聖夜の夜に
ある年の、クリスマス・イヴの日。
世の中がクリスマスで色めき立ち、飾り立て、華やかに賑わう中。
カラフルに光り輝く、イルミネーションが巻きつけられた木々を背に、フードを被った1人の少年が、静かに佇んでいた。
そのフードの中から覗くのは、10歳ほどの歳に似合わぬ暗い顔。
何か大切なものを諦めてしまった。
泣くのにすら、疲れてしまった。
皆が、皆が幸せになれるはずの今夜に、影を落としたような、その少年の顔は、不釣り合いだった。
何があったのだろう。
一体、どうしたのだろう。
何故───。
通り過ぎる人々は、パッと瞬発的にそう思ったが、すぐに忘れてしまった。
何しろ、今日は1年の中でも、とても大切な行事なのだ。
小さな少年の、小さな悩み事に、いちいち付きやってやる余裕すら、無いのだ。
家族と一緒に、恋人と共に、子どもの隣で、笑い合わなくては。
自らの幸せを叶えなければ、と使命感に駆られる人々は、小さな少年のことなんて、すぐさま記憶の片隅に追いやったのだ。
そして、少年と同じくらいの歳だろう、黒髪の少女が、母親と手を繋いで、その少年の側を通り過ぎようとした。
が、少年の表情が視界に入り、ふと、少女は足を止めた。
「あら、どうしたの」
「おかあさま、ちょっと、まっててください」
少女は、その肩にかけて居た、小さな小さなポーチから、何か取り出した。
それを両手に持って、少し、少女は首をかしげた。
目の前の少年は、どうやら少女の存在に気付きもして居ないようだからだ。
どこか、ぼんやりとした少年の肩に、そっと少女の可愛らしい、白い片手が乗る。
ビクッとして、少年が、やっと少女を見た。
少女は、その愛らしい唇の端を緩く上げて、柔らかく笑んだ。
「これ、あなたにあげます」
少年の手のひらに、ぎゅっと “何か” を握らせて、にこっと笑った。
「Merry Xmas. いつもより、あなたに、こうふくがおとずれますように」
と、指を組んで、少女は少年の為に祈った。
そして、母親と手を繋いで、行ってしまった。
う
少女が少年に渡したのは、銀と紅で編まれた紐。
そこに通されているのは、小指の爪ほどの大きさの、金の鈴だ。
「……Genug gemacht, oder Dinge wie die. 」
ほぅ、と、少年の息が、空気に冷やされて白くなる。
「Aber ich Japaner nicht sprechen.」
そう呟いてから、くす、と、少年が微笑んだ。
その瞬間、ふわりと優しい風が吹く。
その風は、愛しい我が子の髪を梳く、愛に溢れた母親のように、フードに隠されて居た少年の髪を、ふわりと攫った。
月光の下に晒された銀の長髪は、異国の街で、美しく輝いた。




