるの街
もくもくした 白くて細い 煙の匂い
あれは煙草というものね お父さんが 呟いてたの
きらきらサラサラ 綺麗な女の人の匂い
あれはお化粧をしてるのね お母さんも していたの
ぶおお ピカピカぼふん 固くて強い
あれは車と言うんだったわ お兄ちゃんの お気に入りなの
ちりんちりん ペカペカ するる
あれは自転車というのだわ おじいちゃんが 教えてくれたの
きゃはは うふふ あはは
あれは人生を楽しんでるの おばあちゃんが 言っていたのよ
夜の街を少女は歩く
光を飲み込む孤独な闇に 静かにその身を溶け込ませて
ひとりで寂しいはずなのに
今にも鼻歌を紡ぎ始めそうなくらい 楽しそうに
少女は街をてくてく歩く
街灯に照らされた道 だぁれもいない 夜の道
少女は歩く足を止めて
爪先立ちして 近くの家の窓を覗いた
カーテンの隙間から見えるのは お母さんとお父さんに挟まれて眠る 幸せな男の子と女の子
少女はそれをしっかり目に焼き付けて うふふと嬉しそうに笑う
夜の街を少女は歩く
少女は街をてくてく歩く
夜がもうすぐ眠る頃 太陽がもうすぐ起きる頃
少女が辿り着いたのは 少女のお家
お父さんもお母さんもお兄ちゃんも おじいちゃんもおばあちゃんも 家族みんなが眠ってる少女のお家
少女は少し背伸びして 大きな大きなドアのノブを掴んでくるりと回す そして するりと中へ入った
眠たげにふわぁと欠伸して 少女は自分の部屋に行き 少女だけのベッドに転がった
こっそり瞼を開けてみて 隣に誰もいないことを確認したら 少女は少し 残念そうに瞼を閉じた
ふわふわもふもふ 少女を包む白い布団 軽くて柔くて なんだか良い匂いがする
素敵なものでいっぱいのはずなのに 何かが足りない気がして 少女はその目をつぶって考える
だけど 何が足りないのかがわからなくて 少女は諦めて眠ることにした
もうすぐ見えなくなる おつきさま 優しい光で少女を照らす
それはね と少女に語りかけるように 優しい光は少女の頬をつるりと滑る
きっと運命が足りないのだわ
あなたを求める 運命がね
ひとりで くすくすと笑うように
おつきさまは淡い光と浮かんでた