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CALL  作者: スピカ
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(8)Birth place

威咲の父親が殺されたため、一夜は威咲を連れて村を出た。途中の街道で子供を助けたり反対に助けられたりしてしばらく過ごした。交流した人達に礼を言い、一夜と威咲は旅立ったのだった。

 早朝。まだ暗い時分、一夜(いちや)威咲(いさき)はある駅のホームに潜んでいた。

 一夜が口の前に人差し指を立てる。貨物車に駅員が荷物を詰め込んでいる。

 係員が目を離した隙に二人はささっと貨車に滑り込んだ。係員が気付かずに鍵をかける。そして歩き去っていく足音。離れた方で何か話す声。

「…ねえ、」

 小声で威咲が話しかける。

「しっ」

 一夜はまた顔前に人差し指を立てた。

 程なくして発車時刻になったのか、ベルが鳴り響き列車はゆっくり動き始めた。駅員の笛の音が遠く鳴った。

「…よし。これでただ乗り成功だな」

 一夜はそう言うと天井の窓を開けて顔を出し後続車を確認した。

 後ろの貨車は屋根無しで、石炭が積んであった。

「よし」

 それを見て一夜は車内に戻った。

「降りる時はどうするの?」

「さっきと同じく隙をみてささっと出る。そして隠れつつ線路に降りる。そして急いで逃げる」

「捕まらないかな?」

「必死でやれ」

 一夜は気にする風もなく言うと木箱に寄りかかって目を閉じた。

「窓は少ししか開けるなよ?あと駅が近くなったら閉めろよ」

「わかった」

 威咲は早速窓を開ける。風が吹き込んで心地よい。


 威咲は勿論初めて列車に乗るので、珍しくて仕方ない。歓声をあげながらずっと景色を眺めている。

 一夜はチラッとそんな威咲を見たがすぐまた目を閉じる。そしてすぐに眠ってしまった。

 威咲は起こさないように黙って景色を見続けた。

 家がまばらになり、やがてなくなった。広がる一面の草原。ちっとも飽きなかった。

 この列車は終点まで止まらないからと時刻表を見ながら一夜は言っていた。

 しばらくすると一夜は起きて窓の外を見た。

「なんだまだこんなとこか。こりゃ街はまだまだ先だな」

 懐中時計を出して見た。

「あと二時間か…寝る。時間が近くなったら起こしてくれ」

 そう言い懐中時計を威咲に渡すとまた木箱に寄りかかって目を閉じた。


 ところが。列車は程なくして街らしいところに着くとそこの駅に停車した。

 自分もうとうとしていた威咲は慌てて一夜を揺り起こした。

「あれ?なんで途中で止まるんだ?」

「わかんない。降りる?」

 実はその駅で下ろす荷物があったため臨時で停車したのだが二人は知らない。なので仕方なくここで降りることにする。


 一夜は戸を僅かに開け辺りを窺った。駅員達が皆背を向けている。今だ。

 威咲の手を掴んでさっと降り戸を閉めた所を見つかった。

「あっ、ただ乗りか!?」

「逃げろ!」

 線路に飛び降り複数の線路を飛び越えてフェンスを越えようとする。駅員も線路に飛び降りようとすると丁度そこへ別の急行列車がやってきて足止めをした。その隙に二人はフェンスを越え街中へと行方をくらました。



 ようやく逃げ切り息を切らしながら威咲が言う。

「もう、一夜っていつもこんなことしてるの?」

「いつもではない。…にしてもここどこだ?」

言いながら何か看板などを見回す。

「げ!」

「どうしたの?」

「ここ、俺の生まれた街だ…」

 心底嫌そうな顔をした。

「どうして嫌なの?」

「別に。ただ、15の時に街を出て以来8年間来たことなかったな」

「8年も…ねぇ一夜が生まれ育ったとこってどんなとこ?いろいろ見てみたい」

 こちらはなんだか嬉しそうだ。

「観光じゃねえんだぞ、言っとくけど何もねーし…あの頃はこの辺も紛争に巻き込まれてて、今は大分変わったっぽいな…」

「そうなんだ…」

「とりあえず宿探さねーとな」



 安い宿はどこも満室だった。ため息をついて、

「仕方ない、昔の家まで行ってみるか。運が良ければまだ家あるかも」

 そう言って歩き出したので威咲も後を追った。



 大分郊外の方だった。3キロくらいは来ただろう。

「腹減ったな」

 近くに小さな店があった。

「ちょっと買ってくるから待ってな」

 そう言って行ってしまった。

 威咲が一人で待っていると、不良そうな少年が声をかけてきた。

「ねーねー何してんの?一人?」

「え…私?」

 自分を指差して聞くと、そう、と言って若い男二人で近づいてきて話しかけてきた。

「俺ら今日暇でこれから遊ぶ予定なんだけど、一緒に遊ばない?」

「あの、でも私今人を待ってるので…」

 こんな風に声をかけられるのは初めてなのでどうしていいかわからないがとりあえず断ろうとする。

「人?それって友達?女の子?」

「え?いえ…」

 どうしよう。

「あのっ」

「おい」

 その時後ろから超、不機嫌な声がした。振り向くと一夜がムスッとした顔で男二人をへいげいしていた。

「そいつ俺の連れなんだけど」

 ツカツカと歩み寄ると威咲の腕から不良の手を外し、威咲の手を掴んで歩き出した。

「なんだよてめー…」

 不良が一夜の肩に手をかけた。

「おい、このチビ!」

 一夜は振り向きざま相手の腹を蹴った。そして威咲の手を掴んで走り出した。


 追いかけられ、まくまでしばらく走った。また息を切らす羽目になった。

「お前、何、不良なんかに絡まれてんだよ!」

「私何もしてないもん!」

「ぼーっとしてるから目つけられるんだよ」

「だって」

「あのな…あんなのにナンパされて大人しく付き合ってんじゃねえよ」

「ナンパ!?あれがそうなんだ…」

 ハァ、と一夜はうなだれた。

「…ああいうのにはついてくなよ?連れ込まれてイタズラされてもしょうがねーんだぞ」

「イタズラ?」

「…。とにかくああいうのはさっさと断れ、いいな?」

「う、うん」

 無垢過ぎる威咲の反応にクラクラしながらも気を取り直し、買ってきたパンを渡して二人で歩き食いをして道を歩いた。



 一夜の家はもうなかった。





一夜…ただ乗りはダメだよ。というわけで着いてしまった生誕地。避けてたのは何故か。次回は一夜の知り合いが登場!一夜の反応は?

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