●(87)虫の声を聴きながら
庭で虫の声を聴きながら一夜と威咲は夕涼みをしていた。
「虫たち、みんな大人になって鳴けるようになってきっと嬉しくて仕方ないんだろうね。すごく元気いっぱいで可愛いな」
「あー、一生懸命だよな」
「…なんか懐かしいこと思い出しちゃった」
「何を?」
「州の有栖村のこと」
州とは南の地方のことで、地図上に名前が無い小さな村が沢山ある。まとめて“州”と呼ばれる地域なのだ。
有栖は威咲のいた村で、州だけの地方地図にしか載ってない。
垂華と出会った街道は華南といって州に2つある大きな村の1つで、これらだけは普通の地図にも載っている。
なんにせよ、州は鉄道も無くバスしかない。自然豊かな地だ。
「夏の夜で、こんな風に虫が沢山鳴いていてね、私はお父さんのあぐらに座って、本を読んでもらっているの。いつも同じ本だったけどその時間がとても好きだったの。虫よけのお香を炊いて、ランプで…。
長い話がいくつかある本で、1つの話を1~2週間かけて少しずつ読むの。っていっても私がいつも質問したり脱線させたりしてたからなんだけど」
ふふっと笑い、昔を慈しむように話す。
「なんでかな、思い出したらすごくなんか、胸に溢れてきて止まらなくなっちゃった」
威咲ははにかんだ。
「親父さんのこと…気持ちの整理はついたのか?」
なぜか自死してしまった父親は、実は神官だったのだ。
「うん、もうね。だけど、やっぱり置いていかないで欲しかったかな。まだ一緒にいて欲しかった。私は一人になってしまったし」
「威咲…」
「でも、ああなったから今こうして一夜といる…なんでだろうね」
少し寂しそうに笑った。
「威咲…これからは俺がいるから」
前を向いたままポツリと一夜が言う。
「一人にはしないから」
下を向いて言った声は小さい。
一夜は優しい。けどいつもこんな感じで。
威咲は微笑んだ。
「そういえば、一夜は…お兄さんのこと本当にもういいの?」
「いやいいって訳じゃねえけど、埒があかねーし。それに放浪生活ももう潮時だしよ。もうあの土地に戻って、そこで暮らしながら待っていいかなと。
もしそれで兄貴が帰って来たらその時考えればいいし。とりあえず土地守んねーと帰る場所が無い状態になっちまうだろ。生きてるならいつか帰りたくなるかもしれないしな」
土地がそのままだったということは一夜が戻るまで8年間、お兄さんも帰らなかったということだ。生きているだろうか?
「待つのも悪くないだろ。もし戻ったら土地は譲ってもいいし。…どこでもいいだろ?」
「うん」
威咲はまた微笑んだ。
しばらく虫の声を聴いて一夜が威咲を見た。
「お前さ…」
言いかけて気づいて止める。いつの間にかシンハが表に出ていた。
シンハは黙って一夜を見ていた。何かを考えているようだった。
「何か?」
「私だと一瞬で気づいたな」
少し笑った。
今TVでカナダ西海岸の島にいる狼やってるんだけど、細身で、なんかお稲荷さんのモデルにいい!と、チェック☆
そう、お稲荷さんの話もあるんだな☆まあ、気長~に待って下さいね!




